大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

Ultrabook発売から1年の成果は78点
~インテル・吉田社長、Ultrabookの付加価値シフトを鮮明に



インテルの吉田和正社長

 2011年11月11日に東芝が、国内メーカー第1号となるUltrabook「dynabook R631」を投入してから約1年が経過し、業界内外にUltrabookの認知が広まってきている。インテルの吉田和正社長は、「この1年のUltrabookへの取り組みを自己採点をすれば70点は遙かに超えている。合格点には到達している」と振り返る。その手応えは、同社が実施したアンケート結果でも、Ultrabookの説明を受けた人の90%が購入意欲を示していることからも明らかだ。

 その一方で、これまでは薄型、軽量に加え、短時間での起動や低価格といった点を訴求していたUltrabookだが、今後は、「付加価値を展開する上位モデルのポジション」という、新たなイメージづくりに乗り出す姿勢も明らかにした。登場から1年を経過したUltrabookについて、吉田社長に話を聞いた。なお、インタビューは他誌と合同で行なわれた。


●来年にはノートPCの50%をUltrabookが占める?
2011年11月に東芝が投入した「dynabook R631」

--Ultrabookが登場して1年を経過しました。手応えはどうですか。

吉田 この1年を振り返ると、Ultrabookについては、かなりうまくいったのではないか、という手応えはあります。ただ、私自身の事前の期待値があまりにも大きく、Ultrabookとそれ以外とを比べたら、絶対にUltrabookしかないというぐらいに思い込んでいましたから(笑)、その状況から見ると、少し時間がかかったな、という気持ちもあります。

 振り返れば、Ultrabookの価値を伝えることの難しさや、パートナーが本気になって取り組んでいただけるまでの体制づくりにおいて、もう少し工夫が必要だったとも思います。ただ、PCメーカーにはそれぞれに戦略がありますし、Ultrabookだけですべてのニーズに対応できるわけではない。これは、ネガティブな要素ではなく、インテルとパートナーが「両想い」になって取り組むまでに必要だった時間であり、それが1年という時間を経て、一気に広がりはじめたと言えます。

--昨年(2011年)の段階では、ノートPCの50%以上をUltrabookで占めたいと語っていましたね。

吉田 それぐらいの勢いがあると正直思っていました。確かにそこまでの構成比には至っていませんが、それでも1年後には50%以上という水準にまで到達する可能性はあると思っています。

--そうしたことも含めて、日本におけるUltrabookの過去1年の取り組みに対する自己評価はどうですか。

吉田 点数をつければ、80点はいっていないかな。でも70点というわけではない。78点ぐらいでしょうか(笑)。まぁ、合格点だとは思っています。


●驚きを与えるUltrabookが続々と登場

--合格点とする最大の要素はなんでしょうか。

吉田 インテルは、毎年、地方都市で体験イベントを開催し、そこでアンケートを実施しています。今年も、10月26日~28日に博多で、11月2日~4日は札幌で開催し、さらに11月10日、11日には名古屋でも開催する予定です。ここで興味深い結果が出ています。

 1つは、イベントに参加する人の数が確実に増加している点です。博多のイベントでは前年の参加者が約800人だったものが約1,100人に達していますし、札幌でも前年の参加者数である600人には、最初の2日間だけで到達してしまいました。Ultrabookに対する認知度が高まり、一度目にしてみたいということに加え、Windows 8が発売されたということも背景にはあると思います。

ディスプレイがスライドしてキーボードが現れる「VAIO Duo 11」

 2つ目には、イベントで「えっ!」と声を挙げる人が多いことです。私は毎年必ず、この体験イベントには参加しているので実感と捉えることができるのですが、過去5年間の体験イベントを振り返ってみても、クアッドコアへの進化の際に、従来製品との速度の違いをみて、「えっ!」という声が挙がっていたことがありましたが、それ以外はなかなか感動を与えられませんでした。今回のUltrabookでは、普通のノートPCだと思っていたら、ディスプレイがグルっと回転してタブレットになったり、ディスプレイがスライドしてタブレットになったりということに驚き、「えっ!」という声が挙がる。さらに、会場では実際にUltrabookを手に持てるようにしていましたから、Ultrabookの薄さや軽さも直接体験できる。こうした驚きと感動を与えられる製品が、Ultrabookとして数多く登場してきたというわけです。

 3つ目には、事前の調査では、次に買い換えるPCをUltrabookにしたいと回答した人はわずか15%だったのですが、この体験イベントに参加し、Ultrabookの説明を聞いた人のうち、22%がとても購入したいと回答し、68%の人が購入したいと回答したという点です。つまり合わせると90%の人がUltrabookを購入したいと回答しているということです。こんなに高い結果が出たことは過去にありませんから、大きな手応えだと言えます。ただその反面で、パートナー各社と一緒になってもっと訴求していく必要があるという反省もあります。

 そして、4つ目には、Ultrabookが一般的なノートPCに比べて2万円高くても購入しますか、という質問に対しては、87%の人がそれでも購入すると回答してくれたことです。これは、1,000人、2,000人という方々の生の声ですから、Ultrabookの価値を訴求すれば、もっと多くの方々にUltrabookを使っていただけるという裏付けにもなる。販売店の方々に対しても、Ultraboookによって、単価アップにつなげるアクションを提案できる。今後は、こうした提案を加速していきたいと思っています。


