大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

外資系PCメーカーのシェアが50%を超える日がやってくる!?



 日本のPC市場における外資系PCメーカーの構成比が高まっている。

 先頃、MM総研が発表した2009年の国内PC市場の調査によると、外資系PCメーカーのシェアは40.6%となり、初めて40%を突破した。

 法人需要や直販ルートによる販売が増加しているのに加えて、量販店店頭でも、徐々に外資系PCメーカーが躍進するといった動きが出ている。

 量販店のPOSデータを集計するBCNによると、外資系PCメーカーのシェアは29.6%。市場全体でみると構成比は低いが、それでも約3割を占めている。

 特にデスクトップPCでは、2010年1月のデータで外資系PCメーカーの比率が44.3%。2009年3月以降、40%台のシェアで推移している。この中では、アップルが首位で、続いてAcer。だが、Gateway、eMachine、Acerによる日本エイサーの各製品を加えると、アップルを越える。アップルおよび日本エイサーだけで、外資系PCメーカーのデスクトップ市場の85%を占めている。

 これに対して、ノートPCは26.5%と、4台に1台の構成比。ここ半年ほどは25%前後で推移しているという状況だ。

2010年1月 デスクトップ構成比(データ出典:BCN)2010年1月 ノート構成比(データ出典:BCN)

 BCNのデータから、外資系PCメーカーの動きをもう少し詳しく見てみよう。

 量販店においても、すでにいくつかの領域で外資系PCメーカーのシェアが、国内PCメーカーのシェアを上回る実績があがっているのがわかる。

 外資系PCメーカーの構成比が高いという点で、最も想定しやすいのは、ネットブック市場だろう。

 だが、この市場ではここにきて、NEC、東芝、ソニーといった国内メーカーが巻き返しを図っており、2010年1月の外資系PCメーカーのシェアは50.1%とわずかに過半数に到達したという結果。2009年9月から12月は40%台で推移しており、国内PCメーカーの方が上回っていたほどだ。2009年1月には外資系PCメーカーが72.8%と大勢を占めていたのに比べると、着実に国内PCメーカーがシェアを奪回しているのがわかる。

 BCNがスタンダードモバイルと定義して集計する領域でも外資系PCメーカーが躍進している。ここは、ディスプレイサイズが12.1型以下で、ネットブックの条件を満たさない製品が含まれる。

 1月における外資系PCメーカーのシェアは42.2%となり、2009年10月以降、40%前後で推移している。ここには一部CULVが含まれており、それが外資系PCメーカーのシェアの拡大につながっている。

2010年1月 ネットブック構成比(データ出典:BCN)2010年1月 スタンダードモバイル構成比(データ出典:BCN)

●低価格デスクトップで外資系が存在感

 外資系PCメーカーが圧倒的なのは、デスクトップの低価格帯の領域だ。デスクトップの領域をいくつかの角度から分析してみたい。

 5万円未満のデスクトップPCでは、なんと89.6%を外資系PCメーカーが占める。10台に9台は外資系PCメーカーという状況だ。また5万円~10万円未満の領域でも76.0%を占めている。ところが、10万円~15万円未満では一転して18.2%、15万円以上では20.2%と一気に構成比が落ち、国内PCメーカーが躍進している。付加価値型のデスクトップは国内PCメーカーが強いという構図だ。

2010年1月 5万未満デスクトップ構成比(データ出典:BCN)2010年1月 5万円~10万円未満デスクトップ構成比(データ出典:BCN)
2010年1月 10万円~15万円未満デスクトップ構成比(データ出典:BCN)2010年1月 15万円以上デスクトップ構成比(データ出典:BCN)

 実際、ディスプレイ別売のデスクトップPCでは91.7%を、またディスプレイ分離型デスクトップでは70.9%を外資系PCメーカーが占めるのに対して、ディスプレイ付属型は31.1%に留まり、ディスプレイ一体型でも26.4%に留まっている。

