大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

NECが投入する2ウェイPC「LaVie Touch」の狙いとは?
~ライトユースにこだわったモノづくり



 NECパーソナルコンピュータは、2011年10月6日から、2wayスタイルのスレートPC「LaVie Touch」を出荷する。ネットの閲覧やメールのチェックといった用途には、スレート型のタッチスタイルの端末として利用。その一方で、この端末を専用クレードルである「マルチステーション」に接続することで、ワイヤレスキーボードやワイヤレスマウスを利用して、PCとしての利用が可能になる。

2wayスタイルのスレートPC「LaVie Touch」

 「ライトユーザーに対して、または初めてタブレット端末を利用するというユーザーに対して、手軽に使ってもらう製品を目指した」と、この製品を位置づける。商品化に携わったNECパーソナルコンピュータ コンシューマPC商品企画本部プラットフォーム企画部の保谷美代子マネージャー、同・漆原めぐみ主任に、LaVie Touchの商品化の狙いについて聞いた。

●2つの利用スタイルを想定して開発

 LaVie Touchは、2つの利用スタイルを想定した端末として開発されたものだ。

 1つは、さまざまなアプリケーションやWebサービスのビューワとして利用するタッチスタイルのスレートPC端末として、そしてもう1つはワイヤレスキーボード、ワイヤレスマウスを利用したPCスタイルの端末としての使い方である。

 「タッチスタイル(=スレートPC)によって、家の中を持ち歩いたり、屋外に持ち出して自由に利用できるようにする一方、PCスタイルとして、PC用に開発された数多くの周辺機器をマルチステーションに接続し、PCならではのじっくりとした利用のための機能を両立することを目指したのがLaVie Touch。タッチスタイルとPCスタイルのいいところ取りをした」と、NECパーソナルコンピュータ コンシューマPC商品企画本部プラットフォーム企画部の漆原めぐみ主任は語る。

 基本的なコンセプトの検討を開始したのは2010年秋。2011年3月から具体的な開発を開始し、約半年で製品化した。

 「もっとPCを気軽に使ってもらいたい。その環境は、iPadやAndroidだけでなく、Windows 7でも可能であるということを提案する製品。ライトな使い方にこだわって、商品企画を行なってきた」と、NECパーソナルコンピュータ コンシューマPC商品企画本部プラットフォーム企画部の保谷美代子マネージャーは続ける。

 Windowsという使い慣れた環境において、スレートPCの魅力をどこまで追求できるかといった姿勢で開発されたものだと位置づける。

NECパーソナルコンピュータ コンシューマPC商品企画本部プラットフォーム企画部の保谷美代子マネージャーNECパーソナルコンピュータ コンシューマPC商品企画本部プラットフォーム企画部の漆原めぐみ主任

 Androidを搭載したタッチ対応製品がLife Touch。そして、Windows 7ベースのタッチ対応製品がLaVie Touch。LaVieは、フランス語でLifeと同じ「生活」の意味を持つ。

 「LaVie Touchのほかにも、LaVie Pad、LaVie Tabといったネーミングの候補もあった。また新ブランドを検討するといったことも議論のテーマにはあがった。だが、NEC PCのタッチモデルはTouchの呼称に統一したいという狙いがあったこと、LifeとLaVieという共通の意味があったことで、この名称に決定した」(保谷マネージャー)。

 NECパーソナルコンピュータのTouchモデルは、Windows 7搭載モデルも、Android搭載モデルも、同じ意味を持ったブランド名で統一されることになる。

●主要な使い方はタッチスタイル

 LaVie Touchで想定している基本的な使い方はこんなスタイルだ。

 1つは、TV視聴時などに補助的ツールとして活用するシーン。

 TVを見ながら、調べたいものがあれば、リビングに設置しているマルチステーションに置かれたスレートPCを持ってきて、ソファの上でネットに接続し、2~3分利用する。そこで一緒にメールもチェックする。あとはTVのリモコンと一緒にソファの上に置いておき、必要に応じてまた利用する。TVを見終わったら、マルチステーションに戻しておくという使い方になる。すでにPCを利用しているが、もっと手軽に利用できる2台目のPCとしての利用シーンである。

