ゲーミングPC Lab.

マウスコンピューター「MASTERPIECE a1500BA1」

~最高5GHzで駆動する「FX-9590」搭載

MASTERPIECE a1500BA1
8月20日 発売

価格:449,800円

 AMDが6月11日に発表した新CPU「FX-9590」を搭載する、マウスコンピューター製PC「MASTERPIECE a1500BA1」を借用できた。今回は、最大5.0GHzという動作クロックを実現したAMD FXのパフォーマンスを、ベンチマークテストで探ってみる。

最大5.0GHzで動作するPiledriverベースの8コア

FX-9590、CPU本体

 Socket AM3+向けのCPUであるFX-9590は、Piledriverアーキテクチャ採用のCPUコアを8コア備えたCPUだ。定格4.7GHzで動作するCPUコアは、自動オーバークロック機能の「AMD Turbo Core 3.0 Technology」により、最大5.0GHzで動作する。また、L2キャッシュとL3キャッシュを8MBずつ備え、内蔵メモリコントローラはDDR3-1333~1866までのメモリをサポートしている。製造プロセスは32nm SOI。

 なお、FX-9590と同時に発表された「FX-9370」は、同じCPUコアをベースに動作クロックを定格4.4GHz、Turbo CORE時最大4.7GHzに引き下げたモデルである。両モデルのTDPはいずれも220Wで、コンシューマ向けCPUとしては、過去に類を見ない高い数値が設定されている。

 「32nm SOIプロセスで製造された、Piledriverコアの8コアCPU」という、FX-9590とFX-9370の基本的なスペックは、既存の第2世代AMD FX(開発コードネーム:Vishera)の最上位製品「FX-8350」と共通している。プロセッサのモデルナンバーは1,000番単位で変更されているが、動作クロック以外のスペックがほぼ共通であることから、既存の第2世代AMD FXと同じCPUコアをベースにして、動作周波数を引き上げたモデルであると考えて良いだろう。

【表1】主な仕様
CPUAMD FX-9590AMD FX-9370AMD FX-8350
製造プロセス32nm32nm32nm
アーキテクチャPiledriverPiledriverPiledriver
CPUコア数888
CPU動作クロック4.7GHz4.4GHz4.0GHz
Turbo Coreクロック5.0GHz4.7GHz4.2GHz
L2キャッシュ8MB8MB8MB
L3キャッシュ8MB8MB8MB
TDP220W220W125W
アンロックモデル
対応ソケットSocket AM3+Socket AM3+Socket AM3+
CPU-Zの実行画面。左からアイドル時、マルチスレッド負荷時、シングルスレッド負荷時

AMDづくしのハイエンドゲーミングPC「MASTERPIECE a1500BA1」

 今回、FX-9590の評価機材として借用したマウスコンピューター製PC「MASTERPIECE a1500BA1」は、CPUにFX-9590、ビデオカードに「Radeon HD 8990」を搭載したハイエンドゲーミングPCだ。なお、ビデオカードのRadeon HD 8990は、Graphics Core Next(GCN)アーキテクチャベースのGPUを2基搭載したデュアルGPUカードで、スペック的には2013年4月に発売された「Radeon HD 7990」と同じものである。

AMD Radeon HD 8990
GPU-Z実行画面。スペック的にはRadeon HD 7990と同等

 TDP 220WのFX-9590に対応するべく、10フェーズの電源回路を備えたMSIの990FXチップセット搭載マザーボード「990FXA-GD80 V2」と、Cooler Masterの水冷クーラー「Seidon 120XL」を採用している。ケース内には、マザーボードの電源部を冷却するためのファンが設けられており、冷却を重視した設計が印象的だ。

 その他のパーツ構成として、16GBのメインメモリ、256GB SSD、3TB HDD、BDドライブを備える。AMDの最上位パーツの組み合わせに、各種ハイエンドパーツを組み合わせた「MASTERPIECE a1500BA1」の販売価格は449,800円だ。販売開始は8月20日となっている。

