大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

いま、新生VAIOのすべてを語ろう!【後編】

〜「オリジナルモデルは『きたか!』という製品になりますよ」

 VAIO株式会社が目指しているのは「本質+α」のPCである。本質とは、PCが道具として必要とされる要素を追求することであり、「+α」とは、本質を捉えながら、VAIOとしての個性を表現する部分だという。

 現在発売しているのはソニー時代からの継続モデルであるが、すでに年度内には、VAIO株式会社ならではの新たなPCを市場に投入することを明らかにしている。果たして、新たなPCとはどんなものになるのか。モノづくりに対する基本的な考え方やBtoB市場にフォーカスする意味、VAIO株式会社の名前に込めた意味などを聞いた。

 前編はこちら

VAIO株式会社の関取高行社長(左)と赤羽良介副社長(右)

なぜVAIOはBtoBにフォーカスするのか?

――VAIO株式会社は、ソニーマーケティングと販売総代理店契約を結び、同社を通じた販路での展開となります。これは従来からの関係を継続したものだと言えますね。

関取氏:いいえ、それは大きく異なります。むしろ、ソニーマーケティングとの関係は、これまでと大きく変化していることを感じます。一言で言えば、距離が短くなったということです。以前は連結経営の関係であり、今は別会社の関係ですから、本来は遠くなったはずなのですが、実際には近くなっています。

 距離が縮まるということは、スピードが速くなるということです。実感しているのは、お互いのレスポンスがとにかく速いことです。何かを決めるときには、私が直接出向いていって、その場で決めてしまうということも増えました。以前はいくつかの階層を経て、ソニーマーケティングと話し合いをするということが多く、どうしても時間がかかっていました。さらに、時間がかかるだけでなく、情報の質も減衰するということも起こっていました。

 今は現場同士が直接会話をして、すぐに決めてしまうこともあります。それによって新たなビジネスを獲得できたということが、すでに発生しています。距離が短くなったからこそできる成果をもっと起こしていきたいですね。

――VAIOはBtoB事業にフォーカスをすると宣言しました。なぜ、VAIOはBtoB事業に力を注ぐのでしょうか。

赤羽氏:PCの本質である生産性、創造性という点では、BtoBの領域でこそ、威力を発揮します。いまも、これからも創造的なビジネスを行なう上では、PCが不可欠であるというのは多くの人に共通した認識だと言えるでしょう。つまり、PCの本質を追求する上では、BtoBへの提案が適していると考えたわけです。

関取氏:ただ、BtoBといった場合に、富士通や東芝、レノボ、デルといったようなメーカーが展開しているエンタープライズ領域を攻めようとは思っていませんし、VAIOにはそんな体力もありません。狙うのは、VAIOとしての特徴を打ち出したBtoBの提案です。その点では、Let'snoteのように、ある特定領域において、PCの本質を追求するといった取り組みは、私自身も敬意を持って捉えています。

 一方で、SOHOや大学教授のように、一定の予算の中から自らが選択して、BtoBのためのPCを選択し、購入するという人たち。あるいはBYODのように自らの仕事に利用するためのPCを選択しなくてはならないといったユーザー層も、VAIOが狙う領域となります。個人で購入しても、仕事にも利用するので、ある程度高性能なPCが欲しいという場合、仕事に持ち歩くのであれば、格好いい方がいい、というようなニーズに、VAIOを購入してもらいたいですね。

 VAIOでは、まず「VAIO Pro 11/13」および「VAIO Fit 15E」を出荷しています。BtoB向けには安価なVAIO Fit 15Eが売れており、そのために用意した商品ではないかとか、もっと安いモデルを作った方がいいのではないか、といったことを言われます。これは全くの誤解で、やはり企業向けにもVAIO Pro 11/13の方が売れています。いわばVAIOらしい特徴を持った商品の方が、BtoBには売れているのです。

 ソニーマーケティングからも、「BtoBには対しては、安いVAIOは売れない。VAIOらしいVAIOを作ってくれたら売る自信がある」という言葉をもらっています。私は、BtoB領域において、マーケティング上では、「VAIOフリーク」といった定義を新たに行なっていく必要があるかな、と思っているんです。これから、「BtoBでVAIOを使う人たちのイメージとはこういうものだ」といった姿を提示していきたいですね。

――ソニー時代にも何度かもBtoBには挑戦してきましたが、決して成功しているとは言えません。VAIO株式会社になったからといって成功するのでしょうか。

関取氏:かつては、その市場をしっかりと見ていませんでしたから、そのマーケットにぴったりの商品や戦略、サービスを含めた戦術が作られていなかった。それでもソニーマーケティングの法人営業部門は徐々に売り上げを伸ばしています。決して、VAIOが攻略できない市場ではない。製品や戦略が揃え、スピード感と実現力を失わずに対応できれば、勝算はあると考えています。

長野県安曇野市のVAIO株式会社本社
VAIO株式会社本社にはVAIOのロゴも掲示されている
VAIOの東京オフィスが入居するビル

調達コストの上昇はどう影響するのか?

