1カ月集中講座
世界一やさしいiOS版GarageBand講座【第4回】
(2015/7/23 06:00)
13. ミキシング: 楽曲全体のバランスを整える
前回までで全ての録音が終わったので、ミキシングの作業に入ろう。ミキシングとは、各トラックの音量、パン(左右への振り分け)、エフェクト(残響などの効果)を調整して、楽曲全体のバランスを整え、各トラックが全体になじむようにする作業だ。
なおミキシング作業において、iPadのスピーカーではパンの調整などが非常に困難なため、ヘッドフォンジャックから、ヘッドフォンやステレオスピーカーに接続して作業することを推奨する。
ミキシング作業はトラック表示画面で行なうと、各トラックへのアクセスが容易になって便利だ。またトラック表示画面左側の、各トラックのアイコンが表示されている部分を右にドラッグして、「ミキサー」を引き出しておくとさらに作業がしやすくなる。
各トラックは、Instrumentのアイコンと、表示されている音色名で判別できる。ミキシングで調整するパラメータは、トラック音量、トラックパン、エコーレベル、リバーブレベルの4項目である。これらのパラメータは、各トラックのアイコンをタップして選択し、右上のフェーダーのアイコンをタップして表示されるトラック設定画面の各フェーダーで調整する。またトラック音量は、左側のミキサーにあるフェーダーでも調整できる。
なお、トラック設定画面を表示したまま別のトラックを選択すれば、トラック設定画面が選択したトラックに対応するので、毎回フェーダーのアイコンをタップして設定画面を開閉する手間が省ける。
トラック音量の調整において重要なのは、どのトラックの音をメインで聴かせたいか、ということを意識することである。例えばこの曲のアコースティックギターやキーボードは、あくまでも音に厚みや広がりを持たせるためのトラックなので、メインメロディを奏でるストリングスやピアノを邪魔してはいけない。ただし、各楽器によって音量や存在感は異なるので、何度も曲を再生しながらトラックごとに相対的に音量を決めていくことになる。
パン(「定位」とも呼ばれる)は、音に立体感を持たせる効果がある。定位をずらすことによって、トラック同士の音の衝突を避けるという効果もある。優れたミキシングを経た曲は、トラック同士が衝突せず、各トラックがはっきり聴こえる。こればかりはプロのエンジニアの熟練した技術の賜物である。
しかし、それなりのミキシングをするためのコツのようなものは存在する。例えばこの曲の主旋律を奏でるストリングスとピアノは、どちらもほぼ同じ音域で別々のメロディなので、左右に分けてみよう。また、この曲のキーボードのように、全体を包み込むような音は、左右に振らず、中央に置くとよい。
バンドサウンドや、ストリングスの曲を作る際は、実際のバンドやオーケストラのステージ上での配置を考えると分かりやすい。バンドではボーカルやドラムは中央、2人のギタリストがいる場合は左右に別れるのが通常だ。ベースとドラムは曲の土台を支える役割があるので、中央に配置しないとバランスが悪くなる。GarageBandのDrumsは、ライドは右側、クラッシュシンバルは左側といった具合に、ドラムパーツによって予めパンが設定されているので、通常は中央に配置するのが良いだろう。
またオーケストラの弦楽器は、一般的に左から第一バイオリン、第二バイオリン、ビオラ、チェロと並び、ビオラとチェロの背後にコントラバスが配置される。そのため、この曲のベースは右側に置くことにする。
エコーとリバーブは「空間系エフェクタ」と呼ばれ、文字通り音に空間的な広がりを与えるエフェクタである。エコーは「ディレイ」とも呼ばれ、音が反復する山びこ効果を加える。通常は曲のテンポに合わせて音を反復させる。この曲ではキーボードに広がりを与え、またエレキギターソロに存在感を与えるために、エコーを加える。それに対してリバーブは、音が鳴り終わった後の残響を加える。リバーブは、小さな部屋で演奏した場合の短い残響や、コンサートホールや大聖堂で演奏した場合の長い残響など、楽器が演奏されている会場の規模を再現できる。この曲のように、スケールの大きさを表現したい場合、リバーブレベルを高めに設定すると良い。しかしあまりリバーブレベルを上げ過ぎると、音の輪郭がぼやけてしまうので、意図的に特殊効果をねらう場合以外は注意する必要がある。
各トラックのパラメータを下の表にまとめた。トラック音量、エコーレベル、リバーブレベルでは、最小値を0、最大値を100とした場合の値である。トラックパンは、中央を0、一番左を-100、一番右を+100とした場合の値である。また、これらの値もあくまで一例なので、各自で好みの音を作ってみるのもいいだろう。
トラック | 音色名 | トラック音量 | トラックパン | エコーレベル | リバーブレベル |
