PocketGearファーストインプレッション
~実用的で高性能なデータビューア

3月15日発売

標準価格:オープンプライス



 日本電気株式会社(NEC)のPocket PC 2002搭載PDA「PocketGear(MC/PG5000)」が3月15日に発売になった。ここではPocketGearの使用感などを簡単にお伝えする。

●コンパクトに見えるが……

 写真ではコンパクトな印象を受けるPocketGearだが、箱を開けて本体を取り出してみると、意外と大きめに感じる。液晶ディスプレイの周囲に黒い縁を付けたり、本体周辺部を薄くするなどしてコンパクトさを演出しているが、ほかのPocket PC 2002搭載機と比較しても決して小さいわけではない(表参照)。

機種名 本体サイズ(幅×奥行き×高さ) 重量
hp jornada 568 76.5×17.2×132mm 173g
GENIO e550X 77.5×17.5×125mm 約180g
カシオペア E-2000 82.0×17.5×130mm 約190g
iPAQ Pocket PC H3800シリーズ 84.0×16.0×134mm 約190g
iPAQ Pocket PC H3600シリーズ 83.5×15.9×130mm 約180g
PocketGear 78.0×18.5×126mm 約190g

 だからといって手に余るような大きさ/重さではないし、ホールド感もよい。背広の内ポケットに入れておいても型崩れはしないだろう。

 左手に持ったとき、ジョグダイヤルは親指が自然にかかる位置にあり、そのほかの指がディスプレイにかかってしまうこともない。ただ、使用中に高い負荷をかけると本体背面が熱を持つことがあり、こうした場面では熱を防ぐジャケットのようなものが付いていればよいと感じた。

 スイッチ類は小さすぎるように見えるが、これも見た目ほど使いにくいわけでなく、押し込むと適度なクリック感があり、感触もよい。ただし、前面下部の4方向キーだけは、場合によっては左右方法と上下方向を一緒に押してしまうこともあり、やや使いにくい。また、本体側面の電源ボタンと録音ボタンを誤って押して電源を入れてしまうこともあった。この2つについてはロック機構が欲しいところだ。

エグゴノミックなデザインになっているわけではないが、ホールドはしやすい。ただし本体背面が熱を持ったときはすこし熱く感じる 本体前面のキーを押すと、キーのグラフィックが青く光るギミックが付いている 本体前面上部のイルミネーションは7色に光る。録音中、アラームなどの用途に応じて色を割り当てられる

 スタイラスは本体右側面に格納される。取り出し、挿入ともにスムースだ。スタイラス自体は、PDAに付属するものとしては標準的な使い心地といえるだろう。記者の好みからすると短すぎ、細すぎ、軽すぎるのだが、これはほかのPDAでも大同小異だ。好みのスタイラスを別に持てばよいだろう。

 細かい点だが、ストラップなどを取り付けられる小型のDリングが本体背面にあるのもうれしい心遣いだ。位置も絶妙で、ハンドストラップを付け、左手首にかけて本体をホールドするとちょうどよい。ネックストラップを付けて首から下げても違和感はない。

本体右側に収納されるスタイラス。抜け落ちる心配はなさそうだが、すこし取り出しにくく感じる人もいるだろう 本体左側面。ジョグダイヤルの脇に電源キーと録音キーがある。キーロック機構がほしいところ。その下にはDリングが見える SDカードスロットにも蓋が付く

●筐体の質感は悪くない

 本体色は金属風の銀色でまとめられており、ビジネスの場でも違和感の無いデザインとなっている。だからといって無味乾燥な事務機風になっているわけでもなく、プライベートでも持つ喜びを感じられるだろう。