VAIO株式会社の赤羽良介副社長

――CPUやOSの調達はボリュームによって価格が大きく変動します。これまで年間500万台以上を生産してきたVAIOが、2015年には35万台規模の生産にまで縮小します。これは調達コストの上昇に直結するのではないでしょうか。

赤羽氏:VAIOは、これまでにも、業界のパートナーと一緒になって、新たな技術を開発してきた経緯があり、それによって、革新的なPCを出してきたという実績があります。この点は、Intelにも、Microsoftにも評価していただいています。関係はこれまでとは変わりません。

 もちろん、調達コストはボリューム依存のところがありますから、そこは課題とは言えます。しかし、これまで以上に、仕事を活用してもらうお客様に対して、深く突き刺さる商品を開発し、そのために必要な機能や性能についてはコストをかけ、一方で不要なところには標準部品を使用していくといったメリハリをつけていくことに取り組んでいきます。標準部品の部分については、ODMを活用することで、調達コストの面でもうまくコントロールしたいと思っています。

 全体のコスト上昇を抑えていくことは、継続的に取り組んでいく課題ですが、問題はお金をかけたところを、付加価値としてしっかりと感じていただくものを作らなくてはならないという点です。コスト以上の付加価値を提案できれば、認めていただけると考えています。

――8月7日に価格改訂を行ないました。店頭展示開始の前日というタイミングでの価格改定には驚きましたが。なにか調達面や生産面での変化があったのですか。

関取氏:VAIO株式会社としては、特に何かをしたというわけではありません。ソニーマーケティングの判断として、価格を改定したわけです。事前の受注数量は“そこそこ”といったところです。商品を見られる場所があるわけでもありませんし、VAIOというブランドに対してリスペクトしていただいている人が、我々を信頼して、予約をしていただいた。ご予約をいただいた購入者の方々には本当に感謝しています。

次期製品はどうなるのか?

――現在、販売している製品はソニー時代からの継続モデルですが、これに続く、VAIO株式会社としてのオリジナルモデルを年度内に投入することを公表していますね。これは、すでにソニー時代に開発していたものをベースにするのですか。

赤羽氏:ソニー時代に開発していた次期モデルの要素がゼロというわけではありません。仕込みの部分でいいものは取り込んでいくことになります。しかし、基本的には、新会社になってから開発をスタートしたものだと考えてください。ソニー時代に計画した商品企画の延長線上にあるものではなく、一度リセットした形で開発した商品を投入するという表現が正しい言い方でしょう。

――それはどんなものになるのですか。

赤羽氏:非凡な製品であり、突出したものを持った製品になります。

関取氏:いや、非凡じゃ、弱いんじゃないかな(笑)。「きたか!」という感じの製品になりますよ。お客様が驚くぐらいのものを出したいですね。

――「きたか!」と言わせる商品は、年度内発売予定の商品でいけますか?

赤羽氏:次の商品で絶対にいけますよ。自信を持った商品を投入します。

――あまり尖ったものを出すと、ODMの生産技術が追いつかないということにも繋がりませんか。ソニー時代にもそんなことがあったと記憶しています。

赤羽氏:ODMで生産できないようなものは、やはり安曇野で生産することになります。もちろん、時間をかければODMでも生産はできるようになるかもしれない。我々の技術者がしっかりとODMの中に入って、量産できるような仕組みを構築していくこともできます。しかし、それができるまで2年も待てないわけです(笑)。タイム・トゥ・マーケットを優先するには、安曇野の生産技術を活用していくしかないですね。次期商品は複数機種になる可能性がありますが、その中で、安曇野で生産するといったものが存在することになります。

――幅広いラインアップになるのですか。

関取氏:そこまでのラインアップはできませんね。また、今のVAIO Pro 11/13と競合するような商品は出さないことは明らかです。それぞれに個性が異なる商品が登場することになります。

――ソニー時代には、Pro、Fitのほか、DuoやTopといった4つのカテゴリに分けたモデル名を使っていました。これは継続するのですか。

赤羽氏:「VAIO Pro 11/13」および「VAIO Fit 15E」は継続モデルなので、そのカテゴリ分けとモデル名を使いましたが、この先については、これから検討していくことになります。

関取氏:ポートフォリオを作ると、どうしても面展開することばかりを優先してしまいます。いま、VAIOがやろうとしているのは面展開することではなく、尖った商品を出すということなんです。そうした観点から検討をしていきます。

ソニー時代には4つのカテゴリに分けて、4つのモデル名を使用していたが、VAIOではこれを再検討する
VAIOが発売した継続モデルの「VAIO Pro 11/13」および「VAIO Fit 15E」
8月8日から店頭展示が開始された(写真はヨドバシカメラマルチメディアAkiba)

VAIO株式会社に込めた意味とは?

