大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

Windows XPからの移行は遅れ気味?

〜調査データや各社の取り組みから移行状況を追ってみる

 Windows XPのサポート終了期限まで、あと8カ月となった。

 4月9日には、日本マイクロソフトが、記者会見を行ない、サポート終了を呼びかけ、それ以降、業界内ではWindows XPからの移行施策が相次いでいる。Windows XPのサポートが終了することや、それによってどんなリスクが発生するのかといったことは徐々に認知が広がっているが、移行作業を開始した企業の比率はまだまだ不十分だという指摘もある。現時点でWindows XPからの移行はどうなっているのだろうか。

 調査データや各社の取り組みから現状を追ってみた。

日本マイクロソフトは6ポイント改善と発表

 日本マイクロソフトは、2013年4月9日に、都内で記者会見を行ない、Windows XPのサポートが、2014年4月9日に終了することを改めて強調した。

 「これまでにも、Windows XPのサポート期間が終了することについては、折りに触れて言及してきたが、期限まであと1年となり、改めて、最新のOS環境へ移行する必要性を訴求しなくてはならないと考えた。従来のOSでは、新たな脅威に対応できないなどといったことから、新たなOS環境への移行をお願いしたい」と、日本マイクロソフトの樋口泰行社長は会見で述べ、「360社のパートナー企業とともに、最新のOS環境へと移行支援を行なっていく」というように、業界をあげてこれに取り組んでいく姿勢を見せた。

 その時点での調査では、企業向けPCの3,517万台のうち、40.3%にあたる1,419万台がWindows XP搭載PC。個人向けでは4,245万台のうち、27.7%にあたる1,170万台がWindows XP搭載PCという数字が発表された。

 7月2日に開催した同社の事業方針説明においても、樋口社長は、Windows XPのサポート終了について言及。「この3カ月間の各種マーケティング活動を通じて、サポート終了に関する認知度が20ポイント向上して64%となった。また、Windows XPからの移行を予定する企業、検討を開始したユーザーが20ポイント増加して77%となった。さらに国内でのWindows XPの利用者は6%減少し、34%となった。パートナー企業への移行相談が3倍に増加しており、告知活動による効果が出ている」(日本マイクロソフト・樋口泰行社長)としたが、「中堅・中小企業に対しては、これからさらに告知を徹底する必要がある。また、その先には、コンシューマユーザーに対しても告知を徹底していく必要がある」とした。

日本マイクロソフトが4月9日に発表した国内におけるWindows XPの利用状況
7月2日の会見では移行が進展していることを強調した
システムインテグレータ会社からWindows XP移行サービスが提供されている

中堅・中小企業の現場では課題が山積?

 中堅・中小企業に対する告知が不十分なのは業界各社に共通した認識だ。

 大手企業の場合には直販営業部門が直接アプローチしていること、社内に情報システム部門などの専門組織を持っていることで、すでに対策が計画されたスケジュールに則って推進されているケースが多いといえよう。

 しかし、中堅・中小企業では、ITの専門知識を持った社員が社内にいないこと、量販店などで購入してきたPCを使用しており、システムインテグレータなどが直接関与せず、サポート終了の事実を知らなかったり、知っていても対策の手段が分からない、という例が多い。

 ここにきて、中堅・中小企業を主要ユーザーとするシステムインテグレータが相次いで、Windows XPの移行施策を発表しているのもそのためだ。

 移行施策の体系化が早かった大塚商会やリコージャパン、富士ソフトなどのほか、ここにきて東芝情報機器や富士通マーケティングなどのメーカー系列の主要システムインテグレータが、Windows XPからの移行サービスをメニュー化。全国の2次ディーラーにも、これらのメニューをOEM展開するといった動きも始まっている。

 移行サービスメニューの中には、OSだけの移行、PCの買い換え移行などのほか、操作方法やシステム管理に関する教育メニューまで用意している。

 だが、あるシステムインテグレータでは次のように語る。

 「本来ならば、新たな環境への移行にあわせて、新OSの機能を活用したこれまでにはない利用提案によって、効率化やコスト削減、新たなビジネススタイルへの変革を提案するのが望ましい。その方がIT投資を有効に活用できるといえる。しかし、この時点になってくると、とりあえずは、リスク回避のために、単にOSだけを移行しようということになってしまう。中には、予算措置の関係上、来年(2014年)4月以降にまで持ち越してしまう場合もありそうだ」。

 また、別のシステムイングレータは次のように指摘する。

 「社内のIT資産管理が徹底されておらず、どのPCが、もともとのWindows XP搭載PCなのか、Vistaからのダウングレードなのか、Windows 7からのダウングレードなのかといったことが分からないという企業もある。資産管理の段階からスタートしなくてはならないケースも見られる」。

 単にOSを移行するだけでも時間がかかるのに加えて、それ以前に、まずは現在のPCの状況がどうなっているのかを調査することに時間をかけなくてはならないという企業も少なくないようだ。

 残された時間が少ない中で、XPのサポート終了に向けた認知向上施策もまだ十分とはいえない。それに加えて、今後の移行作業スケジュールの策定、資産管理の徹底、移行作業の実行、移行後の教育といったように、やらなくてはならないことは山積だ。

 「もはや間に合わない」という声も、システムインテグレータの間からは漏れる。

2014年4月以降も6割の企業でXPが残ることに?