---|---|---|---|---|---|
ストリングス | Pop | 40 | -20 | 0 | 60 |
ベース | Cinematic | 75 | +20 | 0 | 70 |
ピアノ | Grand Piano | 40 | +10 | 0 | 25 |
アコースティックギター | Acoustic | 30 | -25 | 10 | 45 |
ドラム | Classic Studio Kit | 30 | 0 | 0 | 30 |
キーボード | Transistor Choir | 40 | 0 | 45 | 55 |
エレキギターソロ | Hard Rock | 50 | +5 | 25 | 40 |
バイオリン | Cinematic | 25 | 0 | 0 | 75 |
一般的な音楽制作ソフト(DAW)では、曲中での各パラメータの変化を記録できる「オートメーション」という機能があり、トラック音量やシンセサイザーのパラメータをはじめ、曲のテンポやキーの変化などにも使われるが、残念ながらiOS版GarageBandにはオートメーション機能は搭載されていない。これはインターネット上のコミュニティでも切望されており、筆者ももっとも搭載してほしい機能である。ただ、スパナのアイコンの設定メニューで、「フェードアウト」を有効にすれば、曲全体の音量を最後にフェードアウトすることはできる。
最後に、フェーダーのアイコンをタップして表示されるトラック設定画面の一番下には、「マスターエフェクト」という項目があり、全トラックに影響するエコーとリバーブを設定できる。ここでは、エコーを「デフォルト」、リバーブを「Large Hall」に設定する。
以上をもって曲の制作は完了だ。
14. 書き出し・保存・転送
最終章となるこの章では、完成した曲をオーディオファイルに書き出したり、ソーシャルメディアにアップロードする方法を紹介する。筆者の場合、音楽制作に関わらず何か作品を完成させたばかりの時は、達成感が高まっており一刻も早く公開したい欲求に駆られる。しかしそこを何とか踏みとどまって一晩明けてからもう一度聴いてみたり、何日間か聴き続けてみると、手直ししたい箇所が出てくることが多い。完成作品を公開する前に、少しだけ待ってみると良いかもしれない。
曲が完成したら、画面左上の「My Songs」をタップして楽曲一覧に移動する。各曲のサムネイルは、作業を終了した時点の画面になっている。まずは曲にタイトルをつけよう。デフォルトで「My Song」と名付けられたタイトルをタップすると、曲名を変更できる。曲名を変更したら、「完了」をタップして楽曲一覧に戻る。
右上の「選択」を押して完成した曲をタップするか、曲のサムネイルを長押しすると、曲が選択される。すると画面左上に4つのメニューアイコンがあらわれる。左から順に、エクスポート、複製、削除、iCloudのアイコンである。
エクスポートでは、AirDropを使って近くの人と楽曲ファイルを共有したり、m4a形式のオーディオファイルを書き出し(「レンダリング」と呼ぶ)てGarageBand外で利用することができる。書き出されたオーディオファイルはメールに添付して送信したり、Facebook、SoundCloud、またはYouTube(GarageBandのアイコンがずっと映し出される動画となる)などのソーシャルメディアにアップロードすることができる。さらにオーディオファイルをiTunesに送信する、iMovieやほかのアプリで開く、また着信音に設定するといったこともできる。これらのエクスポート作業がGarageBandから直接行なえるのというのは、手間が省けて大変便利だ。
GarageBandを終了すると、作業中の曲は自動的に保存される。製作途中のバージョンを残しつつ、実験的に変更を加えたい場合は、複製機能を使うと良いだろう。
iCloudに曲をアップロードすると、iPhoneで作った曲をiPadで編集する、といった作業が可能になる。複数のiOSデバイスを持っている人には便利な機能だ。iCloudに同期された曲は、サムネイルの右上に雲のマークが表示される。既にiCloudに同期された曲を選択して、iCloudのアイコンを押すと、楽曲をiCloudから削除することができる。
おわりに
全4回にわたって、iOS版GarageBandで楽曲を制作する方法を紹介してきた。iOS版GarageBandは低価格ながら驚くほどの高機能を備えており、直感的な操作でいつでもどこでも簡単に楽しく音楽制作ができる大変魅力的なアプリだ。
ここでは書ききれなかった楽器や機能がまだまだたくさんあり、制作できる音楽のジャンルも非常に幅広いので、ぜひ試してみてほしい。この記事を読んでGarageBandや音楽制作アプリに興味を持っていただけたら幸いである。