■本城網彦のネットブック生活研究所■
HP Pavilion Notebook PC dv2 |
4月23日に発表されたばかりの「HP Pavilion Notebook PC dv2」。その試作機を触る機会があったので、早速レポートをお届けする。もともと本連載はネットブック専門だったのだが、この仕様でこの価格帯は明らかに平均的なネットブックのちょい上を狙ったネットブックキラーと言うべき製品であり、そう言った意味から筆者は非常に興味を持った。番外編として扱ってみたい。
改めてネットブックの定義を考えてみると、液晶のサイズや解像度、ストレージの容量など、IntelとMicrosoftから縛りがあるものの、もっと広い範囲で考えた場合、価格帯は国内だと5万円前後。CPUはたまたまIntel Atomプロセッサ、そしてチップセットAtomプロセッサ用の「Intel 945GSE Express」もしくは「Intel システムコントローラ Hub US15W」のものが大半を占めている。今後、「NVIDIA IONプラットフォーム」を採用したものや、945GSE Expressに替わるチップセット「Intel GN40」を使ったものも出てくるだろうがIntelが主役であることは間違いない。
Intelに次ぐCPUメーカーのAMDがこのネットブック・ブームに甘んじているはずもなく、Atomプラットフォームに対抗して出してきたのが、今回Pavilion Notebook PC dv2に搭載している「Athlon Neo MV-40(1.6GHz)」だ。このAMDのCPU、「Athlon Neo MV-40」の特徴は、シングルコア、動作クロック1.6GHz、L2キャッシュ512KB、消費電力値15W、PowerNow!(電圧とクロックが可変)対応となる。非常に大雑把に見るとAtomプロセッサN270と同程度に見えなくもないが、Hyper-Threading相当の機能は持っていない。シングルコアのAtomプロセッサ230やN270とどの程度違うのか非常に興味のあるところだ。
そして、「Athlon Neo MV-40」を国内で初めて搭載したノートPCが、この「HP Pavilion Notebook PC dv2」となる。仕様を並べると以下の通り。
CPU | Athlon Neo MV-40(1.60GHz) |
チップセット | AMD M690G |
メモリ | 2GB(1スロット/200pin SO-DIMM/最大4GB) |
HDD | 320GB(シリアルATA、5,400rpm) |
GPU | ATI Mobility Radeon HD 3410(512MB) |
パネル | 1,280×800ドット(WXGA)表示対応12.1型ワイド液晶 |
インターフェイス | USB 2.0×3 |
IEEE 802.11a/b/g/n無線LAN、Ethernet、Bluetooth 2.0+EDR | |
HDMI 1.3b出力、ミニD-Sub15ピン | |
5in1メディアスロット(SDカード(SDHC)/MMC/メモリースティック(PRO)/xD-Picture Cardスロット) | |
Webカメラ(VGA) | |
音声入出力 | |
USB外付けスーパーマルチドライブ標準添付 | |
バッテリ駆動時間 | 約3時間15分 |
OS | Windows Vista Home Premium |
サイズ/重量 | 293×242×24~33.5mm(幅×奥行き×高さ)、約1.7kg |
例えばASUSTeK「N10Jc」はGPU/HDMIを搭載、デル「Inspiron Mini 10」はHDMI出力あり、デル「Inspiron Mini 12」は12.1型/WXGAを搭載しているなど、一部に特徴的な機能をもったネットブックはあるものの、これら全てが揃っている製品は筆者の知る限り1台もない。そして直販価格は73,500円。一般的なネットブックと比較すると1~2万円高価であるが、GPU搭載+12.1型/WXGA+HDD320GB+外付けDVDスーパーマルチドライブ+メモリ2GB標準搭載を考えると特別高いと言うわけでもなく十分納得できる範囲だ。この価格帯でネットブックよりワンランク上のノートPCが手に入る意味は大きい。できれば個人的にはDVDスーパーマルチドライブ無しモデルも作り、さらに仕様を一部削った6万円前後の製品も欲しかった。
同社は「HP Mini 1000」として純粋なネットブックも出荷している。こちらはお馴染みのAtomプロセッサN270にチップセットはIntel 945GSE Expressと、ネットブックとしては一般的な仕様だ。価格レンジと画面サイズなどでPavilion Notebook PC dv2と住み別ける作戦なのだろう。
パッと見た印象は、本体が薄く、デザイン的にもかっこいい。しかし、持ち上げると、見た目で予想していた重さ以上にズッシリ重く、仕様上約1.7kgだった事に気付く。ネットブックと比較しても重量級だ。表面にパタペタ指紋がつきやすく目立つのも気になる。