 2つ目は、家庭内の情報共有端末としての利用だ。

 Microsoft OfficeのOneNoteやPowerPointの機能などを活用して、子供へのメッセージを書いておけば、それによって子供が学校や塾から帰宅後、おやつの情報などがそこから入手できる。リビングやキッチンに設置したマルチステーションにスレートPC部を設置しておけばいいだけだ。これは、個人用のPCは所有しているが、それとは別に家族共有の端末として利用するという使い方である。

 これらの利用では、Windows 7の環境で利用できるという点で、PCの操作性を継承できる点がポイントになるとする。

 そして、3つ目はこれまでPCをあまり使ったことがない、シニア層などがより簡単な操作感覚で利用できる端末という提案だ。キーボード操作やマウス操作が苦手なシニア層でも、タッチ操作によって利用できることから、導入のハードルを低くする提案が可能になる。

 NECパーソナルコンピュータでは、LaVie Touchにおいて、こうした利用シーンを想定しているのだ。

 ここで興味深いのは、同社がLaVie Touchにおいて、外に持ち運んで利用するというシーンは全くといっていいほど、想定していないという点だ。

 「電車の中で利用するのであれば、スマートフォンの方が適している。むしろ、友人の家まで持っていき、そこで情報を共有しながら一緒に閲覧するという使い方、相手先にいってプレゼンテーションを行なうという使い方を想定している」(漆原主任)と、モバイルユースをほとんど視野に入れていないことを明かす。

 さらに、多くの利用シーンでタッチスタイルによる使い方を見込んでおり、PCスタイルでの利用は全体の約1割程度に留まると想定しているという。

 「情報登録などで、キーボード操作の方が適しているといった場合にだけ利用してもらう、あるいは会社の仕事を家に持ち帰って、その時にキーボードやマウスが最適といった場合に利用してもらうというように、どうしても必要な場合に利用してもらうものだと考えている」(漆原主任)という割り切りも興味深い。

 そして、モノづくりの基本的な考え方も、この考え方をベースとしている。

●IPS液晶を搭載し、Officeもインストール

 LaVie Touchの基本スペックは、Atom Z670を搭載し、2GBメモリ、64GBのSSDを搭載。薄さ15.8mm、重量729g、バッテリ駆動時間は10.6時間、そして、10.1型のIPS液晶を搭載している。

 視野角の広いIPS液晶を搭載したのは、タッチスタイルで利用する際に、複数の人が情報共有しやすいようにという狙いや、スレートPCとしてさまざまな角度で閲覧するといった用途が想定されることが背景にある。また、ノングレア液晶をあえて採用したのも、タッチした際に指紋が残りにくく、指紋での画面の汚れを気にすることなくどんどん触ってもらいたいという狙いからだ。

 10.1型は情報を共有しやすいサイズであること、729gの重量は、持って操作をするのに負担を感じない限界値と設定した700g台前半を目標にしたものだ。

 さらに、CPUにAtom Z670を採用したことにより、低消費電力、ファンレス動作を実現。これにより、10時間を超える連続駆動時間を達成している。NECのモバイルPCでは、10時間という駆動時間が前提として開発されており、その点でも1つの目標値に準拠した仕様となっている。角セルのバッテリを搭載し、背面からバッテリを交換できるようにしたのも長期間使ってもらうための配慮の1つだ。

 そして、SSDは64GBと容量が限定されるが、新たに用意したNetwork Duet機能により、他のPCとホームネットワーク経由で接続し、データを共有できるといった機能も搭載した。これまでのUSB Duet機能を進化させたものだ。

 データ共有の手法としては、NECにはLuiで実現しているリモートアクセスの手法もあるが、「Luiではタッチ機能に対応していないため、今回は搭載を見送っている」(保谷マネージャー)という。

 また、Office Home and Business 2010を搭載し、OneNoteやPowerPointを利用できるようにしたことも、こだわりの1つだ。こちらはタッチスタイルでの利用に加えて、PCスタイルで利用する際に、じっくりとPCの機能を活用するには、Officeが必要不可欠なアプリケーションと捉えているからだ。

 Office Home and Business 2010の利用においては、タッチでも目的の操作が行ないやすいように、NEC独自のOfficeリボン「タッチタブ」を用意。OneNoteでは、タッチ操作で必要な情報をインターネットサイトから切り取ったり、写真を貼り付けるといったことが可能になり、メモやアルバムの作成も簡単にできる。

