■大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」■
メディアタブレットのGALAPAGOS |
シャープが、メディアタブレット「GALAPAGOS(ガラパゴス)」の予約販売を2010年12月3日から開始して、3カ月が経過した。
同社では具体的な出荷台数は公表していないが、「単体売り切りの事業ではなく、ネットワークを通じた新たなサービス事業を展開するという点では、確実に成果があがっている」(シャープ ネットワークサービス事業推進本部長・千葉徹執行役員)と総括する。
一方で、シャープからの直接配送としていた販売手法についても、2011年1月から、ヨドバシカメラやビックカメラなど約50店舗で、持ち帰り可能な在庫販売を試験的に実施。今春からは、端末販売とクレジットカード登録を連動した現在の販売形態のほかに、これらを切り離した形での新たな販売モデルを開始する計画を明らかにした。
千葉執行役員のほか、ネットワークサービス事業推進本部ネットワークサービス推進センター副所長兼サービス企画室長の中村宏之氏、商品企画担当チーフの松本融氏に、この3カ月のGALAPAGOS事業への取り組みと、今後の販売展開について聞いた。
なお、インタビューは、複数社の共同で行なわれた。
--GALAPAGOSの発売から3カ月を経過しました。その間の成果をどうみていますか。
シャープ ネットワークサービス事業推進本部長・千葉徹執行役員 |
千葉 2010年12月3日からメディアタブレットの予約販売を開始し、さらにTSUTAYA GALAPAGOSのサービスを開始したのは12月10日ですから、ちょうど3カ月を経過しました。メディアタブレットの具体的な出荷数量については公表はしていません。社内でも「思ったより多い」という人もいれば、「いや思ったより少ない」という人もいる。新たな事業ですから、何と比較をすればいいのかというところもあります。もちろん、端末の出荷台数という点では、少ないのではないかという声はあるのは事実です。しかし、サービスという観点では、「かなりいっている」という感触がある。一方で、GALAPAGOSでは、何ができるのかという点で、まだまだ認知を高めていかなくてならないと思っています。
松本 もともとは30代、40代の男性をターゲットにしていたわけですが、実際には、30代、40代に加えて、50代の購入も2割程度を占めている。結果として、30~50代で全体の75%を占めています。また、1人あたりの電子書籍、雑誌の購入も、我々が想定したよりも大きなものになっている。電子書籍の平均購入額では月1,000円以上となっていますから、これは予想以上のものです。2月の3連休は雨が降ったということもあり、電子ブックストアサービスへのアクセスがかなり集中しました。これには驚きました。
千葉 定期配信サービスでは、寒い朝でもポストまで新聞を取りに行かなくてもいいですから、そのあたりの利便性も利用者に感じていただいているのではないでしょうか。また、我々の想定外の使い方をしている人たちもいます。10.8型のメディアタブレットは、2人で一緒に見るという使い方をしているケースがあったり、厚い専門書を何冊も利用している学生は、それらをメディアタブレットのなかにドキュメントとして格納し、多くの資料を持ち歩くという例もある。ビジネスドキュメントを格納して利用しているビジネスマンもいます。電子書籍を閲覧するといった用途以外にも利用が増えていますよ。
--TSUTAYA GALAPAGOSでは、現在、どれぐらいのコンテンツが用意されているのですか。
シャープ ネットワークサービス事業推進本部商品企画担当チーフの松本融氏 |
松本 正確には、23,500タイトルの電子書籍が、TSUTAYA GALAPAGOSで提供されています。中には、品質の問題から配信を取り下げたものもありますが、毎週500タイトルずつ新たなコンテンツが登録されており、これからもこのペースは続いていくことになります。
--メディアタブレットの販売に関しては、量販店店頭では購入することができずに、自宅に帰ってからメディアタブレットの申込書に記入してシャープに郵送する、あるいはシャープのサイトで申し込む方法となり、後日、シャープから端末が郵送されることになります。しかし、今年(2011年)1月からは量販店店頭での在庫販売も開始しています。これは販売方法の変更と捉えていいですか。
千葉 もともとGALAPAGOSで目指したのは、単に端末を販売するという売り切り型のビジネスではなく、サービスまでを含めて販売することです。そのためには、これまでとは違った形で、購入者の方々と緊密な関係を確立する必要があると判断しました。それが、直販型の販売形態につながっています。また、コンビニエンスストアを利用し、全国規模で販売することができるようにするためにも、この直販型の展開が必要でした。しかし、「なぜ、量販店で購入し、持ち帰ることができないのか」といったお叱りの声もいただいています。そこで、2011年1月から、一部の量販店店舗において在庫を置き、持ち帰ることができるようにしました。そのために量販店のスタッフの方々に対する教育も行ないました。現在では約50店舗で、持ち帰ることができるようになっています。ただし、これはあくまでも試験的なものと捉えてください。GALAPGOSは、販売手法も「進化」していきます。
