大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」
Lenovoが過去最高業績の中でPC+戦略を見直す理由
~IBMのサーバー、Googleのスマートフォン事業買収の狙いは何か?
(2014/2/24 00:00)
Lenovoが発表した2014年第3四半期決算(2014年4月~12月)は、四半期決算として過去最高を記録する好決算となった。売上高は前年同期比15%増の108億ドルとなり、初めて100億ドルを突破。税引き前利益も過去最高となる前年同期比30%増の3億2,100万ドル、純利益は前年同期比30%増の2億6,500万ドルとなった。
端末の出荷台数は、過去最高となる3,260万台となり、これは毎秒約5台が販売されているという計算になる。そして、PC市場における世界シェアは前年比で2.4ポイント増の18.5%となり、世界1位のPCメーカーの地位を維持。2位との差を広げた。
Lenovoの会長兼CEOである楊元慶(ヤン・ユワンチン)氏は、「Lenovoは第3四半期で過去最高の売上高と利益をあげ、めざましい実績を残した。強力な戦略の実行、革新的製品、PC+(PCプラス)ビジネスの成長を土台に、私たちは収益性を向上させるという目標を継続的に達成しており、Lenovoの既存ビジネスの勢いを維持することにも自信を持っている」と述べた。
なぜPC市場で成長を遂げるのか
Lenovoの決算内容で特筆できるのは、衰退が指摘されるPC分野で成長している点だ。Lenovoが、PC市場で世界1位となったのは、これで3四半期連続となり、四半期として最大のシェアを獲得するとともに、世界7大PC市場のうち5市場で1位となった。
第3四半期単独でのPCの出荷台数は1,530万台となり、大手PCメーカー5社中最も大きな成長を遂げた。また、Lenovoは市場全体の成長を14ポイント上回り、19期連続して業界全体の成長を上回ったという。
主力のノートPCでも、業界全体では、出荷台数が前年同期比6.3%減と厳しい状況の中、Lenovoは、前年同期比11%増の54億ドルと2桁の成長を達成。市場シェアは2.7ポイント伸ばして、18.8%としている。デスクトップPCの出荷台数は、業界全体が3%減となる中、Lenovoは9.1%増と成長。シェアを2ポイント伸ばし、市場シェアは18.0%としている。
成長の背景には、同社が得意とする中国において安定的な事業を行なっていることに加え、4位に甘んじている米国市場でも着実に事業を拡大していること、アジア太平洋地域およびEMEAでの高い成長がPC事業の成長を下支えしていることが挙げられる。また、ここにきて、米国市場などにおける企業向けPC分野において評価を高めていることが見逃せない。
「PC+」がPCの販売台数を上回る
もう1つのポイントは、「PC+」と呼ぶ製品群の成長だ。Lenovoでは、PCのほかに、スマートフォン、タブレット、スマートTVをPC+の製品群と位置付け、これらの製品を担当しているモバイル・インターネット・デジタル・ホーム(MIDH)部門の売上高合計が、Lenovo全体の16%を占めた。売上高は、前年同期比73%増の17億ドルと大幅な成長を遂げている。
スマートフォンとタブレットを合わせた出荷台数は1,730万台。これも高い成長を維持している。内訳をみてみると、スマートフォンでは世界第4位となる4.8%の市場シェアを獲得し、出荷台数も前年同期比47%増になった。タブレットの出荷台数は前年同期らに比べて326%も上回り、340万台を出荷したという。
同社では、スマートフォンやタブレットの販売台数が、PCの販売台数を3四半期連続で上回ったことを受け、「LenovoのPC+への転換を裏付けたもの」と総括している。
PCを「プロテクト戦略」、PC+を「アタック戦略」と位置づけ、守りと攻めを明確にする施策が功を奏していると言えよう。
なぜ、IBMのx86サーバー事業を買収したのか
その一方で、今回の決算発表を前に、同社の今後の方向性を大きく左右する出来事がいくつか起こっている。
1つは、Lenovoが1月23日にIBMのx86サーバー事業を買収すると発表したこと。そして2つ目は、1月29日に、Googleが持つMotorola Mobilityのスマートフォン事業買収を発表したことである。
