笠原一輝のユビキタス情報局
キーボードと合わせても887gのSurface 3は2-in-1の新しい選択肢
(2015/4/1 11:50)
MicrosoftはSurfaceシリーズの最新製品となる「Surface 3」を発表した(別記事参照)。
従来の「Surface RT」、「Surface 2」との大きな違いは、SoCがARMからIAのAtom x7に変更され、OSもWindows RTからWindows 8.1(64bit版)へと変更されていることだ。Surface RT/Surface 2では、WindowsデスクトップアプリはバンドルされているOffice 2013しか利用できなかったのに対して、今回のSurface 3ではWin32/ComのAPIを利用している一般的なWindowsデスクトップアプリが利用できる。
このSurface 3に搭載されているAtom x7だが、開発コードネームCherry Trailで知られている14nmプロセスで製造される製品で、大手PCメーカーがCherry Trail搭載製品を明らかにしたのは、このSurface 3が初めてとなる。
本記事ではそうしたSurface 3、さらにはAtom x7-Z8700に関しての解説と、ユーザーメリットについて考えていきたい。日本のユーザーにとってのSurface 3は、622gのタブレットとしてでなく、オプションのタイプカバーキーボードを組み合わせた887gの2-in-1型PCとして評価されることになると筆者は考えている。
Windowsデスクトップアプリが利用できる
Surface 3は、2012年10月に投入した初代SurfaceことSurface RT、2013年の10月に販売が開始されたSurface 2に次ぐ製品となる。Surface Proシリーズがビジネスユーザーをメインターゲットにしているのに対して、ProのつかないSurfaceシリーズは一般消費者がターゲットとなっている。
以下は、Microsoftの公式発表からまとめた、Surface RT、Surface 2、Surface 3をスペック表となる。Surface Pro 3のスペックも入れておいた。
従来モデルとの最大の違いは、CPUの命令セットアーキテクチャだ。Surface RTではNVIDIAのTegra 3、Surface 2ではTegra 4というARMアーキテクチャのSoCが採用されていた。このため、OSはWindows 8世代でもARM用位置付けのWindows RTが採用されていた。
Windows RTは当時のIAのCPUに比べて消費電力が低いARM SoCを利用するSKUとして用意されたが、Windowsデスクトップアプリケーション(Win32/ComのAPI向けに書かれたWindowsアプリケーションのこと)は利用できず、Modern Appsと当時呼ばれていたWindowsストアアプリだけが利用できた。厳密に言えば、プリインストールされているOffice 2013 RTだけは利用できていたのだが、それ以外のWindowsデスクトップアプリが利用できないという、下位互換性が重視されるWindowsプラットフォームでは大きな弱点を抱えていた。結局Windows RTはMicrosoftが考えていたほどは普及せず、ARM版のWindowsは1世代で消滅した。
Surface 3では、IntelのAtom x7-Z8700にSoCが変更されている。SoCの詳細に関しては後述するが、もちろんIntelのSoCであるため、命令セットはIAということになる。このため、OSがWindows 8.1となり、Windows 7で利用されてきたWindowsデスクトップアプリをそのまま実行できる。例えば、AdobeのAcrobat型式のファイルを閲覧したり、編集したりする場合に、Windows RTであれば、WindowsストアアプリのAcrobatリーダーないしはその類似ソフトしか利用できなかったが、Windows 8.1ではデスクトップアプリのAcrobat Readerも使えるし、Adobe自身やサードパーティが出しているデスクトップアプリのPDF編集ソフトなどを利用して編集するということも自由自在だ。
3:2のフルHD超えのディスプレイとオプションのデジタイザーペンで生産性が向上
そうした大きな変化だけでなく、Surface 3では細かな点でバージョンアップされていることが、スペック表からでも十二分に分かる。それらの強化点を見ていくと、Surface 3が従来のコンテンツを見るというだけのタブレットから、生産性を上げるビジネスにも使える2-in-1デバイスに変化していることが分かる。
最大の強化点はディスプレイの解像度だろう。Surface 2では10.6型/1,920×1,080ドットの液晶ディスプレイを採用していたが、Surface 3では10.8型/1,920×1,280ドットという、上位機種のSurface Pro 3と同じ3:2のアスペクト比の液晶ディスプレイが採用されている。3:2のディスプレイは、電子書籍などを表示するときに最適なアスペクト比で、コンテンツビューアとしてのタブレットという側面を重視してこの解像度になったと考えられる。PCのディスプレイとして考えると、通常のフルHD(1,920×1,080ドット)に比べて縦が200ドット分増えることになるので、ExcelなどのOfficeアプリケーションで大きめの表を扱いたい時などに重宝するだろう。
