2009 International CESレポート【AMD講演編】Yukonで700ドルを切る本格モバイルノートが実現
1月8日(現地時間) 会場:LasVegas Hilton Theater
International CESの初日にあたる1月8日(現地時間)にLasVegas Hilton Hotelのシアターで行なわれたIndustry Insider Keynote Speechで、AMDの社長兼CEOのDirk Meyer氏が登場した。 Meyer氏は同社がCESに合わせて発表したばかりの新しいウルトラポータブルPC向けプラットフォームの“Yukon”や、45nmプロセスルールで製造される「Phenom II」プロセッサなどから構成されているDragonプラットフォームなどの新製品を紹介した。また、Opteronを搭載したスーパーコンピュータを利用し、3Dやゲームをクラウドで処理して実行するデモを行なった。 ●AMDはx86プロセッサとGPUの両方を提供できる企業である 今回のCESの基調講演では、ほぼ例外なく、現在の米国経済が直面している厳しい状況への言及がある。会場でも、“今年は来場者が減っているね”という言葉が挨拶代わりになるほどだ。 これはInternational CESの魅力が無くなったのではなく、米国経済が景気後退期に入っているため、企業が出展を見合わせたり、出張者の数を減らした結果なのだが、米国の景気後退が肌で感じられる現象だ。 Meyer氏も「現在の経済情勢は確かに厳しい。リテールでもセールスは下がっており、我々のようなシリコンベンダーだけでなく、セットメーカーもチャネルも厳しい。しかし、だからこそ将来に目を向け、テクノロジの力により状況を変えていく必要がある」と述べた。 さらに「今後はコンシューマのニーズに合うように、ソフトウェアとハードウェアが協力してより良いものを作っていく必要がある。AMDはそうした複数のものを融合(Fusion)させていくことをビジョンとして持っている」とし、「コンピュータの基礎となるシリコンの世界において、x86プロセッサとGPUの両方を提供している唯一の会社がAMDだ」と語った。今後PC業界で起こって行くであろうCPUとGPUの融合(Fusion)の世界において、AMDにアドバンテージがあるとアピールしたのだ。 ●Fusionにより、臨場感あるCGがリアルタイムに Meyer氏は「AMDはパートナーと協力して製品を提供するというのが基本方針になっている。今回も我々のパートナー企業と一緒に、今後登場する新しいテクノロジーを紹介していきたい」と述べ、パートナーとともにいくつかの新しい技術の紹介を行なった。 最初に登場したのはルーカスフィルムのIT担当者であるKevin Clark氏。ルーカスフィルムは、早くから映画のCG製作にOpteronやRadeonを利用してきたことで知られ、すでに5年にわたりAMDとのパートナーシップは継続されている。Clark氏は「映画業界にとっては、プロセッサの処理能力が上がることは、より臨場感ある映像を作ることにつながる。今後もFusionなどで処理能力が上がることは大歓迎だ」と述べ、期待感を示した。 さらにOTOYとLightStageのCEO Jules Urbach氏が壇上に呼ばれ、同社が推進する映画と3Dゲームの融合ビジョン“Cinema 2.0”への期待が表明された。ステージでは、過去にRadeon HD 4870の発表会でも公開された、Rubyの臨場感のあるリアルタイムCGが再び流され、CPUやGPUの性能が上がっていけばリアルさを増したCGが、リアルタイムにレンダリングできるようになるとアピールした。
●DellがDragonプラットフォームを採用したXPS 625をリリース 続いてMeyer氏は、Dragonプラットフォームに関しての紹介を行なった。「Dragonとは中国の想像上の動物で、非常に強力だと認識されていることからつけた。CPUのPhenom II、チップセットのAMD 790、GPUのRadeon HD 4870などから構成されており、これらの構成はエンスージアストなユーザーにとっても夢の構成だ」とアピールした。 壇上にはDell ゲーム事業部ジェネラルマネージャ兼Alienware社長のArthur Lewis氏が呼ばれ、Dragonプラットフォーム搭載デスクトップPC「XPS 625」が解説された。これは、XPSシリーズの最新製品で、Phenom II X4 940 Black Edition(3GHz)、Radeon HD 4850、8GBメモリ、10,000rpmのHDD、64bit Windows Vistaというハイスペック構成が選択可能になっている。しかも、DellのWebサイトで999ドルから販売される。 ケースはIntel向けのXPS 630に近いが、上位モデルのXPS 730と同じくLEDによる発光システムが内蔵されており、ユーティリティを利用してカスタマイズすることができる。
●Yukonにより本格的なウルトラポータブルPCが低価格に 次に紹介された新製品はYukonだ。Meyer氏は「これまでフル機能を備えたウルトラポータブルPCは非常に高価だった。確かに市場にはミニノートPCやネットブックと呼ばれる安価な製品が存在しているが、エンドユーザーはノートPCの機能をフルに利用できないと失望している。そこで我々はそれを解決する製品を投入することにした」と説明した。 Hewlett-Packard パーソナルシステム事業部ワールドワイドマーケティング担当上級副社長のSatjiv Chahil氏が壇上に呼ばれ、Yukonを採用した「HP Pavilion dv2」が紹介された。 HP Pavilion dv2はAthlon Neo、M690Eチップセット、Mobility Radeon HD 3410、12.1型ワイド液晶などを搭載しており、最小構成価格が699ドルとなっている、これまでのウルトラポータブルPCに比べると圧倒的に安価に設定されているのが特徴だ。 また、Chahil氏は、HP、MTV、AMDが共同開催したHPノートPCの液晶パネルのデザインコンテストの最優秀作品を紹介した。選ばれたのは日本人女性が応募したもので、壇上でそのデザインを採用したHP “Engine Room edition” Notebook PCが公開された。
●今後は3Dゲームもクラウドコンピューティングになる 最後にMeyer氏はAMDのクラウドコンピューティングに関するビジョンを公開した。Meyer氏は「Googleのエリック・シュミット氏によれば、今後は90%のアプリケーションがクラウドになり、10%が現在のローカルベースのアプリケーションとして残ると予想されているという。その10%の代表例が、HDコンテンツの再生や3Dゲームといった分野になる。そこで、我々は、そうしたアプリケーションもクラウドを実現したいと考えている」と述べ、同社がOTOY、EAなどと共同で開発している“AMD Fusion Render Cloud”と呼ばれる技術を公開した。 システムはOpteronから構成されているスーパーコンピュータにノートPCを接続し、EAの3Dゲーム「Mercenaries 2: World In Flames」をWebブラウザで表示させるというデモだ。これまで、こうしたハイエンドの3Dゲームは強力なGPUを搭載したハイエンドデスクトップでしか実行できなかっただけに可能性を感じさせた。おそらくフレームのレンダリングをサーバー側で行ない、クライアントにはビデオのような形で流れているのだと思われるが、詳細は明らかにはされなかった。 講演の最後にMeyer氏は「今後もAMDはビジュアルコンピューティングやモバイルコンピューティングに力を入れ、顧客にバリューを提供していきたい」と述べ、今後もより良い製品をリリースしていくと約束し、講演を終えた。
□AMDのホームページ(英文) (2009年1月13日) [Reported by 笠原一輝]
【PC Watchホームページ】
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