山口真弘の電子書籍タッチアンドトライ

見開き読書に適したAndroidタブレット ファーウェイ「MediaPad T3 10」

~9.6型ながら1万円台で入手可能

ファーウェイ「MediaPad T3 10」。筐体カラーはスペースグレーのみ

 ファーウェイ「MediaPad T3 10」は、9.6型のAndroid 7.0搭載タブレットだ。Wi-Fiモデルで1万円台後半、LTEモデルでも2万円台前半で入手できる、コストパフォーマンスの高さが大きな特徴だ。

 電子書籍でコミックを楽しむにあたり、見開き表示が可能であることは重要なポイントだ。筆者個人は8型前後の画面サイズがあれば見開き表示を楽しむには充分だと思うが、9~10型のサイズは譲れないという人も少なくないだろう。

 9~10型のタブレットの代表格としては、iPadシリーズのほか、本連載でも以前紹介したASUSのZenPad 3S 10が挙げられるが、ローエンドのモデルであっても4万円前後とそれなりに高価なので、コスパ重視であれば実売29,980円のAmazon「Fire HD 10」なども候補となる。もっとも、Fireシリーズは基本的にAmazonのコンテンツ専用であり、電子書籍は実質Kindleストアしか利用できないため、それ以外のストアを使うユーザからすると選びにくい。

 こうした場合に候補の最右翼に上がるのが、今回紹介する「MediaPad T3 10」だ。

 9.6型という、従来のiPadシリーズと同等の画面サイズでありながら、圧倒的なコストパフォーマンスを実現している。前出のFire HD 10の半額とまではいかないものの、価格差は1万円を超える。Fire HD 10にはない汎用性をこの価格で入手できるのは、大いに魅力的と言って良いだろう。

 今回はこの「MediaPad T3 10」を、主にFire HD 10と比較しながら、電子書籍ユーザの目線で使い勝手をチェックしていく。アプリのラインナップや設定画面、ベンチマークなどについてはすでに掲載されている本製品のLTEモデルのレビューを参考にしていただきたい。

製品外観。横向きにした際にインカメラが上部に来るようレイアウトされている
縦向きにした状態。左右のベゼル幅は等しいことから、ロゴさえ気にしなければ大きな違和感はない
左側面にはイヤフォンジャック、microSDスロット、Micro USBコネクタを備える
右側面には音量調整ボタン、電源ボタンを備える。音量調整ボタンが横向きにした時に側面に来るようレイアウトされているのは、このクラスのタブレットとしては珍しい
底面にはモノラルスピーカーを備える。ほぼおまけといった仕様で、音楽や動画を楽しむ場合はイヤフォンやヘッドホンを使うべきだろう
背面。リアカメラが背面とフラットなのは好印象だ
microSDはSIMカードスロットのように細長いピンを使って開ける構造。頻繁な入替えには不向きだ

Fire HD 10の左右幅を切り詰めたボディ。スペックはエントリークラス

 まずは競合製品との比較から。Fire HD 10のほか、今春に発売されたiPad(第5世代)のスペックも参考までに掲載する。

製品MediaPad T3 10Fire HD 10(第5世代)iPad(第5世代)
発売2017年6月2015年9月2017年3月
サイズ(幅×奥行き×高さ、最厚部)229.8×159.8×7.95mm262×159×7.7mm240×169.5×7.5mm
重量約460g約432g約469g
CPUQualcomm MSM8917(4コア、1.4GHz×4)4コア、1.5GHz×2、1.2GHz×264bitアーキテクチャ搭載A9チップ、M9コプロセッサ
メモリ2GB1GB2GB
OSAndroid 7.0Fire OS 5iOS 10
画面サイズ/解像度9.6型/1,280×800ドット(157ppi)10.1型/1,280×800ドット(149ppi)9.7型/2,048×1,536ドット(264ppi)
通信方式IEEE 802.11a/b/g/nIEEE 802.11a/b/g/n/acIEEE 802.11a/b/g/n/ac
バッテリ持続時間(メーカー公称値)非公開(バッテリ容量4,800mAh)8時間最大10時間
スピーカー1基2基2基
microSDカードスロット○(最大128GB)○(最大200GB)-
価格(発売時)18,800円前後29,980円(16GB)/32,980円(32GB)37,800円(32GB)/48,800円(128GB)
※すべてWi-Fiモデル
Fire HD 10(下)との比較。アスペクト比は同じ16:10だが、本製品は9.6型、Fire HD 10は10.1型とサイズが異なるほか、カメラの位置も異なっている
両製品を重ねたところ。ちょうどFire HD 10の端を3cmほど切り詰めたサイズ
厚みの比較。左が本製品、右がFire HD 10。ほぼ等しいことがわかる
ホーム画面。ファーウェイ独自のEMUI 5.1を採用しており、インストール済みのアプリはiOSと同様、すべてホーム画面に並ぶのが特徴

