山田祥平のRe:config.sys

Surface 3、その割り切りの潔さに一票

 アーリーアダプタに一巡し、タブレットの市場が落ち着いているという。そんな中でMicrosoftが世に問う「Surface 3」。MicrosoftはノートPCにもなる2-in-1として、これさえあれば何もいらないPCとしてアピールしたいようだが、実際のところはどうなのか。ほぼ1カ月使ってみてのインプレッションをお届けしよう。

誰もが知っているWindows

 Surface 3の画面解像度は1,920×1,280ドットで、その縦横比は3:2。縦にしても横にしても使いやすい。そのことは、同じ縦横比の「Surface Pro 3」でも同様だが、一回り小さな10.8型画面は、このピュアタブレットに機動性という大きな要素を付け加えた。ぼくはこの画面を200%にスケーリングして使っている。

 処理能力という点ではSurface 3 Proに及ばないかもしれないが、モバイルを前提に使うということを考えた時の、このサイズの取り回しやすさは、もっと理解されてもいいんじゃないかと思う。確かに公称で641gという重量は驚くような値ではない。モバイルOSを搭載した10型タブレットは今、400gを切るところまで来ているのだから、200g以上のハンディがある。だが、何と言ってもSurface 3は、フルWindowsが稼働する正真正銘のPCなのだ。

 歴代Surfaceの中で、黒歴史になろうとしている製品として、かつて「Surface 2」があったのを覚えているだろうか。Windows RT搭載のタブレットでWindowsのようでWindowsではなかったところに難があったわけだが、フォームファクタとしては優れていたと思う。10.6型画面のピュアタブレットとして、その重量は676gだった。Surface 3は、まさにSurface 2がやろうとして頓挫してしまった体験をもたらす製品だと言っていいだろう。

 やはり、Windowsという名前がある限り、誰もが知っている、そして使っているWindows PCとの完全互換性を持つことは、極めて重要な要素だ。ぼくはいつもポケットの中に小さなUSBメモリを携帯している。ファイルの臨時のやりとりのために備えてのものだが、その中には使い慣れた秀丸エディタや、Windowsを自分仕様に仕立て上げるためのいくつかのユーティリティを入れてある。いきなり新品のPCを渡されたとしても、そのUSBメモリがあれば、インターネットに接続できなくても、いつもの自分の環境をそこに構築することができ、いつもの環境にすれば、そのPCが使いやすいのかどうかを容易に判断できるし、ものの5分もあれば即戦力として使えるようにできる。逆に言うと自分環境がなければパソコン検定だって受からないだろう。情けない話だがそういうものだ。でもそれは、Windows PCだからこそだ。Surface 2ではそれは叶わなかったが、今、Surface 3が登場したことで、それが現実のものになった。

キックスタンドあってこそのSurface

 650g台の10型Windowsピュアタブレットが今までなかったわけじゃない。例えば富士通の「ARROWS Tab QH55/M」などは名機と言ってよかったと思う。でも、今、Surface 3はその上を行く。過去のAtomプロセッサ搭載機で感じられた性能不足も杞憂だった。

 フルWindows機ということで、誰もがこの641gのピュアタブレットにオールマイティさを期待してしまう。実際、その期待にしっかりと応えてくれる。例えば、オプションのタイプカバーを併用すれば、ノートPCのようにも使えるし、10.8型の画面は、大きすぎもせず、小さすぎもせず、機動性と快適性を両立させることに成功している。

 だが、タイプカバーを付けたとたん、Surface 3は、使いにくいノートPCに成り下がってしまう。重量も一気に900g近くになってしまいその魅力は半減する。なんと言ってもSurface 3はピュアタブレットとして使った時にこそ活きると思うし、そのピュアタブレットがキックスタンドによって自立するところにそのアイデンティティがある。歴代Surfaceを使って惜しいと思うのは、どうして縦置きのときにもキックスタンドが使えないのだろうと思うくらいだ。

 以前、パナソニックの「レッツノートRZ4」を評価した時に「画面付きキーボード」という表現をしたが、似たような言い方をするとSurface 3は「インテリジェント画面」だ。フルWindowsが稼働しているインテリジェントなディスプレイだと考えると、別の魅力が見えてくる。

 ぼくの場合なら、取材に使う唯一のノートPCとしては間違いなくレッツノートRZ4を持ち出す。キーボードと画面がしっかりと合体していて、あわただしい取材現場で膝の上に載せて使うにも不安がない。10.1型画面の機動性、そして重量も770gとSurface 3にタイプキーボードを装着した状態よりも軽い。

 だが、会議室や出張先のホテルなどに落ち着いてしまうと、RZ4では狭苦しさを感じてしまう。Windowsでやりたいことを欲張ってしまうのだ。そんな時に、RZ4の横にインテリジェントな第2の画面としてSurface 3を立てかけると、そこにいきなりデバイスをまたいだ新たなWindows空間が出現する。Surface 3が気付きを与えてくれて、RZ4でそれを処理することができるわけだ。クラウドの時代だからこその使い勝手だ。

