特集
Mini-ITXとNUCの間にMini-STXが生まれた経緯
(2016/4/7 06:00)
2016年初頭に開かれたCES 2016で、ECSとASRockが初となる「Mini-STX」フォームファクタのマザーボードを展示し、自作PCユーザー界隈で少し話題となった。しかしMini-STXというフォームファクタが生まれた背景について紹介しているメディアが少ないので、ここで紹介したい。
そもそもIntelのMini-STX構想は、2015年4月に深センで開かれた「IDF15 Shenzhen」まで遡るようだ。IDFは開発者向けの会議なのだが、「“Mini” Computing: Optimizing Design to Accelerate New Usage Models」と題されたテクニカルセッション番号CBCS001の資料で、Mini-STXの構想が明らかにされている。
この資料によれば、Mini-ITX以下の小型PCの市場はビジネス向けを中心に毎年20%規模が拡大していくと予想している。そのほかのフォームファクタにはない小型PCならではの特徴として、ゼロフットプリントを実現できる点(おそらくディスプレイの後ろに装着するという意味)や、タワーPCに近い性能、低消費電力性、周辺機器や既存財産への接続のしやすさなどを挙げている。
この資料の中で、Intelが考える小型PCは主に5つのフォームファクタに分類されている。一番大きい物はMini-ITXだが、順にサブ1Lクラスの小型PC、NUC、Mini Lake、そしてスティックPCへと小型化していく。Mini-STXは、このサブ1Lクラスの小型PCを実現するフォームファクタ、という位置付けとされている。ちなみにMini LakeはECSのLIVAのことを指すようだ。
当時はMini-STXではなく、「Sub-1L 35W Mini PC」とだけ名前が付けられたが、サイズは5.5×5.8インチ(140×147mm:20,580平方mm)と決められた。交換可能なCPUソケット付きマザーボードとしては最小サイズとなり、Mini-ITXより29%小さい面積を実現する。この中で「TDP 35W」、「SO-DIMM」、「DC電源(つまりACアダプタ)」、「PCI Express x16スロットなし」を要件に挙げていた。I/Oやヘッダーも選別されたものだけを載せるとしている。
発表当初、カスタムの冷却ソリューションで、最大35WのTDPをターゲットとしていた。つまりIntelとしては、Mini-ITXを65W、5x5を35W、NUCを15W、Mini Lakeを4.3W、スティックPCを2.2WのCPU向けとして想定していたわけだ。公開されたサンプルボードの写真を見ると、正方形の四隅に穴を開けたような一般的なLGA115xのCPUクーラーを装着できるホールが用意されておらず、長方形の四隅に穴を開けたような形状となっている。また、拡張スロットはMini PCI Expressだった(うち1基はSSD、1基はWi-Fi用)。
これが少し変わったのが、2015年8月に米サンフランシスコで開かれた「IDF15 San Francisco」で、この時名前を「5x5」とするとともに、「内蔵グラフィックスの利用(つまりPCI Express x16スロットがないことに等しい)」、「M.2ドライバ」の搭載が要件となり、「ボードの大きさ」、および「CPUの位置」を策定した。また、スケーラビリティがCeleronからCore i7まであるとされ、新たにTDP 65Wが加わったのだ。
M.2の採用は筐体の薄型化のためで、TDP 35Wのプロセッサに限定すれば、高さ39mmの高さ、および0.85Lの容積を実現できるとされている。一方TDP 65Wのプロセッサを搭載する場合高さが増し、さらに高さを増した場合2.5インチドライブも搭載可能とされた。想定されるCPUクーラーはブロワー型で、背面パネルまたは本体右側に向かって吹き付ける構造となっていた。65Wの設定は、明らかにSkylakeで増えた65Wラインナップを見越したものだろう。
これが最終的にCESで展示されたECSやASRockの製品では、通常のCPUクーラーが取り付けられるようになっている。やはり専用のCPUクーラーを作るとどうしても部品コストが上がってしまい、普及しにくいと判断したのだろう。小型PCのもう1つの利点は部品コストの低下であり、インテルは将来的にスモールファクタでの部品コストをNUCの27%に抑えようとしているが、CPUクーラーは一定の割合を占めていると見ていい。
ちなみに「一般用途ならもうAtomで十分=スティックPCで十分」と思われるユーザーも多いだろう。体感ではSSDなどが占める割合が大きいのも確かだ。しかし純粋な演算性能はやはり差が大きい。例えばIntelが別のセッションで示したCPU別のシングルスレッド演算性能(SPECint_base2000予測値)は、Atom x7-8700(2W/SDP)がCore M-5Y71(6W)の半分程度、Core i7-5600U(15W)の3分の1程度となっている。
一方で別の資料によると、モバイル向けでハイエンドとなるTDP 28WのCore i7-4558Uは、TDP 47WのCore i7-4700MQや、デスクトップではメインストリームとなるTDP 65WのCore i7-4770Sの半分程度の性能となっている。こちらは先ほどのAtomとCore Mとの性能測定とは異なりマルチスレッドの測定で、4558Uがデュアルコアなのに対して後者2つはクアッドコアだから当然なのだが、同じことは現行世代のSkylakeにも言える。
つまり、スティックPCでは満たせないシングルスレッドの演算性能へのニーズ、そしてNUCでは満たせない価格(およびマルチスレッド演算性能)へのニーズ、さらにはMini-ITXでは満たせない小型化へのニーズを見越して投入したのが、Mini-STXフォームファクタだと言えるだろう。