 現在発売されているほかのPDAと比較しても、質感はよいほうだろう。クレードルも同じ塗装が施されており、一体感が高いデザインとなっている。

 ただし、CFスロットのカバーはいただけない。柔らかめの樹脂でできているのだが、本体の質感と明らかに異なり、このカバーのおかげで本体全体の質感が下がっているような印象さえ受ける。また開閉しにくく、PHSカードやLANカードなどCFスロットからはみ出るカードを挿入すると、カバーが背面に余ってしまう。さらに、ヒンジ部分は樹脂の弾性に頼っており、何度も開閉しているうちに折れてしまうのではないかと不安になる。これならCFスロットカバーなど付けず、未使用時にはダミーカードを挿入しておく方式のほうがよいとさえ思ってしまう。

クレードルにのせたところ。クレードルとPCはUSBで接続するが、別売りのケーブルを買えばシリアルでも接続可能。ACアダプタは本体に直接つなぐことも、クレードルにつなぐこともできる。クレードルのACアダプタコネクタは硬く、入れたつもりになっていても充電されなかったことがあった 本体と材質が異なるCFスロットカバー

●使いにくいカバーと見やすい液晶ディスプレイ

 ディスプレイを保護するためのカバーが付属しており、本体上面に取り付けることができる。本体と同様の質感で一体感も高いが、取り付け部分もCFスロットカバーと同じ材質で、ヒンジ部もCFスロットカバーと同様の構造なのが残念。さらに、カバーを開けると本体背面でカバーがぶらぶらと揺れる状態になり、収まりが悪い。液晶を保護し、カバンの中などで本体前面のボタンが押されてしまう(押されると電源が入ってしまう)のを防ぐためには有効なカバーだが、以上の理由から付けるのをやめてしまった。ヒンジ部が改善されればより使いやすくなると思われる。

 液晶ディスプレイは応答速度、フロントライトの明るさ、コントラスト比ともに問題なく、たいへん見やすい。昼間の屋外は液晶の苦手とする場面だが、そんなところでも見やすく、たいへん優秀なディスプレイと言えるだろう。動画の再生も、十分実用に耐える画質で見ることができる。

カバーを閉めたときの、本体との一体感が高い 取り外すこともできる。ヒンジ部分の材質はCFスロットと共通
PHSカードとカバーをつけたところ。PHSカードのはみ出た部分が邪魔をして、カバーが背面にぴったりと付かない 屋外でも液晶は見やすい。この写真は晴天の日向という液晶にとっては最悪の環境でのもの。撮影のためにフロントライトを最大輝度に設定したが、輝度をもっと低くしても実用に耐える

●セットアップは簡単

小型のACアダプタが付属する

 PocketGearは内蔵のリチウムイオン充電池で駆動されるが、購入した個体は出荷時に充電されていなかった。したがって、箱から出したらまずACアダプタを接続し、4時間かけて充電することになる(買ってすぐに喫茶店や電車の中で試せないのは残念なところだ)。なおACアダプタは小型軽量なものが付属しており、本体と一緒に持ち運ぶのも簡単そうだ。

 電源を入れると、タッチスクリーンのキャリブレーションやタイムゾーンの設定が始まる。これを済ませるとPocket PC 2002のホーム画面である「TODAY」画面になる。

 まずはPCと接続(ActiveSync)できるようにしておこう。PCとのデータ同期だけでなく、デバイスドライバやアプリケーションのインストール時にも、PCが必要になる場合があるからだ。PCとはクレードル経由でUSBまたはシリアル(シリアルケーブルは別売り)で接続するか、PC側にIrDAポートがあれば赤外線接続も可能だ。また、LANでの同期も可能だが、必ず一度USB、シリアル、赤外線のいずれかでPCと接続し、パートナーシップを設定しておく必要がある。

 まず、付属のCD-ROMから「ActiveSync」をPCにインストールする。PocketGearのスケジュールデータや住所録データは、PC側ではOutlookで管理することになるが、CD-ROMにはOutlook 2002も入っているので、必要なときはあわせてインストールできる。なお、今回はPCにすでにインストールされていたOutlook 2000を使用したが、問題なく同期できた。

 次にクレードルとPCをUSBケーブルで接続し、クレードルにPocketGearをセットする。これだけでパートナーシップが設定され、データも同期される。作業は拍子抜けするほど簡単である。