 地デジチューナ搭載デスクトップという観点で見ると、外資系PCメーカーはわずか3.4%。これに対して、地デジチューナ非搭載では67.6%となっている。

 さらに、AMDのプロセッサを搭載したデスクトップでは外資系が61.2%となり、Atomでは73.3%に達するほか、Celeron系でも59.5%と過半数を越えている。AMD系はデスクトップ市場全体で約14%の構成比があり、ここで6割のシェアを取っているというのはかなりの存在感があるといえる。だが、デスクトップ市場の約6割を占めるCore 2系の領域では外資系の比率は38.1%。今後の主流になるCore iでは36.2%に留まっており、国内PCメーカーがリードしている。

 OS別では、Windows 7が29.1%。だが、Windows Vistaでは50.9%、Windows XPでは74.0%となっている。

 なお、GeForceシリーズ搭載モデルでは、外資系PCメーカーが65.1%を占めている。

●ノートPCはスタンダード分野を伸ばせるか

 次にノートPCにフォーカスして、外資系PCメーカーの動きを見てみよう。

 BCNでは、ディスプレイサイズが12.2型以上のスタンダードノート、先に触れたスタンダードモバイル、そして、ディスプレイサイズ12.1型以下で、Atom系の低電圧CPUを搭載した、2008年以降発売の製品をネットブックと位置づけて分類している。

 前述したように、ネットブック、スタンダードモバイルでは外資系PCメーカーの存在感が高いが、スタンダードノート分野では18.8%と低い。この分野は、国内PCメーカーが圧倒的に強い分野であり、しかもこの市場がノートPC市場全体の73.3%と大半を占めている。この領域で、外資系PCメーカーのシェアが高まるかどうかが今後の焦点となる。2010年はスタンダードノートPCの領域への製品ラインアップ強化を打ち出す外資系PCメーカーが相次いでおり、その動きが注目されよう。

 価格帯別にみると外資系PCメーカーが存在感を発揮しているのは、やはり低価格モデルであることがわかる。

 5万円未満の領域では外資系PCメーカーの構成比は67.4%と3台に2台を占める。だが、これが5万円~10万円未満では15.5%に減少。10~15万円未満では5.8%と極端に低くなる。5~15万円未満の価格帯はまさにスタンダードノートの領域だ。さらに付加価値モデルとなる15万円以上の領域でも15.6%に留まっている。

2010年1月 5万未満ノート構成比(データ出典:BCN)2010年1月 5万円~10万円未満ノート構成比(データ出典:BCN)
2010年1月 10万円~15万円未満ノート構成比(データ出典:BCN)2010年1月 15万円以上ノート構成比(データ出典:BCN)

 CPU別に見ると、外資系PCメーカーのシェアが高いのがAtom系の44.7%、Celeron系の43.7%。デスクトップPCでは存在感が高かったAMD系は、ノートPCでは25.1%となっている。市場の半分を占めるCore 2では11.6%、Core i系ではわずか2.1%に留まっている。

 OS別では、Windows 7搭載モデルでは13.5%のシェア。これに対して、Windows Vistaでは53.0%、Widnows XPでは59.1%となっている。

 無線LAN機能でも興味深い結果が出ている。IEEE 802.11g規格を搭載しているノートPCでは外資系PCメーカーが71.8%を占めるが、IEEE 802.11a/nでは30.9%、IEEE 802.11nでは14.8%に留まっている。またドライブでは、書き込みCDドライブでは75.0%、ドライブなしでは47.8%となっているが、書き込みDVDドライブでは19.9%、BDドライブではわずか0.5%となっている。ドライブなしの領域で外資系PCメーカーが多いのは、ネットブックなどの影響も大きい。

 なお、ディスプレイサイズ別にみると、外資系PCメーカーのシェアは、10型未満で33.8%、10~13型未満で44.1%、13~15型未満で47.7%、15~17型未満で10.4%、17型以上で48.4%となっている。市場の6割を占める15~17型未満でのシェアが低いのがわかる。

