4K修行僧
4Kという高みを目指していたはずが、気付いたら沼に嵌まってた
~コンテンツがないなら自分で作ればいいじゃん! とソニーの「α6300」を購入
(2016/3/24 06:00)
脳の神経細胞は電気信号を使って情報を伝達している。つまり、人間の脳はコンピュータのように電気で動いているようなものだ。コンピュータの回路がどこかしら短絡すると、規定以上の電流が流れて壊れてしまうことがあるが、どやら、これは人間の脳にも当てはまるようだ。
前回、「レグザJ10X」で観るYouTubeがフルHD止まりと知り、筆者の脳内に電流がビリビリと音を立てて流れた。それで脳のどこかしらの神経回路が短絡してしまったようだ。結果、無意識の内にAmazonの「Fire TV」(1万3千円)を注文していた。
そこそこの恐怖体験だが、とりあえず無事4K動画を観られる(ただし、PCは使っていないが)ようになって、事態は沈静化したかに見えた。
ところが、症状はむしろ悪化していた。神経回路の短絡は、「観るべき4Kコンテンツがない? なら、自分で作れば良いじゃん! (ビリビリ)」という思考の短絡へと発展。気付くと、またも無意識の内にソニーの4K動画対応ミラーレスカメラ「α6300」を購入していた。
実は、と言うほどでもないかもしれないが、筆者はこれまでコンパクトデジカメで仕事をこなしてきた。一眼レフやミラーレスは、触ったことはあるが、自分で購入するのはこれが初だ。と言うことで、さほどこだわりや知識もないまま、新製品であるということと、4K動画撮影に対応しているという理由のみで、3月11日の発売日に購入した。ズームレンズキット付きで、お値段は16万円だった。
カメラに対してあまりこだわりがないとは言え、目的とする4K動画が美しく撮影できるかはもちろん気になる。発売日前にネットで情報を収集していたところ、この動画に出くわした。
この動画は4K対応なので、4K液晶をお持ちの人は、4K設定で観て欲しい。夜間なので多少のノイズは乗っているが、精細であり、背景のボケ具合も良い味を出している。そして、この動画の説明文を読むと、「SEL50F18」というレンズで撮影したと書かれている。
「はは~ん、このレンズを買えば、俺にもこういう動画が撮れるわけだな(ビリビリ)」。
さて、さっきα6300のお値段が16万円と書いたな。
あれは嘘だ。
いや、値段に嘘はないのだが、ズームレンズキット付き本体と一緒にSEL50F18も買っていたのだ。価格は2万1千円(本体同時購入で5千円引き)だった。
もう少し、正直に告白しよう。ストロボ「HVL-F43M」(3万5千円)、予備のバッテリ(7,500円)、ソニー製高速SDカード64GB(1万8千円)、ポーチ(5千円)も一緒に買った。買った記憶は呼び起こせないのだが、モノとクレジットカードの明細は確かに手元にある。
総額は知りたくないので、読者各位が計算して欲しい。ただし、計算結果は@pc_watch宛てにツイートしないで欲しい。
購入して早速自宅で試し撮りをしてみた。
「おお~~! これはきれい!!」
より高級なカメラやレンズを使えば、もっときれいな写真が撮れるのだろうが、ミラーレス初心者には十分すぎる画質。かつ、腕もないのに、プロっぽい写真が撮れることに、年甲斐(42歳)もなくワクワクしてしまった。
しかし、1つ問題があった。SEL50F18を使うと、確かに背景をぼかした、良い感じの動画が撮れる。しかし、室内で撮影するには画角が狭いのだ。α6300はAPS-Cセンサーなので、SEL50F18を使った時の35mm換算の焦点距離は75mm。屋外でポートレート撮影するにはいいが、室内だと撮影できる範囲が限られる。
「はは~ん、広角な単焦点レンズを買えば、室内でも良い感じの動画が撮れるわけだな(ビリビリ)」。
α6300購入の3日後、筆者はほくほく顔で「SEL20F28」というレンズを手にしていた。お値段3万3千円なり。
この連載を開始した当初、筆者が目指していたのは、4Kの頂に近付き、そこからの景色を眺望することだった。
だが、気付いてみれば、筆者が片足を突っ込んでいたのは、世間で言ういわゆる「沼」というものだった。なんか、思ってたのと違う。
まぁ、とは言え、何十万円ものレンズをバカスカ買って、真のレンズ沼に首までどっぷり浸かってる人に言わせれば、2~3万円のレンズを2つやそこら買ったくらいでは、水たまりで足を滑らせたくらいのものだろう。あまり気にしないでおく。
とりあえず4K動画を撮影してみた
ズブの素人なので、あまり人様にお見せするほどのものは撮れないのだが、一応参考までに自分で撮った写真を載せておく。カメラの実力というより、初心者でもこれくらいは撮影できるという観点で見て欲しい。実践的なレビューについては、はデジカメ Watchの記事やAV Watchの記事を参照されたい。
