大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

Windows 7発売前の買い控えはなかったのか



 Windows 7の発売まであと2日となった。本来なら、この1カ月は新OS発売前の買い控えが見られる時期なのだが、量販店やメーカーの声を聞くと意外にも、買い控えを懸念する声が聞かれていない。むしろ、販売店の間からは、「Windows 7発売前の買い控えはまったく感じられない」という声が相次いで聞かれているのだ。

 例えば、ビックカメラでは、全国25店舗において、9月25日からWindows 7相談カウンターを開設しているが、「有楽町店では、1日40~50件の相談があり、Windows 7への期待が高まっており、Windows 7のパッケージ予約は、Vista発売時を大きく上回っている」とする一方で、「PC本体の売れ行きが止まっているという感じはまったく受けない」と語る。Windows Vistaを搭載しているPC本体が安定的に売れているというのだ。

 また、マイクロソフトでも事前の予約が好調であることを示す。日本法人前社長であり、米Microsoftバイスプレジデントのダレン・ヒューストン氏は、先頃来日した際に、「日本におけるWindows 7の事前予約数は、予約開始からわずか2週間で、Windows Vistaの発売1か月時点と同じ数量に達している」と、出足の良さを明らかにした。

ビックカメラのWindows 7相談カウンターMicrosoftダレン・ヒューストン氏

 Windows 7の予約販売の実施が、買い控えを最小限にし、実際には需要の先食いなのでは、との見方もあるが、どうもそれだけではないようだ。というのも、データを見ると、需要の先食い以上の伸びが見られるからだ。

 BCNの調べによると、マイクロソフトのWindwos 7に関するマーケティング活動が活発化した今年7月以降、PCの販売台数は、それまでの前年同月比2桁増の勢いに比べてやや減速したものの、依然として1桁台の成長率を維持しており、9月の実績でも前年同月比6.7%増と、前年を上回る実績で推移している。

 さらに、週次データで市況の動きをもう少し詳しく見ても、やはり買い控えの傾向は見られない。最新週の10月12日~18日の集計では、前年同週比で14.2%増と2桁増を記録。これで4週連続で前年同週比を上回っている。また、一時的に落ち込んだ9月14日~20日の集計では前年同週比8.0%減となっているが、これは前年に比べて祝日が1日少ないことが影響しており、祝日が前年よりも1日多かった9月21日~27日の集計では22.7%増となっている。これを合算した9月14日~27日という2週間で集計すると、前年に比べて7.3%増とやはりプラスとなっているのだ。

 このように、データの上からも、Windows 7発売前の買い控えはまったく見られていないといっていいだろう。

 Windows 7発売前の買い控えが見られていない要因はいくつかある。1つめには、Windows 7が現行PCでも快適に動作することだ。Windows 7は初めてハードスペックの向上を求めないOSといえる。マイクロソフトが3年前のPCでも快適に動作するとしていることからも明らかなように、Windows XP向けのPCでも、Windows 7を快適に稼働させることができる。

 夏モデルと呼ばれる現行製品であれば、Windows 7を動作させるには十分なスペックであり、しかも、現時点で購入すれば、メーカーによって異なるが、無償あるいは数千円で、Windows 7に移行できる。なかには、現行モデルで搭載されているWindows Vista、アップグレードで利用できるWindows 7、ダウングレードで使用できるWindows XPというように、3つのOSを入手し、選択することができるというメリットもある。3つのOSから選択できるというのは、まさにWindows 7発売までの特典ともいえ、しばらくはWindows XPを利用して、その後、Windows 7に移行したいといった一部のユーザーが飛びついている。

 そして、2つめには、こうした製品が処分価格で販売されはじめているということだ。Windows XPでは、ユーザーインターフェイスが大幅に改善されたため、旧OSの製品を求めるユーザーも多かったが、Windows Vistaでは、ユーザーインターフェーズがWindows 7に継承されているため、進化したWindows 7を購入したいというユーザーが少なくない。そのため販売店側もWindows Vista搭載モデルを、Windows 7の発売前までには処分したいという思惑が働いている。

 結果として、これまで以上に価格下落が進展しており、購入しやすい価格になってきているという点が見逃せないのだ。これが、後のWindows 7へのアップグレードを想定するユーザーの購入を促進し、買い控えを防いでいるというわけだ。

 実際、PCの平均単価は確実に下がっており、2009年9月の平均単価は8万円ちょうど。前月から2,400円も下落しており、これで7カ月連続の価格下落。昨年9月の104,800円に比べると、24%もの価格下落となっている。

 とくに、今年7月以降は、前月比3%での価格下落推移が続いており、価格下落の牽引役となっていたネットブックの構成比が高まっていないことから、メインストリームの製品の価格下落が進展していることが裏付けられる。これまでの価格下落がネットブックの構成比の上昇であったのは異なる形での価格下落といえよう。

 そして、3つめには、互換性問題に対する安心感が広がっており、現行モデルを購入後、Windows 7に移行しても、周辺機器やソフトウェアがそのまま利用できるという認識が、ユーザー側にあることだ。

 Windows XPからWindows Vistaに移行する際も、マイクロソフトでは互換性には問題がないことを表明していたが、今回は、マイクロソフトのコメントだけでなく、実際にRC版やRTM版といった発売前のWindows 7を使用したユーザーやマスコミのレポートでも、互換性の問題を指摘する声が少ないことが安心感を醸成するのに貢献している。

 ちなみに、マイクロソフトでは、10月19日時点で、Windows 7対応の周辺機器は50社から4,141製品が登録。またソフトウェアでは、163社から1,622製品が登録されているとの情報を明らかにしている。

 マイクロソフトコマーシャルWindows本部・中川哲本部長は、「これは、Windows Vistaの発売時に比べると、2.5倍の製品数に達している。80%を大きく超える企業が対応している」とした。

 さらに買い控えがないもう1つの要素をあげるとすれば、Windows XPを利用しているユーザーが、この機にWindows XPを搭載したネットブックの購入に走っているということもありそうだ。

 Windows 7が発売された以降は、ネットブックにもWindows 7が搭載されることになり、Windows XPを使い続けたいユーザーにとっては新たなPCを購入しにくい状況となるからだ。

 このような要因から、Windows 7による買い控えは、発売直前まで見られなかったというのが、いまの状況だといえる。その点では、PC業界にとっては、落ち込みがない分だけ、明るい話題だといえよう。

 買い控えが見られなかったこの状況を、Windows 7の発売によって、さらに加速することができるのかが、PC業界に課せられたテーマだといえる。