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松下電器 神戸工場見学記

11月20日

松下電器産業株式会社
AVC社AVCネットワーク事業グループ
パーソナルコンピュータ事業部
プロダクトセンター(神戸工場)




●神戸工場名産はひとクセあるPCたち

獅子は我が子を千尋の谷に突き落とす? 手塩に掛けたCF-P1を床に放り出す高木所長

 11月20日、松下電器産業株式会社のパーソナルコンピュータ事業部プロダクトセンター(神戸工場)の一室。同事業部テクノロジーセンターの高木俊幸所長が報道陣を前に、神戸工場の新製品を説明していた。説明の途中で突然、高木所長は手にしていたその新製品「PRONOTE FG ハンディタイプ CF-P1」を床に放り出した。高木所長は床からCF-P1を取り上げると、画面を報道陣に向け、壊れずにきちんと動作しているのを見せた。

 松下電器産業の神戸工場と聞いただけでは「ああ、どこにでもあるコンピュータ工場のひとつか」と、聞き流してしまうかもしれない。だが、ここで作っている製品のラインナップを知れば、ちょっと身を乗り出したくなるはずだ。CF-P1もそのひとつ。以下に神戸工場製の主なPCを並べてみよう。

ダブル液晶ディスプレイ一体型PC「CF-81」 A4ファイルサイズの堅牢ノートPC「PRONOTE FG CF-28」(左)とA5ファイルサイズの「同CF-M34」 PC本体とディスプレイが無線で接続されるワイヤレスディスプレイPC「PRONOTE AirFG CF-07」

 どれも個性的というか、「かなり」特殊な用途にしか使えなさそうなPCばかり。だが、弊誌や僚誌ケータイWatchでのスタパ斎藤氏の連載でも、業務用PCながら何度も取り上げられているように、なぜかコンシューマにも魅力的に見えてしまうのが不思議なところ。

 このひとクセあるPCの故郷・神戸工場を、見学する機会を得た。はたしてどんなふうに、これらの変り種PCたちが作られているのだろうか。読者のみなさんにも、写真と動画で筆者といっしょに見学コースを辿っていただく。

神戸工場には、上履きに履き替えなければ入れない。入り口にたくさん用意されているので、持参してなくても大丈夫 玄関を入ると神戸工場の製品たちが出迎えてくれる。正面はPRONOTE AirFGが搭載された自転車


●法人向けビジネスには柔軟な生産体制が必須

セル生産方式の作業台。作業に必要なものに、すぐ手が届くようになっていて、違う場所へ動かしたり、向きを変えるのも簡単 清水英郎 プロダクトセンター所長自らブリーフィング。「1年前に見学された方は、今日はまったく違う工場に見えるはずです」と、セル生産による柔軟性を語った

 見学コースに行く前に、会議室で神戸工場についてのブリーフィングを受ける。神戸工場で作る製品の2/3以上を業務用PCが占めていること、日本国内のほか北米、欧州へも出荷していることなどが説明される。

 工場といえばベルトコンベヤーのラインを連想してしまう人が多いと思う(筆者もその1人だった)。ラインはいくつかの品種を大量に生産するのに効率がいいが、業務用PCの世界では、同じものを大量に作っていればよいわけではない。

 例えば「メモリを384MBに、HDDを30GBにして、高輝度液晶を付けて、Windows 2000をプリインストールしたCF-28を300台」という注文と「メモリを192MBにしてWindows 98とアプリケーションソフトをインストールしたCF-M34を50台」という注文がいっぺんにやってきて、どれも納期は1週間後などという状況もありえる。

 機種も台数も違うものを平行して生産しなければならない。そのためにはラインや工場内のレイアウト、部品の供給システムなどを組み替える必要もある。そして、この案件が終わればまた、まったく違う案件を処理しなければならない。ラインは小回りが利かない生産方式なのだ。

 神戸工場では、これを解決するためにラインを廃し、'97年からセル生産方式を取り入れた。写真のような作業台1つに1人の作業者が付く。案件の規模により、この作業台を並べてラインのようにしたり、数人だけの小さなチームを作ったり、あるいは1人だけで1つの製品の完成/検査までを行なったりする。


●人が主役の製造フロア

 では2階へPC製造の様子を見に行こう。神戸工場の建物は土足厳禁。玄関で靴からスリッパに履き替えなければ中に入れない。さらに、製造フロアに入るにはまた別なスリッパに履き替える必要がある。2階の製造フロアは静電気対策が施されているので、静電スリッパを履かなければならないのだ。

 ラインが無いとはいえ、マザーボードへのチップの実装ラインなど、自動化されている部分もあるが、フロア全体に占める面積は、自動化ラインよりも人が働くセルのほうが圧倒的に広い。セルとセルの間をロボットが動き回る、などということもない。セルへの部品供給は、人間が押す台車によって行なわれる。

 なお、製造フロアで働く人の数は1カ月の間でも2倍以上変動するそうだ。たとえば海外向けを15日まで、国内向けを20日まで、といったように市場に出すタイミングにあわせて生産するため、1カ月の間でも生産量に大きなばらつきがあるからだそうだ。

