1カ月集中講座

世界一やさしいiOS版GarageBand講座【第1回】

 Appleが提供するGarageBandは、ミュージシャンはもちろん、高度な音楽の知識がなくても、直感的な操作で音楽制作を楽しめるようにデザインされたアプリケーションである。OS Xには標準で同梱されており、iOS版でも2015年6月現在で600円という低価格ながら、かなりの高機能を持っている。

 有料/無料を問わず、さまざまな音楽制作用iOSアプリが存在するが、GarageBandの使いやすさと多機能性は突出している。ギター、キーボード、ベース、ドラム、ストリングスなど、数多くの音色を揃えており、制作できる音楽のジャンルは多岐に渡る。

 中でも数多くの演奏パターンを、コードをタップするだけで演奏することができる「Autoplay」機能を使えば、驚くほど簡単に楽曲を組み立てられ、また楽曲のアイデアが浮かばない時でも、Autoplayのフレーズからイメージを膨らませるという使い方もできる。

 さらに、サンプラーやオーディオレコーダーを搭載しており、マイクから録音した音や、プリセットのオーディオファイルを使うこともできる。アンプシミュレータも内蔵しているため、ギターやベースを持っている人は、iRigなどのインターフェイスを使ってiOSデバイスに自分の楽器を接続して録音することも可能だ。

 GarageBandの各楽器やツールは、それだけでほかの単体の楽器アプリに匹敵する性能を備えている。そして一般的なDAW(Digital Audio Workstation)ソフトと同じように、作曲から編曲、ライブ演奏、ファイルの書き出しはもちろん、さらにFacebook、YouTubeまたはSoundCloudへのアップロードまで、全てGarageBandだけで完結することができる。作業中のファイルはiCloudに保存することができ、iPhoneで作ったフレーズをiPadで編集するといった使い方もできる。

 これほど多機能なアプリを、iOSデバイスでいつでもどこでも手軽に使えるというのだから、GarageBandは非常に高いコストパフォーマンスを誇っていると言えるだろう。既にほかのDAWソフトを使った経験のある人、これから音楽を作ってみたいと思っている人にも、GarageBandは最高に楽しい遊び道具になるだろう。

 この講座では、iPadのGarageBandを使って初心者から音楽の知識がある人まで楽しめる実践的な使い方を、筆者自身が1ユーザーとして実際に1曲作りながら、4回に分けて紹介する。Web上には多くのGarageBandのチュートリアル記事や動画があり、そのほとんどはバンドサウンドかクラブミュージックを扱ったものであるが、この記事では少し趣向を変えて、GarageBandの弦楽器の美しさとエレキギターの迫力を活かしたサウンドトラック風のシンプルな曲を作ってみようと思う。

 なおiPhone版のGarageBandでも、ユーザーインターフェイスは異なるが、同じように作業できる。ぜひ、手元でGarageBandを起動した状態でお読みいただきたい。制作時間の目安は1時間程度だ。

【動画】完成作品

1.プロジェクトの作成/Touch Instrumentの選択

 GarageBandを開くとプロジェクトの一覧が現れる。各プロジェクトは作業を終了した時点の画面がサムネイルになっている。画面左上にある「+」をタップして、新しいプロジェクトを作成してみよう。

 次にTouch Instrument(楽器)を選択する。Touch Instrumentには以下の種類がある。

【表】Touch Instrumentの種類
Keyboardオンスクリーンキーボードで、ピアノやオルガン、シンセサイザーを演奏する
Drumsドラムをタップして、ビートを作成する
Guitar AmpiRigなどを介してエレキギターやベースを接続し、アンプシミュレータやエフェクタを選択して演奏する
Audio Recorderマイクで自分の声や外部の音を録音する。8種類のエフェクトも使える
Samplerマイクから録音した音や、プリセットのオーディオファイルを使って、キーボードでそれらをメロディのように演奏する
Smart Drumsドラムをグリッドに配置して、簡単に素早くドラムビートを作成する
Smart Stringsオーケストラやソロの弦楽器を演奏する
Smart Bass弦やコードをタップしてベースフレーズを演奏する
Smart Keyboardコードをタップしてピアノやシンセサイザーを演奏する
Smart Guitar弦やコードをタップしてギターフレーズを演奏する
Inter-App Audio AppInter-App Audioに対応する他の音楽制作アプリと共有して音声を読み込む

