大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」
デル、中小企業向け市場でシェア倍増の理由とは?
~Windows XP需要を追い風に新規顧客が1.5倍に
(2014/12/18 06:00)
デルが、中小企業向けPCビジネスを積極化させている。日本国内の中小企業市場におけるPCシェアは、この2年で約2倍に拡大している。非公開化に伴い、中長期的な販売戦略へとシフト。日本においては、電話やオンラインによる販売を行なう内勤営業部門の人員を約2割拡大したほか、中小企業向け製品である「Vostro」シリーズの強化や、パートナー販売の拡大なども影響し、新規顧客が1.5倍に増加。こうした取り組みが中小企業向けビジネスの成長を下支えしていると言えよう。デル 執行役員 ビジネス&コンシューマー営業統括本部 ジェネラルマネージャーの原田洋次氏に、同社の中小企業向けPC戦略について聞いた。
中小企業向けPC市場で首位を獲得
過去2年間で、デルの国内シェアは着実に上昇している。
IDCジャパンの調べによると、国内中小企業向けPC市場におけるデルのシェアは、2012年第3四半期には約12%だったものが、2014年第3四半期には約23%に拡大。ほぼ倍増している。
デルが得意とするデスクトップPCについては、中小企業市場において、2012年第2四半期は17.8%の販売台数シェアだったものが、2012年第4四半期以降、20%台を突破。2014年第2四半期は38.4%と高いシェアを獲得した。
「2014年第2四半期の高いシェアは、旺盛なWindows XPからの買い換え需要への対応で、納品時期がずれ込んだ影響が大きい。だが、平均しても、20%台後半のシェアは維持している。Windows XPからの買い換え需要に合わせて、デルのシェアが増加しているのが実態で、移行先としてデルを選択するユーザーが増えていることの証」と原田氏は語る。
実際、同社の新規顧客の数は急激に増加している。原田氏によると、新規顧客の数は前年(2013年)に比べて1.5倍に増加しているという。これまでデルを使ったことがないユーザーが、Windows XPからの入れ替えなどのタイミングで、デルに移行しているというわけだ。
シェア拡大の動きは、中小企業向けのワークステーション、サーバーでも同じで、デスクトップPC同様に、デルがトップシェアを獲得している。
内勤営業の強化がシェア拡大に直結
では、デルの中小企業向けビジネスが好調な要因はどこにあるのか。
原田執行役員は、「内勤営業体制の強化、パートナーとの協業強化、非公開化に伴う戦略的な提案活動などが、中小企業市場におけるデルのシェア拡大に繋がっている」と自己分析する。
1つ目の内勤営業の強化は、言わば電話やオンラインを活用した営業体制の強化を指す。同社では、川崎市内および宮崎市内に、電話による直接販売部門を持っており、そこから、顧客に対する直販営業を行なっている。つまり、デルの創業時からの販売手法である。
「SOHOや個人事業主、そして500人以下の中小企業は、約500万社もあると言われ、全国各地に広がっている。外勤営業だけではカバーすることができないのが実態。そうした顧客層に対応できるのが、内勤営業の強み」とする。
外勤営業では、顧客ごとにアポイントを取り、顧客先に出向くのが基本。そこから初めて商談が開始される。だが、内勤営業は電話やオンラインで、いつでも、すぐに商談が開始できる。しかも、小さな案件についても柔軟に対応できるのも強みだ。外勤営業では、PC1台や周辺機器といった小口商談では効率が悪いが、内勤営業ではそうした商談にも適している。直販体制を持つデルが、中小企業に強い理由はここにある。
デルでは、この2年の間に、内勤営業部門を2割増員。これもデルの中小企業市場におけるシェア拡大に繋がっていると言える。
デルは、全社的にパートナービジネスの拡大を目指しているが、デルの中小企業ビジネスの主軸は、あくまでも、電話およびオンラインによる直販型ビジネス。その姿勢は変わらない。
新たな市場開拓に貢献するパートナービジネス
その基本姿勢の上で、カバーできないデルの「ホワイトスペース」を攻略するのが、パートナービジネスとなる。
実際、パートナーとの協業強化は、原田執行役員が語るように、重要な戦略の1つだ。実際、同社の中小企業市場におけるシェア拡大に貢献している。
「日本におけるパートナービジネスを本格化したのは2014年からであるが、販売比率は2倍に増えている。パートナーとは、競合ではなく、協業関係にあるのが、今のデルの姿。エンドユーザーが、パートナーから購入したいというのであれば、積極的にパートナーからの導入を提案する。また、デルではカバーができなかった新たな市場開拓もできる。中小企業市場における両輪の1つに位置付けている」とする。
パートナーを通じた販売体制の強化は、これからも進めていくことになるという。
そして、「非公開化に伴う戦略的な提案活動」という点では、より長期的な視点での提案活動が行なえるようになった点をあげる。
「中小企業に対しても、短期に成果があがる製品単体での提案ではなく、時間を要するソリューションを軸として提案にも力を注いでいる。仮想化統合、ディスザスタリカバリ、VDIといったSMB向けソリューションの提案などが活発化。すでに来年(2015年)に向けた提案活動も開始している。これによって顧客からの信頼度が高まり、案件提案にも幅ができた。さらに新たな顧客を獲得することにも繋がっている」と原田執行役員は胸を張る。