また、Surfaceシリーズの特徴とも言える、キックスタンドだが、Surface RTでは1段階のみ、Surface 2では2段階の調整しかできなかったのに対して、Surface 3では3段階で変更ができるようになっている。現時点ではそれぞれ角度が何度なのかは発表されていないが、MicrosoftのBlogではナロー(狭く)、インターミディエイト(中間)、ワイド(広く)の3段階だと表現されており、ナローが机の上で仕事をするための段階、インターミディエイトがソファーなどでコンテンツを楽しむため、ワイドがデジタイザーペンで入力するための角度と表現されている。
ディスプレイ周りのもう1つの特徴としては、Surface Pro 3と同じデジタイザペンが利用できるようになったことが挙げられる。Surface Pro 3に搭載されているN-trigのデジタイザペンは、筆圧検知が256階調と、ワコムなど他社のデジタイザペン(1,024階調や2,056階調)に比べると階調は少ないが、視差が小さいことで知られており、ビジネス向けとしては使い勝手は良好だ。ペンの上部にはBluetoothで本体と接続されるボタンが用意されており、ワンタッチでOneNoteを呼び出してメモを取り始めるという使い方が可能だ。
ただし、このデジタイザペンは別売り(米国では49.99ドル)で、ペンそのものはユーザーが別途購入する必要がある。ということは、デジタイザのセンサーは全てのSurface 3に既に導入されていると考えられる。
背面カメラ、Mini DisplayPort、Micro USBのACアダプタも見逃せない強化点
このほか筆者が気になった点は3つある。1つは背面カメラが強化されて800万画素となっていることだ。タブレットのカメラをあまり気にしない人も少なくないと思うが、最近筆者はPCやタブレットでホワイトボードを撮影して、OneNoteに取り込んでメモ替わりに使うという使い方を結構している。もちろん、単なるメモだから画質云々はそんなに気にしなくていいのかもしれないが、画素数が増えればより鮮明なメモとして残しておけるのでこれは歓迎していい。
2つ目としては、ディスプレイ出力が従来のMicro HDMIからMini DisplayPortに変更されていることだ。このメリットはシンプルで、4Kディスプレイが使えるということにある。従来のSurface 2まではHDMI 1.4までの対応となるため、(仮にSoCが対応していても)4K/30Hzまでしか出力することができない。しかし、Mini DisplayPortになってことで、Atom x7-Z8700のGPUのスペックから考えれば、DisplayPort1.2対応ということになるので、4K/60Hzの出力ができる可能性が高いからだ(これはMicrosoftからDPのバージョンが発表されていないので現時点では“可能性が高い”という表現となる)。
ACアダプタが独自形状からMicro USBになってこともメリットの1つとしたい。専用のACアダプタは十分な電力が流せるため、充電時間が早くなるというメリットがあるのだが、モバイル環境では荷物が増えるという点はデメリットと言える。しかし、Micro USBであればスマートフォンやデジタルカメラと共通で1つで済ませることができ、モバイルユーザーにとっては福音といえるだろう。
Cherry Trailの最大の特徴はGPUの強化、Bay Trailに比べて1.5~2倍
多くのユーザーにとって、今回のSurface 3に採用されたSoCのAtom x7-Z8700がどの程度使えるのかには大いに興味があるのではないだろうか。Microsoftは現在第4世代Coreプロセッサを採用しているSurface Pro 3を販売しており、どちらを買ったら良いのかと迷うユーザーも少なくないと思う。その差を理解するには、Atom x7-Z8700がどんなSoCなのかを理解しておく必要がある。
Atom x7-Z8700は、開発コードネームCherry Trailで知られるIntelの最新SoCとなる(発表時の記事参照)。このCherry Trailは現在の多数のWindowsタブレットに採用されているAtom Z3700シリーズで知られるBay Trailの後継となる製品で、大きな違いをまとめると、以下のようになる。
開発コードネーム | Bay Trail | Cherry Trail | |
---|---|---|---|
製造プロセスルール | 22nm | 14nm | |
CPU | コア | Silvermont | Airmont |
コア数 | 4 | 4 | |
GPU | コア | Intel Gen7 | Intel Gen8 |
EU数 | 4 | 16 |
Bay TrailはSilvermont、Cherry TrailはAirmontと異なる開発コードネームのCPUコアが採用されているが、AirmontはSilvermontコアの微細化版という扱いで、基本的な変化はない。従って、同クロックであれば、Bay TrailとCherry TrailではCPUの処理能力は大きな違いはないと考えてよい。
大きな違いはGPUだ。Bay Trailに内蔵されているGPU(Intel HD Graphics)は、第3世代Coreプロセッサ(Ivy Bridge)と同等の機能を持つGen7(第7世代)となっている。ただし、Ivy Bridgeでは最大16EU(Execution Unit)であったのに対して、Bay TrailのGen7 GPUは4EUと少なく抑えられていた。
