■山田祥平のRe:config.sys■
NTTドコモが「ドコモ電話帳」と「ドコモメール」のサービス開始を発表、そのクラウド化が実現される。新製品発表の影に隠れてあまり話題になっていないようだが、その方向性は、今後のキャリアメール、そしてモバイルナンバーポータビリティ(MNP)の存在に大きな影響を与えそうだ。
●電話帳の呪縛MNP制度のおかげで、ユーザーは自分の携帯電話番号を持って、どのキャリアにも移れるようになった。だが人質が1つある。それがキャリアメールアドレスで、これだけはキャリアを変わると喪失してしまうことになる。長い間、慣れ親しんだキャリアメールアドレスを変更するためには、多大な努力が必要だし、それを嫌うユーザーが多いのもうなづける。
今回のドコモによるクラウドサービスの新機軸は、電話帳サービスとメールのクラウド化だ。
まず、電話帳サービスのクラウド化では、サービス名が「ドコモ電話帳」となり、電話帳データは基本的にクラウド側に置かれることになる。また、自分のプロフィール情報を変更した際に、電話帳に登録している連絡先に、一斉に電話帳変更お知らせを通知できるといった機能が使えるようになる。これによって、日常的に使うメールアドレスを、キャリアメールからGmailなどに変更するための障壁も一気に小さくなるかもしれない。
ユーザーにとって、電話番号と紐付いた特定のメールアドレスを使って、特定の端末だけで読み書きができるメールアドレスよりも、どんな端末でも読み書きできるGmailのような汎用インターネットメールアドレスの方が便利なのは明らかだ。
ちなみに、クラウド側で預かってもらえる電話帳の保存容量は50MBで、料金は無料、11月にサービスインするという。また、2013年2月の予定でPCなどからの閲覧や編集も可能になるそうだ。
●メールアドレスの呪縛さらに、ドコモはspモードメールも刷新する。SPはスマートフォンの頭文字をとったもので、いわゆるiモードメールのスマホ版だ。
まず、名称が「ドコモメール」となり、基本的にメールはクラウド側にすべて保存されるようになる。保存容量は1GBで、それを超えた場合、古いメールから順次削除されていくという。2013年1月のサービスインで、こちらも利用料金は無料だ。
肝は、「ドコモメール」がマルチデバイスを指向したものである点だ。
従来のspモードメールは、電話番号とメールアドレスが1対1で紐付けられていた。ドコモの場合、電話番号はUIMカード、いわゆるSIMによって決まり、そのSIMを装着した端末でのみ、自分のspモードメールを扱うことができていた。
今回のサービス刷新により、マルチデバイスグループ設定ができるようになり、ドコモショップなどへの申請によって、ある番号を親番号にして、最初は追加の1個の電話番号、将来的には最大10個の電話番号を、1つのメールアドレスに紐付けることができるようになるという。また、電話帳サービス同様、PCなど、電話番号を持たない端末からの読み書きもできるようになるそうだ。もちろん、送信するメールのFromは、ドコモメールからのものとなる。
●携帯電話版のDNSが始動つまり、今回の新生「ドコモメール」によって、まず、ユーザーは自分が日常的に使っている、どのドコモ端末でも読み書きできるようになる。これによって、タブレットなど、2台目、3台目のデバイスを購入しても、継続的に自分のメールアドレスを維持管理しやすくなるはずだ。
さらに、PCなど、電話番号を持たない端末での読み書きができるようになるということは、他キャリアの端末でも読み書きができるようになることを意味する。これは大きな進化だといえるだろう。
たとえば、今、ドコモのスマートフォンで、spモードメールを使っているユーザーがいるとしよう。そのユーザーが、iPhoneに移行したいと考えているとする。でも、ドコモの端末ラインアップにはiPhoneがない。でも、ソフトバンクやauでiPhoneを新規契約し、それを使ってドコモメールを読み書きすれば、少なくともメールに関する心配はなくなる。まさか、ドコモがiOS用のドコモメールアプリを出すことはないと思うが、ウェブサービスが使えればそれでいい。
さすがに、親電話番号をMNPしてしまうと、そのメールアドレスはなくなってしまうだろうから、それはできない。ただ、ドコモの場合、電話着信の転送は通話料金の負担だけなので、契約を最低限のものにして、デバイスを凍結してしまい、着信した電話はすべて新しい電話番号に転送してしまうという方法も取れる。
そうして使っているうちに、クラウド移行した電話帳サービスによって、新しい電話番号が通知されていくようになれば、次第に転送ではなく、新番号への着信に切り替わっていくはずだ。いわば名前を解決するための携帯電話版のDNSだ。同じように、新しいGmail等のメールアドレスも伝搬させることができれば、ゆるやかに新しい環境への移行が完了する。それが完了した時点でドコモの端末を解約してしまえばいいわけだ。
これまでは、キャリアメールアドレスしか受け付けなかったようなサービスも、最近ではGmailなどのアドレスを許すようになってきている。もはや、キャリアメールアドレスを使い続けなければならない理由は希薄になりつつあるのだ。
●機械都合の記号に束縛されない新たな時代1つの電話番号=端末と紐付いたキャリアメールアドレスは、本人が本人であることを確認するための重要な手段だ。その状況が10年以上続いてきた。今、SNSの浸透や、今回のドコモ電話帳といった展開によって、その状況が終焉を迎える可能性もある。電話番号やメールアドレスといった記号は、機械の便宜のためのものであり、本人との紐付けは本人が自由にできてしかるべきだ。それは、インターネットにおけるIPアドレスとホスト名の関係にも似ている。
クラウドとの連携で、本人が紐付けを変えたとたんに、本人を知る他社の連絡先情報が書き換わるのであれば、もう、誰も、電話番号やメールアドレス、キャリアなどにこだわることはなくなるだろう。そういう意味で、今回のドコモの施策にはちょっと驚いた。ドコモは、これから、どこに向かっていくのだろうか。