●Ultraboookが薄型化の波を牽引
Ultrabookが薄型化を牽引

--これまで、Ultrabookの訴求は、薄く、軽く、また起動も速い。それでいて「安い」という訴求も加わっていました。これが変わることになりますか。

吉田 購入の選択肢に、「Good」、「Better」、「Best」という3つがあるとすれば、Ultrabookは一般的なA4ノートPCに比べて、より高い価値を提供するカテゴリに位置するものだと言えます。また、当初は、Ultrabookを1機種だけラインナップしていたものが、8万円、10万円、12万円というように価格帯別のラインナップが揃い、その中から「Good」、「Better」、「Best」を選択することも可能になりました。これまでのノートPCを選択するように、いくつかのラインアップの中から、満足度の高い機種を選択できるようになったことも、付加価値の提案につなげやすいと言えます。

 Ultrabookには、薄い、軽い、起動が速いという強みがありますが、これは明らかに付加価値の提案に繋がります。博多のイベントでは、タッチ機能に次いで、薄さへの評価が高く、コンバーチブル型にも関心が集まりました。札幌のイベントでは、タッチ機能と薄さがほぼ同数で高い関心が集まりました。こうしたUltrabookが提案する価値を、訴求していく方向性が今後は適切ではないかと考えています。薄型、軽量を実現する中で、センサー技術をはじめとする新たな技術は、まずUltrabookから搭載される、あるいは、まず夢を実現するPCがUltrabookである。そういう世界が作れるのではないでしょうか。

 ただ、これまではUltrabook向けに用意された部材を使用すると、一般的なA4ノートで使用されている部品に比べ、やや割高であったため、結果として価格が高くなるという傾向がありました。しかし、Ultrabookが広がってくると、一般的なノートPCで使用される部品も安くなり、全体的に薄型や軽量化の方向に向かうことになるでしょう。Ultrabookの規格には合致していないが、それでも薄いというノートPCが広がっていくと思います。Ultrabookによって、すべてのノートPCが薄型化する方向性が作り出せるのではないでしょうか。

イベントで自ら呼び込みを行なった吉田社長

--Ultrabookでは確かに起動が速くなっていますが、競合陣営のタブレットに比べるとまだ時間がかかりますし、またコンバーチブル型ではタブレットスタイルにした途端に、競合陣営のタブレット単体の方が軽いという話になりますね。

吉田 従来のPCの対する固定概念は、立ち上がりが遅いというものであり、これはPCの悪い部分を示す代名詞とも言えました。そうした以前の状況に比べると、今はかなり改善しているとは思いますし、評価もいただいています。しかし、起動速度については、もっと速くしていく必要があるのは事実です。これで終わりというわけではありません。また、タブレットとコンバーチブルの差も明確に訴求していく必要があると感じています。ノートPCスタイルでも、タブレットスタイルでも利用できるコンバーチブル型を、Ultrabookの1つの提案として定着させていきたいですね。さらに企業向けでは、UltrabookとvProとの組み合わせも大きな武器になります。企業が求める水準のセキュリティレベルを維持し、安心して企業に利用していただけるという点も、Ultrabookの強みだと言えます。


●第4世代Coreプロセッサでさらに進化するUltrabook
IDF 2012で展示したHaswellの開発基板

--今後、Ultrabookはどうなっていきますか。

吉田 1つはUltrabookのラインアップは、これからも広がっていくという点です。より低価格なUltrabookも登場するでしょうし、さらなる先進技術を搭載した付加価値モデルも登場することになるでしょう。Ultrabookのラインアップが広がることによって、1人1台という世界が促進されることも期待しています。

 IT業界の中にいると、1人1台という環境は当たり前のように感じますが、体験イベントでお話しを聞くと、まだまだ一家に1台というケースが少なくない。日本では、FTB(ファースト・タイム・バイ)というお客様がまだ多く、それに対する提案を加速する必要がある。魅力的な製品が登場し、自分にあったPCが登場すれば、1人1台という環境が実現しやすくなるのではないてせしょうか。ここでは、Ultrabookだけでなく、オールインワンタイプにおいても提案をしていく必要があります。

 2つ目には、2013年になると、Haswellと呼ばれる第4世代のCoreプロセッサが登場し、さらに、2014年には14nmという新たなプロセスルールを採用したその先のプロセッサによって、Ultrabookはますます進化することになります。

 ワイヤレス充電機能や、有機ELのような薄型のディスプレイが登場すると、Ultrabookのコンセプトや提案の仕方が大きく変わってくるでしょうし、これはオールインワンPCも影響を及ぼすようになります。

 Ultrabookは、今のままではなく、さらに進化を続けていくことになります。PC市場に新たな提案を行なうことになるのではないでしょうか。

 一方で、なぜ、インテルがUltrabookのようなスペックを提案するのかという指摘もあります。しかし、もし、Ultrabookの提案がなかったら、今のPC市場はどうだったでしょうか。その点では、UltrabbokはPC市場の活性化に大きく貢献したと言えますし、これからも大きな影響を与えることになります。

 最先端技術を採用したプラットフォームであり、セキュリティ面でも進化を遂げ、薄さ、軽さという点からも使いやすさを追求する付加価値型の製品が、これからのUltrabookと言えるのではないでしょうか。