 本製品とFire HD 10は、ともに解像度は1,280×800ドットだが、本製品は9.6型、Fire HD 10は10.1型ということで、画面サイズは本製品のほうがひとまわり小さい。しかし筐体サイズについては、上下の高さにほぼ差はなく、左右の幅は本製品が約3cmほど短くなっている。

 というのも、本製品は横向きでの利用時に前面カメラが上部に来るよう配置されているため、一般的なワイドサイズのタブレットに比べて、上下の高さがあるからだ。

 その結果、画面サイズが異なるにも関わらず、Fire HD 10とは上下の高さがほぼ同等で、横幅だけを切り詰めたような筐体になっている。縦横比だけ見ると、iPadのようなアスペクト比4:3のタブレットに近いのが面白い。

 OSはAndroid 7.0だが、同社独自のEMUI 5.1を採用しており、インストールしたアプリがすべてホーム画面に並ぶ(=アプリの一覧を表示するドロアーがない)など、素のAndroidとは若干異なる作りになっている。もっともAndroidベースながらGoogle PlayストアをサポートしないFire OSとは違い、こちらはGoogle Playストアにも対応している。

 メモリ容量は2GBと、Fire HD 10の1GBに比べると多いが、最近はメモリ3GBの製品も増えつつあるので、特別多いというわけではなく、標準的なスペックということになる。仕様面ではこのほか、スピーカーが1基のみであること、またWi-Fiは11acが非対応、メモリカードは最大128GBまでしか対応しないなど、エントリーモデルらしい仕様がいくつか見られる。

 このほか、バリエーション上の相違点として、Fire HD 10は16GBモデルに加えて32GBモデルが用意されているが、一方本製品では、LTEモデルが用意されていることが挙げられる。外出先での利用を考えている場合は、数千円プラスで入手できるLTEモデルの存在は、アドバンテージになるだろう。

意外にズッシリ感じるボディ。光沢が強く保護シートは必須

 製品を手に取って最初に感じるのは、意外とズシリとしているということだ。数値上はFire HD 10との重量差は28gと極端な差はなく、また厚みも0.25mmしか違わないのだが、本体がひとまわりコンパクトなため、そう感じやすいのかもしれない。

 また筐体にアルミ合金を採用していることもあり、手に取るとひんやりとしているのも特徴だ。Fire HD 10のような樹脂製ではないので、価格から予想されるようなチープさはまったくない。

 ただし画面については、画面の反射はかなり強く、また指紋が非常につきやすいので、保護シートは必須と言って良いだろう。視野角などはとくに問題は感じない。

 セットアップは一般的なAndroidの手順をベースに、ファーウェイならではの選択項目がいくつか追加されているため、全体的なフローはやや長めだ。プリインストールアプリは少なめだが、Microsoft Office Mobileがインストールされており、ビジネス上のニーズも意識している様子がうかがえる。

アスペクト比は16:10だが、カメラが上部に配置されているため、筐体は横に細長いという印象はなく、むしろiPadの縦横比に近い
Microsoft Office Mobileがインストールされており、オフィス関連のドキュメントや簡易編集に対応する

解像度はFire HD 10と同等、処理性能は本製品に軍配

 さて、本製品を電子書籍用途で使うにあたってチェックが必要なのは、反応が十分に高速か、そして解像度が必要十分か、大きくこの2点に集約されると言って良いだろう。

 まず動作については、ページめくりなど電子書籍の主要操作においては、特に支障は感じられない。ただしブラウザで長い距離をスクロールする際は、処理が追いつかないのか、若干の引っかかりを感じることはある。

 そのため、電子書籍ストアを開いて多数のサムネイルを読み込みつつスクロールしたり、またコミックなどで目的のページを探して早いスピードでパラパラとめくる場合は、ハイエンドのタブレットとはどうしても差を感じがちだ。このあたりは価格相応といったところで、5点満点とすると3~4点といったところだろうか。

 ただ、ベンチマークソフト「Quadrant Professional Ver.2.1.1」でFire HD 10と比較する限り、本製品のほうがスコアは明らかに上だ。比較対象のFire HD 10は2年前の製品である上、またFire HD 10はハングアップしているのかと勘違いするほど処理に時間がかかることがあり、実際に使っていても本製品のほうがストレスは圧倒的に少ない。

 前述のスクロールのように、瞬間的に負荷がかかる操作は苦手だが、トータルでは本製品のほうが圧倒的に上ということになるだろう。

Quadrant Professional Ver.2.1.1ベンチマーク結果
製品名MediaPad T3 10Fire HD 10(第5世代)
OSAndroid 7.0Fire OS 5
Total11,5028,190
CPU37,02328,346
Mem7,8156,429
I/O10,0123,241
2D500505
3D2,1642,428

 続いて解像度について見ていこう。本製品の解像度は157ppiということで、300ppiを超えるiPad mini 4と比べると表現力の差は一目瞭然だが、Fire HD 10と比べた場合はほぼ同等で、見た目の差も感じられない。詳しくは以下の写真で確認してほしい。

