大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

マウスコンピューターが法人向け市場に参入した理由
〜小松永門社長インタビュー



マウスコンピューター 小松社長と「MousePro」製品

 マウスコンピューターが2011年2月から、法人向けPCブランド「MousePro」をスタートさせた。12.5LのスリムタワーPC「MousePro-iS」、高い拡張性を実現するコンパクトミニタワーPC「MousePro-i」、そして、14型液晶ディスプレイを搭載したノートPCの「MousePro-NR」シリーズを用意し、同社インターネットサイト、法人直販部門および同社ダイレクトショップ、ディストリビュータ経由で販売する。シンプルなデザインと、拡張性、コストパフォーマンスを追求し、中小企業を中心に展開していく法人向け専用モデルと位置づける。

 「新たなブランドにより、法人向けPCビジネスを倍増させ、2014年度までには売上げ構成比の3分の1にまで引き上げたい」とするマウスコンピューターの小松永門社長と、同社法人営業統括部マーケティンググループ主任の金子覚氏にMouseProブランドについて聞いた。


−−なぜ、法人向けPCブランドとして「MousePro」を、新たに立ち上げたのですか。

小松 マウスコンピューターの中長期の成長を考えた場合、重要な柱の1つとして、法人向けビジネス事業は避けては通れないと判断しました。市場全体では法人市場の構成比は全体の50〜52%を占めていますが、当社の法人向けビジネスの構成比は20%弱。言い方を変えると、まだ成長の余地があるともいえる。特に当社が得意とするデスクトップPC領域では、中小企業におけるニーズが高いほか、ハイパフォーマンスデスクトップを求める法人ユーザーも少なくない。そこにマウスコンピューターならではの特徴を発揮できるのではないかと考えました。その市場に対して、きちっとした姿勢を持って取り組んでいくことを示したのが、法人向けPCの新ブランドである「MousePro」です。法人需要を満たす製品ラインアップを構築し、Webや広告媒体を通じたプッシュ型のビジネスモデルで展開するという点では、これまでの製品ラインとは全く異なりますから、MouseProブランドという新たなブランドのもとで展開することにしました。

−−いつ頃から法人向けPCブランドの立ち上げを検討していたのですか。

小松 2009年からディスカッションを続けてきましたが、2010年10月に、法人向けブランドを立ち上げることを決定し、2010年11月には、企業向け直販を担当していた従来のコーポレート営業部と、ビジネスパートナー向けの販売部門を再編。マーケティング機能を新たな加えた法人営業統括部を設置し、法人向けの新たな製品企画も同時に開始しました。

 これまで当社は年間約1万社への企業導入実績がありますが、従来の法人向けビジネスでは、どちらかというと特定ニーズに対応するものが中心となっていました。一括商談の中で、特定の仕様や特定の用途に向けたPCを製品化し、それを納入する。中にはセットトップボックスといった形での納入もありました。これらはいずれも当社ならではのBTO体制や、国内生産によって小回りが利く体制を生かしたものでした。

 しかし、新たなブランドでは、中小企業などを対象に、もっと幅広く事業展開を進めて行きたいと考えています。そのためには特定分野向けの商談以外にも展開できる体制作りが必要です。製品企画、調達、生産、販売といった点で、すべてにおいて体制を強化する必要がある。昨年(2010年)11月の組織再編は、そうしたことを踏まえた取り組みだといえます。

−−ブランド名の「MousePro」は、社名でもある「Mouse」を冠しましたね。また、「Pro」という言葉にはどんな意味を込めたのでしょうか。

小松 20個以上のブランド候補の中から「MousePro」に決定しました。法人市場向けの当社フラッグシップ製品であること、そして、この製品がマウスコンピューターが投入したものであるということを、市場に広く認知していただくために、社名の一部をブランド名に用いました。まだまだマウスコンピューターの認知度は低い。この製品をきっかけにマウスコンピューターが投入するPCの良さをぜひ知っていただきたい。筐体には、MouseProのブランドを入れずに、「Mouse Computer」の社名を入れています。いまはゲーミングPCの「G-Tune」以外は、同じくMouse Computerのロゴを入れる形としています。まずは、多くのユーザーにマウスコンピューターそのものを知っていただきたいからです。企業向けPCも、そこから始めたいと考えています。

