■大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」■
オンキヨーが、新たな成長戦略を打ち出す。それは、1部屋1台のPC戦略だ。同社では、スリムタワーや一体型、A4ノート、ネットブックといった既存領域のPC製品群に加えて、新たな領域として、「プレミアムPC」、「パーソナルモバイル」、「CE(コンシューマエレクトロニクス)との融合商品」、「PC周辺機器」の4つの製品群を投入する考えを示しており、これらの製品を中心として1部屋1台のPC環境を実現するというものだ。オンキヨーの常務取締役であり、PCカンパニー社長兼開発センター長を務める菅正雄氏に話を聞いた。
--今年(2010年)1月に発表した春モデルはラインアップを一新し、さらに2月以降も新たな製品群も追加しています。まずは、オンキヨーの基本的な製品戦略について教えてください。
オンキヨー 常務取締役 PCカンパニー社長兼開発センター長の菅正雄氏 |
菅 オンキヨーでは、既存のPC事業領域として、ネットブック、CULV、A4ノートといった10.1型から15.6型のノートPCを投入し、さらにスリムタワーPC、一体型PCといったラインアップを揃えています。
1月に発表した春モデルでは、デスクトップPCで2シリーズを投入。そのうち、Intel Coreテクノロジーを搭載したモデルで9機種、CULVで8機種を投入した。ネットブックとしては業界で初となる地上デジタルTVチューナを搭載するなど、2010年春モデルでは、TV視聴をキーポイントとしました。2011年7月のアナログ停波に向けて、地デジが盛り上がることが想定されます。デスクトップからCULV、ネットブックまで、すべての製品群に地デジチューナを搭載し、「地デジチューナを搭載したPCであれば、オンキヨーのPCである」というイメージを作りたいと思っています。
当社がここまでの方針を打ち出すのは、地上デジタルTVチューナ、FM/AMラジオチューナのほか、統合視聴再生ソフト「PureSpace(ピュアスペース)」を自社開発したことが挙げられます。とくに、地上デジタルTVチューナでは、昨年(2009年)11月から運用を開始しているminiB-CASカードにいち早く対応することで小型化を実現し、ネットブックで手軽に地上デジタル放送の視聴が可能にした点があげられます。
また、またFM/AMラジオチューナの開発では、ピュアオーディオやサウンドカードで培ってきたさまざまなノイズの影響を受けにくくする当社独自の設計ノウハウを投入することで、ピュアなラジオ音声受信および再生を実現している。ラジオを聞く機会が少なくなっていると言われますが、それを再認識してもらうきっかけにもなればと考えます。そして、iPodなどの連携機能も搭載し、これもオーディオの観点から楽しんでもらえるようにしました。
オンキヨーが開発した地上デジタルTVチューナ(手前)と、FM/AMラジオチューナ | ネットブックのC4シリーズを手にする菅カンパニー社長 |
もともと固定費が少ないのが、オンキヨーのPC事業の特徴ですから、そのメリットを価格設定に反映させることができる。地デジチューナとCore i5を搭載したA4ノートPCが、他社の場合には17万円以上していたものを、当社では、99,800円の価格設定で投入することができた。地デジ視聴が可能なPCの購入を促進することができる価格設定にできたと自負しています。一方で、今後強化していくのが、これまでにない新規事業領域となります。
--オンキヨーが取り組む新規の事業領域とはなんですか。
今後のオンキヨーが取り組む4つの新規事業領域 |
菅 「プレミアムPC」、「パーソナルモバイル」、「CEとの融合商品」、「PC周辺機器」の4つとなります。パーソナルモバイルの分野では、昨年12月に発表した工人舎との協業により投入したデュアルディスプレイ搭載ミニノートの「DXシリーズ」をはじめとする製品群があります。工人舎との協業は、この分野を中心にして、今後も推進していくことになります。
また、CEとの融合商品、PC周辺機器は、今年春から夏にかけて製品化していく考えです。場合によっては、AVカンパニーの製品と重複するようなものもあるでしょうが、まずはその部分はあまり考えずに展開していくつもりです。実は、地デジチューナやPureSpaceは、今後投入するCEとの融合商品を視野に入れて開発したものでしたが、これをいち早くPCに搭載した。しかも、エントリーレベルの製品に積極的に採用した。この技術は、PCにおいて、また今後投入する予定のCEとの融合商品において、大きな差別化になると考えています。
