山口真弘の電子書籍タッチアンドトライ
Amazon.co.jp「Kindle(第8世代)」
~8,980円からのエントリーモデルが薄型軽量化。新たにBluetoothも搭載
2016年7月25日 06:00
「Kindle(第8世代)」は、Amazon.co.jpが販売するE Ink電子ペーパー搭載の電子書籍端末「Kindle」ファミリにおけるエントリーモデルだ。フロントライトは非搭載、Wi-Fiモデルのみながら、キャンペーン情報ありのモデルで8,980円、セール時には4,980円で販売されるという、リーズナブルさが特徴だ。
1つ前の世代に当たる第7世代のモデルは、発売されたのが2014年10月ということで、本製品は1年9カ月ぶりに登場した新モデルということになる。この間、ワンランク上にあたるKindle Paperwhiteは解像度を300ppiに向上させたニューモデルを投入しているが、本製品は途中でホワイトモデルが追加されたことを除けば、仕様変更もなく継続販売されてきた。
今回の第8世代のモデルの大きな特徴は、本体の小型軽量化だ。特に重量はわずか161gということで、バッテリカバーを外したKindle Oasisを除けば、最軽量クラスだったKindle Voyageの180gを下回ることになる。また他社のE Ink搭載端末と比較しても、Kobo Aura(約174g)を下回り、ソニーPRS-T3S(約160g)とは1g違いということで、最軽量クラスといっていい。一般的に価格重視でそのほかの要素が二の次になることが多いエントリークラスの製品としては異例だ。
今回はこの第8世代モデルについて、筆者が購入したキャンペーン情報つきモデル(ブラック)のレビューをお届けする。
ボディの小型化および軽量化がメイン。解像度などは変更なし
まずは現行のKindleファミリとの比較から。Amazonのサイトにも比較表が掲載されているが、ここでは違いが分かりやすいように項目を補足、整理している。また1つ前の世代に当たるKindle(第7世代)についても仕様を併記している。価格は発売時点のものなので注意して欲しい。
Kindle(第8世代) | Kindle(第7世代) | Kindle Paperwhite | Kindle Voyage | Kindle Oasis | |
---|---|---|---|---|---|
サイズ(幅×奥行き×最厚部高さ) | 160×115×9.1mm | 169×119×10.2mm | 169×117×9.1mm | 162×117×7.6mm | 143×122×3.4~8.5mm |
重量 | 約161g | 約191g | 約205g(3Gモデルは約217g) | 約180g | 約131g(約133g) ※カバー(107g)未装着時 |
解像度/画面サイズ | 6型/600×800ドット(167ppi) | 6型/600×800ドット(167ppi) | 6型/1,072×1,448ドット(300ppi) | 6型/1,080×1,440ドット(300ppi) | 6型/1,072×1,448ドット(300ppi) |
ディスプレイ | モノクロ16階調(Pearl) | モノクロ16階調(Pearl) | モノクロ16階調(Carta) | モノクロ16階調(Carta) | モノクロ16階調(Carta) |
通信方式 | 11b/g/n | 11b/g/n | 11b/g/n、3G(3Gモデルのみ) | 11b/g/n、3G(3Gモデルのみ) | 11b/g/n、3G(3Gモデルのみ) |
内蔵ストレージ(ユーザー使用可能領域) | 約4GB(約3GB) | 約4GB(約3GB) | 約4GB(約3.1GB) | 約4GB | 約4GB(約3GB) |
フロントライト | なし | なし | 内蔵(手動調整) | 内蔵(自動調整) | 内蔵(手動調整) |
ページめくり | タップ、スワイプ | タップ、スワイプ | タップ、スワイプ | タップ、スワイプ、ボタン | タップ、スワイプ、ボタン |
バッテリ持続時間(メーカー公称値、無線オフ、1日30分使用時) ※Amazon.comのデータによる | 4週間 | 4週間 | 6週間 | 6週間 | 8週間 |