――タブレットは投入するのですか。

関取氏:それは、否定はしません。社名はVAIO株式会社としたわけで、VAIOコンピュータ株式会社ではありません。つまり、コンピュータ以外のものも作るという姿勢を示しているわけです。VAIOというブランドを付けておかしくないものはやっていきたいということなんです。

赤羽氏:タブレットやスマートフォンがあるかもしれないし、ロボットや白物家電、自動車関連商品といったものがあるかもしれませんね。もちろん可能性だけの話であって、やるかどうかは別ですが(笑)。

関取氏:いきなりそんなこと目指したら経営にはならないですしね(笑)。最初は、とにかく「集中」して土台を作ること。第2ステップはある特定の顧客をがっちり掴むことに力を注ぐ。会社の安定度が増したところで、次の成長戦略に踏み出すことになります。その時には海外ビジネスへの進出ということもあるでしょうし、タブレットのようなものがあるかもしれません。

 VAIOというブランドが通用するのはデジタル領域です。この市場を代表するブランドになるというところにまで挑戦していきたいですね。それが何年かかるか分かりませんが。ちなみに、VAIO株式会社という名称は、ソニーの平井さん(平井一夫社長)から「付けていいよ」と言われたので、ベタな名前でしたが(笑)、そのまま社名にしました。

――VAIOの事業がスタートした1997年には、VAIOの頭文字を「Visual Audio Integrated Operation」の意味から、名前を付けたとしていました。また、2008年にはこれを「Visual Audio Intelligence Organizer」へと読み替えました。今回のVAIOにはどんな意味を持たせますか。

関取氏:それはやりません。頭文字に意味を持たせて、それぞれの意味に分解すると、その言葉に引っ張られてしまい、それしかできないことになってしまいます。言葉遊びをするのではなく、VAIOはブランドとして定着していますし、そこで、VAIOとはなにかということを追求していきたいと考えています。

VAIOはまだスタートを切っていない

VAIO株式会社の関取高行社長

――VAIO株式会社としての最初のゴールはなんでしょうか。

関取氏:ゴールはずいぶん先にあると捉えています。私は、お客様から「VAIOが残っていて良かった」と言われて、初めてスタートが切れたといえるのではないかと考えています。例えば、人によっては次の新製品が出て、「なるほど、これこそVAIOだ」と言ってもらえるかもしれない。また、今回発売したVAIOの継続モデルを手に取っていただいて、品質などを含めて「良かった」といってもらえるかもしれない。この時点がスタートを切ったタイミングになると言えます。

 スタートラインには立ったものの、まだスタートは切れてないのが今の状況です。もちろん、経営として、数字の目標はありますが、それとは別に、我々は何をやるのかという「筋」をしっかりと見極めていくことが大切なのです。安いPCを作って、いち早くこれを市場投入して、シェアを取るというビジネスはやりません。これでは長続きしないからです。VAIOが長続きするためには、お客様に認めていただける1つ1つの積み重ねが大事だと思っています。「スマートフォンでいいよ」、「タブレットでいいよ」と言われないような提案を、PCで行なっていかなくてはならないと思っています。

赤羽氏:私の立場から言えば、VAIO独自の最初の商品を見て、「待ってました!」と言われることですね。今のPCでは満足していないというユーザー、もっとチャレンジしたいと思っている人たちに、「きた!」と言われたい。そこに力を注ぎたいですね。

関取氏:赤羽が言うように、「これがVAIOだね」という商品を出すことは、我々がやらなくてはならない当然のことです。その上で、ある特定のゾーンのお客様に突き刺さって、その市場をVAIOがごっそりと持っていけるようなことをやりたい。これをやるには、商品だけでなく、マーケティング能力や、サポート力による顧客満足度などを含めた総合力を事業をやっていく必要があると考えています。「モノ」づくりだけだと、結局はコスト力の勝負になってしまいます。使う人たちが、「もっとこんなことをやりたい」というように意欲を掻き立てて、人々を刺激するようなものを投入していきたいですね。

――最後にPC Watchの読者にメッセージをお願いします。

関取氏:PC Watchの読者に、「うん、なるほど」と思ってもらえることやらないといけないですね。それぐらいにターゲットに絞り込んで取り組みたいと考えています。全社員が一致団結して、モノづくりと、コトづくりに取り組んでいますので、ぜひ期待をしていてください。

(大河原 克行)