■大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」■
2012年10月26日にWindows 8が発売となった。日本マイクロソフトでは、発売前日となる25日午後6時から、東京・秋葉原のベルサール秋葉原で「Windows 8前夜祭」を開催。さらに深夜0時のカウントダウン発売、午前8時45分からの量販店での発売セレモニー、午前11時30分からのWindows 8発売記念記者発表会といった日本マイクロソフトおよびパートナー各社が開催した各イベントに、日本マイクロソフトの樋口泰行社長自らが参加し、発売を盛り上げた。Windows 8発売前後の2日間に渡り、樋口社長に密着取材した。
●10月25日Windows 8の発売にあわせた最初のイベントとなった「Windows 8前夜祭」。その会場である東京・秋葉原のベルサール秋葉原に、日本マイクロソフトの樋口泰行社長が姿を見せたのは、25日午後3時のことだった。
Windows 8前夜祭の開始は午後6時。3時間前からの秋葉原入りだった。
前日からの建て込みですでにステージなどは完成。午前中までのスーツとは打って変わって、ブルーのジャケットにジーンズというカジュアルな出で立ちで、樋口社長は壇上にあがり、リハーサルを行なっていた。前夜祭では、コンシューマユーザーを対象としたトークセッションやライブなどが予定されていることから、カジュアルな服装を選んだようである。
午後3時から午後6時の開演までの時間は、リハーサルの合間を縫って、取材対応や、イベント会場を視察しながら担当者の労をねぎらっていた。
午後6時になるといよいよWindows 8前夜祭が始まった。
樋口社長は、「みなさん、こんばんは。Windows 8前夜祭にお集まりいただきありがとうございます」と第一声。「いよいよWindows 8の発売が6時間後に迫った。時差があるため、日本が、世界で一番最初の発売になる。つまり、午前0時に購入する人が世界で一番早くWindows 8を手にすることになる。そして1機種や2機種の製品が発売されるのではない。13社から250機種以上のWindows 8を搭載したデバイスが発売されることになる」と説明しながら、「17年前にWindows 95を発売して以来の画期的なOSがWindows 8。私自身もテンションが上がってきている」などと語った。
約10分間の挨拶を終えた後、樋口社長は会場入口に場所を移して、約15分間に渡って、集まった報道関係者の質問に答えた。
その中で樋口社長は、「タブレットの分野でもマイクロソフトが覇権を取る。そうした思いを集約したOSがWindows 8」とし、「Windows 8では、クールなイメージ、ポップなイメージを出していく。これまで弱かった若い世代やお洒落な世代に対する訴求を強めたい」という姿勢を初めて明らかにした。
ステージでは、その後、デーブ・スペクター氏や、タレントの桃さん、声優の古谷徹さんによるトークセッション、Windows 8のテレビCMに出演しているパルクールパフォーマーの島田善さんや、このCMの楽曲を担当するSCANDALによるトークショー。そして、スペシャルライブのゲストではクリスタル・ケイさんが登場して、会場を盛り上げた。
樋口社長は、「実は、この中では、デーブ・スペクターさん以外には、知っている人がいなかった」という事実をそっと明かしてくれたが、ここには大きな意味があった。先にも触れたように、Windows 8では、若年層に訴求していくことを狙っている。3つのステージの間には15分間のインターバルが取られていたが、その間に、参加する客層は一気に入れ替わり、同じ若年層でも異なる顧客層がそれぞれに集まるという様子が見られていた。
「むしろ、私の知らない人たちに登場していただいた方が、このマーケティングは成功する」と樋口社長は語った。ここにもWindows 8を若年層に訴求するという狙いがあったといえる。
クリスタル・ケイさんのライブが終了し、午後8時45分になると、再び、樋口社長が壇上にあがった。
ここでは、樋口社長の音頭で、クリスタル・ケイさん、島田善さん、桃さんとともに会場の参加者全員で、「ウィンドウズ、エイト、オー!」と、右手を大きく掲げるパフォーマンスを行なった。会場参加者全員で行なった2回の練習は、ややグダグダ感もあったが、3回目の本番は大成功。この映像は、ニューヨークで開催された米国Microsoft主催の前夜祭でも放映された。