静電スリッパ フロアは学校の体育館程度の広さ 製造フロアのレイアウト。左上のSMT(Surface Mount Technology)はマザーボードの実装ライン
実際の見学コースは、検査→SMTと、部品の流れと逆になっているのだが、ここでは部品の流れ通りにSMTから見ていこう。写真はSMT内の工程図 配線が終わった基板にクリームはんだを載せるための印刷機。チップを載せる部分にクリームはんだを載せる マウンターのムービー(MPEG-1形式/2.33MB)
はんだの載ったマザーボードにチップを載せるマウンター。右側のテープリールからチップを取り出し、マザーボードの所定の位置に載せる

リフローのムービー(MPEG-1形式/2.4MB)
チップが載ったマザーボードを炉に入れ、はんだを溶かしてくっつける

炉から出てきたマザーボードは機械で外観を検査される マウンターで載せきれない部品などは人間の手で
マザーボードやHDDをボディに組み付けるライン。ラインといってもセルで構成されている 部品倉庫。一番右の人が持っているCF-P1に、どのセルでどんな部品が足りないか、がイントラネットから表示されるので、指示に従って台車で部品を運ぶ 各セルには目標と現状が表示される。1日の目標が150台、現時点でのできあがりが108台。目標達成のためには、この時刻に117台できていなければならないので、目標に9台足りない、と表示されている
検査エリア 検査ラインにあったH"通信テストステーションと書かれた箱。使われているものは見当たらなかった 検査ラインでエージング(数十時間通電するテスト)中の完成品。梱包などは1階でやるそうだ


●落とされ、冷やされ、揺さぶられるPC

神戸工場製PCの頑丈さを称え、IACP(International Association of Chiefs of Police)から贈られた盾。頑丈PCは米国の警察や消防でも使われている
 神戸工場製のPCには「頑丈」をウリにしたものが多いが、その頑丈さを証明するための施設「環境試験室」も工場内に用意されている。1階の、環境試験室も見学させてもらった。

 環境試験室では、落下試験のほか、耐熱試験、耐寒試験、防滴試験、振動や熱が複合した「車載試験」のための施設がある。試作機はもちろん、製造された製品から抜き取られたサンプルもここで試験にかけられる。

環境試験室の入り口。窓から見えるクリーム色のプレハブ小屋様のものが耐熱/耐寒試験用の低温恒温恒湿室 低温恒温恒湿室。-30~+80度の温度、20~95%の湿度に設定できる。写真の部屋は耐寒試験中で、扉にペンギンのステッカーが。耐熱試験の部屋にはライオンのステッカーが貼ってあった 写真が見にくくて申し訳ないが、低温恒温恒湿室の窓から中をのぞいたところ。中で防寒服を着た人がPCの動作を確かめている。室内は-0.2度
-0.2度の冷気に耐えるCF-M34たち。ちゃんと動作している 耐熱試験中の部屋の中。室温は+40度。頑丈PCでなくてもこの試験を受ける 車載試験に使う「複合加速試験機」。-20~60度の高温、最大90%の湿度、車載時の振動の影響を試験できる
複合加速試験機の中で車載試験中のCF-P1。台が振動している 防滴試験のムービー(MPEG-1形式/2.1MB)
全方位からの防滴性能の試験。この動画ではよく見えないが、CF-P1の周りをくるくる回っている半円のパイプから、結構な勢いで水が噴出している。私物のノートPCやPDAがこんな目に遭う様は、想像もしたくない

落下試験のムービー(MPEG-1形式/1.92MB)
落下試験室。1.2mの高さから落とす。試験自体はあっさりと終わるが、床に落ちる音はトラウマになりそうなくらい大きく響く

松下電器産業株式会社 神戸工場の概要

 神戸工場は、神戸市西区の工業団地「西神インダストリアルパーク」内にある。「西神インダストリアルパーク」は神戸ポートアイランド埋め立て用の土砂を採集した跡地を、先端技術の工業団地として利用したもので、コニカ、神戸製鋼、川崎重工など100社以上の企業が進出している。

 神戸工場の敷地面積は32,600平方メートルで、27,000平方メートルの建物1棟で構成されている。年間60万台の生産能力を擁するが、昨年度の実績は35万台。業務用PC以外にも、コンシューマ向けPC「HITO」シリーズなども生産している。ちなみにPC以前にはワープロ専用機を生産していた。品質管理規格「ISO9001」と環境マネジメントシステム規格「ISO14001」の認証を、それぞれ'96年と'97年に受けている。

□関連記事
【2000年12月18日】松下、ワープロ専用機市場から撤退
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/20001218/pana.htm

□松下電器のホームページ
http://www.matsushita.co.jp/
□神戸工場製PC関連記事
【11月20日】松下、ワイヤレス通信対応の頑丈ハンドヘルド機
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/20011120/pana2.htm
【6月26日】松下、ディスプレイ-本体間を無線接続する「PRONOTE AirFG」
--液晶部からのPC操作も可能
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/20010626/pana.htm
【4月16日】松下、防滴性能を高めたアウトドア用ノート「PRONOTE FG」
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/20010416/pana.htm
【2000年12月19日】松下、15.7インチSXGA液晶を2台搭載した液晶一体型PC
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/20001219/pana2.htm
【2000年12月19日】松下、堅牢ノートにA5ファイルサイズモデル追加
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/20001219/pana.htm

(2001年11月26日)

[Reported by tanak-sh@impress.co.jp]

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