一方、プレミアムPCの領域については、どんなものがオンキヨーの特徴を打ち出せるのかという観点から、現在検討している段階で、まだ時期などについては未定です。いずれにしろ、既存製品領域に加え、新規事業領域を含めた形で、今後、当社が打ち出していくのは、「1部屋1台」というPCの考え方になります。
--PCメーカー各社の戦略は、1人1台から、1人複数台の所有に向かっています。オンキヨーは、なぜ1部屋1台という方針を打ち出すのですか。
菅 現在、PCの購入層を考えると若年層が圧倒的に減っている。10代や20代前半の若い人たちは、携帯電話を活用して、PCを使うことが少ない。外に持ち歩く際には携帯電話が中心なのです。しかも、少子化の動きで市場のパイそのものが小さくなっている。そこに対して、PCメーカーが一斉に商品を投入するものだから、競争が激しくなるのは当然のことです。
ところが、これを別の視点で捉えると、違うものが見えてくる。若い人たちが、自分の部屋でもっとのめり込んだような形で音楽を聞きたい、映像を見たいというような使い方を想定すると、据え置き型でもいいから、自分用のものが欲しいと考えるようになる。TVやレコーダ、オーディオといった観点から、PCを使うという選択肢が出てくる。
これは単純にTVを置き換えるとか、オーディオを置き換えるとかではなくて、TVやオーディオと連動した使い方提案も必要だと考えています。ここに、PCの1部屋1台の考え方がある。一方で、リビングにはリビングなりのPCの使い方があるし、書斎には書斎の使い方、キッチンにはキッチンならではの使い方がある。そうした観点から提案していくということもあると考えたわけです。
--そもそもその発想はどこから生まれたのですか。
菅 当社にはAVレシーバーという製品があります。ある日、米国でこんな話を聞きました。なんと、AVレシーバーを3台所有しているというのです。こっちがびっくりしましたよ(笑)。使い方を聞いてみると、ゲームをやる部屋と、音楽を聞くことが多い部屋、そして映像を中心にするリビング、というように部屋ごとに使い方を分けていて、それぞれにAVレーバーを使っているというのです。リビングでは、TVとレコーダと5.1chのスピーカーシステムを連動させて使っているが、ゲームの部屋ではPCとPlayStation 3とWiiを接続しているという。PCもこうした部屋ごとの用途にあわせた提案が可能なのではないか、ということに気がついたのです。
それに、今後少子化が進めば、人口よりも、部屋数の方が多くなる(笑)。4人家族で、子供が巣立ってしまっても、部屋は4部屋残るわけですからね(笑)。いま日本に約4,000万世帯あるとすると、1世帯平均3部屋だとしても1億2,000万の市場がある。PCのターゲットとなる幼児を抜いたり、今後、日本の人口が減少することを考えると、もはや部屋数で考えた方が市場が大きい。
さらに、部屋ごとの提案では、PC+周辺機器という提案も視野に入る。オンキヨーはオーディオに強みを持つメーカーですから、PC+周辺機器という提案も推進しやすい。シニア向けPCを開発するのではなく、シニアの部屋に最適なPCはなにかということを、周辺機器との組み合わせで提案する。また、中身はPCだが、外からはPCに見えなくて、OSやCPUなどを意識することなく、iPodの専用マシンのように動かすといった提案もあるでしょう。オンキヨーは、こうしたところに強みが発揮できると考えたわけです。
--オンキヨーの製品戦略もそれに準拠したものだと。
菅 新規事業領域において、PC周辺機器やCEとの融合商品を掲げたのも、1部屋1台の実現に大きな意味を持ちます。ですから、オンキヨー製品に関しては、PC本体だけに注目をしていただくのではなく、どんなPC周辺機器が出るのか、またどんなCE融合商品が出るのかに注目していただきたいですね。
--2010年度の事業計画はどうなりますか。
菅 今後、2010年度は前年比約3割の事業成長を遂げたい。また、2012年度に向けて20~25%増で事業の拡大を図っていきたい。そのためには既存の販売ルートだけではなく、新たなチャネル開拓も必要です。テレビショッピングを通じた販路の拡大や、学校、病院といった領域にも提案していきたい。ラジオチューナを搭載したPCも投入しましたから、ラジオ局と連動した提案なども行なえるかもしれない。こんなことはこれまでのPCメーカーではなかった発想でしょう。これまでの常識にとらわれず、オンキヨーならではの小回りが利く提案をどんどんやっていきたいですね。