大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

ゲーマーによる、ゲーマーのためのPC周辺機器を開発する米Razer
~日本市場での事業拡大を目指すクラコフ社長に聞く



米Razerのロバート“レーザーガイ”クラコフ社長

 ゲーミングユーザー向けのPC用周辺機器を開発、販売する米Razerが、日本における事業拡大に乗り出そうとしている。同社が主力製品の1つに位置づけるマウスのラインアップ強化のほか、日本語仕様のゲーミング向けキーボードもすでに製品化し、日本市場向けのラインアップを強化。先頃開催された東京ゲームショウ2011にも自社ブースを構えて出展することで、日本における展開を強化していく姿勢を示した。米Razerの共同創立者であり、社長を務めるロバート“レーザーガイ”クラコフ(ROBERT “RAZERGUY” KRAKOFF)氏に、日本における取り組みなどについて聞いた。


●ゲーマーによる、ゲーマーのための製品づくり

 米Razerは、1998年の設立以来、「For Gamers. By Gamers(ゲーマーによって、ゲーマーのための製品を提供する)」をキーワードに、ゲーミングユーザー向け周辺機器の開発、製造、販売を行なっている。

 「私は、1990年前半に当時のActivisionに勤務し、ゲームの開発に携わっていた。そのときに、今後はPCゲーム市場が爆発的に成長すると感じる一方で、オフィスでの利用を想定して開発されたマウスや、一般的なPC用キーボードでは、ゲームをプレイするのには適していないこと、精密性、正確性、安定性といった点においても物足りなさを感じていた。数々の周辺機器を探してみたが、ゲームをプレイするハードウェアとしては、納得ができないものばかりだった。そのとき、共同創業者であるMin-Liang Tan(タン・ミン・リャン=現CEO)と出会い、Razerを設立することになった」と、同社のRobert Krakoff社長は語る。

 設立当時の社員数は4人。それが現在は300人以上の社員数となり、年内には500人近い社員数に拡大するという。

KRAKOFFが持つ剃刀型デザインの金属製名刺。RAZERGUYの名前も刷り込まれている

 交換した名刺は、社名のRazerをもじった剃刀(Razor)型のデザインであり、そして素材は金属でずっしり重たい。かなりコストがかかったものだと容易に推察できる。Krakoff社長は、1枚ずつ梱包されたビニールから取り出しながら、名刺を手渡してくれた。

 その名刺には、「ROBERT “RAZERGUY” KRAKOFF」の文字。ミドルネームのRAZERGUYは、Krakoff社長に与えられたニックネームであり、同氏の対外的な通称にもなっている。

 Razerの最初のヒット製品は、1999年にリリースしたゲーミングユーザー用マウス「Boomslang」だ。

 他社の製品は、最大解像度が400dpiであった時に、独自のオプトメカニカル技術により、5倍となる最大解像度2,000dpiを実現。世界的にも著名なプロゲーマーたちが相次ぎ採用したこともあり、発売から2年で10万台を出荷したヒット製品となった。

 「それ以来、ハイクオリティであること、先進的な技術を採用していること、革新的なデバイスとして進化していることが、多くのゲーマーたちに受け入れられている」としながら、続けて、「この時から、今でも変わらないコンセプトが、For Gamers. By Gamersというコンセプトである」と、Krakoff社長は語る。


 Krakoff社長が、そう語る理由はいくつかある。

 1つは、同社の約300人の社員のうち、約9割がゲーマーを採用しているという点だ。まさに、ゲーマーがゲーマーのために製品を作っているという証だ。

 「全世界に9カ所のオフィスがあるが、そこには自由にゲームをプレイできる場所を必ず設置している。時間が空いている時は、ゲームをして、そこから新たなアイデアを生めるようにしている。また、頻繁にオフィス同士を結んで、オンラインゲーム大会が開かれている。ゲームを通じて社員同士が交流を深められるようにしている」という。

 オンラインゲーム大会では、毎回のように、本社のあるサンディエゴと、大規模な拠点があるシンガポールがトップを競い合っているという。

 もう1つは、ゲーマーを対象にした発売前のテストを徹底的に行なっている点だ。

 「開発段階において、テスト1、テスト2、そして、ベータ版でのテストによる3つの試験ステップがある。すべての製品がこのステップを踏む。これらのテストは、社員が行なうのではなく、プロゲーマーなどが参加する。つまり、開発段階からゲーマーの評価を反映する仕組みとしており、これがゲーマーにとって最適な製品へと生まれ変わる重要なステップになる」とする。

 工場での生産が開始される直前まで、採用するパーツを細かく修正したり、製品が発売されたあとも、ファームウェアによる改良が加えられるということもある。

 さらに、Krakoff社長自身が多くのゲーマーと接点を持っていることも、For Gamers. By Gamersを実現するための重要な要素だ。

 Krakoff社長は、「中にはあまり聞きたくないフィードバックもあり、また、どうやったらRazerで働くことができるのかという質問などもあるが」と笑いながら、「すべてのメールに目を通し、24時間以内に、何かしらの回答をするようにしている。また、私が個人的にコミュニケーションをとっている友人が、全世界に約4,000人おり、そこからも製品に対するフィードバックを得ている。1日300人からメールを受け取り、1日500人とFacebookでやりとりをしている。こうしたやりとりを14年間続けている」と語る。

