山田祥平のRe:config.sys

Windows 8時代のノートPC選び




 Windows 8の発売を目前に控え、各社の新機種発表会ラッシュが続いている。各社ともに、年末商戦を勝ち取ろうと躍起になっているが、ユーザーの立場に立って考えると、このホリデーシーズンのPC選びはとても難しいとも感じる。

●IntelとMicrosoftの足並み

 この原稿を書いている時点で、多くのベンダーからWindows 8に合わせた新機種の発表が終わっているが、このあとも数社の発表が残っている。いずれも発売日は10月26日以降となる。

 ズラリとそろったラインアップは選択肢として実に豊富だ。先日、パナソニックから新しいビデオレコーダーの発表があって、ちょっと心が動いたのだが、値段を見てちょっとショックを受けた。それに比べれば最新PCは十分安くなってきていて、いい時代になったと思う反面、関係各社は大変だとも思う。

 このタイミングのハードウェア選びが難しいのは、MicrosoftのWindows 8登場のタイミングと、Intelのプラットフォーム刷新のタイミングが微妙にズレているからだ。ご存じの通り、IntelはHaswellこそが次世代のプロセッサであるとし、Windows 8も、この新しいプロセッサと組み合わせてこそ最大限に生きるとしているが、その登場は来年後半になってしまうだろう。タイミングとしてはWindows 8も落ち着いたころで、ちょうどいいという考え方もあるのだが、今、どうしてもPCを買い替えたいというニーズには微妙なタイミングだ。

 ちなみに18日は、2社からWindows 8搭載の興味深いタブレットが発表された。1台は日本HPの「ElitePad 900」で、もう1台はレノボの「IdeaTab K3011」だ。どちらもAtom Z2760、つまり、Clover Trailプラットフォームで実現された製品だ。新しいもの好きとしては、枯れようとしているIvy Bridgeよりも、こちらの方に食指が動くという層も少なくないのではないだろうか。

 双方ともに、700gを少し切る程度の重量で、かなり軽い印象を受ける。ただ、重量の点だけを考えたら、今、Bluetoothのモバイルキーボードが300gを切っているものが、それなりにタイプもしやすく可搬性もあるので、それと組み合わせることを考えたら900gを超えてしまう。ちなみにNECのLaVie Zは875gだ。タッチスクリーンは持たないが、13.3型の大きなスクリーンと、しっかりしたキーボードを合わせた環境がこの重量で持ち歩けることを考えると、また悩んでしまう。

●タッチは本当に必要か

 今、悩むのは、タッチスクリーンを持つハードウェアを選ぶかどうかだろう。タッチスクリーンがあるというだけで100gは重くなってしまうことを考えると、LaVie Zのようにタッチスクリーンをあきらめるというのも1つの判断だ。

 個人的には現時点でのWindows RTにはまったく興味がない。というのも、使って便利、あるいは楽しいアプリがまだないからだ。もし、優れたハードウェアでRT環境を手に入れたとしても、スマートデバイスとしてはまだあまり役にたたない。それならAndroidやiOSデバイスの方がまだいい。少なくとも今日の時点の話だ。だから、たとえタブレットとキーボードを組み合わせるなら、例えAtomであってもIntelアーキテクチャの方を選ぶだろうと個人的には思う。

 でも、今、タッチスクリーンを持たないデバイスを選んでしまったとき、1年後に不便な思いをしているかもしれない。後付けできる装備ではないので、欲しいと思ったときにないと困るのだ。いくらなんでも1年もすれば、モダンUIのアプリはそれなりに揃っているだろうから、これも悩みどころだ。

 変わってきているのはPCのライフサイクルだということも重要なポイントだ。ちょっと前までは3年くらいは使って当たり前というイメージだったが、今はそれが少し変わりつつある。モバイルPCの多くは、バッテリの交換ができないので、2年程度酷使するとバッテリもずいぶんへたってしまうはずだからだ。

 例えば、パナソニックの「Let'snote AX2」は、バッテリパックのホットスワップができる希有な製品だが、本体内蔵バッテリだけでも約3.5時間分が確保されている。素人的に考えれば、ホットスワップできるのだから、本体内蔵バッテリは交換に必要な時間として10分間ももてば十分だと思うのだが、内蔵バッテリの経年によるへたりを考えると、怖くてとてもそんなことはできないと関係者から聞いた。

 こうしたことを考えると、モバイルノートPCの寿命はバッテリの寿命に依存するようになり、バッテリがへたってしまったころに、内蔵バッテリを修理交換するくらいなら、新しいPCを手に入れようということになってしまいそうだ。

●情報の生産と消費のバランス

 このタイミングで、少しでもいい買い物をしようというのなら、ディスコンになりそうな最高スペックのWindows 7機を探し、底値で購入するというのも1つの手だ。そして、それを必要なら自分でWindows 8にアップデートする。プリインストールされているOSが一世代古いだけで、プラットフォームとしては新製品群とそれほど大きく変わるわけではない。今回のWindows 8は、ハードウェア要件的にもWindows 7と同等なので、失敗したと思うことはないだろう。

 実際、今、デスクトップPCとノートPCでWindows 8を使うようになって、まだ、タッチスクリーンの必要性を感じていない。アプリケーションがないからだ。単に大きなフルスクリーンスタートメニューくらいのイメージで作業している。本当にタッチが欲しいと思ったときには、外付けのタッチスクリーンディスプレイを1台追加すればいいんじゃないかなといったくらいの段階だ。

 でも、そんなことを言っていられるのも長くて1年くらいだろうか。来年(2013年)の今頃は、タッチもできないスクリーンなんて役にもたたないと言っているかもしれない。

 Windows 8は、情報の生産と消費をバランスよく共存させたOSだ。そして、双方がもう片方を邪魔することがないように考えられている。メタファとしては、新しいスタートスクリーンにデスクトップがぶらさがっているが、実際にはデスクトップにスタートスクリーンがぶらさがっている。ちょうど、Windows 7までのツリーが、デスクトップをルートにコンピュータやドライブがぶらさがっているように見せかけられていたのに似ている。

 さらにいうなら、情報の生産はファイルオブジェクトから、情報の消費はアプリオブジェクトからといったところだろうか。アプリに関連付けされたファイルを開く限り、スタートメニューでプログラムを探す必要がないことをしっかりと思い出してほしい。逆に、TwitterをFacebookをと、情報の消費に走るならアプリを探す。そのための大きなスタートスクリーンだ。そういう意味では、Chicagoこと、Windows 95以来、15年以上かけてもとけなかったスタートボタンの呪縛から、ようやく逃れることができようとしているのかもしれない。

 新しいコンピューティングが来週スタートする。よりどりみどりの各社自慢の最新機種を、厳しい目で物色すれば、賢い買い物ができるはずだ。