■大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」■
HP Pavilion Notebook PC dv2 |
日本ヒューレット・パッカード(日本HP)が、4月23日に12.1型ノートPC「HP Pavilion Notebook PC dv2」(以下、dv2)を発売した。まずは同社直販のダイレクトプラスを通じた販売に限定しているが、5月中旬には、ビックカメラ、ソフマップ、ヨドバシカメラなど、他モデル同様主要量販店での販売も期待される。
dv2は、AMDの低価格/薄型ノート向けプラットフォーム「Yukon」を採用した国内初のノートPC。そして、ネットブックでもなく、モバイルノートでもない新たな市場を切り拓く製品にも位置づけられている。果たして、dv2は、日本の市場にどんな形で受け入れられるのか。
日本HPパーソナルシステムズ事業統括モバイル&コンシューマビジネス本部プロダクトマネージャの菊地友仁氏、日本AMDマーケティング&ビジネス開発本部PCプラットフォーム・プロダクトマーケティング部の土居憲太郎部長に聞いた。
dv2は、Yukonプラットフォームをベースに、Athlon Neo MV-40(1.60GHz)を搭載。GPUにATI Mobility Radeon HD 3410(512MB)を搭載することで、グラフィック機能を強化しているのが特徴だ。
それでいながら価格は73,500円。今後発売が予定されている店頭モデルでは、一部機能を削除することで、さらなる低価格での販売が見込まれており、台風の目となる予感もある。
実は、日本HPでは、今回のdv2を、新たなカテゴリの製品に位置づけようとしている。それは、低価格を追求し、メールやネット接続に特化した「ネットブック」、長時間バッテリ駆動と軽量化を実現し、モビリティを追求した「モバイルノート」、そして、14型、15型液晶ディスプレイを搭載した「メインストリームノートPC」といった領域の中間地点ともいえる新カテゴリだ。
日本HPパーソナルシステムズ事業統括モバイル&コンシューマビジネス本部プロダクトマネージャの菊地友仁氏 |
「コンセプト、ターゲットがこれまでのノートPCとは異なる。既存の延長線上の製品ではなく、新たなテクノロジと、新たな価格体系、新たなユーザーを開拓する、パラダイムシフトを起こす製品。そして、ミュータントともいえる製品になる」と、菊地氏は切り出す。
dv2で狙ったのは、家のなかを自由に持ち運びができて、たまに外に持っていくことができる。それでいて、HDの高画質映像の再生や、グラフィックを駆使したゲームソフトのプレイを、ストレスなくスムーズに利用できる性能を実現するというノートPCだ。
それを具現化するように、ネットブックでは不可能なスクウェア・エニックスの「ファイナルファンタジーXI」の動作認定を取得。3Dゲームの利用にも適していることを示している。そして、価格もネットブックを意識した魅力的なものとなっている。
「この価格帯でGPUが入った製品はほかにはない」(日本AMD土居氏)という位置づけだ。
まず、dv2によって創造される新カテゴリ構成要素を聞いてみた。菊地氏によると、液晶ディスプレイは、12~13型。16:10あるいは16:9のワイド液晶を搭載。CPUは、現行モデルではAthlon Neoだが、デュアルコアまで含めても構わない。そして、グラフィック性能に優れた仕様。筐体の厚さは20~30mmまで。重量は2kg以下。個人ユーザーおよび一部企業内個人ユーザーが利用しやすいスペックとすること。そして、バッテリ連続駆動時間は長くて4~5時間程度で、家庭内モバイルや企業内モバイルを想定。机の上での利用だけでなく、寝室のベッドやリビングのソファにも寝ころんで利用できるといったフォームファクタを実現する。
「この領域の製品はこれまでにはなかった。それだけにどれぐらいの市場規模があるのか、どんな立ち上がり方をするのかが想像もつかない。ただ、明らかに大きなポテンシャルがあるだろうと考えている」と、菊地氏は語る。市場創造をしながらの製品だけに、手探りという状態が否めないのが正直なところだ。
まず想定されるユーザーは、日本HPの社内の言葉をそのまま引用すれば、「ガジェットおじさん」。最新の機器に敏感に反応するユーザー層だ。「これらのユーザーは、グラフィック性能の違いをはじめ、ネットブックとの決定的な違いを理解できるITリテラシが高いユーザー。まずダイレクト販売に限定し、上位モデルから投入したのも、そうしたターゲットを想定したため」と菊地氏は話す。
年齢層としては30~40歳代の男性。これまでの日本HP製品を購入動向から見ても、発売後2カ月間は、やはり、こうしたユーザーが主要ターゲットとなる。
日本AMDマーケティング&ビジネス開発本部PCプラットフォーム・プロダクトマーケティング部・土居憲太郎部長 |
続いてのターゲットとなるのが、個人での2台目利用、家庭内での2台目需要だ。むしろ、この層にどれだけ受け入れられるかが、この製品の広がりを左右することになる。土居氏は、「家庭内では2台目となるものの、自分用としては1台目といった用途での購入を期待したい。いわば、『1.5台目PC』ともいえるカテゴリを作り上げられないかと考えている」とする。
