TECHXNY/PC EXPO前日レポート

Intelが0.13μmプロセスのモバイルPentium III-Mや搭載ノートパソコンを世界初公開

会場となるJacob Javits Center。本日はカンファレンスなどが行なわれていた
会期:6月25~28日

会場:Jacob Javits Center


 毎年6月の終わりにニューヨークで開催されているPC EXPOだが、今年からTECHXNYの一部として開催されることに変更され、ニューヨークのJacob Javits Centerで明日より開催される。例年は、米国のPC向け新製品発表の場として利用されることが多いが、今回はIntel、TransmetaといったCPUメーカーが相次いでモバイル向けプロセッサの発表を予告したため、特にモバイル向け製品で大きく盛り上がることが予想されている。前日となる本日は、キックオフイベントとなるDigitalFocus and MobileFocus showcasesが報道関係者や招待客向けに開催され、そこで、Intelの0.13μmプロセスのモバイルPentium III-Mなどが公開された。


●ついにデビューしたモバイルPentium III-M

 既にIntelは0.13μmのプロセスルールのPentium IIIであるTualatinコアを、サーバー向けのPentium III-S 512K L2キャッシュとして投入している。このほかにも、Intelはモバイル向け、デスクトップ向けにもTualatinを利用した製品を計画しており、順次投入する予定となっている(詳しくは昨日の後藤氏の「後藤弘茂のWeekly海外ニュース」( http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/20010625/kaigai01.htm )をご参照いただきたい)。今回、TECHXNYにおいて公開されるのは、このうちモバイル向けの製品で、正式名称はモバイルPentium III-Mであるという。実は既にこのことは事前に告知されており、PC Expoにおいて行なわれるIntelのマイク・スピンター副社長の基調講演において言及があるものと見られているほか、Intel自身のブースにおいて搭載ノートパソコンなどが展示されるものと見られている。

モバイルPentium III-MのμFCBGAパッケージ。479ピンで、キャパシタは表面についている。なお、Intelのマクドナルド氏によれば「M」はMobileやMobilityの「M」であるという

 それに先立ち、TECHXNYのメディア向けキックオフイベントとなるDigitalFocus and MobileFocus showcasesがニューヨーク市内の会場において行なわれたが、この会場にIntelもブースを出展し、モバイルPentium III-Mや、搭載ノートパソコンなどが展示されていた。同社のモバイルプラットフォームグループジェネラルマネージャ兼副社長のフランク・スピンドラー氏は「今回はあくまでテクノロジデモだが、第3四半期中にフルサイズや薄型A4ノート向けモバイルPentium III-Mを発表する。モバイルPentium III-Mは、パワフルなノートパソコン向けのよいソリューションとなるだろう」と述べ、モバイルPentium III-Mを第3四半期中に出荷するという見通しを明らかにした。

モバイルPentium III-MのμFCPGAパッケージ。ヒートスプレッダがついていない以外は、NorthwoodやWillamette-478にそっくりだ。キャパシタは裏面についている

 モバイルPentium III-Mには、2つのパッケージが用意されている。1つはμFCBGA( Micro Flip Chip Ball Grid Array)で、表側にキャパシタがついており、裏面にはBGAのピン(479ピン)がつく構造となっている。もう1つがμFCPGA(Micro Flip Chip Pin Grid Array)で、大きさは478ピンPentium 4のμPGAパッケージと同じだ。μFCPGAの方は裏面にキャパシタがついており、高密度な478ピンのピンが用意されている。

 展示されていたのモバイルPentium III-M搭載ノートパソコンは、富士通のLIFEBOOKとAcerのTravelMateで、説明員によればいずれも1.13GHzのモバイルPentium III-Mが搭載されているという。チップセットにはモバイルPentium III-Mと一緒に登場する予定のIntel 830MPが採用されていた。Intel 830ファミリーには、3製品が用意されており、内蔵グラフィックスのあるなし、外部AGPポートのサポートなどで次の3製品が用意されている。

内蔵グラフィックスAGP
Intel 830MP×
Intel 830M
Intel 830MG×

 Intelの説明員によれば、最初にIntel 830MPが登場し、追って内蔵グラフィックスをサポートしたIntel 830MとIntel 830MGが登場するという。

 なお、このように、タイミングが若干ずれている背景には、内蔵グラフィックスのドライバ周りの問題があるようだ。といっても動作しないなどの問題ではなく、Microsoftの互換性認証(WHQL)をパスするのにもうすこし時間がかかるため、とりあえず先に内蔵グラフィックスをサポートしないIntel 830MPをリリースし、内蔵グラフィックスをサポートするIntel 830M、Intel 830MGを1~2カ月遅れでリリースするという説明がOEMメーカー筋にはされているということだ。

富士通のモバイルPentium III-M搭載のLIFEBOOK。スペックなどの詳細は不明 AcerのモバイルPentium III-M搭載のTravelMate。3DMark2001が動作していた