マウスコンピューター MASTERPIECE a1500BA1
AMD 990FXチップセット搭載マザーボード「MSI 990FXA-GD80 V2」を採用
CPUクーラーには「Cooler Master Seidon 120XL」を採用
マザーボードの電源回路を冷却するファンを搭載
フロントパネルインターフェイス
バックパネルインターフェイス

比較環境

 FX-9590の比較対象としては、FX-8350、「Intel Core i7-4770K」(以下i7-4770K)、「Intel Core i7-3960X Extreme Edition」(以下i7-3960X)を用意した。

 FX-9590とソケット互換性のあるFX-8350については、FX-9590と差し替えてベンチマークテストを行ない、残りの2環境については、電源ユニットとビデオカードのみ「MASTERPIECE a1500BA1」から流用してテストを実施している。

 なお、可能な範囲でテスト環境を揃えるため、AMD CPUのテストに用いた「MASTERPIECE a1500BA1」については、データ用ストレージであるHDDを取り外してベンチマークを実行している。

【表2】テスト環境
FX-9590/FX-8350i7-4770Ki7-3960X
MSI 990FXA-GD80 V2(AMD 990FX チップセット)MSI Z87-GD65(Intel Z87 Express チップセット)ASUS P9X79 PRO(Intel X79 Express チップセット)
DDR3-1866 8GB×2DDR3-1600 4GB×4
Samsung 840 PRO シリーズ 256GBIntel SSD 510 シリーズ 120GB
AMD Radeon HD 8990
FSP1200-50TGM (1,200W/80PLUS GOLD)
AMD Catalyst 13.4
Windows 8 64bit

CPU処理中心のベンチマークテスト

 まずはCPUやメモリ周りのベンチマークテスト結果から紹介する。実施したテストは「Sandra 2013.SP4 19.50」(グラフ1/2/10/11/12/13)、「CINEBENCH R10」(グラフ3)、「CINEBENCH R11.5」(グラフ4)、「x264 FHD Benchmark 1.01」(グラフ5)、「Super PI」(グラフ6)、「PiFast 4.3」(グラフ7)、「PCMark Vantage」(グラフ8)、「PCMark 7」(グラフ9)だ。

 CPUの演算性能を測定するベンチマークテストにおいて、同じPiledriverコアを備えているFX-9590とFX-8350のスコアを見比べてみると、概ねFX-9590がFX-8350を10~15%程度上回っている。両CPUの動作クロック差は17.5~19.0%程度なので、まずまず順当な結果と言えるだろう。

 例外として、「Sandra 2013.SP4 19.50 - Processor Multi-Media」のMulti-Media Integerがほとんど同じ数値となっているほか、同じくSandra 2013の「Cryptography」においては、Hashing BandwidthでのスコアがFX-8350を下回っている。複数回テストを実行してもスコアに大差はなく、CPUのスペックからすれば不可解な結果となっている。

 一方、CPU性能が問われるベンチマークでIntel製CPUとの比較した際、FX-9590が比較製品より高いスコアを記録しているのは、対i7-4770Kでは「x264 FHD Benchmark」、対i7-3960Xでは「PCMark 7」のLightWeightとCreativityのみとなっている。

 3Dレンダリング性能を測定する「CINEBENCH R11.5」ではシングルスレッド、マルチスレッドともi7-4770Kの後塵を拝しているのだが、スコア差に注目してみると、マルチスレッド時は4%前後の差である一方、シングルスレッド時には約39%もの大差がついていることが分かる。最大3.9GHz動作のi7-4770Kに対し、最大5.0GHzという動作クロックを実現してもなお、1コアあたりのパフォーマンスに大きな差が存在しているというのは厳しい結果だ。

【グラフ1】Sandra 2013.SP4 19.50(Processor Arithmetic/Processor Multi-Media)
【グラフ2】Sandra 2013.SP4 19.50(Cryptography)
【グラフ3】CINEBENCH R10
【グラフ4】CINEBENCH R11.5
【グラフ5】x264 FHD Benchmark 1.01
【グラフ6】Super PI
【グラフ7】PiFast 4.3
【グラフ8】PCMark Vantage (Version 1.2.0)
【グラフ9】PCMark 7 (Version 1.4.0)

