大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

Office搭載PCを3台買ったら、使えるのは3年間? それとも3TB?

~複雑な新Officeの仕組みやライセンスを解説

 2014年10月17日から、「Office Premium」を搭載したPCの出荷が開始されるとともに、「Office 365 Solo」が発売される。10月1日の会見では、製品の内容が発表されたものの、新たなサービスだけに、詳細な部分ではまだ不明な点も多かったと言える。

 例えば、Office Premiumを搭載したPCを、1年以内に3台購入した場合には、付帯される4つのサービスの1年間の期限はどうなるのか。日本マイクロソフトによれば、この際には、3年間に渡って、OneDriveによる1TBのオンラインストレージ利用などのOffice 365サービスが利用できることになるという。つまり、1TB×3で3TBのOneDriveということにはならない。Office PremiumおよびOffice 365 Soloの利用に関する仕組みの詳細について、日本マイクロソフトに聞いた。

Office 365サービスが付く新Office

 新製品を簡単に紹介しよう。

 Office Premiumは、Word、Excel、PowerPoint、Outlook、Publisher、OneNote、AccessをPCにプリインストールし、常に最新版として利用しながら、当該PCを使い続ける限り、永続的に利用が可能となる仕組みを採用。これまでのOffice製品では、サポート期間が設定され、2014年4月にはOffice 2003のサポートが終了するといったことがあったが、Office Premiumにはそれがない。

 さらにOffice Premiumには、「Office 365サービス」という、OneDriveによる1TBのオンラインストレージ利用、Skypeを利用した月60分間の公衆回線への無料通話、スマートフォンなどの複数の端末でもOfficeが利用できるマルチデバイス対応、何度も問い合わせが可能なマイクロソフトアンサーデスクという4つのサービスが、1年間利用できるようになるサービスが付属。マイクロソフトアンサーデスクの場合、従来のOfficeでは最初の問い合わせから90日間が期限となっていたが、今回は1年間に渡り、何度でも利用できるという点で拡張されている。

 1年間の期限が終了すると、Office Premium搭載PC専用に用意されるOffice 365サービスによって、もう1年間延長できる。これは5,800円(税別参考価格)で提供される。

 一方で、既存のPCや、Officeを搭載していないPC向けに用意されるOffice 365 Soloは、2台のPCあるいはMacで利用することが可能な1年間限定利用のOffice製品。Office Premium同様に、OneDriveによる1TBのオンラインストレージ利用、Skypeを利用した月60分間の公衆回線への無料通話、マルチデバイス対応、マイクロソフトアンサーデスクの4つのサービスも提供され、1年間利用できる。価格は11,800円(同)。

Office Premium各製品の内容
従来のパッケージ版は継続販売。新たにOffice 365 Soloが提供

 では、Office Premiumの仕組みの詳細を見てみたい。

 Office Premiumは、Office 2013の機能を踏襲しているものの、従来のOffice 2013とは基本構造が異なる。最大の違いは、インストールにおいても、インターネット接続が必要であるという点、そして、Microsoftアカウントを利用したマイアカウントページを作成しないとインストールができないという点だ。

 Microsoftアカウントは、新規で作成することができ、Microsoftアカウントを忘れてしまった場合には、パスワードをリセットできる。ただし、セットアップ、インストールにて使用したMicrosoftアカウントを変更することはできないので注意が必要だ。意図しないMicrosoftアカウントでマイアカウントページを作成してしまったといったことがないようにしたい。

 Office Premiumのマイアカウントページでは、Office Premiumの再インストールや、OneDrive容量の確認、Skypeの世界通話のアクティブ化、サブスクリプションの追加、サブスクリプションの自動更新の設定、支払情報の確認や変更などが行なえる。

 Microsoftアカウントの作成方法は、ここで確認が可能だ。

 前述の通り、Office Premiumは、インストールしたPCで永続的に利用できるが、最新バージョンOfficeが出たら、常にアップグレードする必要が出てくる。Officeの操作環境が大きく変更された場合にも、それに則った環境への移行が前提となるわけだ。

 Office Premiumは、日本市場だけに提供される仕組みであるため、日本語以外の言語では利用できない。他言語で使用したい場合には、Office 2013の言語パックを購入して、インストールする必要がある。

PCのリカバリ後や、1年が経過するとどうなるのか

 PCをリカバリしたり、工場出荷時の状態に戻した際に、Office Premiumを再インストールするには、プロダクトキーと、セットアップ時に利用したMicrosoftアカウントを使うか、マイアカウントページにアクセスし、セットアップ時に使用したMicrosoftアカウントでログインし、[再インストール]のボタンをクリックすれば大丈夫だ。

