山口真弘の電子書籍タッチアンドトライ
Amazon.co.jp「Kindle Oasis」(後編)
~新しい画面デザイン、単体でのバッテリ持ち時間などをチェック
(2016/5/16 06:00)
「Kindle Oasis」は、Amazon.co.jpが販売するE Ink電子ペーパー搭載の電子書籍端末「Kindle」シリーズの最上位モデルだ。バッテリ内蔵のカバーを採用することで、本体のみで131g(Wi-Fiモデル)と驚異的な軽さを誇るほか、最薄部はわずか3.4mmと、ほかを圧倒する薄さを実現していることが特徴だ。
前編では借用機材をもとに、従来モデルとの比較や本体の薄さ、さらに自動回転機構のギミックについてファーストインプレッションをお届けした。後編では筆者が購入したWi-Fi+3Gモデルも併用しつつ、デザインが一新された画面の比較、さらに単体でのバッテリ駆動時間など、前回触れられなかった点をチェックしていく。
画面デザインが一新。購入済み本の探しやすさやストアの操作性はむしろ低下?
本製品の発売に先駆け、Kindle VoyageやKindle Paperwhiteなど既存製品もソフトウェアアップデートが行なわれ、画面デザインが一新された(本稿執筆時点でのバージョンは5.7.4)。フォントも変更されたため、一見すると別の製品に見えるほどだ。ここではこの新デザインの画面をKindle VoyageおよびKindle Paperwhite発売時点の旧画面と比較してみよう。なお、この両製品は既にKindle Oasisと同じ新画面に一新されており、現時点での違いはない。あくまでもデザインの変遷をチェックするのが目的ということでご了承いただきたい。
まずセットアップ手順だが、こちらは主にデザイン周りの変更が主で、構成自体に変化はない。操作方法を案内するチュートリアル画面が簡略化されたこと、また操作方法をトレースしなくてもスキップして先に進めるようになったのが大きな変化だ。これはKindleの登場からある程度の年数が経ち、新規ユーザーに比べて乗り替えユーザーの割合が増えたことで、操作説明が不要になったのが理由だろう。特に本製品はその位置付け上、本製品で初めてKindleに触れるユーザーは少ないと考えられるので、冗長な操作手順説明をスキップできるのはありがたい。
続いてホーム画面を比較してみよう。新しいホーム画面では、上段に並ぶアイコンのデザインが一新されたほか、クイック操作画面を呼び出すための歯車状のアイコンが追加されたり、前面ライトの調整ボタンがなくなってクイック操作画面に移動するといった違いがある。これらは純粋にユーザービリティの改善を目的としたものだと考えて良さそうだ。
もう1つ、大きな変化があったのが、これまでクラウドもしくは端末上のコンテンツが並んでいた画面中段以下だ。新しいホーム画面では、中段右端に「読書リスト」としてダウンロード済みのサンプル本(タイトルのみ)が表示されるようになったほか、月替わりセールが表示されていた下段には、おすすめ本のほか、中段に表示されているコンテンツに関連する本、例えば同じ著者の本などがランダムに表示されるようになった。
この変更を端的にまとめると、所有している本を表示する面積が減少し、代わってサンプル本やおすすめなど、所有していない本を表示する面積が増えたことになる。これは昨年(2015年)発売になったFireシリーズと同様の傾向で、耳障りの良い表現で言うならば「新しい作品との出会いの場をこれまで以上に提供する」ための変更であり、もっと露骨に言うならば「もっと本を買わせるための導線を作る」ということになるだろう。
この方向性はKindleというビジネスにおいては当然だろうが、購入済みの本を分類整理する機能に乏しいKindleで、所有している本を表示する面積がさらに減る方向へと作り替えられたのは、個人的にはあまり良い気はしないし、実際のところ閲覧性も明らかに低下している。詳細オプションの「ホーム画面の表示」をオフにすると従来に近いデザインに戻せるので、気になる場合はそちらを変更することをおすすめする。
むしろ深刻なのはストアのデザイン変更だ。新しいデザインでは「あなたへのオススメ」として3つのサムネイルが表示され、その下に従来と同じ日替わりセールやKindleセレクト25などへのリンクが表示されるようになっている。これだけならサムネイルの追加で分かりやすくなったと言えなくもないが、問題なのは、その下にはベストセラーやおすすめ商品などのサムネイルが、実に縦3スクロールほどを使って表示される画面構成になっていることだ。
これまではページネーションという概念を順守し、(少なくともこのホーム画面では)1画面に収めていたところ、ただでさえ縦スクロールしにくいKindleで上下に表示を引き伸ばしたのは、明らかに行き過ぎだ。スクロールせずに済ませようにも、Kindle端末の所有者にとって利用頻度が高い「プライム会員月1冊無料」のリンクがページ最下部にあり、スクロールしなければ到達できないので始末に悪い。先ほどのホーム画面と違って表示をカスタマイズする方法が用意されていないのもネックで、せめてベストセラー以降は見出しだけに改めるなどの対処を望みたいところだ。
本体のみでのバッテリ持続時間は「1週間強」?