まだ数多くのWindows XP搭載PCが残る

 では、どの程度のWindows XPが市場に残っているのだろうか。

 クロス・マーケティングが発表した調査結果から、移行の進展度合いはかなり遅れていることが浮き彫りになる。

 同社が今年7月に900人の企業ユーザーを対象にした調査によると、Windows XPのサポートが終了することを知らなかったと回答した企業は、わずか5.8%となり、認知がかなり進んでいることが分かったが、その一方で、Windows XPからの移行に関して「未着手」とする企業は29.3%、一部残っているとした企業が35.7%となり、あわせて65%の企業が「未完了」という実態が明らかになった。

 特に、従業員500人以上の企業では未着手が20%であるのに対して、100〜499人が34.4%、10〜99人が33.5%、1〜9人が34.4%と3分の1以上で未着手となっていることが分かった。中小企業での移行が遅れているのが分かるだろう。

 また、移行に向けた作業が遅れていることもすでに表面化している。

 9月末までのWindows XPからの移行を完了させるとした企業は4.3%、12月までに完了させるとした企業は12.8%、2014年4月までに完了させる予定の企業は22.1%と、合計で40.2%。つまり半分以下の企業しか、Windows XPからの移行が完了しないということになる。

 また、2014年4月までに大部分は移行できるが、一部にWindows XPが残る企業は16.8%、どれぐらい移行が完了するか分からないとする企業が13.0%となったほか、移行をどうするか未定あるいは検討中が25.0%、Windows XPからの移行はしないとする企業が6.2%にも達した。合計すると、実に6割の企業が、2014年4月までに移行が完了しないというわけだ。

 移行しない理由として多いのが、「Windows XPから移行する必要がないため」で、複数回答で34.9%を占めた。また、「Windows XPのサポートが終了しても、そのまま問題なく利用できるから」と回答した人が32.9%を占めた。また、「Windows XPでないと利用できないシステムがあるので」という回答も28.1%に達しているという。

 費用面での問題とともに、サポート終了後も利用することに問題がないはずという思い込みが移行しない理由につながっているといえよう。

 また、Windows XPからの移行理由としては、「ウイルス感染を防ぐため」が43.5%、個人情報などの情報漏洩を防ぐため」が26.6%になっている。

 Windows XPの移行方法としては、65%の企業がPC本体の買い換えによって移行すると計画。さらにPCの買い換えとOSのダウングレード権との組み合わせなどでの移行計画を策定している企業を含めると、83.4%の企業がPCの買い換えを前提として移行を考えているという。

増産を開始したPCメーカーも

 Windows XP搭載PCからの買い換え需要は、少しずつ顕在化しているようだ。

 富士通のノートPCの生産を行なう島根富士通では、6月中旬以降、前年比2割増の生産体制を確立。デスクトップPCの生産を行なう富士通アイソテックでも、計画値に対して2割増で推移しており、土曜日も生産を行なうなど同様に増産体制で対応しているという。
 ジーエフケーマーケティングサービスジャパンが発表した2013年上期(2013年1月〜6月)のビジネス市場におけるPC販売動向は、前年同期比13%増と2桁成長を記録。6月単月では前年同月比25%増と驚くべき伸びをみせた。同社では、「市場を押し上げているのは2014年4月に迫ったWindows XPのサポート期間終了により拍車のかかるリプレース需要。サポート期限後もWindows XPを使い続けることは、セキュリティ面でのリスクを高めることになるため、リプレース需要を喚起している」と分析している。

 だが、Windows XPのサポート終了に向けた動きは遅れ気味だといわざるを得ないのは事実。業界各社が、さらに活動を強化していく必要があるだろう。

ユニークな広告展開で移行促進する日本HP

 こうした中で、ユニークな展開の1つといえるのが、日本ヒューレット・パッカードが展開している広告キャンペーンだろう。

 同社では、2013年2月25日から、日本経済新聞で、ほぼ毎週のサイクルでWindows XPからの移行を促す新聞広告を掲載している。

 これは、同社の主要ディストリビュータである大塚商会、シネックスインフォテック、ソフトバンク、ダイワボウ情報システムの4社との共同広告という形で展開しているもので、まさに中堅・中小企業のWindows XPユーザーに対して、移行促進を訴求するものとなっている。

 2013年2月25日の最初の広告では、「あなたの会社、2014年問題は大丈夫ですか? 」とし、Windows XPのサポート終了を「2014年問題」と呼び、リスクが発生することを訴求。3月5日の広告では、「2014年問題は、今すぐ対策を始めなければ。」と行動を促し、3月12日には、「今すぐ対策を始めれば、2014年問題のリスクは、メリットに。」と対策を行なうことが、企業にとってメリットにつながることを訴求した。