●拡張されたSpeedStepテクノロジはCPU負荷率に応じたスイッチングに対応…ただし2段階

 なお、今回デモされたモバイルPentium III-Mでは、CPUの負荷率に応じてクロック・電圧を可変する機能が用意されているという。Intelモバイルプラットフォームグループマーケティングディレクターのドナルド・マクドナルド氏は「今回のモバイルPentium III-Mでは2つの省電力機能の強化が図られている。1つは拡張版のSpeedStepテクノロジで、もう1つがDeeperSleepだ」と、モバイルPentium III-Mの省電力機能について語っている。

 マクドナルド氏によれば、IntelがモバイルPentium III-Mに実装した拡張版のSpeedStepテクノロジでは、CPU負荷率に応じたクロック・電圧の可変が可能になっているという。「ただし、これまでと同じく2段階のみだ」(マクドナルド氏)と、ライバルのAMDのPowerNow!やTransmetaのLongRunのように、複数段階での可変はサポートしていないことを明らかにしている。これは、これまではACアダプタの有無がクロック・電圧可変のトリガとなっていたのが、CPUの負荷率もトリガとすることが可能になっていることを意味している。つまり、従来のSpeedStepテクノロジが、

ACアダプタ駆動時:高クロック・高電圧
バッテリ駆動時:低クロック・低電圧

 という2モードのみをサポートしていたのに対して、モバイルPentium III-Mに搭載されている拡張版のSpeedStepテクノロジでは、

CPU高負荷時:高クロック・高電圧
CPU低負荷時:低クロック・低電圧

 というモードが追加されたことを意味している。Intelが多段階のクロック・電圧変動をサポートしないことについて、マクドナルド氏は「結局のところ、CPU負荷率が下がるときにはほとんどが下のクロックに張りつくし、高負荷率のソフトウェアを走らせている時には上のクロックのままであることが多い。それならば、2段階で十分だろうと判断した」と述べ、CPU負荷率に応じてクロック・電圧を多段階に変動させる意味はないという認識を明らかにした。

 マクドナルド氏の言うことには確かに一理ある。例えば、TransmetaのCrusoeは、CPU負荷率などに応じた多段階のCPUクロック・電圧可変をサポートしているが、実際にノートPCメーカーが実装しているのはせいぜい4段階か5段階だ。AMDのPowerNow!テクノロジも同様で、最大で32段階のクロック・電圧可変が利用できるが、やはりノートPCメーカーは4~5段階をサポートする例がほとんどだ。そうした意味では、マクドナルド氏の言うように、2段階でも実質的な差はほとんどないと言えるのかもしれない。

 だが、問題になるのはマーケティング面での不利さだ。AMDやTransmetaは、こうした省電力機能でIntelを上回っているとアピールしているが、IntelがCPU負荷率に応じたクロック・電圧の変動をサポートしたことで、事実上差がなくなってきた。しかし、依然として段階の数が多いということはアピールすることができる。Intelとしては、それには技術的にさほど意味はないと主張するのだろうが、技術に詳しくないユーザーにとっては、なんとなく段階数が多い方がすぐれていると思えてしまうだろう。このあたりは、クロックの数字が大きければ大きいほど、CPUが高速であると認識されてしまうのと同じような理屈だと言える(Intelのモバイル関係の記者会見では、必ずといってよいほどこの質問がでるだけに、Intel関係者もうんざりしていることだろう)。この点をどのように解決するか、それが拡張されたSpeedStepの課題と言えるだろう。


●今後は低電圧版や超低電圧版も登場予定

DigitalFocus and MobileFocus showcasesに展示されていた注目製品はHewlettPackardのOmniBook500のBluetooth内蔵バージョンとBluetooth対応プリンタ。実際に接続して印刷デモを行なっていた

 今回発表されたモバイルPentium III-Mは、A4フルサイズやA4薄型などのメインストリーム向け製品で、従来のモバイルPentium IIIを置き換える製品だと言える。マクドナルド氏は、「今後、低電圧版、超低電圧版も順次リリースしていく。それらがサブノートやミニノートといった日本で人気のモバイル向けノートPCに採用されることになるだろう」と述べている。

 製造プロセスルールを0.13μmに微細化することにより、同クロックのCoppermineコアに比べて消費電力の低減が期待できるTualatinコアは、こうした低電圧向け、超低電圧向けこそ注目の製品といえる。マクドナルド氏によれば、低電圧版、超低電圧版は今年の後半にリリースされる予定があるということで、早ければ今年の秋か冬には、超低電圧版のTualatinを搭載したサブノート、ミニノートを手にすることができるかもしれない。ぜひ期待したいところだ。

 なお、明日から行なわれる展示会でも、モバイルPentium III-Mを搭載したノートパソコンがいくつか展示されるという情報もあり、PC Watchでも判明次第お伝えしていく予定だ。

□TECHXNYのホームページ(英文)
http://www.techxny.com/

(2001年6月26日)

[Reported by 笠原一輝ユービック・コンピューティング]

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