国際ディスクフォーラム2012レポート
〜タイ洪水による高値安定を享受するHDD業界

国際ディスクフォーラム2012の会場案内板

6月5日〜6日 開催



 HDDに関する国内唯一の総合イベント「国際ディスクフォーラム2012(DISKCON JAPAN 2012)」が2012年6月5日〜6日に東京都大田区で開催された。前年(2011年)の国際ディスクフォーラムは東日本大震災と東京電力福島原発事故の影響により、海外からの講演者がゼロという寂しい状況での開催だった。これに対して今年(2012年)は海外の大手HDDベンダーによる講演が勢ぞろいするなど、打って変わって華やかなものとなった。

 また昨年秋にはタイで大洪水が発生し、HDDの生産態勢は大きな影響を受けた。HDDメーカーによっては生産が完全に停止し、一時は流通在庫の取り崩しによって販売を続けることとなった。またHDDの販売価格が高騰し、小売り価格はタイ洪水発生以前に比べると2倍〜3倍の水準にまで上昇した。

 しかし皮肉なことに、HDDメーカーの業績(営業ベース)はタイ洪水以前に比べるとずっと良くなっている。2012年第2四半期(4月〜6月)の時点でHDDの生産はタイ洪水以前の水準にまで回復したものの、流通在庫の水準はそれほど増えておらず、HDD価格は高値に貼り付いたままだ。

 これらの状況が、国際ディスクフォーラムでは明らかになった。それでは、注目すべき講演の概要をご紹介したい。なお講演スライドの撮影と講演の録音は報道機関を含めて禁止されている。以下に掲載する講演スライドは、主催者である日本HDD協会と講演者のご厚意によるものであることをあらかじめお断りしておく。

●タイの大洪水でHDD価格が上昇

 タイ洪水の影響とHDD市場の見通しについて講演したのは、市場調査会社TrendFOCUSでプレジデントを務めるMark Geenen氏である。2011年9月に始まったタイの大洪水により、HDDの生産ラインとHDD用部品・材料の生産ラインが影響を受けた。大きな影響を受けたのはWestern Digitalと東芝で、特にWestern Digitalは2カ所の生産拠点が洪水で停止するなど、被害がもっとも大きかった。Seagate TechnologyはHDD本体の生産ラインは影響を受けなかったものの、部材の調達に支障が出たために生産調整を余儀なくされた。それでもWestern Digitalに比べると、Seagateの受けた影響ははるかに軽微だった。

 生産および出荷の減少により、HDDの平均単価は上昇した。Western DigitalのHDD平均単価はタイ洪水前には50ドル弱だったのが、タイ洪水後には70ドル前後に上昇した。Seagateの平均単価はタイ洪水前に50ドル強だったのが、タイ洪水後には70ドル強に上昇した。このため両社の利益率は急速に改善し、タイ洪水の影響が軽かったSeagateに至っては、タイ洪水前の7倍近い純利益を計上している。

 HDDの出荷台数は2011年第4四半期(2011年10月〜12月)には前四半期の68%に低下した。出荷台数はその後、急速に回復し、2012年第2四半期(2012年4月〜6月)には前年の第2四半期とほぼ同じ水準に戻している。

HDDの世界出荷台数の推移(四半期ごと、単位100万台) タイの工業団地とHDDおよびHDD部品の生産ライン。赤字の企業および部品が洪水の影響を受けた
HDD部材の生産状況。2011年第3四半期を100%と仮定したときの相対値。洪水の影響が大きかった2011年第4四半期には約60%に低下した。続く2012年第1四半期には、80〜90%にまで回復した Western DigitalとSeagate Technologyの粗利益率と平均販売価格(左)、純利益(右)の推移

●2015年のストレージ市場は10億台へ

 ストレージ市場の将来について展望したのは、Western Digitalでプレジデントを務めるSteve Milligan氏である。Milligan氏はまず、デジタルデータとストレージに関する状況を過去から未来まで俯瞰してみせた。

 1980年代にはスタンドアロンPCとネットワークストレージがデジタルデータの増加を牽引していたが、1990年代以降はIPネットワークとストレージエリアネットワークが取って代わった。そして現在では、クラウドコンピューティングがデジタルデータを急増させつつある。