サーバー事業の買収では、IBMのSystem xシリーズ、BladeCenterシリーズのほか、Flex System、ブレードサーバーとスイッチ、x86ベースのFlex Systems Integrated Systems、NeXtScale、iDataPlex、関連ソフトウェア、ネットワーク、保守事業が含まれ、買収費用は約23億ドル。米ラーレイ、中国上海のほか、深川、台北などの主要拠点に在籍する7,500人のIBM社員はLenovoに移籍。日本IBMからも数百人規模で、レノボ・ジャパンに移籍することが見込まれる。
スマートフォン事業は、約29億ドルの買収費用となり、Motorolaブランドを使用する権利とともに、Moto X、Moto G、DROID Ultraシリーズを継続的に投入。さらにLenovoは、2,000件以上の特許資産を受け継ぐほか、Googleが維持する特許や知的財産のライセンスを受けることになる。
この2つの買収は、性格がやや異なる。スマートフォン事業の買収は、これまでのPC+戦略を加速するという点で、合致したものになるといえるだろう。Motorola Mobilityの買収で、Lenovoは第3位のスマートフォンメーカーとなり、コスト削減の拡大、規模のメリット、Motorolaブランドの活用、Motorolaが持つグローバル・ネットワークの活用といったメリットがある。
しかし、サーバー事業はこれまでのPC+とは一線を画すのは明らかだ。Lenovoは、Think Serverなどのx86サーバー製品群を投入しているものの、今回の決算を見ても、サーバー事業の売上高は個別では公表されておらず、Lenovo全体の4.9%に留まる「その他事業」の中に含まれることになる。つまり、これまでほとんど実績がない領域において、IBMのx86サーバー事業を買収することは、スマートフォン事業ほど、意味がなさそうに映る。
だが、Lenovoでは、「IBMサーバービジネスへの投資は、PC+戦略を成功に導くためにLenovoが採るべき次の論理的なステップ」とし、「LenovoはPC製品よりマージンの高いビジネスにおいて、世界で第3位のサーバープレーヤーになることができる。Lenovoのサプライチェーンを活用したコストダウンにより収益を短期間で向上させることができる」とする。
今やサーバー市場は、コモディティ化した市場となっている。そのため、x86サーバーそのものを捉えると、PCよりもマージンが高いとするLenovoの指摘は適切ではないという声もある。
DellやHPがサーバー事業において、ソフトウェア、ソリューションといった方向性を強く打ち出しているのも、エンタープライズ分野での収益性を高めるための施策だ。IBMでもソリューション提案との連動性が高く、それによって収益性が高めることができるSytem zメインフレームや、POWERプロセッサを搭載したPower Systems、POWERをベースとしたFlex servers、PureApplication、PureDataといった統合アプライアンス製品は、引き続き事業を継続し、Lenovoへの売却対象とはしていない。
そして、全世界で出荷されるx86サーバーの約3割が、クラウドサービスの主要3社のデータセンター向けであるという試算があるように、x86サーバービジネスの市場には大きな偏りが見られる。これもコモディティ化が加速する大きな要因となっており、メーカーの収益性を悪化させている。
だが、Lenovoは、あえてこの分野に飛び込むことで、PCで成功したビジネスモデルを、x86サーバー事業でも活かそうと考えているようだ。つまり、コモディティ化した世界で強みを発揮できるLenovoのノウハウをサーバー事業に活かそうというわけだ。
PC+を進化させる4月スタートの新体制
とはいえ、気になるのは、Lenovoが言う「PC+戦略を成功に導くためにLenovoが採るべき、次の論理的なステップ」という言葉である。
Lenovoの指摘とは裏腹に、サーバー事業が、PC+戦略とどう関与するのかということが分かりにくい。
実は、日本ではほとんど報道されていないが、Lenovoは、相次ぐ買収と決算発表とを前後して、もう1つ重要な発表を行なっている。それは、4月1日付けで新たな組織体制へと再編することだ。新たな組織体制は、PC事業グループ、モバイル事業グループ、エンタープライズ事業グループ、エコシステム&クラウド事業グループの4つで構成されるものとなる。