同期中のPCのActivSycn画面。データ同期だけでなく、アプリケーションやドライバのインストール、ファイルの転送にも使う 付録CD-ROMの「Pocket PC接続ウィザード」を使うと、PC上からPocketGearのネットワーク設定などができる


●ドライバやアプリケーションもActiveSyncで

 CFメモリカード、SDメモリーカード、PHSカード(P-in Comp@ct)などはスロットに挿入するだけで認識された。これらの機器はPocket PC 2002があらかじめドライバを持っているため、とくにユーザーがドライバをインストールする必要はない。

 CF型ワイヤレスLANカードとしてメルコの「WLI-CF-S11G」を用意したが、これはWLI-CF-S11G付属のCD-ROMからActiveSyncでドライバをインストールする必要があった。このようにPocket PC 2002がドライバを持たない機器でも、ActiveSyncでドライバをインストールするようになっていれば、インストールはウィザードに従うだけなので簡単だ。

 付属CD-ROMには辞書などのPocket PC用アプリケーションが収録されているが、こちらもActiveSyncでインストール可能だ。

今回試したデバイス 1GBのmicrodriveも「メモリーカード」として難なく認識された

●標準的なパフォーマンス

 PocketGearのCPUはStrongARM SA-1110 206MHz、メモリは32MBで、現在手に入るPocket PC 2002搭載機としては標準的なスペックと言える。さまざまな操作のレスポンスは速く、アプリケーションの起動も高速で快適だが、メモリが足りないと感じられることもある。

 とくにPocket PC 2002ではアプリケーションの右上にあるクローズボックスをタップして終了させたつもりでも、実際には終了していないものがある(設定メニューの中の「メモリ」を起動して終了させなければならない)ため、気が付かないうちにメモリ不足になっていることがある。プログラムやデータはなるべくSDメモリーカードなどの外部メモリに保存するようにして、本体メモリのデータ保存用メモリを最小にし、プログラム実行用メモリを増やす必要があるだろう。

 メールの読み書きや、Pocket Internet ExplorerでのWebブラウズ、Windows Media Playerでの音楽再生もとくに問題はない。Windows Media Playerでのビデオ再生については、あまりビットレートの高いものはスムースに再生できない。今回用意できたのは360Kbpsのデータと、ストリーミングでよく使われる36Kbpsのデータだが、前者は3秒に1回画面が切り替わる程度の再生しかできなかった。後者はコマ落ちもなく、スムースに再生できた。なお、Windows Media Playerはネット上のストリーム再生にも対応している。

設定メニューの「メモリ」でプログラム実行用メモリの割り当てを変更できる。アプリケーションなどを起動していない状態でも、実行用メモリはすでに7MBほど使用されている ActiveSyncからのアプリケーションインストール中に、「規定のディレクトリにインストールするか?」と聞かれたら、「いいえ」と答えておく。するとメモリーカードにインストールできる。「はい」と答えると本体メモリにインストールされてしまう ネット上のストリーミングデータを再生できる

 通勤中に音楽を聴きながらメールを読み書きすることを想定し、PHSや無線LANでメールを送受信しながら音楽を再生してみた。メールを開くときに音飛びがしたが、基本的に問題なく再生できた。

 バッテリに関しては、連続動作時間が公称約12時間(フロントライトオフ)となっているが、実際にはフロントライトも使えばMP3、WMA等の再生、通信など、負荷の高い作業もするわけで、半分程度だと思っておいたほうがいいだろう。また、PHSカードやワイヤレスLANカードによる通信を繰り返していると、容量残50%程度でもバッテリー残量警告が出てしまうことがある。幸い付属のACアダプタが小型なので、電源が確保できる場所ではACアダプタを接続して通信するように心がけるしかない。随所にワイヤレスLANを利用できるホットスポットが整備されつつある昨今では、若干不安になる部分ではある。バッテリを交換できる構造になっていれば、出先で電池切れになる不安が軽減されるのだが。