 Surface 3に、あらゆるものすべてを求めるのは酷だ。まして、日常的に使う唯一のPCとしてこの製品を選ぶのはやめておいたほうがいい。

デバイスとサービスは別途購入できる

 Surface 3の不幸は、日本ではソフトバンクとの戦略提携によって企業向けはソフトバンクが、個人向けはY!mobileが売るということで、通信サービス込みでしか購入できないように思われている点にもある。確かにSurface 3はLTEモデム内蔵で、ワイモバイルには専用のプランも用意され、スタートキャンペーンなどもある。

 だが、通信サービス契約なしの単品購入もできるし、SIMロックフリーだから自分の常用している任意のMVNO SIMを装着して使うこともできる。もちろんWANを使わずにWi-Fiだけでの運用も可能だ。その場合のランニングコストはゼロになる。

 対応周波数は仕様として次の通りだ。

  • W-CDMA 2100(1)/1900(2)/850(5) /900(8)MHz
  • FDD-LTE 2100(1)/1800(3)/2600(7)/900(B8)/800(20)MHz

 国内においてはW-CDMAがバンド1と8、LTEが1、3、8となっている。国内MVNOは、そのほとんどがドコモのネットワークを使うため、MVNO利用の場合はドコモのプラチナバンドとも言えるLTE B19に対応していないのがネックとなる。もし、国内でLTEを使いたいならY!mobileを使うのがよさそうだ。

 その一方で、海外利用を想定して用意されている他のバンドは現地SIMを装着して利用することで威力を発揮する。今回、台湾の中華電信と中国のChina UnicommのSIMを装着して接続を確認した。両キャリアともにLTEで接続ができて、快適に通信ができた。

 やはり、タブレットに限らず、外に持ち出して使うスマートデバイスはそれ単体で通信ができるに越したことはない。モバイルルーターやスマートフォンのテザリングを使うよりも、圧倒的に簡単だ。場合によってはSurface 3そのものをルーターとしてテザリング利用することもできる。

 ただ、少なくとも手元の実機はWi-FiアクセスポイントとWANを行き来しているうちに、WANでの接続がうまくいかなくなり、モバイルデータ通信を一度オフにしたり、機内モードにしてから解除したりしても、どうしても繋がらず、再起動するしかないという現象が頻繁に起こるようだ。モデムハードウェアの通信制御の部分の最適化が不十分で起こっている不具合のように見えるが、これは、今後のファームウェアやドライバ等のアップデートで改善されることを期待したい。Wi-Fiのみ、WANのみで使っている分には特に問題は起こらないだけに残念だ。

日常のモバイル空間を拡張する魔法の板

 ハードウェア的に目新しいところとしては、充電端子が一般的なMicro USBになった点がある。これまでSurfaceは世代ごとに異なる充電端子を使ってきたが、今回のものはスマートフォンでも使われている汎用端子だ。添付されている充電用アダプタは5V/2.5Aのもので、標準USB端子を1つだけ装備する。そして、ちょっと太めのケーブルが添付されている。このケーブルをほかのケーブルに交換しても正常に充電されるようだ。

 となると、試したくなるのは汎用USB電源での充電ができるかどうかだ。色々試してみたが、かなり充電器を選ぶ。2A、2.5A、3Aなどの充電器で試したところ、充電できたりできなかったりと、異なるアダプタどころか、同じアダプタでも結果はまちまちだ。ケーブルを添付のものにしても結果は不定だ。

 でも、添付のアダプタを使えば確実に充電ができる。ただ、スリープにさえしておけば、速度は遅くても他のアダプタで充電できるようなので、出張などの際には汎用的なアダプタだけでも用が足りそうだ。とは言え、本体がスリープしているときに、充電中、充電完了などのステータスを知るLEDなどの装備がないため、不安ではある。朝起きて、持ち出そうとしたら充電ができていなかったということも起こるかもしれない。

 Surface 3は、2台目のデバイスとして使った時に、その力量をフルに発揮する。常に我慢を強いられる日常のモバイル空間を大きく拡張してくれるのだ。少なくともぼくは、今日は出先での作業が長くなりそうだなと思った日には、レッツノートRZ4に加えて、Surface 3をカバンに滑り込ませて持ち出すようになった。タイプカバーは持ち出さない。少しでも軽い方がいいからだ。キー入力が必要な作業はRZ4を使えばいい。同じモバイルルーターに接続すれば、「dokodemo」のようなユーティリティを使ってキーボードやポインティングデバイス、クリップボードを共有することもできる。こういうことができるのもフルWindows環境の強みだ。

 SIMロックフリーのWindowsピュアタブレットはほかのベンダーがなかなか手を出しにくい領域だ。SIMロックフリーのままで売るY!mobileの姿勢も高く評価したい。こうしたカテゴリこそ、Microsoftには、積極的に取り組んで欲しいと思う。

 今月末にはWindows 10の配布が始まる。Windows 8.1は現在、初期セットアップのプロセスでWindows 10アップデートの予約ができるようになっている。配布が始まったら、この部分はその場でアップグレードに差し替わり、最初からWindows 10が動くようになるのだろうか。

 Windows 10にはいろいろな期待が寄せられてはいるが、ピュアタブレットでの使い勝手は微妙な予感もある。特に16:9の横使いでは縦方向が短すぎて悲惨だ。3:2という縦横比は、もしかしたらWindows 10を想定したものなのかもしれないとも思えてくる。

(山田 祥平)