この部分ではネットブックの購入層ともぶつかることにもなるだろう。異口同音に菊地氏も、「ネットブックの価格には惹かれるが、利用環境を考えると、メインストリームのPCの機能が必要となり、価格の観点から購入をあきらめていた人。あるいは、ネットブックを購入したが、ゲームをしたり、ネット上の動画を見たりといったことで不満を感じている人には、最適なノートPCになる」と語る。
だが、その一方で、ネットブック購入層だけがターゲットではないと、土居氏は語る。「Athlon NeoやYukonプラットフォームを採用した今回の製品は、ネットブックに対抗するものとは考えていない。ネットブックユーザーの一部を取り込む一方で、モバイルPCユーザーの一部を取り込んだり、メインストリームノートPCの一部ユーザーを取り込むことで、市場を形成していく製品になる」。
土居氏は、メインストリームのノートPCを購入しているユーザーが、本当にその製品が欲しくて購入しているのだろうか、と疑問を投げかける。「15.4型のノートPCは、ボリュームゾーンの製品であるため、当然購入しやすい。だが、机の上に設置したり、家の中で持ち運んだりといった用途を考えれば、ここまでの大きさはいらないというユーザーも多いのではないだろうか。こうしたユーザーにとっては、dv2が、1台目のPCとして訴求できるはず。また、私自身、パワーポイントを利用することが多いが、ここ数日間、dv2を利用してみても、ストレスを感じることなく利用できた。ビジネスマンにとっても、ACアダプタさえ持ち歩けば、どこにでも持ち運び可能なモバイルPCとしての利用が可能となる」。
ここにも「1.5台目PC」として、最適なノートPCという側面がある。「次のステップとしては、大学生やビジネスマンなど、10~20代の男性がターゲットとなる。そして、ネットブックで女性層の購入が多いように、3~4割は女性層で占めたい」と、菊地氏は目論む。量販店向けモデルを投入した時点から、こうしたユーザー層の開拓が、dv2が新たに目指すターゲットということになる。
ダイレクトプラス向けモデルは黒い筐体。USでは左の白いモデルも発表しているので、こちらの登場も期待される | 店頭POP。謳い文句は「ネットブックではやや物足りないあなたに」 |
こんなバージョンもある | dv2が目指すのは、「?」で示された新たなカテゴリの創出 |
ところで、菊地氏に、このカテゴリをどういう名称で呼ぶべきかを訊ねてみた。実は、現時点では菊地氏にもいいアイデアはないという。「シンノートPC」、「スリムノートPC」、「ウルトラシン」などがあがるものの、あまり的確な言葉が見あたらない。
ネットブックのような市場創造や立ち上がりを考えるのならば、このあたりもプロモーションも、市場開拓で先行するHPや、Yukonプラットフォームの広がりを狙うAMDが、積極的に行なっていくべきだろう。
菊地氏が語るように、この市場がどう立ち上がるのかはいまのところ不透明だ。同社では、初期出荷台数については明確には言及しないが、「HP 2133 Mini-note PCとほぼ同規模」というのが目安といえそうだ。
ただ、HP 2133 Mini-note PCの場合、発売直後からの人気ぶりで、直販サイトでは24時間以内に売り切れることの繰り返しとなり、約2カ月間も品不足の状況が続いた。「HP 2133 Mini-note PCのように大量の注文が殺到すれば、同じような品薄を招く可能性はある。読みが難しい商品だけに、数量には慎重になってるいのは確か。だが、HP 2133 Mini-note PCでの学習効果もある。無在庫オペレーションが前提となるが、従来ほどの影響がない程度に、需要に供給が追いつける体制を取れるようにはしている」とする。
成否の判断は、もちろん販売台数ということになるだろう。だが、それとは違う要素から、1つのターゲットを菊地氏は提示する。「HP 2133 Mini-note PCの時は、スターバックスで、この製品を使っている人を見かけたら、1つの成功レベルだと考えた。先月、それを見ることができた。dv2では、持ち運んで使うという用途がHP 213 Mini-note PCよりは少ない。そこで、量販店店頭で家族連れが、この製品を選択してくれるシーンを自分で見かけることができた、ということを1つのゴールにしたい」とする。
一方、今後のYukonプラットフォームの広がりに力を注ぐ日本AMDの土居氏は、「今後は、Athlon Neoを搭載した省電力タイプの製品が、国内PCメーカーを含めて登場し、さらにYukonプラットフォームを採用した一体型PCも増えることを期待している。それに向けて、第1号製品となるdv2の売れ行きには注目している。日本において、どのぐらいの勢いで出ていくのか、大きな期待を寄せている」と語る。
今後のYukonプラットフォームの拡大に向けても、dv2の売れ行きは、成長に向けた試金石となるのは間違いない。
(2009年 4月 27日)