全員で「ウィンドウズ エイト オー!」と掛け声 | 前夜祭終了のステージで1人でガッツポーズする樋口社長。発売に向けて気合い十分 |
前夜祭終了後、TVのコメント収録などをこなし、次に樋口社長が姿を現したのが、25日午後11時45分だ。
深夜0時から始まる秋葉原のパーツ通りでのカウントダウン販売に間に合うように、ベルサール秋葉原にやってきた。
発売15分前の感想を求めると、「今は時間に遅れないようにしなくちゃ、という気持ちだけ」と笑いながら、足早にパーツ通りに向かって歩き始めた。このとき、数多くの報道関係者も随行。すでに多くの人でごった返していたパーツ通りは、さらに混雑感を増すことになった。
樋口社長は、ドスパラ秋葉原本店で、同社・畑谷浩治取締役社長兼COOと歓談。さらに、TWOTOPを訪れ、同店を運営するユニットコムの前谷正弘取締役とも情報交換した。
前谷取締役は、実際の販売データを見せながら、「Windows 8の予約数が3,000本を超え、秋葉原と日本橋(大阪)の店舗はすでに完売」と報告。樋口社長は、「ありがとうございます」と笑顔で応じた。
ここでカウントダウン開始まで5分を切ったということもあり、まわりの日本マイクロソフト関係者と相談して、TWOTOP店頭で発売を迎えることに決定した。
実は、3年前のWindows 7の発売時にも、パーツ通りを訪れていた樋口社長だが、どこで発売時間を迎えるかが決まっておらず、パーツ通りの道のど真ん中で迎えたという経緯があった。今回も、この時まで、どこで発売時間を迎えるかが決まっておらず、急きょ、ここに決定した。
樋口社長をはじとめする関係者は、一度は店舗の中に入りかけたが、店舗内ではお笑い芸人のネゴシックスが進行を務めたイベントを行なっていることもあり、それの邪魔にならないように、再び店頭の電光掲示板を前にスタンバイ。報道関係者の要望にあわせて、0の数字が表示される方向に移動させられたり、数字の後ろがいい、横がいいといった細かい要望にも対応して位置を決定。カウントダウンの準備が整った。
樋口社長は店内のイベントの盛り上がりにも呼応するようにこぶしを挙げて、盛り上がりを演出。15秒前から自然に始まったカウントダウンでも大きな声で数字を連呼した。「0」の掛け声とともに、樋口社長はこぶしを突き上げ、さらに大きな拍手。ユニットコムの前谷取締役とハイタッチをして、発売を祝った。
続いて、樋口社長が向かったのが、中央通り沿いのTSUKUMO eX.。同店を運営するProject Whiteの鈴木淳一取締役副社長は、樋口社長とは旧知の仲。店頭で笑顔を見せ、お互いに冗談をいいながらしばらく談笑。鈴木副社長は、「Windows 8は、最初は駄目だと思っていたが、思ったよりいい出来になっていると、うちのスタッフが褒めていたよ」などと、本気か冗談かわからないようなコメントも。カウントダウンにあわせて公開したばかりのWindows 8の横断幕を樋口社長に見せて、「これだけ力を入れている」とアピール。「手応えもばっちり。Windows 8の良さが浸透すれば、これからもっと売れていくはず」と語った。
報道関係者からの要望で、鈴木副社長との撮影に応じた樋口社長は「市場大爆発」と、Windows 8によって、「市場活性化」を上回る勢いをみせることを宣言していた。
午後11時45分、再びベルサール秋葉原入りする樋口社長 | これからパーツ通りでのカウントダウンに向かう | パーツ通りに向かう樋口社長 |
【動画】25日午前11時50分頃、パーツ通りに到着した樋口社長 |
ドスパラ秋葉原本店で同社・畑谷浩治取締役社長兼COOと歓談 | TWOTOPでは、ユニットコムの前谷正弘取締役が生のデータをみせて好調ぶりを示した | 一度店内に入ったが、カウントダウンは店頭で行なうことに |
最初は左側に立っていた樋口社長だったが | 報道陣の要請で数字に近い右側へ移動 | 店内の盛り上がりにこぶしをあげて反応する |
【動画】25日、TWOTOP店頭でのカウントダウンの様子 |
いよいよWindows 8が発売となった | 続いてTSUKUMO eXを訪問。Project Whiteの鈴木淳一取締役副社長と和気あいあいと歓談 | 深夜のカウントダウン販売への参加後、ベルサール秋葉原前で報道陣の質問に答える樋口社長 |