 メインメモリの転送帯域を測定する「Memory Bandwidth」では、クアッドチャンネルに対応するi7-3960Xが突出した結果を記録しているものの、デュアルチャンネル対応CPUはおおよそ20GB/sec前後で横並びとなった。もっとも、FX-9590とFX-8350がDDR3-1866動作のメモリを使用しているのに対し、i7-4770KはDDR3-1600動作のメモリを使用しているため、メモリモジュールの最大帯域に対する実効帯域の割合ではi7-4770Kが優位である。

 キャッシュ速度については、AMD FXのL1キャッシュとL2キャッシュの転送速度を測定することになる2KB~8MBの範囲で、FX-9590がFX-8350より15~17%程度高速な結果となっている。これは、両CPUのクロック差に近い順当な結果と言えるだろう。

【グラフ10】Sandra 2013.SP4 19.50(Memory Bandwidth)
【グラフ11】Sandra 2013.SP4 19.50(Cache Bandwidth)
【グラフ12】Sandra 2013.SP4 19.50(Cache/Memory Latency - Clock)
【グラフ13】Sandra 2013.SP4 19.50(Cache/Memory Latency - nsec)

GPU処理中心のベンチマークテスト

 続いて、3D系ベンチマークテストの結果を紹介する。実施したテストは、実施したテストは「3DMark - Fire Strike」(グラフ14)、「3DMark11」(グラフ15/16)、「3DMark - Cloud Gate」(グラフ17)、「3DMark Vantage」(グラフ18/19)、「3DMark - Ice Storm」(グラフ20)、「3DMark06」(グラフ21/22)、「MHFベンチマーク【大討伐】」(グラフ23)、「PSO2ベンチマーク ver.2.0」(グラフ24)、「ファイナルファンタジーXIV: 新生エオルゼア ベンチマーク」(グラフ25)、だ。

 強力なデュアルGPUカードであるRadeon HD 8990を用いて行なった3D系ベンチマークテストでは、FX-9590とFX-8350のCPU性能の差がスコアに反映されており、GPU性能がそのまま反映されやすい3DMark系のGraphicsスコアを除いて、FX-9590が優位なスコアを記録している。これは順当な結果と言えよう。

 一方、Intel環境でのスコアと比較では、3DMark 11のExtremeプリセットのように、GPU負荷が極めて高い条件であればi7-4770Kに肉薄する結果があるものの、10~20%程度の差を付けられているテスト結果の方が多く、全体的には明らかにIntel環境が優位だ。極端な結果としては、PSO2ベンチマークにおいて、FX-9590はi7-4770Kに2.2倍以上という、同じGPUを使っているとは思えないほどの大差をつけられている。

 PSO2ベンチマークに関しては、テストが利用するCPUコアの数が少ないことと、2GPUとしてRadeon HD 8990が機能するテストとしては描画負荷が軽いという、CPUのシングルスレッド性能がスコアに影響しやすい条件が揃ったことが、極端な差がついた大きな原因だろう。とはいえ、FX-9590の3D系ベンチマークテストの結果が、Intel環境の結果より見劣りするものであることには変わりない。

【グラフ14】3DMark - Fire Strike [Default/1,920×1,080ドット]
【グラフ15】3DMark11 v1.0.5[Performance/1,280×720ドット]
【グラフ16】3DMark11 v1.0.5[Extreme/1,920×1,080ドット]
【グラフ17】3DMark - Cloud Gate [Default/1,280×720ドット]
【グラフ18】3DMark Vantage v1.1.2[Performance/1,280×1,024ドット]
【グラフ19】3DMark Vantage v1.1.2[Extreme/1,920×1,200ドット]
【グラフ20】3DMark - Ice Storm[Default/1,280×720ドット]
【グラフ21】3DMark06 v1.2.1[Default]
【グラフ22】3DMark06 v1.2.1[1,920×1,080ドット/8x AA/16x AF]
【グラフ23】MHFベンチマーク【大討伐】[DX9]
【グラフ24】PSO2ベンチマーク ver.2.0[DX9/フルスクリーン]
【グラフ25】ファイナルファンタジーXIV: 新生エオルゼア ベンチマーク ワールド編 (フルスクリーン)