これに対して、Cherry Trailに内蔵されているのはIntel HD GraphicsのGen8(第8世代)と呼ばれるGPUで、Intelの最新のPC用プロセッサとなる第5世代Coreプロセッサ(開発コードネーム:Broadwell)に内蔵されているものと同じ世代のGPUだ。ただし、BroadwellのGPUが最大24EU/48EU(SKUによって異なる)であるのに対して、Cherry TrailのGPUは16EUだ。Bay Trailと比較すると、内部のアーキテクチャが最新となり、かつEU数が4倍になっている。
まとめると、Cherry Trailは、CPU性能はBay Trailクラスで、GPUの性能が大きく向上したSoCという位置付けになる。Intelが公表したベンチマーク結果によれば、1.5~2倍のスコアを叩き出しているとのことだ。問題はその性能が、ユーザーがWindowsを使う上で快適さをもたらすかどうかだ。
CPUに関してはBay Trail世代でOfficeアプリケーションを使う限りは既に普通に利用できていた。Bay TrailのWindowsタブレットを触ったユーザーであれば誰もが知っていることだが、Windows起動は十分高速だし、Officeアプリケーションに関しても大きな不満は感じなかっただろう。唯一不満なのは、GPUを利用する時だ。例えば、外付けディスプレイを接続して高解像度表示する場合がその端的な例だったと思うが、Cherry Trailではそれが大きく改善されているはずで、期待していいだろう。
むろん、PC用のプロセッサであるCoreプロセッサに比べて、Cherry Trailが快適だなどと世迷い言を言うつもりはない。依然として、高いCPUやGPUな処理能力が必要な処理をさせるのであれば、Coreプロセッサを搭載した製品を購入する方がよく、少しでも自分は性能重視だと思うならそちらを選ぶことを強くお薦めしたい。ただ、Windowsが普通に使えるしきい値があるとすれば、Bay Trailはそれを超えているし、Cherry Trailによりそれがさらに快適になるはず、というのが筆者の言いたいことだ。
900g前後の重量の新しい2-in-1 PCが誕生と考えられる
このようにSurface 3の詳細を見ていくと、Surface 3は生産性向上のデバイスとしても使えそう、というのが筆者の率直な印象だ。低消費電力のSoCとしてはかなり強力なCherry Trailを採用しており、1,920×1,280ドットの10.8型液晶ディスプレイ+オプションのデジタイザペン、800画素の背面カメラ、Mini DisplayPortでのディスプレイ出力、Micro USBのACアダプタ、Windows RTからWindows 8.1になったことによるWindowsデスクトップアプリが利用できるようになったことなど、日本のビジネスパーソンや、一般消費者ユーザーにとっても魅力的なスペックだと思う。
今回、MicrosoftはSurface 3用に、Surface Pro 3と同形状だがサイズ違いのタイプカバーキーボードをオプションとして用意している(価格は米国で129.99ドル)。Surface Pro 3用(295×217×5mm)が294gであるのに対して、Surface 3用(268×188×5mm)は265gとなっている。本体重量が622gであるので、タイプカバーキーボードを付けても887gということになる。
「Let'snote RZ4」が745g、「VAIO Pro 11」が870gであることを考えれば最軽量というわけではないが、軽量な部類に入るだろう。特に、Core MやBay Trailベースの脱着型2-in-1デバイスがキーボードを取り付けた時には1kgを超えてしまう製品ばかりだということを考慮に入れると、脱着型で887gという重量は、ユーザーにとって新しい選択肢になる可能性があると言える。
重要なことは、このSurface 3はタブレットとクラムシェルの両方で使えるということだ。代表的なタブレットと言っていいiPad Air(437g)とまもなく登場するモバイルクラムシェル型ノートPCである新しいMacBook(12型で920g)を合わせれば、約1.35kgとなり、それをSurface 3に置き換えれば460g近く荷物を減らすことができる計算になる。もちろん、2つ持った方が使い勝手がいい意見には同意するし、筆者もそうしたユーザーの1人だが、荷物をできるだけ減らしたいという人にとっては、この点は新しい選択肢だと考えることはできる。
このように、単にタブレットではなく、タイプカバーキーボードまで含めて考えてみれば、Surface 3はモバイルPC市場に、新しい選択肢をもたらす存在になると筆者は考えている。Microsoftの日本法人である日本マイクロソフトによれば、「日本におけるSurface 3の発売に関する情報については、現在最適な形での投入を検討しており、改めてお知らせします」(リリースより)との通りで、日本市場向けにカスタマイズして投入することを検討中であるとアナウンスされており、おそらくはバンドルされているOfficeが日本向けにOffice Premiumに変更されるなどして投入されることになるのだと思う。今後とも動向には注意を払っていきたい。