液晶パネルはグレア処理。周囲が映り込むもののあまり気にならない範囲だ。そして何と言っても、1,280×800ドット表示対応12.1型ワイドのパネルは十分に広く普通のノートPCクラス。ATI Mobility Radeon HD 3410のおかげで、画面をずるずる引きずるような動きは皆無。非常に快適に操作できる。例えばネットブックで12.1型WXGAを搭載した「Inspiron Mini 12」の場合は、Intelシステムコントローラ Hub US15Wを用いているため、その描画速度は、マウス操作一発でわかる程の差がある。
キーボードとタッチパッドはクールだ。この“クール”は見栄えに加えて「物理的に冷たい」という意味も含まれる。素材が金属なのでそう思うのだろう。冷たいという感触は、全体的にも同じ。「マグネシウム合金」やメタリックな風合いを加える「VMフィニッシュ」を採用しているのがその理由だと思われる。夏場は心地よいが、冬場、寒い部屋などで使うとかなり冷たく感じそうだ。
キーピッチは十分広く、パッドの滑りもよい。ちょっとした高級感もある。これまでネットブックでは見かけなかったタイプと言えよう。キー配列も余裕があり、特におかしな部分も無い。
内蔵スピーカーは「ALTEC LANSING」製。以前ASUSTeK「N10Jc」の時にも書いたが、音への拘りを感じる。ALTECなら何でもいいわけではないが、本機は音質・音量とも十分な実力だ。
個人的には同社がこだっているZEN-design“kirameki”はあまり好みではない。日本国内に関しては、もっとシンプルな方が望まれるのではないだろうか。
●OSはWindows Vista Home Premium 32bit版MicrosoftのULCPC規格を越えている部分が多いためか、ULCPC版のWindows XP Home Editionは搭載しておらず、通常のWindows Vista Home Premium 32bit版がインストールされている。しかし「Athlon Neo MV-40」が高性能とは言え、クロック1.60GHzのシングルコアなので、CPUパワー的はVista Businessからのダウングレード権を用いてWindows XP版も欲しいところだ。
また最近では4GB SO-DIMMの価格も下がっているので、最大の4GBにしてVistaを動かせば(32bit版だと実質3GBまでしか使えないが)、更に快適に操作できると思われる。ただし、メモリスロットが1つなので、付属の2GBは余ってしまうが、他のノートPCやネットブックに使いまわす手もある。このスペックなら後々Windows 7にしても全く問題無いだろう。
システムのプロパティ。OSは英語版の32bit版。Windows エクスペリエンス インデックスは3.4となっている | デバイスマネージャ。試作機と言うこともあり、HDDには160GBモデルが使われていた。GPUはATI Mobility Radeon HD 3410 |
デスクトップとATI Radeon HD 3410のプロパティ。この解像度で12.1型の液晶パネルは、ネットブックではなく普通のノートPCとなる。実際使っても狭いという感覚は無い | タスクマネージャ/パフォーマンス。Athlon Neo MV-40はシングルコアなので、パフォーマンスに表示されるグラフは1つだけ |
Atomプロセッサ230やN270などのシングルコアでもHyper-Threadingが使えるCPUと、純粋な(?)シングルコアのAthlon Neo MV-40の使い勝手による差であるが、少なくともネットしたり、動画を見る範囲においては何ら変わった雰囲気はない。12.1型WXGAクラスのパネルでは、広いとは言え、一般的なデスクトップPCと比べるとやはり狭く、同時にアプリケーションを動かしたり操作したりはあまりしない関係上、理論的には違うかも知れないが、体感的にその差はわかりにくいのではと思われる。いずれにしても使っていて(1.60GHzのCPUとして)遅いということは無かった。
付属するアプリケーションは試作機ではいろいろ入っていたが、同社のHPによると出荷版では、「ノートン・インターネットセキュリティ2009(60日間試用版)」、「CyberLink DVD Suite」等となっている。この部分についてもネットブックに劣る部分は無い。
●上級ネットブックには脅威の存在この手のノートPCがこの価格レンジで登場すると、市場は非常に面白くなってくる。何故ならこれまで10万円を超えるのが当たり前のノートPCが、ネットブックの登場により5万円前後、10万円以上と二分され、加えて6~9万円の価格帯にまた違うアーキテクチャが割り込んだ形となる。画面解像度などを我慢して安価なネットブックを取るか、何も我慢する必要の無い10万円を超えるノートPCにするかの二択だったのが、あまり我慢する部分が無い第3の選択肢ができたことはユーザーにとっても非常にありがたい話だ。
ちょうど先日発表のあった「MSI X-Slim X340」もこの価格帯。2009年は、10万円未満のノートPC市場は益々激化しそうな予感がする。その先駆けとなった「HP Pavilion Notebook PC dv2」は、なかなか面白い存在と言えよう。