 ここもにRazerが掲げる「For Gamers. By Gamers」の考え方が活かされている。


●Razer初のアーケードスティックの試作機を披露

 Razerは、2010年に引き続き、東京ゲームショウに出展した。

 これは日本市場を重要な市場の1つと見ている証拠とも受け取れる。

 「日本は、とくに格闘ゲームにおいては先進的な市場であり、ゲーマーのスキルも非常に高い。また、コンソール市場としてみた場合にも大きな市場だと考えている」。

東京ゲームショウ2011のRazerのブース東京ゲームショウ2011で参考展示したアーケードスティック

 東京ゲームショウ2011では、Razerは新たな製品としてアーケードスティックを発表。この試作機を展示した。

 同社初のアーケードスティックとなる同製品は、PCおよびXboxに対応。ジョイスティックのコントローラと、8つのボタンを上部に配置。さらに側面にも2つのボタンを配置している。

 また、ボタンやジョイスティックを自分の好みのものに変更することが可能で、ボタン1つで本体を開けることができ、部品の交換も簡単にできる。

 ゲームに応じてパーツを交換できるように本体内に収納スペースを設け、その際に利用できるドライバーも収納できるようになっている。

 これまでの製品は、本体内部を開けたり、部品を交換した時点で保証の対象外としていたものばかりだった。むしろ、この発想を変え、部品を交換できるように設計し、ゲーマーの細かい要求に呼応。ユーザーそれぞれが自由にカスタマイズできるという新たな要素を付け加えたのだ。

 さらに、天板の変更も可能で、「自分のアートワークのスペースとしても活用してもらえる」という。

 天板はユーザーの個性が表現できる部分でもある。まさに自分だけのアーケードスティックが手に入ることになる。

 本体内部をよく見ると、小さなボックスが1つだけある。ここを開けた場合には、保証の対象外となる。それ以外は自由にカスタマイズしてほしいというのが、この製品の基本コンセプトだ。

 また、底面にラバーが貼られており、机の上でプレイする場合だけでなく、膝の上に置いた場合でも安定した操作が可能になるという。

交換パーツを本体内に収納し、その際に利用できるドライバーも収納できる本体内部の小さなボックス(写真の上部分)を開けると保証の対象外となる底面にラバーが貼られており、机の上でプレイする場合だけでなく、膝の上に置いても安定する

 Krakoff社長によると、現時点では、発売時期は未定とするが、来年(2012年)には製品化する方向で検討を進めているようだ。

 「開発段階で盛り上がっても、製品化されるのが5年後では、ゲーマーの声に応えられない。早期の製品化を目指す」と、Krakoff社長は語る。

●ユーザーの声を反映して開発を続けるアーケードスティック

 このアーケードスティックの製品化に向けては、For Gamers. By Gamersの考え方をもう1歩進めた施策を展開する。

 というのも、今回の試作機を全世界200人のユーザーに配布し、そこから意見を得て、製品開発に反映する考えを示しているからだ。

 さらに、その対象をこれまでのようにプロゲーマーに限定するのではなく、さらに幅広いレベルのユーザーへと広げ、さまざまな声を集約する姿勢をみせる。

 「テストプログラムには、ゲームに対して意欲を持ち、情熱を持つ人たちにぜひ参加してもらいたい。とくに、アーケードスティックは、格闘ゲームでの利用が中心となるアイテム。格闘ゲームで多くの経験を持つ日本のゲーマーにも積極的にテスターとして参加してもらいたい」とする。

 200人でのテストを終了した後には、50人ほどに絞り込んで、さらに最終試作機でのテストを行ない、そののちに製品化につなげるという。

 「ここまで大規模なテストプログラムを実施することはこれまでにはなかった。ユーザーの生の声を聞いて作り出すという作業をさらに一歩進めたものになる。これまで以上に、ゲーマーの声を反映した製品が市場に投入できると考えている」と、Krakoff社長は胸を張る。

●日本市場にコミットする米Razer
BATTLEFIELD 3のデザインをあしらったマウスやマウスパッドなどを新たに投入

 これまでにも、日本語キートップを配したゲーミングキーボードのほか、マウス、ケーミングコントローラーなどを日本市場に投入してきたRazerだが、さらに製品ランイアップの強化にも取り組む。

 「BATTLEFIELD 3」のデザインをあしらったマウス、キーボード、コントローラ、マウスパッドを新たに市場投入するほか、2011年12月には、STARWARSのOLD REPUBLICのデザインを施したキーボードを出すことになる。

 「格闘ゲームという観点でみれば、日本は重要な市場。その点でも、アーケードスティックは日本において重要な製品になる。今後も、日本語仕様の製品を投入するのに加え、数多くの製品を日本の市場に投入していきたい。ビジネスとしても、大きな高い成長の可能性がある市場だと考えている」とする。

 最後に、RAZERGUYとして、日本のユーザーにメッセージを送ってもらった。

 「Razer製品を使っていただいている日本のユーザーに感謝する。Razerは、これからも日本の市場にコミットメントしていくつもりだ。今回、東京ゲームショウに出展したのも、日本を主要なマーケットと考えているためだ 私は、個人的には、マウスのDeathAdderシリーズ、キーボードのBlackWidowシリーズが大変気に入っている製品。また、Xbox対応のコントローラであるONZAシリーズや、7.1chのサラウンドを楽しむことができるヘッドセットのTIAMATにもこれからは注目してほしい。日本のユーザーに愛される製品をこれからもどんどん投入していくので楽しみにしていてほしい」。

 これから日本におけるRazerの製品投入は活発化することになるだろう。それが日本のPCゲーミング市場の活性化につながるかもしれない。