同社の売上高の約8割を占めるのがPC事業グループであり、ここでは、ノートPC、デスクトップPCなどの事業を担当する。モバイル事業グループは、売上高の16%を占めるスマートフォン、タブレット、スマートTVといったPC+の領域を担当する部門となる。モバイルの中にスマートTVを入れるのは違和感があるが、部門名とは別に、この組織をこれまでのPC+を担当していたハードウェア部門と見るば分かりやすい。そして、エンタープライズ事業グループは、IBMのx86サーバー事業の買収を核として、新たな利益のエンジンを構築することになる。また、エコシステム&クラウド事業グループは、新たなクラウドサービスを提供する部門となり、同時に、中国におけるエコシステムの構築を担当するという。
つまり、今回の新たな組織では、売上高約5%の事業領域に、エンタープライズとクラウドの2つの組織を配置したということになる。そして、これはPC+の考え方を、さらに拡大することの宣言だと捉えてもいいだろう。同社では、「この組織を構築しない限り、PC+時代の真のリーダーにはなれない」と、新組織が新たなPC+戦略につながることを示す。
言い換えれば、PC事業が成長を遂げ、収益をあげている間、この2つの新たな組織に、今後の新たな成長の柱を求めようというわけだ。だが、残された期間は決して長くはない。そして、買収したサーバー事業やスマートフォン事業を、早急に黒字転換させなくてはならないという課題も突きつけられている。
PC+の意図を変革する体制へ
Lenovoが掲げてきたPC+は、タブレット、スマートフォン、スマートTVで構成されていたが、今後は、タブレット、スマートフォン、スマートTVを包含したモバイル、そしてx86サーバーによるエンタープライズ、新たなサービス事業となるクラウドで構成されることになる。
気になるのは、これらの全ての事業において、今後、どんなスピードで買収を行なっていくのか、どんな成長を描くのかということだろう。その点では、まだ明確な指針が出ていない。最も製品群の品揃えが「薄い」といわざるを得ないエコシステム&クラウド事業グループでは、2011年に買収した米Stonewareが目立つぐらいであり、これからこの分野における買収戦略が加速するのは明らかだろう。また、PC、モバイル、エンタープライズでもそれは同様だ。
Lenovoは、2005年にIBMのPC部門とThinkPad製品ラインの買収をして以来、日本ではNECとの合弁によるPC事業の拡大、ドイツのMedion買収、ブラジルのCCE買収、米国のEMCとの戦略的提携、中国Compalとの合弁と相次ぐ統合戦略を推進してきた。そして、これらを成功裡に進めてきた。その上でのIBMのx86サーバー事業と、Motorola Mobilityのスマートフォン事業の買収である。その結果、世界1位のPCメーカー、世界2位のタブレットメーカー、第3位のスマートフォンメーカーとなった。
こうしたこれまでの経緯見ても、今後買収による事業拡大と、サーバー、クラウドといった新分野への進出が見込まれるのは明らかだといえよう。
日本でもスマートフォン、クラウドを投入か?
ところで気になるのは、今後の日本での展開だ。実は、1月21日に、一般社団法人日本コンピュータシステム販売店協会(JCSSA)が開催した「平成26年新春特別セミナー」において、全国の販売店幹部を前に、レノボ・ジャパン代表取締役社長のロードリック・ラピン氏は、「日本国内においては、充実したラインナップを用意し、さまざまなニーズに応えることができるようになっている」と前置きし、LenovoブランドのPC、ワークステーションはもとより、タブレット、スマートフォン、サーバー、ストレージ、サービス、クラウドソリューションでも革新性を追求する」と語り、さらに、「2014年は、PCの基盤を守りながら、製品ラインナップを積極的に拡充していくことになる。法人向け製品では、タブレットはもちろん、サーバー、ストレージ、サービスなど、エンタープライズ領域を大幅に強化する」などと語った。
そして、「スマートフォンやクラウドサービスについても検討中であるので楽しみにして欲しい」とし、国内でのスマートフォン投入の可能性や、クラウドサービスの展開についても今後視野に入れていることを示してみせた。
Lenovoの業績の好調ぶりは日本でも同じだ。果たして、日本における新たなPC+の取り組みはどうなるのか。これまでの取り組みとは手の打ち方が異なるのは明らかだろう。
レノボ・ジャパンのこれからの一手が注目される。