マウスコンピューター 金子氏

金子 MouseProは、ビジネスのプロフェッショナルである法人向けの製品と、サービスを積極的に利用してもらいたい。そこで、Proという言葉には、「Professional」と「Proactive」の意味を込めています。

−−マウスコンピューターが投入する法人向けPCの強みはどこにあると考えていますか。

小松 1つは品質です。マザーボード、メモリ、HDDといった部品単位での品質にまでこだわっており、これらを全て品質モニタリングの対象としています。不具合が発生したときには、他のソースからの調達に切り替えることができる体制を確立しているほか、不具合を解決するためにBIOSを変更するといったことにも取り組んでいますし、サプライヤーと一体となった品質向上活動の成果には自信があります。

 また、生産品質の向上では、すべての法人向けPCを、長野県飯山市の当社工場において生産するとともに、当社独自の徹底した検査を行ない、飯山工場では、部品の受け入れ時検査、組立ラインでの検査、エージング検査、全ファンクションの動作試験、そして抜き取りによる品質検査を実施しています。

 実は、法人向けモデルについては、新ブランドのスタートにあわせて専用ラインを立ち上げました。そこで品質レベルを一歩引き上げる工夫を行なっています。検査項目数を増やしたり、エージングの時間を長くしたりというように、MouseProブランドのPCならではの品質向上に取り組んでいるのがその一例です。私は、「もし品質向上につながりそうなものがあれば、MouseProブランドのPCの専用ラインにどんどん取り入れて欲しい」と要求しています。そこで効果があがったものは、コンシューマPC製品のラインにも展開していく。つまり、最先端の品質向上への取り組みを、MouseProブランドのPCで展開していくというわけです。

 また、専用ラインには熟練したスタッフを配置しました。その点でも品質に力を注いでいることが分かっていただけると思います。また、デスクトップPCでは5年長期保証のほか、「安心パック」による即時修理体制も用意していますから、この点でも安心して利用していただける。これも国内で生産、修理を行なう体制が整っているからこそ実現できるものです。

−−MouseProブランドのPCの特徴として、最も重視した点はどこですか。

小松 最も重視したのは拡張性です。特に中小企業は、限られたオフィススペースの中にPCを設置するわけですから、筐体はなるべくコンパクトな方がいい。しかし、スリムタワーにおいても、マイクロタワーにおいても、拡張性は犠牲にしたくなかった。実は、スリムタワーでは、もう少し小さい筐体のものも検討していました。いま明かすと、私は小さい方を押していたんです(笑)。しかし、現場からは筐体を小さくすることで、拡張性を損なうことに対する懸念の声があがり、結果的に私の声が押し切られて、拡張性を優先しました。

金子 マウスコンピューターの法人向けPCの特徴をどこに出せるかということを考えた場合、拡張性をしっかりと確保することは譲れない要件でした。しかも、新たに法人向けPCブランドを立ち上げるわけですから、その特徴を明確にしたかった。デスクトップでも無線LANカードを搭載したいという要望や、高性能のグラフィックスカードを搭載したいという要望も増えていますから、そうしたニーズにも対応していくにはやはり拡張性は欠かせない要素でした。今回は、かなり社長の意見と食い違うことも多かったですよ(笑)。

小松 そのほとんどを押し切られた感じです(笑)。私が唯一押し切れたのは、2月のブランド立ち上げと出荷日だけは守ってほしいということでした。これは2月、3月という決算期需要でどんな反応があるのかをどうしても見ておきたかったからです。来年度(2011年度)以降の法人向けPCの事業プランに大きく影響しますからね。ただ、2月という出荷日も、Intelのチップセットの不具合の問題もあり、なかなか大変でしたが。

金子 新ブランドとして初めて投入するPCですから、不具合のあったB2ステッピングのチップセットで出すわけにはいかない。そこでも、品質にはこだわりました。ここも、社長の小松と何度も議論を重ねた部分です。

小松 そのほかにもいくつか重視した部分があります。マウスコンピューターの特徴であるユーザーの要求仕様に応えられる柔軟なBTO体制を維持する一方で、製品のライフサイクルを長く設定すること、デザインをシンプルにして、オフィスにおいても違和感がないスタイルにした点などです。ライフサイクル1つをとっても、これまでのマウスコンピューターの製品では、最先端技術をいち早く反映するモノづくりを優先していたため、どうしても製品ライフサイクルが短くなりがちだった。導入を検討していた企業が、稟議を通して、いよいよ発注という段階になると、対象製品が終息しているということもあり、企業の導入担当者には大変ご迷惑をおかけしたこともあった。法人向けPCですから、こうした点に配慮したライフサイクルにしていきます。