価格(発売時) | 8,980円(キャンペーン情報付き) 10,980円(キャンペーン情報なし) | 6,980円(キャンペーン情報付き) 8,980円(キャンペーン情報なし) | 14,280円(キャンペーン情報つき) 16,280円(キャンペーン情報なし) 19,480円(3Gモデル、キャンペーン情報つき) 21,480円(3Gモデル、キャンペーン情報なし) | 21,480円(キャンペーン情報付き) 23,480円(キャンペーン情報なし) 26,680円(3Gモデル、キャンペーン情報付き) 28,680円(3Gモデル、キャンペーン情報なし) | 35,980円(キャンペーン情報付き) 37,980円(キャンペーン情報なし) 41.190円(3Gモデル、キャンペーン情報付き) 43,190円(3Gモデル、キャンペーン情報なし) |
【11時20分訂正】記事初出時、Kindle Paperwhiteのスペックが一部誤っておりました。お詫びして修正します。
冒頭でも述べたように、本製品はKindleファミリのラインナップの中ではエントリーモデルに位置づけられており、解像度については167ppiと決して高くはない。特にコミックの閲覧は、Kindle Paperwhiteが212ppiから現行の300ppiになってようやく見られるようになったほどなので、現状の167ppiというスペックはやや厳しいものがある。これら画質についてはのちほど詳しくチェックする。
今回のモデルの目玉となるのは冒頭でも述べた重量で、約161gに軽量化されたことで、従来モデルはもちろん、軽さが売りである上位モデルのKindle Voyageよりも軽いボディを実現している。また本体の小型化により、これまでウィークポイントだった厚みについても、Kindle Paperwhiteに並ぶ9.1mmに抑えられており、従来あった厚ぼったいイメージが払拭されている。幅も9mm小さくなり、片手で容易に握れるようになった。
一方、それ以外の項目については、従来モデルをほぼそのまま継承している。画面サイズは6型、モノクロ16階調、フロントライトなし、メモリは約4GBといった仕様は従来モデルと共通で、モデルチェンジのポイントがボディの小型化および軽量化に置かれていることが分かる。ちなみに本表に記載のない項目としては、Bluetoothを用いたVoiceView機能の追加が挙げられるが、これについては本稿の最後で詳しく述べる。
一回り小さくなり標準的なサイズに。軽さは差がはっきりと分かるレベル
では実際に製品を見ていこう。スリーブを外して箱を開封すると透明な袋に包まれた本体が姿を現わす。本体の下にはUSBケーブルが封入されており、さらに電源の入れ方や製品保証について記された各国語版の小冊子2冊も封入されている。詳しい取扱説明書が本体内にデータとして保存されている点や、AC変換アダプタが同梱されない点も含め、従来とほぼ同じ仕様だ。
画面サイズが同じ6型なのに本体サイズが小さくなっているというのは、つまりべゼルの幅が狭くなったということだ。事実、横に並べて比べてみても、左右の幅はすぐに分かるほどスリムになっていることが分かる。
ただしこれは、従来モデルが特に大きかったのが、本製品ではようやく標準的なサイズになったというだけなので、両方のモデルを持ち比べなければ、そこまで如実に小型化を実感することはない。とくに厚みについては、薄型のKindle OasisやKindle Voyageを普段から使っていると、それほどのインパクトは感じない。ユーザーの使用経験でかなり印象が変わる部分だろう。
一方の軽さについては、これは手に持ってはっきりと分かるほど違いがある。なにせ従来モデルと比べて約30g、Kindle Paperwhite比だと約50gも軽量化されているので、これらのモデルを実際に使っていた人からすると、手に取った段階で「お、これは軽い」と違いをはっきりと感じられるのは当然だ。
ちなみにKindle Paperwhiteと比べた場合の違いとしてもう1つ挙げられるのが、質感の違いだ。写真ではなかなか分かりにくいが、本製品はKindle Paperwhiteのように背面を中心にした滑り止め加工が施されておらず、プラスチック感が非常に強い。そのぶん指紋がつきにくいのはメリットなのだが、静電気を帯びやすいのかホコリが付着しやすかったりと、一長一短という印象だ。ただ従来モデルに比べるとチープさはかなり緩和されており、従来モデルは気になったという人でも、今回のモデルは多くの人が許容範囲と判断するのではないかと思う。