さて、本製品で気になるのは、バッテリ内蔵カバーを使わずに本体だけでどれだけバッテリが持続するかだ。製品ページではカバー込みでは「数カ月」もの寿命があるとされているが、カバーなしの本体のみでのバッテリ持続時間は公表されていない。本体の軽量化の要因の1つがバッテリの一部をカバーに移したことが明白であるだけに、なおさら気になるところだ。今回は実機を使ってバッテリの持続時間を検証することにした。
テストの方法は、一日およそ10~60分ほど読書を行ない、それが終わるたびにバッテリ残量を画面上でチェックするというアナログな手法だ。バッテリ残量が数値で表示されるのはカバー装着中のみなので、記録する際はカバーを取り付け、終わったら再び外すという手順で記録を行なっている。読書に使ったコンテンツは青空文庫で、画面の明るさはAmazonの測定条件と同じく「10」としている。
Amazonの測定条件と違うのは、Wi-Fiおよび3Gがオンの状態で検証を行なっていることだ。これはAmazonの公称値の正当性を検証するのが目的ではなく、実際の利用シーンに近い環境でどれだけバッテリが持つかを検証するという目的によるものだ。まったく同じ測定条件ではないので、誤解のないようにしていただきたい。
さて、結論から言うと、上記の測定条件においてはバッテリは「1週間強しか持たない」という結果になった。具体的には、初日の深夜にバッテリが100%の状態からスタートし、10%を切って要充電の警告が表示されたのが8日目の夜なので、実質7日半ということになる。それ以降は警告表示を無視しつつ残り4%になるまで検証を行なったが、それを含めても普通に読書が行なえるのは8日半ということになる。
ちなみにこの検証期間中にソフトウェアアップデートが1回、ストアに接続しての青空文庫のダウンロード(合計5冊)を2回行なっており、それを除けば1日あたりの減少幅は5~10%程度なので、ネットに一切接続せずにダウンロード済みのコンテンツを読むだけなら、2週間強は持つ計算になる。しかしそれだとWhisperSyncによる既読位置の同期なしで本製品を使うことになり、読書時間が1日30分以下という制限も含めて、わざわざ本製品を購入するようなヘビーユーザーの使い方としては不自然に感じられる。
もともと過去のKindle端末は、バッテリの容量が1,500mAh前後であることが知られているが、今回のKindle Oasisに関しては、国内外の情報を総合すると本体が245mAh、カバーが1,290mAhという配分になっているようだ。つまり本体内蔵のバッテリだけで比較するならば従来の6分の1ということで、上記の結果とも概ね一致している。
以上のことから、本製品はバッテリ内蔵カバーを取り付けた状態では従来のモデルよりも長寿命だが、本製品単体では従来と同じ使い方ができないことが分かる。今回は青空文庫で検証しているが、これがコミックだと約30分の読書で15~25%ほど減るため、計算上は1週間どころか5日ほどでアラートが表示されることになる。また今回ストアからダウンロードしたのは無料コンテンツばかりで、実際に購入する際は決済フローなど画面遷移が増えることも考えると、実際にはこれよりもさらに短くなってもおかしくない。従来モデルからのリプレースを考えている人は、こうした点は注意すべきと言える。
利用スタイルで評価が分かれるモデル。「常時カバー着用者」に向く
以上、およそ2週間に渡って本製品を使ってみたが、従来のハイエンドモデルであるKindle Voyageが万人が使いやすい最上位モデルとして仕上げられていたのと異なり、本製品はかなりユーザーの利用スタイルに評価が左右されるモデルというのが、使ってみての感想だ。
理由はやはり、バッテリまわりのギミックにある。これまで保護カバーを付けた状態でKindleを持ち歩いて来た人には、今回のモデルはカバー込みの重量が大幅に軽くなり、かつ長寿命ということで、全面的におすすめできる。しかしそうでない人にとっては、軽量化こそ著しいものの単体のバッテリ寿命は大幅に短くなっており、数日ごとの充電が強いられるという、メリットとデメリットが共存する状態となる。
例えば筆者の場合、これまでKindleはカバーを付けずに利用するのが常で、中でも旅行時に充電不要な端末としてバックの中に放り込んで持ち歩く用途が中心だった。ところが本製品の場合、カバーを付けると重量が増し、カバーを外すと充電が必要になるという、どっちつかずの状態になってしまう。また本製品は画面が3.4mmと薄い反面、グリップ部が膨らんだ形状をしているため、カバーなしでバッグに入れると収まりが悪く、かつページめくりキーの突起が引っかかりやすいなど、トレードオフになる部分が大きい。
モバイル機器を持ち歩いた経験がある人は分かると思うが、こうしたガジェットは「部分的にはかなり薄いがそれ以外はそこそこ分厚い」よりも「均一に厚みがある」方がバッグの中での収まりが良い。そうした点で言うと、本製品は手に持った際の軽さではアドバンテージはあるものの、持ち歩く際の収まりの良さはむしろKindle Voyageに負けている。
こうした原則から言うと、今回の本製品はカバーありで使うのが大前提で、そうでなければ同じ画面サイズ、同じ解像度のKindle Voyageの方が扱いやすい。もちろん上下反転やボタンなどのギミックを否定するわけではないが、あらゆるシーンで本製品をおすすめするのは明らかに無理がある。詳しく利用スタイルごとにまとめると、以下のような結論になるだろう。
- 自宅内外を問わずカバーありで使っている人:本製品がおすすめ
- 自宅はカバーなし、外出時にカバーを付けて使っている人:本製品がおすすめ
- 自宅内外を問わずカバーなしで使っている人:Kindle Voyageがおすすめ
もっとも、さまざまなガジェットと同様、いったん軽量なモデルを手にしてしまうと従来モデルを重く感じるようになるのは本製品も例外ではなく、2週間ほど本製品を使った後でKindle Voyageを手に取ると、とてつもなく重く感じるほどだ。それだけの「魔力」をもった製品であることは間違いないが、購入を考えるにあたっては、予算面さえクリアされれば飛びついて良い製品というわけではないことは、頭に留めておいた方が良さそうだ。