さて、今回の主眼は写真ではなく動画だ。筆者は趣味でドラムを叩いている。楽器を練習する上では、自分の演奏を録音し、後から聞き直すことが大事だ。演奏している時はリズムに乗れていると思っても、客観的に聞いてみると、リズムやノリ、音量など、自分のミスや弱点がはっきり分かってくるからだ。筆者の場合、毎度ではないが、録音だけでなく、練習風景を映像で録画して、パフォーマンス的な意味での動きも確かめたりしている(と言っても、写真同様これも初心者に毛が生えた程度のレベルなのだが)。
そんなわけで、自分の演奏ぶりを録画してみた。1つは以前から使っているソニーの「ミュージックビデオレコーダー HDR-MV1」にてフルHD 30pで、もう1つはα6300にて4K24pで撮影してある。後者はレンズにSEL20F28を使い、外部フラッシュのLEDライト機能を使ってライティングしている。
ちなみに、α6300は、4Kの場合24p/30pで最大100Mbps、フルHDの場合24p/30p/60pで最大50Mbpsの高品位モードがあり、加えて、フルHDでは120pの4倍速/5倍スローモーション撮影なども用意されている。
ミュージックレコーダーは、狭いスタジオで広く撮れる画角や、音量の細かいことを気にしなくともそこそこ良いバランスで録音できる点などが特徴で、画質を追求した製品ではないこともあり、α6300で撮影したものとは、映像品質に歴然とした差があるのがお分かりだろう。また、α6300で撮影した方は、心なしか、よりワイルドに見える。
普段、スタジオでバンドとして練習する時は、正面から撮影しているのだが、こうして横から撮影したものを見返してみると、リズムのよれだけでなく、指の使い方に問題があること、そして顔の肌の衰えや、首から下の肌が異様に白すぎることなどが改めて把握できた。
4K解像度を活用して、DAWや動画編集の効率を向上
4K動画がないなら自分で作れば良いじゃないと思ったのは事実だが、今回一番伝えたいポイントはそこではない。過去にもこの連載で伝えてきたことではあるが、4Kという広い解像度を使うと、多くの場面で作業効率が上がると言う点を改めて強調したい。
今回の動画、フルHDと4Kとを比べて、ドラムの音が違うことに気付いた人もいるかもしれない。
筆者は、こちらの企画(DAWソフト「Cubase 8」が動く環境を探る。ドラム音源「BFD3」にも挑戦)に携わった際、こっそり個人でもSteinberg製オーディオインターフェイスの「UR242」とBFD3を購入していた。
UR242は、PCと楽器を繋いで録音するための機械で、一般的なライン入力のほか、ギターやコンデンサマイク、そしてMIDI機器も繋ぐことができる。フルHD動画では、電子ドラムの音をUR242のライン入力経由でPCに取り込んでいるのに対し、4K動画ではMIDI経由で信号を取り込み、BFD3側でドラムの音を再生しているのだ。
BFD3は、MIDIによる電子ドラムの電気信号をドラムの音に変換しているわけだが、その音はデジタル合成されたものではない。一流のドラマーが、一流のスタジオで、一流のドラムセットやマイクを使って録音した生音を、MIDI信号に合わせて、リアルタイムでストリーミング再生している。詳しい説明は割愛するが、要は、BFD3によって、特にチューニングやセッティングの知識・技術が未熟な筆者にとって、生ドラムではどれだけ頑張っても鳴らせないような素晴らしい音を、いとも簡単に鳴らせるようにしてくれるものなのだ。
言い換えるなら、実力以上の音を鳴らしているわけだが、そのあたりは大目に見てそっとしておくのが、SNS時代の大人の余裕というもの。あまり声高に@pc_watch宛てにツイートなどしないで欲しい。
それはさておき、BFD3は、単体で録音もできるが、それではドラムの録音しかできないし、UI的にも初級者には扱いにくい部分がある。BFD3はCubaseのプラグインとしても使えるので、あくまでも音源として使い、録音操作には「Cubase 8」を使った。
Cubaseは国内で大きなシェアを持つDAW(Digital Audio Workstation)ソフトの1つ。UR242にCubase 7 AIが付属していたのだが、後日筆者はCubase 8 Elementsを購入している。
DAWで曲を作る際は、各パートの音源をトラックに並べて、重ねたものをミックスダウンして出力する。今回の動画で使った音源は、筆者のバンドのオリジナルのもので、パートとしては、ボーカル、ギター、ベース、ドラムの4つだ。