 世界中で生成され、取り込まれるデジタルデータの総量は今や年率55%で成長しており、データ総量の70%は一般消費者が生成している。モバイルデータのトラフィック量は2015年には2010年の26倍に増えるとの数値をMilligan氏は示し、「ストレージに対する需要の拡大は飽和することがない」と述べていた。

 また2010年〜2015年のストレージ市場(HDDとSSDの合計)を台数と金額の両方から予測して見せた。2010年に6億5,900万台(内SSDは700万台)だった販売台数は、2015年には10億1,800万台(内SSDは9,200万台)に増える。販売金額は2010年の353億ドル(内SSDは21億ドル)から、2015年には582億ドル(内SSDは110億ドル)へと拡大する。

●HDD製品は12TB、SSD製品は256GB

 HDDの高密度化を展望したのは、SeagateのPat Ash氏である。HDDの記憶容量は年率40%で上昇している。これに対してHDDの記録密度(面密度)の拡大は年率25%であり、両者には開きがある。HDD 1台当たりのプラッタ枚数や磁気ヘッド数などを増やすことで、この開きを埋めているとした。

 とはいうものの、HDDの記憶容量拡大の基本は面記録密度の拡大にある。既存の垂直磁気記録は1平方インチ当たり750Gbit〜1,000Gbitで限界に達するとしていた。次を担うのはシングル磁気記録(SMR)で、面記録密度を1平方インチ当たり1.0Tbit〜1.5Tbitに引き上げると予測する。その先は熱アシスト磁気記録で1平方インチ当たり5Tbitを狙い、さらに上はビット・パターン・メディア記録と熱アシスト磁気記録の組み合わせで実現するだろうとの展望を示していた。

 それからHDD製品およびSSD製品の最新仕様について解説した。HDDの単価は1TB当たりで120ドル、SSDの単価は1TB当たりで1,900ドルと、両者の間には依然として10倍を超える開きがある。

 HDDの記録容量はブランド品が11TB(磁気ヘッドは7本)、ビジネス品が12TB(磁気ヘッドは8本)、コンシューマPC品が6TB(磁気ヘッドは5本)、ミッションクリティカル品が3TB(磁気ヘッドは6本)、コンシューマエレクトロニクス品が3TB(磁気ヘッドは3本)、コマーシャルPC品が1TB(磁気ヘッドは1本)だと説明していた。SSDの記録容量はコマーシャルPC品が256GB、スマートフォン品が64GB、タブレット品が128GBに達するとしていた。

●NANDフラッシュとHDDの両方を活かす

 HDDメーカー大手で唯一、NANDフラッシュメモリを開発・生産している東芝は、東芝セミコンダクター&ストレージ社の副社長をつとめる錦織弘信氏が同社の事業戦略を説明した。

 東芝のHDD事業は、かつては2.5インチと1.8インチを主力としていた。またHDD事業と半導体事業は別の事業部門だった。それが2009年10月に富士通のHDD事業を買収したことによって3.5インチを扱うようになり、2011年7月には組織改編によってHDD事業と半導体事業を一体化した。この結果、NANDフラッシュメモリのストレージと、1.8インチ/2.5インチ/3.5インチのHDDを同じ事業部門で扱うようになっている。HDDメーカーとしては最も広い範囲をカバーする企業となった。

 そこで今後は、3.5インチHDDをデスクトップPC向けやニアライン向けに供給するとともに、ハイブリッドHDD(NANDフラッシュストレージを内蔵した3.5インチHDD)やエンタープライズ向けSSDなどを提供していく。エンタープライズ分野およびサーバー分野で事業を拡大し、HDD市場におけるシェアを拡大する。2011年に11%だったシェアを2012年には14%、2015年には25%と急速に高めることを目指す。

●クラウドとビッグデータがHDDを牽引

 Western DigitalとSeagate Technology、東芝の講演で共通しているのは、大容量ストレージの需要をけん引するのはクラウドコンピューティングであり、ビッグデータといった膨大な分量のデータの格納役を担うのがHDDだということだ。人類社会が取り扱うデータの総量は急速に増え続けており、しばらくは飽和しそうにない。HDDに対する大容量化の要求も、しばらくは衰えることなく続きそうだ。

(2012年 6月 13日)

[Reported by 福田 昭]