■山田祥平のRe:config.sys■
MicrosoftがSkypeの買収を完了した。Windows Phoneのコンセプトを見てもわかるように、今のMicrosoftは、誰かと誰かが何らかの方法でつながることに、きわめて熱心だ。今、Skypeを手に入れたことで、今後のMicrosoftには、どのような変化がもたらせるのだろうか。
●めっきり減ったLive Messengerの利用ずっと、MicrosoftのWindows Live Messengerを使ってきた。今もデスクトップの隅っこにはログインした状態で小さなウィンドウが表示されているし、その中には、見慣れたアイコンが並んでいる。でも、一部のユーザーを除き、声をかけられることがめっきり少なくなってしまった。心なしか、オンライン状態のユーザーも少なくなっているようにみえる。
PCだけを使っている限り、Windows Live Messengerのようなリアルタイムのインスタントメッセージングは、実に便利なコミュニケーションツールだった。なにしろ、電話をかけるよりも簡単だし、一言二言の会話をかわすだけで、物事の段取りをその場で決めることができる。
ところが、似たようなシチュエーションでのコミュニケーションに、最近はちょっとした変化が起こっている。どういうわけか、FacebookのメッセージやTwitterのダイレクトメッセージで語りかけられることが多くなってきているのだ。
どちらの場合も、メッセージが届けば、同内容のメールが届くので、その場でクライアントを開くなり、Webで確認すれば会話を始めることができる。だから、インスタントメッセージと同じじゃないかと言われればそうなのだが、実際には、フィーリングが大きく異なるように思えてならない。
日本は早い時期から携帯電話事業者のメールがインターネットメールと相互乗り入れしていたため、多くのユーザーは、電話でのテキストメッセージング手段としてメールを使う。だが、諸外国では、ショートメッセージが使われることが多かった。日本では、ついこの間まで、異なる事業者間でショートメッセージをやりとりすることができなかったから、余計に海外での使われ方が珍しく感じてしまうが、実際には、日本の使い方が少数派だ。
いずれにしても、「すぐに見てほしいメッセージ」を、特定の誰かに送る手段としては、日本においては、まずはケータイメールという状況なんじゃないだろうか。会社ではバリバリとインターネットメールを使っているユーザーも、プライベートではケータイメールというケースは多い。
ぼくの周りは、そのあたりの事情がちょっと違っていて、ケータイメールを常用しているユーザーはあまり見当たらない。ほとんどすべての知人はケータイでもインターネットメールを使い、レスポンスも通常のインターネットメールと変わらない。やっていることは同じなのだから当たり前だ。
●「オンライン」が当たり前な環境この先、スマートフォンがさらに普及することで、特定の端末でのみ読み書きできるケータイメールを嫌い、インターネットメールへと移行する傾向は、ますます強まるのだろうけれど、日本のユーザーがケータイメールアドレスを捨てきれるかというと、これには相当の時間がかかるだろう。そのくらい、現行で使っているメールアドレスを変えるというのは大変だ。変えたら変えたでインターネットメールの受信拒否をしているユーザーに説明してまわらなければならない。それにはたいへんな時間と手間がかかる。
その結果、SNSのメッセージングが好んで使われるようになる。SNSのメッセージングシステムでは、相手に「気づき」を与える手段を、メッセージの送り手が考える必要はなく、受ける側が、自分に都合のいい方法で「気づき」を得ることができる。
TwitterのDMなら、メッセージが届いたことをメールで知ることもできれば、常時Twitterクライアントを起動しているなら、スマートフォンの通知バーが知らせてくれるだろう。どっちにしても「気づき」を得た時点で、レスポンスを返す方法を捻出すればそれでいい。
ところが、インスタントメッセージ専用のアプリケーション、たとえば、Windows Live Messengerは、自分が使っているすべてのデバイスでクライアントを起動して待機させておかなければメッセージが届いたことがわからない。常時、PCの前に座って作業しているならともかく、TPOにあわせて複数のデバイスを使い分けている場合はやっかいだ。
しかも、Windows Live Messengerは、iOS用の公式クライアントはあるのだが、Android用の公式クライアントがない。また、Windows Phone用にも用意されていない。これを見るだけでも、そのやる気のなさがわかるというものだ。
その一方で、Skypeは、多くのプラットフォームに対して公式クライアントを提供している。Skypeのサイトを見ると、Windowsをはじめ、Mac、Linux、iOS、Android、BlackBerry、Symbianなど、さまざまなクライアントが用意されていることが確認できる。また、TVでSkypeができる環境が整いつつある。
このくらい揃っていれば、どんなデバイスを持ち歩いていたとしても、たいていの場合、専用クライアントを使ってメッセージの待ち受けができる。Skypeというと音声やビデオ通話がクローズアップされがちだが、リアルタイムのテキストメッセージングのこともきちんと考えられている。
●Microsoftはどこへ進むのか本当なら、Windows Live Messengerは、Skypeのような方向に進むべきだった。でもそうはならなかった。いつの間にか、人々が日常的に手にするデバイスが多岐にわたり、さらに複数持ちが当たり前になってきているにもかかわらず、それに対応しきれないでいる。これからMicrosoftはどうするつもりなのかと思っていたのだが、そこに今回のSkype買収だ。噂は前からあったので、そちらに向けてWindows Live Messengerの進化が止まっているように見えたのかなと思えば納得もできる。
Windows Live Messengerは、相手がオンラインか、オフラインであるかに固執しすぎた面があったように思う。相手がオンラインであるからこそ話しかけるのだが、今は、誰もが常時オンラインであるのは当たり前なのだから、あらゆる手段を使ってメッセージの到来をデバイスではなくユーザーに知らせる方法を提供するべきだった。
Skypeもまた同様だ。今、Skypeに届いたメッセージは、Skypeクライアントを起動していなければ知ることはできない。久しぶりにSkypeを起動したら、1週間前のメッセージが表示されて、その夜の飲み会の誘いだったりしてとガッカリ、というのはよくある話だ。
このあたりは、最近のSNSではさすがに考えられていて、Twitterにしても、Facebookにしても、メッセージの到来はメールで通知されるようになっている。一般的に、メールは誰でもいつでも待ち受けているものという前提だ。そういう意味では今、メールにおける同期と非同期の境目が曖昧になりつつある。
Twitter DMのやりとりは、非同期会話になってしまうが、Facebookなら、常時クライアントを待ち受け状態にしておかなくても、通知のメールを読んでからウェブサイトや専用クライアントを起動して会話を始めることができる。そして、会話の内容が、すべてのデバイスから履歴として参照できるのは便利だ。こちらは、メッセージとチャットの境目も、あえて曖昧にして統合しているのが特徴だし、今風だといえる。
iOS5で新たに提供されたiMessegeは、メールやSMSを統合したメッセージングのシステムで、使いようによってはおもしろそうで便利そうなのだが、気づきに関する落とし穴も多い。しかも、iOS5のみの対応なので、まだまだ相手が限られる。そういう意味では今、Facebookのメッセージングがいちばん便利そうではある。
こうした状況の中で、Windows Live MessengerとSkypeが融合することで、新たなインスタントメッセージの世界が提案されようとしているのは楽しみでもある。たとえ、後出しじゃんけんであっても、ユーザーにとっては、便利で楽しいものが価値そのものだからだ。