 作曲のプロセスは人それぞれで、ギターやキーボードのコードから作る人もいれば、ドラムやベースなどのリズムから作る人、またはボーカルなどのメロディラインから思いつく人もいる。ここではサウンドトラック風の楽曲を作るので、その要となるストリングスから始めようと思う。GarageBandの「Smart Strings」に搭載されているAutoplay機能からヒントを得て、そこから楽曲全体のイメージを作って行くプロセスは、より簡単で楽しい。そこでTouch Instrumentをフリックして、Smart Stringsを選択してみよう。

 Smart Strings画面が現われたら、まずは曲全体に関わる設定を変更しよう。上部コントロールバーの右側にあるスパナのアイコンをクリックして、設定画面を開く。テンポを137、キーをDマイナーに変更する。なお、設定画面の最下部にあるヘルプをタップすると取扱説明書が表示されるので、GarageBandの詳細な説明はこのヘルプを参照されたい。

2.ストリングスでサウンドトラック風のフレーズを作る

テクニック:Smart StringsのAutoplay演奏
難易度:低

 Smart Stringsの画面下部には、Dマイナーキーにおけるダイアトニックコード(曲を構成する基本的なコード)が記された8本のコードストリップが並んでおり、各コードストリップは4つのセグメントに分かれている。

 コードストリップのセグメントをタップすると、ピッチカート(弓を使わず指で弾く音)が鳴る。4つのセグメントは上部に向かって音程が高くなる。セグメントを素早くスワイプすると、スタッカート(弓で弾く短い音)が鳴る。また、セグメントをタッチして押さえたまま、指をスライドすると弓で弾くロングトーンが鳴る。スライドの速度に応じて音量が大きくなる。画面上部中央には第一バイオリンからコントラバスまで各弦楽器が表示されており、オン/オフを切り替えることができる。

【動画】Smart Stringsの弾き方

 画面上部左の「Cinematic」をタップすると、ストリングスサウンドをCinematic、Modern、Pop、Romanticの中から選べる。ここではPopを選択する。

 次に紹介するAutoplayは、Smart Drumsを除くSmartシリーズに搭載されており、GarageBandの最も魅力的で、手軽に楽しめる目玉機能だろう。Autoplayを有効にすると、コードストリップをタップするだけで、そのコードでテンポに合わせたリズムパターンを演奏してくれる。再びタップすると演奏が止まる。

 リズムパターンは4種類で、さらに、コードストリップを1本、2本あるいは3本の指でタップすることにより、同じリズムパターンでも3種類のバリエーションを弾き分けることができる。また、選択したストリングサウンドによってAutoplayのパターンも違うので、非常に多くの演奏パターンを内蔵していることになる。ここではAutoplayの1を選択してみよう。

 メトロノームに合わせて録音しているつもりでも、人の手で演奏する限り、どうしてもタイミングのズレは避けられない。一部の楽器では「機械っぽさ」がなくなるため、むしろ微妙なずれが好ましいこともあるが、Autoplayのように既成のパターンを入力する場合、タイミングがずれると上手くいかないことが多い。

 そこで、録音のタイミングを特定の「細かさ」に合わせて補正する、クオンタイズという機能が役に立つ。画面右上のフェーダーのアイコンをタップして、トラックの設定画面を開き、クオンタイズをタップ、「1/8 - 音符」を選択したら、フェーダーのアイコンをタップして設定画面を閉じる。

 それでは早速録音してみよう。画面上部のメトロノームが有効(青くハイライト)になっていることを確認して、録音ボタンをタップすると、4回のカウントの後に録音が始まる。4拍(1小節)ごとに、Dm、B♭、F、Amと指1本でタップし、それを2回繰り返す。各小節の1拍目より若干早めにタップするのがコツだ。ミスしたり、録音した演奏が気に入らない場合は、画面上部右のUndoボタンをタップすれば録音が取り消される。

【動画】ストリングスの録音

 これだけでも、既に曲らしくなってきたことがお分かりいただけるだろうか。ストリングスが録音できたら、画面上部中央のトラック表示ボタンをタップする。トラック表示は、トラックと呼ばれる各楽器が縦に並び、さらに横軸は時間になっており、曲全体の構成が見渡せるようになっている。既に録音したストリングストラックの演奏は、リージョンと呼ばれる緑色の長方形で表示されている。リージョンを編集することによって、より細かいアレンジをすることもできる。リージョンの編集についてはピアノの章で解説していく。

