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COMDEX Fall 2002


帰ってきたTransmeta
~256bitのコードネーム“ASTRO”ことTM8000を公開

同社が策定したUPC(Ultra Personal Computer)のロゴの前でタブレットPCを操作するTransmetaの創始者でCTOのデビッド・ディッツエル氏

会期:11月18日~22日(現地時間)
会場:Las Vegas Convention Center



 Transmetaが、x86命令をVLIW命令に変換するコードモーフィングソフトウェア(CMS)と、VLIW命令が実行可能なRISCプロセッサを組み合わせることで、低消費電力なx86互換CPU「Crusoe」を提供し、大きな話題を呼んだことは記憶に新しい。しかし、出荷遅延や株価の低迷など、最近の同社に関しては、ともすれば後ろ向きな話題が先行しつつあった。

 ところがどっこい、Transmetaは生きていた。深い闇の中で静かに開発を続けられてきた内部アーキテクチャを256bitに拡張したCrusoeが、COMDEX/Fallの会場近くのホテルにおいて同社の顧客や報道関係者に対して初めて公開された。

●内部アーキテクチャの256bit化で大幅な性能向上

 今回Transmetaが公開したのは、同社がコードネーム“ASTRO”と呼ぶCPUで、一般的にはTM8000という製品名で知られている。やや余談になるが、ASTROという名前は、'60年代に一世を風靡した米国のアニメ「未来家族ジェットソン」(米国では「The Jetsons」)に登場する犬の名前からとっており、こちらのリンク先にある絵の左下の犬がそのASTROになる。

 同社の創始者でCTO(最高技術責任者)のデビッド・ディッツエル氏は「我々は、新しいASTRO、つまり256bit Crusoeに大変興奮している。新しいCrusoeは大変パフォーマンスが高く、しかも低消費電力だ」と、技術者らしく新しい技術を熱く語る。無理もない。従来のTM5X00ファミリーでは128bitのVLIW命令を処理することが可能になっており、CMSにより変換された32bitのx86命令を4つ一度に処理することが可能になっていた。ところが、今度のTM8000ファミリーではそれを一度に8つ処理することが可能になる。つまり、命令の実行効率がいきなり倍になるわけだ。「我々はTM8000ファミリーにおいてILP(Instruction-Level Parallelism、命令の同時実効性)を上げていくと同時に、消費電力については従来のTM5X00ファミリーと同等かさらに下回るような状況を維持していく」と語り、そのパフォーマンスにはかなり自信を持っているようだ。

●モバイルPentium 4 1.80GHz-Mを上回るフォーマンス?

 実際、報道関係者に対して、限定的な形ではあるがそのパフォーマンスのデモも行なわれた。写真撮影は禁止されていたが、TM8000は緑色のパッケージにフリップチップで搭載されており、従来のTM5800と同じようにBGAパッケージとなっていた。そして、TM8000のダイサイズは明らかにTM5800と比べて大きくなっている。Transmetaによれば、TM8000はTM5800と同じTSMCの0.13μmプロセスで製造されるということであるので、256bitのレジスタ搭載などによりトランジスタ数が増えていることが伺える。

 すでにこのチップを搭載して動作するリファレンスデザインのマシンが公開されていた。モバイルPentium 4-M 1.80GHzを搭載したソニーのVAIO GRXと比較されており、Windowsのスタートメニューに表示される「ヘルプとサポート(H)」を同時に起動させると、TM8000の方は割とすぐ起動したのだが、モバイルPentium 4 1.80GHz-Mはそれから10秒程度は時間がかかっていた。どのような条件で比較しているのか公開されていなかったので、本当にそういうパフォーマンスであるのかは明確ではないが、デモを見る限りはかなり速そうな印象だった。

●技術的な詳細は未発表だが、AGPはサポート

 なお、今回は見えること以外の技術的な詳細は明らかにされなかった。ただ、同時にテスト用のリファレンスマザーボードも公開されていたので、チェックしてみたところAGPスロットがついていることがわかった。このため、AGPはサポートされると考えていいだろう。また、ノースブリッジは特には用意されていなかったので、TM5X00ファミリーと同じようにノースブリッジ相当の機能は統合されていると考えて差し支えないだろう。

 見る限り、パッケージのサイズはTM5X00ファミリーと同じだったので、ピン数などは特に増えていなかった。AGPが増えた分は、サウスブリッジへのインターフェイスが、従来のTM5X00で採用されていたPCIからHyperTransportに変更されたのではないだろうか? 実際、リファレンスマザーボードにはやや大きめのサウスブリッジが搭載されていた。シールが貼られていたので、どのようなチップセットかはわからないが、ALiが開発しているHyperTransportのサウスブリッジである可能性が高いといっていいだろう(実際、シールに半分隠れていたが、“A”に見えるようなアルファベットが見えた)。

●リリース予定は2003年第3四半期、Baniasと激突必至か

 ディッツエル氏は、TM8000には低消費電力版と通常版の2つがあるという同社のロードマップを公開した。「新しい256bitのTM8000ファミリーは、現在利用されているようなサブノートやミニノートだけではなく、すべてのノートPCをカバーするようになる」と述べ、TM8000ファミリーがオールレンジのノートPCをカバーするものになると強調した。

 ディッツエル氏によれば、TM8000を搭載したノートPCが市場に登場するのは2003年の第3四半期になるという。TM8000は今回のデモでも使われたファーストシリコンがすでにできあがっている。今年の年末までにはOEMメーカーに対してサンプルの提供が行なわれ、2003年の第3四半期に大量出荷というスケジュールで進めていく予定であるという。IntelはBaniasを2003年の3月に投入する予定だが、第3四半期には当然Baniasを搭載したマシンが市場に出回っている可能性が高い。となれば、第3四半期、つまりPCメーカーがリリースする9月、10月の秋モデルでは、再びIntel対TransmetaというモバイルCPU戦争が再燃する可能性が高そうだ。

WinHECで公開されたOQOと同じようなUPC(Ultra Personal Computer)の開発例。福岡のベンチャー企業ジェイエムネットが開発している“UltraPC-X”。128mm×74mmの基板にPCとして必要な機能をすべて組み込んでいる。スペックは、CPUにTM5800 866MHz、Micro-DIMMのソケット、IDE、USB、PCカードスロットなど。マイクロソフトマウスと比べると如何に小さいかがよくわかる TM5800の1GHzが搭載された富士通のLOOX。現在販売されているCrusoeを搭載したPCの秋モデルは、軒並み933MHzが搭載されているが、次期モデルでは1GHzが搭載されることになるのだろうか CMSの最新バージョン(4.x)のデモ。現在のバージョンよりもアプリケーションの起動時間が高速になるという。左側は従来バージョンで、まだWebページの表示が終わっていないことがわかる
日本IBMが研究開発しているという超小型の基板。これだけでPCとして動作するということだが、実際にテスト用の基板にのせられて動いていた。まだ研究開発段階ということだが、将来何かのマシンに組み込まれて出荷されることになるのだろうか

□COMDEX Fall 2002のホームページ(英文)
http://www.comdex.com/fall/

(2002年11月20日)

[Reported by 笠原一輝@ユービック・コンピューティング]


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