従来モデルと変わらぬ設定手順と画面。タッチへのレスポンスも良好
セットアップの手順および画面は従来モデルと大きな変化はない。ホーム画面のデザインや操作方法やついても同様だ。試しに従来モデルも初期化して再セットアップを行なったが、違いは見出せなかった。
ホーム画面のレイアウトは、最近ダウンロードした本や開いた本が左側に、サンプルコンテンツやほしい物リストに登録済みの本が右側に、そしておすすめが下段に表示されるといった具合に、Kindle Oasisの発売にともなってリニューアルされた新デザインそのままで、本製品ならではの違いはない。ざっと見た限りで異なっているのは、後述するVoiceViewまわりの項目が設定画面に追加されていることくらいだ。
ところで従来の第7世代Kindleと言えば、タップやスワイプに対するレスポンスの速さが1つの特徴だった。これはCPUなどのパワーが突出して高いわけではなく、E Inkパネルの解像度が低いぶん高速な書き換えが行なえるというだけの話なのだが、同じ解像度、かつE Inkパネルも同じPearlを採用した本モデルもこの特徴を継承しており、タップおよびスワイプともに高速なレスポンスを実現している。
今回は新旧のモデルを左右に並べて同じ操作を行なってみたが、レスポンスの差はまったく感じられなかった。海外の情報を見ると、どうやら内蔵メモリは従来モデルから倍増しているらしいのだが、体感速度では違いは感じられない。このほかパネルの色の濃淡も見分けがつかないほどで、パネルのロットまで同じと言われても信じてしまいそうなほどだ。余談だが、コミックで画面全体がリフレッシュする間隔も6ページ単位と、従来モデルとまったく同じだ。
テキストは文字サイズ「3」以上を推奨。コミック表示には難あり
さて、本製品の購入を検討する人にとって、もっとも気になるのはやはり画質だろう。ここでは本製品に加え、従来モデルに当たる第7世代のKindle、さらにKindle Paperwhiteと画質を比較してみよう。Kindle Paperwhiteは現行の300ppiのモデルだけでなく、212ppiの初代モデルも比較に加えている。
比較するコンテンツはこれまでと同様、テキストは太宰治著「グッド・バイ」、コミックはうめ著「大東京トイボックス 1巻」で、画像はいずれも以下の並び順である。パネルの濃淡の差はおもに撮影時に生じたものなので、参考にせず無視していただきたい。
・上段左=本製品(第8世代、167ppi)
・上段右=Kindle(第7世代、167ppi)
・下段左=Kindle Paperwhite(初代モデル、212ppi)
・下段右=Kindle Paperwhite(現行モデル、300ppi)
まずテキストについては、標準である下から3段階目のサイズで表示する分には、特に読みにくいこともなく、十分に実用的だ。しかし1つ小さい2段階目のサイズにすると、明朝体の横棒など細い線がかすれ始め、300ppiのモデルとの違いは一目見て分かるレベルになる。テキストコンテンツを読む場合は、なるべく標準設定の3段階目よりも上のサイズで表示するとよいだろう。
コミックについては、解像度不足で細い線をうまく表現できず、元の線より太く表示されることで細かいディティールが失われてしまったり、斜め方向の線はギザギザになったりと、テキスト以上に差が出やすい。このあたりは筆致によっても違いがあり、あまり線が緻密でない作品はまったく気にならなかったりもするのだが、実際に読書をする際に作品ごとに端末を変えるのが難しい以上、コミック中心に読書をするのであれば、解像度が高いほかの製品をチョイスするのが無難だろう。
言語を英語に設定すればBluetooth連携による音声読み上げが利用可能
以上のように、本体の小型軽量化を除けば従来そのままの製品、というのがざっと使ってみた評価なのだが、実は本製品には、言語設定を英語にした場合のみ利用できる新機能がある。それはVoiceViewスクリーンリーダー、いわゆる音声読み上げ機能だ。