システム全体の消費電力比較

 最後に、ベンチマークテスト実行中に測定した各システムの消費電力を紹介する。消費電力は、サンワサプライのワットチェッカー「TAP-TST5」を用いて各テスト実行中の最大消費電力を測定した。

 なお、各環境は同じ電源ユニットを使用しているものの、冷却関連やメインメモリなど、一部のパーツ構成が異なっている。CPUの消費電力差を横並びで比較できるのは、FX-9590とFX-8350だけである点に注意してほしい。

【グラフ26】システム全体の消費電力

 各システムのアイドル時消費電力については、FX-9590、FX-8350、i7-3960Xが92~95Wでほぼ同程度となっているのに対し、i7-4770Kは65Wと30W近く低い数値を記録している。

 CPUの3Dレンダリング性能を測定する「CINEBENCH R11.5」実行時は、i7-4770Kが他のCPUより抜きんでて低い消費電力を記録する一方で、マルチスレッド時の消費電力ではFX-9590が309Wという突出して高い消費電力を記録している。これは2番目に消費電力の高いi7-3960Xより79Wも高い数値であり、TDP 220Wというスペックが決して大げさな設定ではないことが伺える。

 3D系ベンチマークテスト実行時の消費電力でも、最も高い数値を記録したのはFX-9590だった。これらのテストでは、必ずしもFX-9590だけが突出した消費電力であるというわけでは無いが、PSO2ベンチマークのように、CPUがボトルネックとなってGPUが遊んでしまっている状況でもi7-3690Xを上回り、スコアで倍差をつけられたi7-4770Kより94Wも高い消費電力は、非常に厳しいものだ。

ライバルとの差を埋めきれないが、AMD最高峰を求めるユーザーには唯一無二

 以上の通り、FX-9590のパフォーマンスを中心に紹介した。結果としては、IntelのハイエンドCPUであるCore i7-3960Xはおろか、メインストリーム向け最上位というポジションのCore i7-4770Kとの比較においても、同程度と呼べる域にすら届いていないように見える。

 性能で及ばない一方で、消費電力はTDP 220Wのスペック通り突出して高い。FX-9590が5.0GHzという動作を実現するために払った代償は大きい。

 AMDはFX-9590について、システムインテグレータ経由で入手できるCPUであるとして、単体価格を明らかにしていないが、搭載PCの「MASTERPIECE a1500BA1」が449,800円という価格であることを考えれば、FX-9590が4770Kより高価なCPUであることは間違いないだろう。コスト、性能、消費電力、いずれも4770Kに対してすらアドバンテージを見いだせないというのは、非常に厳しい結果だ。

 5.0GHzという動作クロックを実現したFX-9590は、CPUの歴史において、1つのマイルストーンとなる製品だ。相対性能を度外視して、このような製品を欲するユーザーは僅かながらも確実に存在する。FX-9590は、そうした熱心なユーザーをターゲットにした、プレミアムなCPUなのだろう。

 それだけに、CPUの単体販売を行なわず、システムインテグレータ経由でしか供給しないという、FX-9590の販売戦略は非常に残念だ。AMDには、FX-9590の単体販売について、ぜひ再考して貰いたい。

 さて、なかなか難しいCPUであるFX-9590だが、今回借用した「MASTERPIECE a1500BA1」は、このCPUを上手く組み込んでいる。CPU自体の発熱はもとより、電源回路の発熱も気になるFX-9590だが、CPUを強力に冷却する水冷CPUクーラーと、ソケット周辺パーツを冷却するオプションファンを備える「MASTERPIECE a1500BA1」なら、発熱を気にせず安心して使うことができるだろう。

 ルックス的にも、黒をベースに赤のアクセントを加えたアルミ製筐体は、フラッグシップモデルに相応しい高級感をたたえており、カラーリングもFXとRadeonのイメージにぴったりだ。449,800円という価格は高価だが、AMD最高峰PCとしての完成度は高い。AMD一式にこだわった高性能PCを求めるユーザーには唯一無二の選択肢と言えるだろう。

(三門 修太)