--販売手法においては、ほかにどんな進化が計画されていますか。
千葉 例えば、GALAPGOSをギフトに用いたいという場合には、今の販売方法では難しいところがある。同じ家族にプレゼントするのならば、クレジットカードの登録は同一家族という処理ができるが、甥にプレゼントするといった途端に、クレジットカード登録のところで躓いてしまう。また、中学生や小学生が利用したいという場合に、クレジットカードを持っていませんから、これをどうしたらいいのかということも考えなくてはなりませんね。まずは、この春を目処に、端末単体の販売と、クレジットカード登録を切り離した販売モデルを開始しようと思っています。真っさらなタブレット端末を購入していただき、それをほかの人にプレゼントできる。プレゼントされた人は、自らクレジットカード登録をすれば、端末が利用できるようになるという仕組みです。このように、ユーザーの声を聞きながら、販売方法も進化をさせていく。ユーザーの声を直接聞くことができるのもGALAPAGOSの特徴の1つですから。
--登録したユーザーのどんな情報を見ているのですか。
千葉 クレジットカードで登録された個人情報ではなく、ストアの中でどんな行動をしているのかを見ています。何時頃に購入が多いのか、電子書籍ではどんな本が人気なのかといった購買動向をみながら、今どんなものが求められているのか、改善すべき点はどこか、どんな要望があるのかという点をサービスに反映していきます。
松本 GALAPAGOSにおいては、購入コンバージョンレート(サイトを訪問した回数あたりの書籍購入完了率)は約10%です。10回サイトを訪問すると、電子書籍を1冊購入していただいている計算になります。これは一般的なECサイトが5%以下であるのに比べると、極めて高い数字だといえます。
TSUTAYA GALAPAGOSのサービスはスマートフォンにも広がりをみせる |
--今回、シャープ製スマートフォン向けにTSUTAYA GALAPAGOSの電子ブックストアサービスを利用できるアプリケーションを開発しました。3カ月を経過した時点で、TSUTAYA GALAPAGOSのサービスをスマートフォンにまで拡大する理由はなんですか。
千葉 シャープ製のスマートフォンは、これまでに累計100万台の出荷実績があります。つまり、100万人のユーザーにTSUTAYA GALAPAGOSの電子ブックストアサービスを利用していただけるようになる。GALAPAGOSを認知していただくという点では、大きな広がりができます。電子ブックストアというものには興味があるが、それを見ることができないという声がありました。しかし、スマートフォンの上でそれが体験できるようになる。ゲストモードを利用すれば試し読みもできます。電子書籍の定番というものはまだ決まっていません。タブレットなのか、PCなのか、スマートフォンなのか。GALAPAGOSは、その選択肢を広げていくことになります。
松本 メディアタブレットの購入層は男性ビジネスマンが中心でしたが、スマートフォンで利用できるようになれば、女性にも、もっと手軽にGALAPAGOSの世界を体験してもらえると思っています。
--その中で、メディアタブレットの特徴をどう発揮しますか。
シャープ ネットワークサービス事業推進本部ネットワークサービス推進センター副所長兼サービス企画室長・中村宏之氏 |
中村 やはり専用端末という点での操作性の高さは、メディアタブレットの大きな特徴だといえます。PCやスマートフォンでは、アプリケーションの操作が煩雑だったり、閲覧する書籍によって別のアプリケーションを立ち上げなくてはならないという状況にある。しかし、GALAPAGOSでは、そのあたりの操作性が解決されている。新聞、雑誌、書籍をワンストップで、簡単な操作で購入でき、自動定期配信によって購読することもできる。また、サイズも日本人が利用するのに最適なものに仕上がっている。5.5型のメディアタブレットは、電車の中で片手で吊革に掴まりながら読むというシーンには最適の端末です。そうした点を含めて、汎用端末に比べて、一歩進んでいると自負しています。
--今後、GALAPAGOSはどんな進化を遂げるのですか。
千葉 メディアタブレットの販売数量を増やすことが最優先テーマではありません。優先したいのは、サービスの利用者数を増やすことです。今回、シャープ製スマートフォン6機種への対応を新たに図ったことで、メディアタブレットと、ドコモから発売しているブックリーダーを含めて、10機種での対応が可能になりました。今後もマルチデバイス展開、マルチサービス展開を推進し、GALAPAGOSの利用者を増やしていきたい。先日発表したイオンなどとの提携も、サービス拡充に向けた取り組みの1つです。今後は、AQUOSとの連携も視野に入れ、液晶TVで利用する際に最適なサービスも取り揃えていきたい。マルチデバイス化、マルチサービス化によって、多くの人に使ってもらうことを事業課題の最優先に置きます。
イオンとの提携では、「タブレットを使った買い物」を展開 |
松本 家電メーカーらしい新たな生活習慣を提案するのがGALAPAGOSの特徴であり、人がネットに合わせるのではなく、ネットが人に合わせてくれるプッシュ型を特徴としたサービスを提供したい。電子ブックを皮切りに、映像、ショッピング、教育、ヘルスケアなどの生活に深く関わる各種サービスを拡充していきます。生活に欠かせないライサービスの実現に向けて進化させていく考えです。