 Office Premium搭載PCには、Windowsのスタート画面に「Officeタイル」が用意される。これをタップすると再インストールができるほか、1年後にOffice 365サービスのサブスクリプションが切れた場合の継続手続きなどができる。

 利用期間の期限が近づくと、それを告知するようなサービスも実施される予定だ。多くの場合は、所有するPCメーカーのサイトにアクセスするように促され、そこで継続のサブスクリプションを購入できる。もちろん、量販店でサブスクリプションを購入してきて、プロダクトキーを入力しても、継続可能だ。PCメーカーのサイトでサブスクリプションの購入が発生した場合には、PCメーカーにその分の利益が入ることになる仕組みだという。

 Office 365サービスは、更新の手続きを自動的に行う自動更新の設定も可能。サブスクリプションの利用期限は、マイアカウントページ上の[支払いと請求]セクションの[更新情報]の[有効期限] で確認できる。

 Office 365サービスサブスクリプションの期間が切れた場合に、提供されていたサービスがどうなるのかも気になるところだ。例えば、OneDriveの場合は、ファイルの追加はできないが、閲覧、移動、削除、ダウンロードそのままできる。タブレット利用の場合は、閲覧モードのみとなり、ダウンロードはできない。ちなみに削除によって無料のOneDriveで利用できる15GB以下までファイルを減らせば、無料のOneDriveと同様、上限まで自由に読み書きができるようになる。

 なお、Microsoftアカウントは、連続して2年以上サインインしていない場合には、サーバーから自動的に削除されるというルールがあり、OneDriveに保存されたデータについても、2年以上サインインしていない場合には削除される。つまり、2年に1度アクセスしていれば、OneDrive上のデータは、引き続き閲覧やダウンロードは可能だ。当然、新たに延長契約をすれば、従来通りの使い方が再度できるようになる。

 そして、もちろんのことだが、Office PremiumでPCにインストールしているOfficeのデスクトップアプリケーションは、Office 365サービスサブスクリプションの期間が切れても、継続利用ができる。

 1年間のサービス期間内に、新たにOffice Premium搭載PCを購入した場合にはOffice 365サービスサブスクリプションはどうなるのだろうか。この場合には、さらに1年分の利用期間が追加されることになるという。極端な例として、同時に3台のOffice Premium搭載PCを購入した場合には、同一のMicrosoftアカウントで利用すれば、3年間のOffice 365サービスサブスクリプションが利用できるということになる。OneDriveによる1TBのオンラインストレージ利用が3TBになったり、Skypeを利用した月60分間の公衆回線への無料通話が180分間になったりといったことはない。

Office Premium PCを譲渡するとライセンスはどうなるのか?

 Office Premiumは、搭載したPCに限定して利用することができるライセンス形態であり、他のPCに移管することはできない。では、Office Premiumを搭載したPCを他人に譲渡した場合にはどうなるか。

 基本的な考え方は、Office PremiumとこれをインストールしたPCは、切り離して譲渡はできないという点だ。そのため譲渡する際にも、これをセットで譲渡するということになる。Office Premium搭載PCに同梱されているプロダクトキーカード、Office Premiumのマイアカウントページの[プロダクトキーの表示]から表示できる再インストール用プロダクトキー、PC本体の3点を、新たなユーザーに譲渡することになる。

 注意しなくてはならないのは、PCにインストールされたOfficeは、譲渡された人がそのまま利用できるが、Office 365サービスは、個人に属するMicrosoftアカウントに関連付けられるため、他のユーザーに譲渡することはできないという点だ。Office 365サービスはPCを譲渡した後も旧ユーザーに使用権が帰属し、譲渡を受けた新ユーザーは、Office 365サービスが利用できない。新たなユーザーがOffice 365サービスを利用するためには、別途、Office 365 Soloを購入する必要がある。

 これは家族に、PCを譲渡した場合も同様である。ただ、日本マイクロソフトによると、家族の場合には、「Microsoftアカウントの共有は原則的には認められていないが、家族内でMicrosoftアカウントに関連付いている個人情報を共有することに問題がないと判断される場合に限り、必要に応じて、家族である新ユーザーに共有することは可能」だとしている。

 企業内でOffice PremiumおよびOffice 365サービスを使用している場合、企業内の他のユーザーに使用権を譲渡する可能性がある場合にはどうしたらいいだろうか。これは、担当者の部署異動により、利用者が変更する場合などを想定したものだ。