午前0時15分頃に再びベルサール秋葉原に戻った樋口社長は、報道関係者の質問にいくつか回答。深夜の盛り上がりに対する筆者の質問に対しては、「この日を迎えるまでは出産前の不安と同じで、あるときはポジティブに考えたり、あるときは大丈夫かなと思ったりした。しかし、深夜にも関わらず、これだけ多くの方々に並んでいただき、さらにお買い上げをいただいた。まさに予想以上の盛り上がりであり、さらに強い手応えを感じた。Windows 7以上の盛り上がりであろう。不安は一気に払拭した。そして、久しぶりに秋葉原を盛り上げることができたともいえる。この勢いで年末商戦を盛り上げていきたい」などとした。
ここで報道関係者は解散となったが、ベルサール秋葉原の地下1階では、同社関係者が、簡単な初日の打ち上げを行なうことになっていた。
その会場では、なんと「8」の字をかたどったWindows 8ケーキが用意されていた。樋口社長も参加したこの打ち上げでは、樋口社長の指名により、日本マイクロソフト コンシューマー&パートナーグループ担当執行役常務の香山春明氏と、日本マイクロソフト 業務執行役員 Windows本部 本部長の藤本恭史氏が、ケーキを切り分ける役目に。そこでは、なぜか結婚式のケーキ入刀の方式で、記念撮影をするという一幕も。参加者全員で、ケーキを食べながら、発売初日を祝った。
樋口社長は、午前1時近くに秋葉原を後にしたが、「ちょっと興奮しているので寝られるかなぁ」と、このあとの就寝を気にしていた。
「8」の文字をかたどった記念ケーキ | 香山執行役常務(右)と藤本業務執行役員がケーキ入刀 |
夜が明けた10月26日午前8時15分。樋口社長は、東京・秋葉原のヨドバシカメラマルチメディアAkibaに到着した。
この日は前日とうって変わって、スーツにネクタイ。ビジネス色を強く打ちだす姿勢を見せた。「すがすがしい朝を迎えた。気分も晴れ晴れ」と樋口社長。午前2時過ぎに就寝し、午前6時には起床。「4時間ほどの睡眠だったが、ぐっすり眠れた」と、帰り際に懸念していた就寝の問題はまったくなかったようだ。
まずはヨドバシカメラマルチメディアAkibaの店内を、ヨドバシカメラの藤沢昭和社長などとともに視察。午前8時50分から始まったWindows 8発売記念セレモニーでは、「すがすがしい天気のもと、前夜祭から一夜あけてこの日を迎えられたことをうれしく思っている」とし、「昨日の前夜祭では2,000人を超える人が参加して、久しぶりに秋葉原が盛り上がった」と前日の様子を報告。「ヨドバシカメラでも夜を徹して販売開始の準備をしていただき、大変心強い」などと挨拶した。
ヨドバシカメラマルチメディアAkibaを視察後、ステージに向かう樋口社長 | Windows 8発売記念セレモニーで挨拶。この日はスーツにネクタイの正装で臨んだ |
テープカットを行なう(左から)、ヨドバシカメラの藤沢昭和社長、御代川忍店長、樋口社長 | さらにWindows 8搭載PCを持って記念撮影。樋口社長が手にしているのは社会人の第1歩を踏み出したパナソニックのLet'snote |
藤沢社長とともに、テープカットを終えた後、樋口社長は車に乗って、有楽町のビックカメラ有楽町店に直行。同店で午前9時から行なわれているWindows 8発売記念セレモニーに途中参加した。何人かの報道関係者は、樋口社長の移動にあわせて、秋葉原から有楽町に移動。筆者もその1人だった。
樋口社長は、午前9時30分から始まった発売記念のくす玉割に、ビックカメラの宮嶋宏幸社長と、フリーアナウンサーの小林麻耶さんとともに参加。Windows 8にちなみ、「8」からカウントダウンを行ない、通常よりも約30分開店早めたビックカメラ有楽町店でのWindows 8の発売を祝った。
くす玉割のあとに、樋口社長が挨拶。「今日は待ちに待った日」と切り出し、「昨日の前夜祭から今日にかけての動きをみて、『これはいける』という意を強くした」とコメント。さらに、「ビックカメラでは、3,860人がトレーニングを受けており、しっかりと説明をしてもらえる」と語った。
続いてビックカメラ有楽町店のWindows 8発売記念セレモニーに参加 | くす玉を割ったあと、挨拶する樋口社長 | Windows 8の発売を記念して参加者全員で記念撮影 |
関係者と挨拶をしたあと、樋口社長は再び、秋葉原に戻った。