3.ベースを加える

テクニック: Smart StringsのNotes演奏
難易度: 中

 次にベースを追加する。トラック表示の左下にある「+」をタップすると、追加するTouch Instruementを選択できる。GarageBandにはエレキベースやシンセベースに特化したSmart Bassがあるが、ここではSmart Stringsのコントラバスを使用する。ストリングスサウンドはデフォルトのCinematicに設定しよう。

 次に画面上部右のNotesをタップする。Notesでは弦と指板が表示され、コードにとらわれない、より自由な演奏が可能になるが、コード弾きやAutoplayでの演奏よりも難易度が高い。そこで、ここでもクオンタイズ機能が役に立つ。画面右上のフェーダーのメニューから、クオンタイズを「1/8 - 音符」に設定する。このトラックではベースを録音するので、画面上部中央の楽器をスワイプしてBassを選択する。Notesモードでの詳しい演奏方法はヘルプを参照されたい。

 下記の画像では、この曲で使うポジションの音名を示した。マゼンタで表示されている「D」はこの曲のキーであるDマイナーの基準になる音である。ネックの下部にある「ポジションマーク」を参考にしながら、オレンジ色の点線と弦が交差する部分をタップすることになる。ここではネックの左端にある「アーティキュレーションボタン」を押しながら、弦タップするピッチカート奏法で、以下の動画のように演奏する。「音ゲー」のような感覚で楽しんでもらいたい。

 楽譜が読める人は、下記の楽譜を参考にしてほしい。どうしても難しい場合、スパナのアイコンをタップして設定画面を開き、テンポを遅くすると弾きやすくなる。録音し終わったらテンポを137に戻しておこう。ベーストラックの音量が小さくて聴きにくい場合は、フェーダーのアイコンをタップして、「トラック音量」を上げるとよい。

【動画】ベースの録音

4.きらびやかなピアノを重ねる

テクニック: Smart KeyboardのAutoplay演奏、リージョン編集
難易度: 低

 ベースが録音できたら、次はピアノを重ねてみよう。トラック表示に戻り、左下の「+」をタップしてSmart Keyboardを追加する。Smart Keyboardについては、下の動画で紹介しているので参考にしていただきたい。ここでは音色はデフォルトのGrand Piano、Autoplayの1を選択する。

 Smart KeyboardのAutoplayでは、コードストリップが3つのセグメントに分かれており、下をタップすると低音(左手の演奏)、中央は高音(右手の演奏)、そしてコードネームが表示されている上部は低音+高音が演奏される。上部中央の「先頭に戻る」をタップして、ルーラー上の再生ヘッドが左端に戻っていることを確認して録音ボタンをタップ。ストリングスと同様、1小節(4カウント)ごとにDm、B♭、F、Amの上部セグメントをタップし、それを2回繰り返す。

【動画】ピアノの録音

 このままでも良いのだが、ピアノのきらびやかな高音を目立たせたいので、右手の高音パートを1オクターブ上げてみよう。トラック表示に戻り、今録音したピアノのリージョンをタップして選択、もう一度タップしてメニューを表示させ、「編集」を選択するとリージョン編集画面が現れる。この画面は一般的に“ピアノロール”と呼ばれ、縦軸は音程、横軸は時間を表している。左側には縦軸の音程を示す鍵盤が表示されており、鍵盤をタップするとその音が再生される。

 ピンチインしてリージョン全体を表示する。上部にある8分音符の細かい音が、右手パートである。右手パート全体をドラッグして選択し、いずれかの音をタッチして1オクターブ上方にドラッグする。何もないところをタップして選択を解除する。ここで、左手パートのA(ラ)の音(4小節目と8小節目の全音符の長い音)も一緒に1オクターブ上げてしまったので、個別に選択してドラッグし、1オクターブ下に戻す。再生ボタンを押して確認したら、右上の「完了」をタップしてトラック表示に戻る。

【動画】ピアノリージョン編集

 以上、第1回ではイントロの前半部分を作成した。ベース以外の主要なフレーズはAutoplayのパターンを利用しているため、とても簡単に曲ができてしまった。とは言え、コード進行や楽器の組み合わせは無数に存在し、さらにリージョン編集によるアレンジを加えれば、Autoplayをヒントにしてオリジナルの音楽が作れる。今回の記事でGarageBandの手軽さと高機能の魅力が伝われば幸いである。

 次回はイントロ後半部分と、その後さらに展開して盛り上がりを見せる部分を作る。今回使用した楽器に加えて、アコースティックギター、ドラムそしてキーボードも登場し、さらに楽しい音楽制作を紹介する。

石山 晋平