 ちなみに、スタンダードモバイルでは、 日本エイサーがAcerブランド製品だけで5割強、Acerグループとして捉えると約6割。CULVで強みを発揮するASUSが3割弱のシェアとなっている。また、ネットブックでは、日本エイサーがAcerブランド全体で4割弱、ASUSが3割強となっている。

●グローバル企業のボリューム感、スピードを活かす

 このように、実際に数字を並べてみると、特定の領域では、外資系PCメーカーの存在感が高まっているのがわかる。

 そして、今後も外資系PCメーカーの存在感が高まっていく可能性が高いと考えている。それにはいくつかの理由があるからだ。

 1つには、外資系PCメーカーならではのスピード感、ボリューム感を生かした製品が、日本市場にも投入されると見込まれる点だ。

 日本国内でトップシェアを持つNECの年間出荷台数は2009年度見通しで250万台。だが、Hewlett-PackardやDell、Acerは、全世界でその10倍規模の出荷台数を誇っている。このボリュームを背景にしたコスト競争力は大きな特徴であり、さらに、主要部品メーカーとの情報の入り方に関しても、その差が出るであろうことは容易に想像できる。それは、製品化のスピードにもつながることになる。

 例えば、市場を席巻したネットブックは、台湾勢が一気にシェアを拡大し、市場形成をリードした。日本のメーカーがこれをキャッチアップするまでには数カ月を要し、国内PCメーカーがシェアを逆転したのは2009年9月のことだ。

 こうした新たな製品領域に対して、戦略的な価格で投入するという点では、外資系PCメーカーの動きは迅速だ。

 スレートPCなど、今後、登場が期待される新たな製品領域で同じようなことが起これば、国内PC市場における外資系PCメーカーの存在感がさらに高まるきっかけになる。

 ただ、今のところは、国内PC市場において、その力が十分に発揮されているとは思えない。海外で発売されているが、日本では未発売という製品も少ないないからだ。それには、日本法人の「体力」が大きく影響しているのだが、徐々に地盤を固めつつある外資系PCメーカーが、日本における製品展開に積極的に踏み出すという動きが出るかどうか、目が離せない。

●企業ブランドの国内認知も進む

 2つ目は、従来に比べて外資系PCメーカーのブランド認知が進んでいることだ。

 アップルなどの一部メーカーを除くと、外資系PCメーカーのブランド認知度は低かった。

 しかし、ネットブックの普及に伴い、ASUSやAcerなどのブランドが量販店の店頭でも存在感を発揮し、それが地方の量販店でも同様に広がっている。これまで外資系PCメーカーにとって不得手となっていた販路拡大も、着実に進展していることがわかる。

 2009年秋に、佐賀県で行なわれたシニアを対象にしたイベントを取材したことがあったが、PC購入を検討しているあるシニアが、マイクロソフト幹部に対して、「日本のPCメーカーのものがいいのか、海外のPCメーカーのものがいいのか教えてほしい」という質問が出ていたのを思い出す。地方に住むシニアも、PC購入の際には、外資系PCメーカーの製品を選択肢の1つに捉えていることの証左だといえよう。

 日本エイサーによると、「日本国民の2.3人に1人が、エイサーの名前を認知している」という。

 こうしたブランドの浸透度は、これまでにはなかったものだ。ブランドが浸透しはじめた上で、今後、製品ラインアップの強化や、マーケティング施策を展開していくわけで、過去に比べものにならないほどの効果が期待されることになる。

 だが、デルというメーカーブランドを知っていても、Inspironなどの製品ブランドについての認知度は極めて低いというように、まだまだ外資系PCメーカーの製品ブランドの浸透は、国内PCメーカーに比べると劣る。製品ブランドまで認知が高まるようになると、外資系PCメーカーのシェア拡大がさらに一歩進むことになる。

 今後1、2年では外資系PCメーカーのシェアが過半数を占めるのは難しいかもしれない。だが、国内PC市場において、外資系PCメーカーのシェアが高まる要素は十分ある。

 外資系PCメーカーのシェアが、国内PC市場の過半数に達する日はそれほど遠くはないかもしれない。