●iアプリを実行できる

 前述のとおり、PocketGearには辞書、経路検索ソフト、読書ソフト、画像ビューアなど豊富なアプリケーションが同梱されている。これらは付属CD-ROMに収録されているので、PCからインストールする必要があるが、どれも実用性が高いのでぜひインストールしておきたい。ただし、すべてインストールするには25MB程度の空き領域が必要だ。最低限32MB程度のSDメモリーカードは用意しておきたいところだ。

 付属アプリケーションの中でもっとも興味深いのが、「iディスプレイ」と「i-enabler」。前者はiモード互換のWebブラウザで、公式メニューを除くiモード対応ホームページをブラウズできる。携帯電話より高速に、大きな画面でiモードページを見ることができるのだ。後者はiアプリの実行環境で、iディスプレイでiアプリをダウンロードするとi-enablerが自動的に起動して、iアプリをPocketGear上で実行できるのだ。JavaVMゆえ、起動とiアプリのロードにやや時間がかかるものがあるが、いったんロードしてしまえばiアプリの実行速度は十分実用になる。

PocketGearのオリジナルメニュー「PGメニュー」も搭載されている。前面のホームボタンは出荷時にはPGメニューに割り当てられている iディスプレイでiモードサイトを見る。iモード電話機よりも大きな画面で高速にブラウズできる iアプリ実行環境の「i-enabler」。テンキーや十字キーをタップして操作するほか、本体前面の四方向キーでも操作できる。左上の白い部分にiアプリが表示される

●文字入力はやや苦手

 文字入力の方法はソフトウェアキーボードしか用意されていない。hp jornada 568のキーボードジャケットやZaurusの内蔵キーボードのような、小型キーボードが最近の流行だが、PocketGearにはオプションでも用意されていない。

 日本語入力ソフトもMS-IMEだけで、ATOKなどは用意されていない。したがって文字入力は決してやりやすいとはいえない。PO-Boxのような推測変換機能でも標準で搭載されていればずいぶんと改善されるだろう。文字入力はPocketGearで最大のウィークポイントかもしれない。

●実用性の高いデータビューア

 CFスロットカバーや液晶カバーなど瑣末な部分に不満があるものの、大きな問題はない。パフォーマンスや装備は十分で、セットアップも比較的簡単なので、実用性は高いといえる。Dリングのような細かい心遣いもうれしいし、豊富なアプリケーションが付属しているうえに、実売価格が57,000円前後と、現在発売中のPocket PC 2002搭載機中最安値なのでお買い得感も高い。

 文字入力を苦手とするのが残念なところだが、液晶は見やすく、レスポンスも高速で、iモードページやiアプリも楽しめるという“特技”も備えている。PocketGearが2001年10月に発表されて以来、2度発売延期された間にhp jornada 568、GENIO e550Xなどが発売され、カシオペアE-2000、iPaq Pocket PC H-3800シリーズなどのアナウンスもあった。そのため、発表当時のインパクトが薄れていることは否定できないものの、PocketGearならではの特徴もきちんと備えている。通勤時や外出先など、時と所を問わずにメールや電子ブックを参照したり、音楽やビデオを楽しめる、高性能なデータビューアとして魅力的なデバイスといえる。

□NECのホームページ
http://www.nec.co.jp/
□製品情報
http://121ware.com/pg/
□関連記事
【2001年10月5日】NEC、Pocket PC 2002搭載のPDA「PocketGear」
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/20011005/nec.htm
【2001年12月11日】NEC、PocketGearの出荷を延期
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/20011211/nec.htm
【2月1日】NEC、「PocketGear」の発売日を3月15日に
~性能面/耐久性を改善
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2002/0201/nec.htm
【3月15日】NEC「PocketGear」本日発売
~実売価格は57,000円前後
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2002/0315/nec.htm

(2002年3月18日)

[Reported by tanak-sh@impress.co.jp]

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