 だが、それ以降のトーンはやや厳しいものになる。

 3月18日には一転して、「セキュリティ崩壊。その前に2014年問題対策を。」と、Windows XPを使い続けることによる問題を指摘。4月9日の広告では、「まだXP? すぐHP!」とし、Windows XPを使い続けていることは遅れている、といわんばかりのメッセージとした。

 さらに、5月以降は、「社長!」、「専務!」、「部長!」というように役職名で2014年問題の影響について呼びかけたほか、6月24日からは、「小林部長!」、「山口部長!」、「鈴木部長!」、「福井部長!」と固有名詞で呼びかける広告を展開。「小林部長! パソコンが新しくなったせいか、最近仕事が楽しいんです!」、「専務がPCを入れ替えを決めてくれたから、みんなとってもやる気なんです!」といったように、Windows XPから新たな環境に移行したことで、現場の女性社員が喜んでいる様子を示してみせた。

 ここで呼びかける対象にした役職名には意味があった。日本ヒューレット・パッカード プリンティング・パーソナルシステムズ事業統括パートナー営業統括本部・出口泰マーケティングマネージャは、「中堅・中小企業では、部長、専務、社長が、IT導入に関する意思決定を行なうケースが多い。そうした役職の人に対して呼びかけた」と説明する。

日本HPが展開している広告(一例)

 この広告の成果は大きいようだ。

 日本ヒューレット・パッカードによると、今年3月と7月の調査を比較すると、「この広告をみて、Windows XPからOSを移行した」とした回答者は5.1ポイント増加。また、「この広告をみて、Windows XPからの移行計画を立案した」という回答者も4.9ポイント増加したという。さらに、「とくになにもしなかった」という回答者が15.1ポイント減少した。これは、15.1%のユーザーがこの広告をみてなにかしたらの行動を開始したと言い換えることもできる。

 そして、昨年(2012年)10月の調査と比較すると、Windows XPからの移行時に日本ヒューレット・パッカードのPCを買いたいとする回答者は2.3ポイント増加し、実際に日本ヒューレット・パッカードのPCを選択した回答者は6.4ポイント上昇したという。
 同社では、Windows XP関連広告を積極化することで、これらに関連する広告費用は、前年比2〜3割増になっているが、同社への広告効果は予想以上のものだといえよう。

Windows XP特需は生まれるのか?

 だが、業界内の一部では、Windows XPの買い替え需要について、慎重な見方が出ているのも事実だ。

 MM総研では、2013年度の国内PC需要は前年比0.9%増の1,520万台と、微増を見込んでいる。「特需」といえる状況にはならないと考えているのだ。

 この背景には、企業向けにはWindows 7を中心としたPCへの買い替えが見込まれるものの、個人向けにはタブレットへの移行が考えられることを想定しているからだ。企業向け市場の成長とは裏腹に、個人向け市場へのPC出荷がマイナス要因となり、結果として微増になると見込んでいるのだ。

 しかし、その一方で、「Windows XPの稼働率は依然高く、また、現時点で対策未着手という回答や対策完了時期をサポート終了直前の2014年1〜3月に予定しているという回答も多い。このため年後半から2014年4月のWindows XPのサポート終了直前まではリプレース需要が底堅いと予測される。加えて、2014年4月は消費増税が実施される可能性もあり、直前期にはさらなる駆け込み需要が見込まれる」(ジーエフケーマーケティングサービスジャパン)と、PC需要の拡大を予想する声も強い。

 ただここでも、年度末に向けた駆け込み需要に対して、業界側の体制がWindows XPからの移行作業の対応に間に合わず、2014年4月以降にもつれ込むという事態や、増産に向けた部品調達の遅れなどを懸念する声もある。

PC販売台数の増減(出典:ジーエフケーマーケティングサービスジャパン)
従業員数規模別のWindows XP搭載PC使用率(出典:ジーエフケーマーケティングサービスジャパン)

次にやってくるWindows Server 2003の波

 そして、もう1つ業界側が懸念しているのが、Windows XPのサポート終了後に訪れるWindows Server 2003のサポート終了だ。

 Windows Server 2003は、日本時間の2010年7月14日に標準サポートが終了。現在、延長サポート期間に入っているが、これが日本時間の2015年7月15日で終了する。
 Windows Serverは市場全体の50%弱を占めるとされており、Windows Server 2003の利用率は依然として高い。

 「今年、Windows XPからの移行をお願いしていたのに、来年になったら今度はWindows Server 2003の移行のお願いをすることになる。こんなことをやっていたらユーザーに怒鳴りつけられる」と、あるシステムインクデレータは、冗談交じりに事態の深刻さを示す。

 「今回のWindows XPからの移行とともに、Windows Server 2003の移行や、仮想化への移行なども提案していくのが本来の姿。しかし、そこまで間に合わないというのが正直なところ」と、別のシステムインテグレータは漏らす。

 Windows XPからの移行は全体的に遅れが見られている。それならば、そこを逆手にとって、サーバー環境も含めた移行施策を検討してみるというのも、企業側の選択肢の1つと言えるのかもれない。

(大河原 克行)