しかし、より良い音にするために、同じボーカルをタイミングをほんの少しずらして重ねたり、モノラルのギターパートを2つにコピーして、それぞれをL/Rのチャネルに割り振って、ステレオ感を出したりといった編集を行なう。そのため、パートは4つでも、トラック数は10、20と増えていく(素人なので無駄にトラックを使っているというのもあると思う)。
また、トラックウインドウだけでなく、ミキサーのウインドウや、音の調整を行なうウインドウも表示させ、再生しながら、微調整を行なう。こういった際に、4K解像度があると、ウインドウを選択し直したり、スクロールさせたりという余計な作業を減らして、効率を上げることができる。
同じ事は動画編集にも言える。今回の動画では、音も画も1つずつのトラックしか使っていないが、解像度が低いと、タイムラインの閲覧性や操作性が落ちる。また、動画素材が4Kの場合、ディスプレイが4Kなら、フルスクリーンプレビューで等倍表示できるし、フルHDの場合は、プレビューウインドウのサイズをフルHDにしておいても、余裕でほかのウインドウやトラックを表示できる。
ちなみに、今回の動画については、編集にソニーの「Vegas Pro 12」を使っている。一発撮りした映像トラックに、Cubase 8で録音、ミックスダウンした音声トラックを重ね、冒頭と終わりにテロップをフェードアウト/インで入れているほか、映像の色調を少しいじっている。これだけでも、ちょっとした作品的な雰囲気が出てくる。
なお、Vegas Proはプロ向けのソフト。定価は10万円前後するが、近年定価の9割引き程度で販売されている。こちらの記事(これだけ覚えればバッチリ。「Vegas Pro 13」使い方の基本)にて最新のバージョン13の基本的使い方を特集してるので、興味のある人は参照されたい。
このほか、これは筆者の体験ではなく、カメラマンの知人に聞いた話だが、写真編集の際も、たくさん撮影したカットの中から、まずピントの点でOKのものを選び出す際に、4K液晶だと、写真をいちいち拡大せずとも、ピントが合ってるかを確認できるので、作業性が上がると言っていた。
このように、マルチメディア系のコンテンツを編集する際、4K解像度は大きな威力を発揮する。
おそらく多くの人は、動画を撮影しても、それをそのままSNSやYouTubeに上げるだけにしているだろう。それが悪いとは言わないが、Instagramでちょっと加工しただけでもオリジナリティが出て、他人から良い写真だねと言われる機会が増えるように、動画にもちょっとしたタイトルや加工を行なうだけで、見栄えが変わってくる。4K環境でなくとも、未経験の人はぜひ試してもらいたい。
4K編集は重い
今回の検証でもう1つ分かったことがある。それは、4K動画の編集は重いということだ。こちらの企画(プロ向けXAVC 4K動画をネイティブ編集できるPCを考える)を通じて、重いことは知っていたのだが、自分でそれまでフルHD動画の編集をやっていた環境で4Kを編集してみて、身をもってその重さを知った。最初は、マルチカメラなど、もう少し凝った編集もしようかと考えていたのだが、その重さで断念した。
筆者の「Inspiron 15 7000」はCore i7-5500U、メモリ16GB、Radeon R7 M270を搭載し、通常の再生であれば4Kもコマ落ちなく表示でき、フルHDなら編集もスムーズにできる。しかし、編集の際はCPU/GPUのハードウェアデコーダが効かないため、エフェクトをかけていない素のプレビューであっても秒間数コマ数くらいに落ち込む。ちなみに、フルHDでも60fps(α6300で撮影可能)だとある程度コマ落ちが発生する。快適な編集にはより強力なCPU(Xeonクラス)やGPU(GeForce GTX 980クラス)が必要になってくる。
ただし、Vegas Pro 12には、プロキシ機能が用意されている。これを使うと、4K動画の画質をフルHD程度に落としたプロキシを作成し、プレビューはオリジナルの代わりにこれを表示することで、コマ落ち問題を解消できる。
その代わり、プロキシの作成に一度レンダリング(エンコード)を行なうので、最初にその待ち時間(4分の4K動画で十数分程度)がかかる。タイトルを付けるくらいなら、プロキシを作らずに進めることもできるだろうし、画と音のタイミングを合わせるなどの作業をするなら、プロキシの用意は必須だろう。
もう1つ分かったことがある。
それは、前回電流に撃たれる以前から、オーディオインターフェイスだの、ドラム音源ソフトだの、DAWソフトだの、勢いで買ってしまう癖があったということだ。生まれ持ってのものなのかもしれない。電流のせいにしてすみません。なお、XeonやGeForce GTX 980は買う予定は今のところない。ホントに。
と言うことで、まとめると、良いカメラと4K液晶での編集環境の快適度は抜群。フルスコアの4 KAITEKIとしたい。