山田祥平のRe:config.sys

PCのディスプレイがTVと同じで良いはずがない

 ブラウン管の時代には、コンピュータのディスプレイはTVと同じ縦横比4:3と相場が決まっていた。今、TVは16:9となりコンピュータもそれに倣っている。誰もがそれでは使いにくいと分かっていながらだ。抜本的な解決策はないものだろうか。

画面の縦横比を考える

 先日、次のようなツイートをした。

 今、たまたま「VAIO S11」と「レッツノートSZ5」を同時に評価する機会に恵まれて、今週は、2装置をほとんど同じ環境にセッティングした上で、とっかえひっかえしながら使ってみている。ストレージの容量が少し異なるものの、PC的なスペックはほぼ同様で、どちらも最新のSkylakeプラットフォームだ。両機ともにLTEスロットを備えている。「VAIOオリジナル LTEデータ通信SIM」の「手間なし1年間プラン」は32GBで14,904円という料金体系だが、2年間、3年間のプランも用意されており、期間が長いほど割安になる。このSIMは専用のユーティリティソフトで高速通信、容量が減らない低速通信を切り替えることができるが、ユーティリティソフトはLet's noteでも問題なく使え、快適にデータ通信ができる。VAIOでは「PCのために設計された料金体系」としているが、まさにその通りで、使い勝手はとてもいいと思う。

 さて、併行して使っているマシンの大きな違いはその画面だ。VAIOは16:9、レッツノートSZ5は16:10の縦横比を持つ液晶を装備している。ともにタッチ非対応でノングレア。どちらの画面も非常に視認性が高い。特にVAIOの画面は輝度を落としても暗さを感じない。明るすぎてバッテリ消費が大きすぎるのではないかと思うくらいだが、そうでもなさそうだ。VAIO関係者はタッチ対応機がさっぱり売れないと漏らしていたが、こうして一般的なタッチ対応機と非対応機の視認性の違いを目の当たりにすると、それも分かるような気がしてくる。

縦方向ピクセルを占有するGUI

 さて、VAIOの商品開発チームの説明では、モバイルPCに特化して考えたときに、カバンの中での収まりの良さを考えて16:9のディスプレイを選んだという。それはそれで一理ある。その一方で、Panasonicのチームは16:9液晶だった先代のSXシリーズに対して、縦方向の解像度を増やした16:10を採用し、資料の閲覧をしやすくしたという。

 VAIOはともかくとして、PC各社に尋ねると、PCにおいて16:9の液晶を使うのは、まずコストの問題が最も大きいのだという。16:9以外の比率を採用すると、部品コストが割高になり、それをPCの価格に反映せざるを得なくなる。そして、16:9よりも16:10の方が、あるいはSurface 3以降のような3:2の方が使いやすいということは分かっているのだともいう。

 ちなみに、iPadは初代から頑固に4:3に固執している。これはこれで高く評価したい。レガシーなブラウン管ディスプレイと同じ比率だ。縦にしても横にしても使いやすい。最近のiOSではSlide OverやSplit Viewがサポートされるようになり、画面を分割して複数のアプリを同時に使えるようになっているが、1つのアプリをフルスクリーンで使う限り、この縦横比は王道であるとも言える。

 ご存知のように、WindowsはそのGUIを縦方向に拡張してきた。OS的にはタスクバーがデスクトップの下部に横たわり、アプリのウィンドウはタイトルバー、メニューバー、ツールバー、リボン、そしてステータスバーといったGUIの要素が縦方向のピクセルを占有する。どうしたって縦方向が足りなくなって、肝心のコンテンツの表示領域が圧迫されるのは明らかなのだ。かつてのネットブックが廃れてしまったのは、XGAに満たない1,024×600と、縦方向の解像度が足りなかったことも大きかったのではないだろうか。

 もちろん、各種バーを非表示にしたり、タスクバーを左右端に移動させたり、自動的に隠すような設定で多少は不便を解消することはできても、現在のアプリが扱う一般的なコンテンツでは、縦方向に余裕があった方が良いのは言うまでもない。

 それでは、縦型のディスプレイを持つモバイルノートPCはなぜ出てこないのか。前回は、変形キーボードを持つキングジムの「ポータブック」について書いたが、あの仕組みを利用すれば、縦長ディスプレイのノートPCもできそうだ。ただ、画面が縦長だと向こうに倒れやすくなってしまい、キックスタンドとまではいかないまでも、なんらかの支えが必要になるかもしれないが、そういう方向性もありだと思う。

 Windowsは、Windows 8.xでスクロールの概念を横方向に変革しようと試みた足跡があるが、あえなく玉砕したようにみえる。人々がいかに縦スクロールに慣れ親しんでいるかを証明した結果だ。ただ、最近日本語版が公開された「ユニバーサル Windows プラットフォームユーザー エクスペリエンスガイドライン」では、アプリのコマンドバーを、ウィンドウの上部または下部に置くように推奨している。これは、スマートフォンを縦方向で使うことを考慮してのことなのだろう。ところが、Windows 10の標準アプリである「Grooveミュージック」や、「マップ」、「天気」、「メール」、「カレンダー」などを見ると、コマンド要素は左側に置かれている。このあたりのチグハグ感はちょっと気になるところだ。

PCだからこそ画面に汎用性を

 今、ぼくらの身の回りには16:9の画面が溢れている。もっとも身近なものがTVだ。最近ではスマートフォンがそれに追従している。iPhoneだって16:9だ。これらの画面に表示されるコンテンツは、その縦横比にマッチすることを考えて設計されている。

 TVを縦位置で見ることはまず無い一方で、スマートフォンは縦位置で使うことがほとんどだ。コンピュータ的なデバイスとしてのスマートフォンがモバイルの王道として捉えられるようになり、Webページコンテンツも16:9縦位置に最適化されてデザインされるようになってきている。もはや、この最適化がないコンテンツはインターネット上に存在しないといっても良いくらいの状況になっている。

 そして冒頭のツイートに話を戻そう。ノートPCはもちろん、一体型などのデスクトップPCであっても、16:9液晶を使い続ける限り、どんなにがんばってもTVには勝てず、使い勝手でスマートフォンには勝てない。誤解を怖れずに言えば、PCが16:9液晶を使うのはコスト以外に意味がないのだ。

 PCはTVコンテンツの再生機でもないし、ポケットに入るコンテンツビューアでもない。もっと汎用的なパーソナルデバイスとしてPCを考えた時に、そこに求められるディスプレイのことを、もう一度考え直す時期に来ているのではないか。かつて、ワードプロセッサハードウェアとして一世を風靡したOASYSが、積極的に縦型ディスプレイを採用していたことを思い出して欲しい。

(山田 祥平)