これはBluetoothオーディオを用いることで、メニューやコンテンツの音声読み上げができるというもので、いわゆるアクセシビリティに分類される機能だ。現時点では日本語の音声データが用意されていないためデフォルトでは無効化されており、Amazon.co.jpの製品ページからも記載が省かれているが、米Amazon.comの製品ページでは「Accessibility Features」の項に機能の存在が明記されており、本製品でも設定画面から言語を英語(USまたはUK)に変更することで利用できる。ちなみに本製品同梱のユーザーガイドにも一通り説明がある。
実はこの機能、ソフトウェアアップデートでKindle Paperwhiteでも先日から利用可能になっていたのだが(こちらも同様に英語のみ)、こちらは別売のオーディオアダプタを追加する必要があった。本製品はBluetoothを内蔵しているため、オプションなしでの出力を可能としているのが利点だ。今回は筆者手持ちのBluetoothイヤフォン「Plantronics BackBeat GO」で試してみたが、問題なく接続できた。手順についてはスクリーンショットを参考にして欲しい。
ちなみに本機能をオンにすると、操作方法が変化する。具体的には、画面の任意の位置をタップするとそのボタンの内容が読み上げられ、ダブルタップすることで初めて選択したと認識されるようになる。つまり通常は「シングルタップ」で済むところ、「シングルタップ+ダブルタップ」を行なって初めて同じ操作になるのだ。ちなみにシングルタップせずにいきなりダブルタップする操作には「ホーム画面に戻る」という挙動が割り当てられており、どの画面からでもいきなりホーム画面に戻ってしまう。
このように、本機能はあくまでアクセシビリティ向上を目的としたもので、いわゆるオーディオブックやポッドキャストのように、音声で読み上げている位置を画面上で反転表示したり、任意の位置で一時停止して再びそこから再生するといった、目で画面を追いながら耳でも情報を得る使い方は考慮されていない。そもそもコンテンツが読み上げに対応していなければ、メニューの読み上げができても意味がないわけで、日本語コンテンツの音声読み上げが難しい以上、この機能が日本国内で利用できるようになる可能性は、かなり低いと考えられる。
とは言え、原価の上昇を招くBluetoothのモジュールをわざわざ内蔵していることに加え、機能を完全に非表示にせず、どのように設定すれば使えるかをわざわざ説明してあることからして、一部のコンテンツに限定するなどして国内でもお目見えする可能性はなくはない。同じAmazonのコンテンツで言えば、それこそAudibleなどと連携することも可能だろう。今後なんらかの形で活かされることを期待したい。
入門用としては最適な製品。今後のKindle Paperwhiteの進化にも注目
以上のように、解像度の低さゆえ利用可能なコンテンツに制限はあるものの、「ページめくりが我慢できないくらい遅い」、「頻繁にフリーズする」など致命的なマイナスは皆無で、また価格が安いこともあいまって、電子ペーパー端末の入門用としては最適な製品と言える。重量が軽いというアドバンテージもあり、コンテンツの制限さえ許容できれば、新規ユーザーにはおすすめできる製品と言えるだろう。
では既存のユーザーにとってはどうかというと、従来モデルとの違いは実質的にサイズと重量のみで、上位モデルと比べた場合はフロントライトのないハンデがあることからも、既存ユーザーの買い替え対象とはなりにくい。個人的には、解像度をせめて初期のKindle Paperwhiteと同等の212ppiまで向上すれば、多少の買い替えニーズはあると感じるが、167ppiと212ppiの画質差はそう露骨にあるわけではないし、何よりいまの実売価格を維持できなくなるのであれば、現状の仕様を維持する判断は妥当だと思う。
むしろ気になるのが、本製品の登場によって約50gもの重量差を付けられた、上位モデルのKindle Paperwhiteの存在だ。いかに高解像度のパネルやフロントライト装備というアドバンテージがあっても、下位モデルにこれだけの重量差をつけられるのは厳しいものがある。早ければ年内にもあり得るかもしれない次回以降のモデルチェンジで、Kindle Paperwhiteがどのように進化するかにも注目したい。