 比較写真での各製品の並び順は以下のとおり。なおサンプルは、コミックはうめ著「大東京トイボックス 10巻」、テキストは太宰治著「グッド・バイ」を用いている。

上段左: 本製品(9.6型/1,280×800ドット/157ppi)、上段右: 第5世代Fire HD 10(10.1型/1,280×800ドット/149ppi)、下段左: BLUEDOT BNT-791W(7.9型/1,024×768ドット/163ppi)、下段右: iPad mini 4(7.9型/2,048×1,536ドット/326ppi)
コミックの比較(見開き)。右下のiPad mini 4を除く3製品はほぼ同じ解像度ということもあり、細い線が太ったり、その結果として細部の描写がつぶれがちな点は共通している
テキストの比較。こちらも右下のiPad mini 4を除く3製品は似たり寄ったりで、解像度の低さが目立つ。もっともコミックと違い、テキストコンテンツはフォントサイズの変更で対応できるため、それほどクリティカルな問題にはならないと考えられる
Fire HD 10(下)とのページサイズの比較。前述のように本製品のほうがひとまわり小さいため、ページの表示サイズもひとまわり小さい
1万円を切る8型タブレットとして前回紹介したBLUEDOT「BNT-791W」(下)とのページサイズの比較。アスペクト比4:3と電子書籍向けだったBNT-791Wと異なり、本製品は16:10のワイド比率だが、画面のサイズそのものが大きいため、ページの表示面積はBNT-791Wよりも一回り大きい

 ちなみに電子書籍と直接関係はないが、スピーカーがモノラルであることは、本製品の大きなウィークポイントだ。本製品のスピーカは底面中央の1カ所だけなので、クッションの上など本体が沈み込むような場所に本製品を立てて置くと、音がまったく聞こえなくなることもある。

 上位モデルとの差別化要因なのだろうが、音楽や動画を楽しむためには、スピーカやイヤフォンが必須になると考えたほうが良さそうだ。

Bluetoothリモコンを用いて画面に触れずページめくりが可能

 さて、前回iPad Pro 12.9型のレビューのさいに、Bluetoothリモコンを使って画面にタッチせずに電子書籍のページをめくる方法を紹介した。今回は本製品を例に、AndroidタブレットにBluetoothリモコンを組み合わせてページめくりを実現するための設定方法を紹介しよう。

 もっとも、iOSのようにアクセシビリティ機能を駆使するような複雑な設定は必要ない。というのも、Android向けの電子書籍ビューアの多くは、端末の音量調整ボタンでページをめくる機能が実装されているため、音量調整機能があるBluetoothリモコンを用意すれば、それだけで前後のページめくりが行なえてしまうのだ。

 それゆえ、設定の方法としては、電子書籍ビューアの側で「音量調節ボタンでページめくりを行なう」などの設定項目をオンにし、あとはBluetoothリモコンをペアリングしさえすればよい。KindleやKoboなど、これら機能をサポートするアプリであればすぐに利用できるので、ぜひ試してみてほしい。

前回も紹介したエレコムのBluetoothリモコン「JC-VRR01」。側面に音量大キーと音量小キーがある
まずはBluetoothでペアリングを実行する
電子書籍ビューアの側で、音量調節ボタンを使ったページめくりを許可する。これはKindleの設定画面
リモコンの音量調節キーを使い、画面に触れずにページめくりが行なえる
Bluetoothリモコンを使い、画面に触れずにページめくりを行っている様子。音量調整ボタンをそのまま使うため、リモコン側のボタンのレイアウトを変更できないのが玉にキズ

ワンランク上の性能を求めるなら上位モデルという選択肢も

 以上、ざっと見てきたが、Fire HD 10をライバルと考えた場合、性能は必要十分で、理想的な汎用タブレットだと言える。価格についても、同じ16GBモデルがFire HD 10より1万円安価に入手できるため、コストパフォーマンス重視の人にもおすすめできる。

 ただし前述のように、解像度や処理速度はエントリーモデルの域を出ないため、長く使う上でそれらに不安を感じる場合は、本製品の上位モデルに相当する「MediaPad M3 Lite 10」をチョイスする手もある。

 こちらは解像度はフルHDでスピーカーを4基搭載、CPUはオクタコア、メモリは3GB、Wi-Fiは11ac対応と、あらゆる面で本製品よりもワンランク上でありながら、価格は2万円台後半と、Fire HD 10とほぼ同等の価格で入手できる。約1万円の価格差が問題なければ、あわせてチェックすることをお勧めしたい。

 なお今回比較対象としたFire HD 10は、2016年、2017年とモデルチェンジが見送られており、現在2015年9月にリリースされた第5世代モデルが継続販売されている。今後9~10型モデルが継続されるかは未知数だが、ある日突然新モデルが登場する可能性はある。Fireシリーズのコンセプトに魅力を感じる人は、その点も考慮しつつ判断したほうが、納得のいく選択ができることだろう。