山田祥平のRe:config.sys

そろそろWindows 8のこと




 世の中はスマートフォン一色の様相だが、PCシーンの重要なマイルストーンとして、Windows 8の存在がある。9月に開発者向けのプレビューが出て、しばらくの間は話題になっていたが、ここのところは静かな状態が続いている。

●変わるハードウェアとWindowsの立ち位置

 9月以降、各方面に取材をしてきたが、悩みのタネはアプリケーションのトレンドが、どの方向に向かうのか、まだよく見えてこないということのようだ。

 例えば、あるPCベンダーは、プリインストールのTV録画、視聴アプリをどちらのアプリとして提供するのかで悩んでいるという。ご存じのように、Windows 8では、新たに登場するMetroアプリと、レガシーなデスクトップアプリの双方がサポートされるようになる。そして、Windows 8が提供する新しい機能面の多くはMetroアプリでのサポートのみとなり、デスクトップアプリには、ドラスティックな変化はない。見かけの上ではシェルが2種類用意される格好だ。

 それでは、企業ユーザーは、Metroアプリを使って日常的な業務を行なうのだろうか。毎日、かなりの時間をWordやExcelを使い、Outlookでコミュニケーションしているビジネスマンは、シェルとしてのMetroスタートスクリーンを、スンナリと受け入れることができるのかどうか。

 その一方で、ハードウェアは変わる。マルチタッチのインターフェイスを持つPCが一般的になっているだろうし、おそらくWindows 8が出てくるころには、特に、ノートPCのトレンドが大きく変わっているだろう。Intelが提唱するUltrabook構想でも、本命といわれているプラットフォームはHaswellと呼ばれているもので、その登場は2013年になるとされている。

 希望的観測として、Windows 8の登場は、2012年の秋になってほしいのだが、もしかしたら翌年にずれこむようなこともあるかもしれない。年明けにパブリックベータが出て、春過ぎにRC、夏前にRTMしたWindows 7のときのようなスケジュールで進まないと、とてもじゃないが、各社が秋に発表する新製品にプリインストールすることはできない。

 例えスケジュールがとんとん拍子に進んだとしても、各PCベンダーにとっては、さまざまな方針を決めるために残された時間は、あと半年程度しかないということになる。そんな中で、TVアプリをMetroで作るか、デスクトップアプリとして提供するかを決めなければならないのだからたいへんだ。

 基本的に、Metroは10フィートGUIと1フィートGUIのどちらでも使いやすいものを目指しているように思う。マルチタッチのスレートやノートPCを至近距離で使っていても指先で操作しやすく、さらに、大画面で3m近く離れたところからリモコンなどで操作するにも使いやすい。それを両立させることができないかと模索を続けているのがMetroだといえる。

 だから、普通に考えれば、TVアプリはMetroで作るのが合理的だし、自然であるようにも思える。

●OSが進化するということ

 ここのところのAndroidを見ていると、Googleは、スマートフォンやタブレットのGUIを変えることに、どうしてここまで乱暴なのかと、なんだか不安に思うことがある。現在のAndroidは、スマートフォン用の2.x(Gingerbread)と、タブレット用の3.x(Honeycomb)が併行しているが、これらは統合されて4.x(Icecream Sandwitch - ICS)となる。ICSのGUIはどちらかというとHoneycombに近いので、今、普通に使っているGingerbreadのスマートフォンが、いきなりバージョンアップされることになると、戸惑いを覚えるユーザーも少なくないはずだ。でも、きっとGoogleは、それをなかば強引にやるのが当たり前だと思っているだろうし、ベンダー各社もバージョンをあげることが、ユーザーへのサービスであると考えている面がある。これは、AppleのiOSだって似たようなものだ。ある朝、突然OTAがやってきて、デバイスのOSを書き換えをせまるような極端なことは、Microsoftにはできないし、Windowsを支えてきた各ハードウェアベンダーにとっても同様だ。ソフトウェアベンダーだって死活問題につながりかねない。

 さらに、Metroアプリは、「没入型(Immersive)」と呼ばれるUIを基本とする。広いデスクトップにごちゃごちゃと書類が散乱するのではなく、フルスクリーンを基調とするわけだ。ただし、それでだけではあまりにも不便だし、ワイド画面を活かすことも考えて、ディスプレイの左端や右端をスナップ領域として、他のアプリの画面を表示するなどして、データの受け渡しなどに使うことで生産性(Productivity)を確保することが想定されている。

 現時点では、Metroアプリはマルチディスプレイの活用をほとんど意識していないようにも見える。だから、こうして原稿を書いている手元の環境のように、24型のWUXGAモニタが3面あっても、Metroで使う限りはあまり便利さを感じない。広いデスクトップ領域はやはりデスクトップアプリを使ってこそ活きてくる。

 集中してTVコンテンツを視聴するには没入型がいい。ただし、そのTVコンテンツを見ながらつぶやいたり、感想をSNSに書き込んだり、あるいは、逆に、ニュースサイトをブラウズしながらTVをちら見するといった場合は、今までのようなデスクトップのGUIがいい。当然、資料を参照しながら、書類を書き、その間に届くメールも見逃さないといった作業をMetroに求めるのは無理だと思う。

 デスクトップかMetroかという議論は、勉強机とリビングテーブルのどっちがいいかというようなもので、用途によってはダイニングテーブルのようなものがいいこともあれば、会議室用テーブルのようなものが欲しい場合もある。ときどきに応じて、さまざまな机に化けられるのがPCの汎用性であり、その汎用性を無視してしまうと、これまでWindowsが培ってきたものの多くを失ってしまうことになりかねない。

●TVコンテンツとデバイス

 個人的に興味があるのは、ほぼ完了した地デジ化と、Androidタブレットのようなモバイルデバイスが、PCにおけるTVコンテンツの扱いをどのような方向に向かわせるのかということだ。

 ご存じのように、今のTVレコーダは、DLNAによるデジタルコンテンツの配信が、かなりの使い勝手で提供されるようになったため、離れた部屋で、PCを使って視聴する際にもそれほどの不便を感じない。自宅にいて、同じLAN内にいる限りは、PCで熱心に録画をしようとは思わなくなったユーザーも少なくないのではないだろうか。

 だが、録画したTV番組を持ち出そうとすると大変だ。せっかくAndroidタブレットのようなデバイスがあるのだからと、microSDをセットして、お出かけ転送をかけて、移動中に見るといったことをしようとすれば、それはそれで大仕事だ。そんなことに四苦八苦しているうちに、移動中の動画は普通ストリーミングというところに落ち着くのだろう。

 今週は、シャープの発表会があって、WiMAX内蔵のタブレット「GALAPAGOS」が発表された。広帯域の伝送ができるインターネット接続が保証される、比較的大画面のデバイスの登場は、コンテンツの楽しみ方を変えることに一役買う可能性を持っているはずだ。

 こうした中で、デスクトップとMetroのような木と竹を接ぐような展開を、Microsoftはどのように着地させるのか。きっと、誰もが納得できるような解を、すでに見つけているのだろう。だからこそ、ある程度の方向性を見て取れるパブリックベータのリリースが楽しみでならない。