 その際には、企業内で共有可能なMicrosoftアカウントおよびパスワードを作り、Office Premiumをセットアップおよびインストールし、これを企業内で管理し、必要に応じて、使用権変更のタイミングで新ユーザーに共有する形にすればいいという。

Office 365 Soloは挙動に違いも

 一方で、Office 365 Soloでは、Office Premiumとは異なる部分がいくつかある。例えば、Office Premiumでは日本語だけの言語対応であるが、Office 365 Soloでは、日本語以外の言語でも使用できる。他言語版をインストールする場合は、[言語とインストールのオプション] から希望の言語を選択すればいい。

 Office 365 Soloでは、1年間に渡り、Office 365を、2台のPCあるいはMacで利用することが可能だ。PCとPC、PCとMac、MacとMacという組み合わせでの利用が可能であり、マイアカウントページにログインして、[インストール]をクリックすることで、Officeのインストールを開始できる。2台のPC、またはMacに、インストールされている場合には、[インストール]ボタンがグレーアウトするので、別のPC/Macにインストールする場合は、すでにインストールされているPC/MacのOfficeをアンインストールし、マイアカウントページに表示される使用しないPC名の[非アクティブ化]をクリックすることで、インストールできるようになる。

 Office 365 Soloのサブスクリプション期間が切れた場合には、Officeアプリケーションは、機能制限モードとなる。ここでいう機能制限モードとは、編集作業ができない「読み取り専用」のビューワ状態を指す。また、サブスクリプション期間中でも、インターネットに接続していない環境で使用し続けている場合は、機能制限モードになる。この時は、インターネットに接続することで解決する。

 Office 365では、定期的にインターネットに接続し、ユーザーの契約状況を確認することになっている。インターネットに1カ月以上接続できない場合には、接続を促すメッセージが表示され、さらに1カ月後には機能制限モードに移行することになる。オフライン環境での利用を希望する場合は、並行販売しているOffice 2013のパッケージ版を購入することを日本マイクロソフトでは推奨している。

 Office 365 Soloでも、自動更新の設定が可能であるほか、手動更新の場合、最大5年間分のサブスクリプション期間をあらかじめ設定することができる。これは、契約が切れるたびに買い増しをする手間を省きたいという要望に応えて用意したものだが、複数年購入する場合にはいくつかのリスクがあると日本マイクロソフトでは指摘する。例えば、複数年契約したが、2年目以降に価格が値下げになり、結果的に高くなってしまう可能性があるという可能性が1つだ。もちろん、逆に高くなって、得をする可能性もある。もう1つは、サービスに含まれる内容が自分の求めるものと異なってしまう可能性があるという点。いずれにしろ、将来のリスクを自己判断する必要がある。ちなみに日本マイクロソフトでは、「複数年契約はリスクもあるため、お客様に積極的に勧めていない」としている。

 年間サブスクリプション期間終了後には、月間サブスクリプションに変更することも可能だ。その場合、契約しているサブスクリプションの自動更新をオフし、新たに月間のサブスクリプションの自動更新を設定する。月間のサブスクリプションの価格は、月額1,180円(同)で、マイクロソフトストア(オンライン)とAppleのApp Storeでのみ購入できる。これは契約を終了しやすいというメリットはあるが、料金は年間サブスクリプションの方が2カ月分お得だ。

 会見では明らかにされなかったが、Office 365 Soloには、評価版が用意されている。同社サイトから、入手可能であり、この中には、Mac版も含まれている。ただし、登録の際には、クレジットカードやPayPal、Microsoftアカウントが必要となる。また評価版を登録すると、評価期間終了後、自動的にOffice 365 Soloの月間契約サブスクリプションを購入する設定となっている。月間サブスクリプションの購入を希望しない場合には、評価期間終了前に、マイアカウントページ上の[支払いと請求]セクションの[自動更新をオフにする]をクリックして、画面に表示される手順に従って自動更新を停止する必要がある。

 このように、Office PremiumおよびOffice 365 Soloは、これまでにはない仕組みであること、さらに日本独自の仕組みということもあり、なかなか利用上のルールが分かりにくいところがある。

 また、Office PremiumはPC本体に紐付くのに対して、Office Premiumで提供されるOffice 365サービスは、Microsoftアカウント経由で人に紐づくライセンス制度となっており、これも仕組みをわかりにくくしていると言える。

 だが、従来のライセンス制度に比べると、お得感があるのは事実だ。特にマルチデバイス対応によるメリットは、複数デバイスを利用するユーザーが増加する中で、その時代の流れに則したものだと言える。仕組みを理解して、より効果的に利用したい。

(大河原 克行)