さらに、攻め所で一気に価格戦略に打って出ることができるのも、デルの変化の1つだと言えるだろう。Windows XPからの移行においても、デルの提案は戦略的だった。これも新規顧客の獲得に貢献していると言える。
日本の要望で復活したVostroシリーズ
一方で、中小企業向け製品の強化においても、日本独自の取り組みが見逃せない。
デルでは、中小企業向け製品ブランドとして、Vostroをラインアップしている。だが、この製品は一時期、グローバルで新製品投入が行なわれなかったことがあった。というのも、「Inspiron」や「Latitude」といった製品ラインとの棲み分けが不明確になり始めたこと、Vostroを大企業などに向けて販売するといった動きが出始めたことなどが原因だ。しかし、日本においては、中小企業という市場が明確に存在し、その市場に向けた製品と位置付けられたVostroは重要な役割を果たしていた。
そこで日本からの要望もあり、Vostroが復活。今でも中小企業向けの専用製品として展開しているのは日本だけだ。
さらに、法人向けPCにおいて、プロサポートを標準で提供しているのは日本だけの措置。これも中小企業向けに高い評価を得ている理由の1つだ。
こうした日本の中小企業向けに最適化した製品を用意しているという点も、シェア拡大に寄与していると言えそうだ。
最強の中小企業向けITベンダーを目指す
では、2015年におけるデルの中小企業向けビジネスは、どうなるのか。
デルの原田執行役員は、「ダイレクトの強みを活かしながら、パートナーとの両輪体制で、最強の中小企業向けITベンダーを目指す」とする。
つまり、デルが得意とする中小企業市場でのポジションを確固たるものにする考えだ。
そして、それを現実のものにするための具体的な施策は、基本的には、2014年の取り組みを踏襲するものになる。
原田執行役員が掲げる方針の1つ目は、内勤営業のさらなる強化だ。
「中小企業市場においてさらに事業を拡大するには、信頼感をより高める必要がある。そこで、これまで内勤営業の課題とも言えた『顔が見える』営業体制を構築する」とする。
まず取り組むのが、同社が中小企業ユーザーに対して定期的に提供しているカタログ誌「THE business catalog」において、内勤営業の社員の顔写真を掲載。ユーザーにより親近感をもってもらうというものだ。「1月号から、私自身も誌面に顔を出すとともに、内勤営業の社員にも顔を出してもらうことで、どんな社員が中小企業を担当しているのか、といったことを多くのユーザーに知ってもらいたい」とする。
また、デルが主催したり、出展する全国各地でのイベントにも、内勤営業の社員が参加し、実際にユーザーと会話を行なう場を用意するほか、実際にユーザー企業を訪問して、直接対話する場も用意するという。
「内勤営業の担当者がイベントに参加するといった取り組みは、すでに今年夏から開始している。実際に、7年間に渡って、電話でのお付き合いはあったが、直接顔をあわせたのは初めてという中小企業ユーザーもいた。一度、直接的な接点を持つことで、さらに繋がりが強まる。約2年をかけて、すべての内勤営業社員が、一度はイベントなどに顔を出す機会を作りたい」とする。
2つ目は、パートナー販売のさらなる強化である。デル全社で推進しているパートナー販売の強化は、社員数500人以上の中堅および大手企業を中心としたものであるが、500人以下の中小企業においても、パートナーとの連携強化は重要に取り組みになるとする。
そして3つ目は、外勤営業にもおいても陣容強化を図るという点だ。これは、中小企業市場に向けた新たな取り組みの1つだと言っていいだろう。
実は、中小企業市場においては、デルによる外勤営業はほとんど行なってこなかった。だが、2015年はこの部分にも力を注ぐことになる。
「クラウドや仮想化の浸透によって、中小企業においても、ソリューション提案を求める声が高まっている。そうしたニーズに対応するために外勤営業を強化することになる」と原田氏は説明する。
2015年には外勤営業担当者を、従来体制の3~4倍に拡大。内勤営業社員のシフト、および中堅/大企業向けの外勤営業経験者などによって増員を図る考えだ。
さらに、営業体制のダイバーシティにも乗り出す考えである。
「内勤営業部門には、女性が少ないという傾向がある。また、この部門には、女性のリーダーがいないのが現状。中小企業の幅広いニーズに対応するためには、女性から出てくる提案やアイデアも重要になってくるだろう。女性マネージャー、女性リーダーを輩出し、女性視点からの提案によって、中小企業市場におけるビジネスチャンスを拡大したい」とする。
新規顧客の獲得を前年の倍増に
こうした基本方針を軸に、デルは、2015年も、中小企業市場におけるシェア拡大に積極的に取り組む考えだ。
「顧客満足度を高め、信頼感を高めてもらうための施策を実行することで、既存ユーザーとの関係を維持する一方、内勤営業、外勤営業、パートナー販売の強化によって、新規顧客の獲得をさらに積極化させる。2015年は新規顧客の獲得数は、今年の2倍にまで引き上げたい」と、原田氏は意欲をみせる。
デルの中小企業向けビジネスは確実に弾みが付いて来たようだ。そして、有言実行を掲げる原田氏は、新規顧客獲得2倍という目標にも精力的に取り組む姿勢をみせる。
非公開化以降、デルのさまざまな施策は、創業時から続いた成長路線を歩んでいた当時の活発さを取り戻したように見える。その活発さは日本でも少しずつ表面化していると言えよう。
デルの日本法人においても、デルが創業時から得意とした中小企業市場の攻略によって、成長戦略を加速することになりそうだ。