今度は、日本マイクロソフト主催によるWindows 8発売にあわせた記者会見が、ベルサール秋葉原で午前11時30分から行なわれることになっていたからだ。
午前10時過ぎから樋口社長は、檀上に上がりリハーサルを実施。立ち位置などを確認。さらに、登壇する予定のPCメーカー13社の首脳陣も同じくリサーハルを行ない、会見を迎えることになった。
午前11時30分からの会見では、まず樋口社長が挨拶。「昨日の前夜祭は、秋葉原で大きな盛り上がりをみせ、私自身も感動をした。そして、すがすがしい日に、無事、発売ができた。大変うれしく思っている」とコメント。また、Windows 8のロゴが入った紙バッグを約6,000個用意したことに触れ、「これがすべて無くなった。秋葉原全体では約1万人がWindows 8にふれていただいたのではないだろうか。前夜祭でのタッチ&トライコーナーでは、ユーザーの関心が高く、その反応の良さに社員からも驚きの声が出ていた。その点でも『これは行けるぞ』という感触を得ている」とした。
ここでは質疑応答の中で、「PCメーカー各社からは、たくさんのデバイスが出てきたことは日本マイクロソフトとしても心強いが、機種によっては人気が出てサプライチェーンの観点から供給が逼迫するものもあるだろう。その点が懸念材料といえる」と、初めて懸念材料について言及。とはいえ、「昨日の前夜祭のタッチ&トライでは、すぐにでも購入したいという来場者の言葉をたくさん聞いた。昨日の来場者数、購入者の数、予約数、盛り上がり方やモメンタムという点でも、これまでにはない手応えがあり、この流れは実販にも結びつくという強い感触を持っている。Windows 8の売れ行きについては、トータルとしては楽観視している」とした。
記者会見では、PCメーカー13社の首脳陣とともにデジタルテープカットを実施。「ウィンドウズ、エイト、エイト、オー」と、前夜祭のときに比べてエイトが1つ多い掛け声で、全員でこぶしを突き上げた。
13社のPCメーカー幹部が登壇。1人1人と握手 | 全員で「エイト エイト オー!」の掛け声 |
【動画】PCメーカー13社とともにデジタルテープカットを実施 |
樋口社長のWindows 8ロゴが入った名刺。10月26日から使用している。今は3色だが、今後カラーバリエーションが増えるという |
会見が終了後、樋口社長は、Windows 8発売後、初めて東京・品川の日本マイクロソフト本社に戻り、ここで業務処理や、いくつかの取材に対応。10月29日付けで掲載した約1時間に渡る本誌の取材にも、このときに応じてくれた。
品川の本社に戻り、本誌のインタビューに答える樋口社長 | 写真撮影ではポーズを決めてもらう |
30階の応接フロアで展示されたWindows 8搭載PCを操作 | おどけて壁のポスターにタッチするという一幕も | 25日から品川本社はWindows 8に内装を一新 |
本社入口のロゴも新たなものに変わった |
そして、樋口社長は、再び、有楽町のビックカメラ有楽町店に出向いた。
ビックカメラ有楽町店に到着したのは午後6時過ぎ。この時間帯は、会社帰りのビジネスマンが店舗を訪れる時間帯でもあり、同店5階のWindows PC売り場は、多くの来店客で賑わっていた。
樋口社長は実際に店頭に展示されているWindows 8搭載PCに触ってみたり、店員から状況を聞くなど、約20分に渡って店内を視察。ここでも売れ行きに大きな手応えを感じたようだ。
「金曜日の夕方とはいえ、これだけ多くの人たちがWindows PC売り場に訪れたのは久しぶりだったという話を聞いた。予想以上に多くの人に来ていただいている。Windows 8発売前の不安は完全に払拭され、これからの販売にも手応えを強く感じた」と、力強い言葉を残して、樋口社長は同店を後にした。
夕食後、樋口社長は、午前0時過ぎから放映した、フジテレビ系列のニュースJAPANに生出演。ここでもやはりWindows 8発売後の好調な手応えを強調してみせた。
この生放送出演によって、Windows 8の発売を前後した2日間に渡る公式な業務はすべて終了した。
しかし、どうもこのあとに、樋口社長は関係者とともに、TV局の近くで、最後の打ち上げに出向いたようである。
ビールを嗜んで、岐路についた樋口社長の時計の針は午前3時過ぎ。長い長いWindows 8発売の日が終了した。