 もともとWindows 7は、キーボードとマウス操作に最適化して開発されたOSだけにアイコンやタブのクリック操作ではタッチにあまり適していない部分もある。フォルダを閉じる際にも「×」の表示が小さく、しかも画面の端に置かれるため、タッチでは操作がしにくい。

 LaVie Touchでは、タッチ機能の操作性を高めるために、これらを大きく表示。「ExTOUCH」(エクスタッチ)の採用により、よく利用するアプリケーションをワンタッチで起動したり、タッチ入力を容易にするため、携帯電話同様のレイアウトとしたフリック入力が可能なソフトウェアキーボードも用意している。

 さらに、スレートPC部にはHDMI出力端子を搭載しており、デジタルカメラで撮影した写真やOfficeなどで作成したデータは、家庭内の大画面TVにも簡単に映しだすこともできる。

 なお、日本マイクロソフトとの連携により、Officeで利用できる「旅行」、「レシピ」、「伝言メモ」という3種類のテンプレートをインストール。日本マイクロソフトが開設したスレートPC用のテンプレートサイトからも、各種テンプレートをダウンロードして利用できるようになっている。同サイトは、LaVie Touchが発表された9月12日から開設している連動ぶりみせている。

●マルチステーションによりPCスタイルを実現

 一方、マルチステーションにはDVDドライブを搭載。USB 2.0端子を2基搭載しており、スレートPC部をあわせると4基のUSBポートを持つことになる。

 マルチステーションの筐体サイズは、スレートPCを立てた状態で、その裏側にちょうどキーボードを置くことができるサイズとなっており、前面部には端子を配置していない。また、マルチステーション側にはNECロゴやLaVieロゴは一切表示されていない。これはリビングに置いた時にも煩雑さを感じさせないようにするためのデザイン的な配慮だ。

 特に社内で議論を戦わせたのが、DVDドライブである。当初は、ソフトウェアインストール用と位置づけていたが、リビングでの利用シーンを想定したことや、IPS液晶を搭載したことで動画表示にも適しているといった背景もあり、開発途中から、DVDビデオ再生機能の搭載が提案された。AtomのCPU性能からみれば、開発陣からはビデオ再生機能を避けたいという声もあったが、商品企画部門からの強い要望により、開発陣が改良を加え、この機能を搭載した。DVDのビデオ再生機能の搭載は、マルチステーションの利便性をさらに高めたといえよう。

スタンド、DVDスーパーマルチドライブ、USB Hubを備えるマルチステーションLaVie Touch一式。マルチステーションとワイヤレスキーボード/マウスにより2wayスタイルを提案

●レノボとの合弁後、初の新製品の1つに
新たなキャラクターとして武井咲さんを起用して、LaVie Touchの訴求を図る

 NECパーソナルコンピュータの漆原主任は、「まずは店頭で触ってもらいたい」と語る。

 「LaVie Touchは、PCの派生製品であり、Windows環境で今まで通りの使い方ができるという、PCの使い勝手の良さを持つ一方で、新たな使い方を提案する製品。こんな使い方がある、こんなスタイルで使えるということをユーザー自らに発見してほしい」と語る。また、保谷マネージャーは、「iPadの利便性は評価している。ただ、LaVie Touchによって、Windows搭載のスレートPCも捨てたものじゃないということを感じて欲しい」とする。

 これまでにない製品だけに、量販店でも展示場所には頭を悩ませることになりそうだ。

 「大手量販店では、タブレット端末のコーナーがあり、そこにAndroid端末とともに展示されることもあるだろう。また、ノートPCのコーナーに置かれることもあるかもしれない。どんなところに展示されても、LaVie Touchならではの2Wayの特徴を訴求し、差別化につなげていきたい」と漆原マネージャーは語る。

 7月からレノボグループの一員となったNECパーソナルコンピュータから、早くもユニークな製品が登場したといえる。今回の製品は、2011年3月から具体的な開発が進められたということを考えると、2011年1月にレノボとの合弁の話が出てから本格化したともいえる製品と捉えることもできる。

 この製品そのもののユニークさにも注目されるが、今後、NECパーソナルコンピュータがどんな製品を投入してくるのか、次への期待感をもたせる製品の登場だということも言えるだろう。