−−主なターゲットはどこになりますか。

小松 中小企業が主要ターゲットとなります。ただし、ここでは2つのターゲットがあります。1つは、研究開発部門やCAD、グラフィックスを取り扱うようなハイスペックを求めるユーザー。これはMouseProの製品化において最もこだわった拡張性を生かした展開となります。もう1つは、文房具のようにPCを利用したいというユーザー。ここではコストパフォーマンスの高さが特徴になります。

−−MouseProシリーズでは、OSにWindows 7 Home Premiumを採用していますね。なぜ、Windows 7 Professionalが標準ではないのでしょうか。

金子 先ほどお話したように、主要ターゲットとなるのは、従業員数30人以下の中小企業です。これまでの当社の導入実績を見ても、Windows 7 Home Premiumのまま導入するという例がほとんどであるためです。もちろんすべての製品において、BTOのなかではWindows 7 Professionalの選択肢も用意し、Windows 7へ移行することができないユーザーのために、XP Modeを利用できる環境も提供しています。また、4月以降には、Windows 7 Professional搭載モデルを標準で追加することも検討しています。

MouseProシリーズのミニタワーPC、スリムPC

−−すでに発売から1カ月を経過していますが、売れ行きはどうですか。

金子 法人案件なので、すぐに実績に結びつくというわけではありませんので、その点ではじっくりやっていきます。とはいえ、すでにネットカフェで30台単位の導入案件が出ていますし、教育用PCとしての導入検討や、役所の出先機関に導入するPCとしての検討が開始されています。ディストリビュータやシステムインテグレータからも、法人向け専用PCがあると、ユーザーに勧めやすいという声をいただいています。

−−MouseProは、法人向けPCということでかなり販売ルートを限定していますね。

金子 新設した法人向け専用サイトのほか、法人向け直接営業部門や、全国4カ所の当社ダイレクトショップとディストリビュータ経由での販売に限定します。MouseProの全販売量のうち、3分の1がWebを通じた販売になると予想していますが、Webにしても、営業直販にしても、すべて法人格のお客様へ製品をご提供するという形になります。

小松 一方で、MouseProでは、法人向けPCならではのサービスも提供していきますから、その点でも線引きをしたかった。MouseProでは、マイアカウント登録による会員向けサービスや、見積発行システムなども提供します。これにより、過去の購入履歴をもとにした検討や、新規購入時の情報登録工数の削減、キャンペーン情報の入手といった特典を得られます。

 また、20台以上の商談については貸し出しサービスも用意しています。現時点で、実際にMouseProの製品を見ることができるのは、東京・秋葉原の当社ダイレクトショップだけに限定されますが、貸し出しサービスなどを積極的に展開することで、事前に評価してもらう体制を整えたい。

 もう1つ、購入者に対するフォローも徹底していきたいと考えています。現在も、当社製品をご購入いただいたユーザーに対して、購入1カ月後を目安にして、お礼の電話を差し上げています。ここでは、お礼の電話とともに、何か困っていることはないか、トラブルは無いかということも尋ねています。「修理に出すほどではないが、こういうところで困っている」という話は、ずいぶんあるものです。その解決を図ることで、長く当社製品を使ってもらえると思っています。この仕組みは、MouseProでも継続する考えです。

−−法人向けPCビジネスの事業プランはどう描いていますか。

小松 2014年には、法人ビジネスの事業規模を現在の2倍にすることを目指します。その時には、法人向け売上げ構成比は3分の1程度にまで引き上げることになります。工場側からは、法人向けPCの専用ラインを1ラインだけに留めずに、まだ増やせるという話をもらっています。むしろこちらが煽られている感じですよ(笑)。工場側も本気になって取り組んでいますから、それに応えられるようにビジネスを拡大していきたい。

 一方で、ここ数年、PCの楽しさをお届けできる製品が少なくなっていたのではという反省があります。2011年は、法人向けPC事業の拡大とともに、コンシューマ向けPCでも「こんなものを出してきたか」と驚いていただけるようなものを用意していますから、ぜひ楽しみにしていてください。