イベントレポート
Intel、14nmのCherry TrailをAtom x7/x5として正式発表
~GPUが大幅に性能向上
(2015/3/2 23:00)
Intelは、3月2日よりスペイン・バルセロナで開催中のMWC(Mobile World Congress) 2015で記者会見を開催し、同社がCherry Trail(チェリートレイル)のコードネームで開発を続けてきた14nmのAtomプロセッサの最新製品を、Atom x7 Z8700シリーズ、Atom x5 Z8500/8300シリーズとして発表した。
2013年の9月に発表された開発コードネームBay Trail(ベイトレル)ことAtom Z3700シリーズの後継製品で、最大の特徴は製造プロセスルールが14nmに微細化されたことと、GPUの演算エンジンが4EUから最大16EUへと増やされ、性能が格段に上がっていることだ。
Atom x7 Z8700シリーズ、Atom x5 Z8500/8300シリーズは、Windows、Androidの両OSに対応しており、Windowsタブレット、Androidタブレット向けのSoCとして活用することが可能だ。
また、Intelは同時にCherry Trailにも利用できる単体LTEモデムとして、「XMM7360」を発表した。XMM7360はLTE-Advancedで規定されているカテゴリ10のCA(Carrier Aggregation)への対応により、下り450Mbpsの帯域幅を実現している。
年間4,000万台の目標を達成し大成功を収めたBay Trail
今回発表されたAtom x7 Z8700、およびAtom x5 Z8500/8300シリーズは、開発コードネームCherry Trailで呼ばれてきた製品で、2013年に9月に発表されたBay TrailことAtom Z3700シリーズの後継となる。
Bay Trailは、Intelにとって“出遅れ”が言われてきたタブレット市場での“ゲームチェンジ”のための戦略的製品で、Intelが掲げた、「2014年中に4,000万台のIntel SoC搭載タブレット出荷」目標を実現するための強力な武器となった。
結論から言えば、Bay Trailは大成功を収め、昨年(2014年)11月の時点で、4,000万台という出荷数はほぼ達成する見通しであることが明らかにされた。現在タブレット向けのSoC市場では、Intelの地位はAppleに継ぐ2位の市場シェアになっており、以前に比べれば大きく躍進したことは間違いない。
今回発表されたCherry Trailはそれをさらに加速する製品となる。ただ、本来のIntelのスケジュールでは昨年中にリリースされるはずだったのだが、開発の遅れなどもあり、この時期にずれ込んでしまった。今回のMWCで正式にリリースにこぎ着けたことになる。
14nmプロセスルールへの微細化と、GPUの強化が最大の特徴
今回発表されたCherry Trailの特徴は、製造プロセスルールが14nmへと微細化されていることだ。Bay Trail世代では22nmプロセスルールに基づいて製されていたため、同じダイサイズのSoCを製造しても、より多くのトランジスタを詰め込むことができるので、新機能に割り当てて性能を強化できる(ダイサイズなどに関しては非公表)。
CPUに関しては今回は大きな強化はされていない。開発コードネームでAirmont(エアモント)と呼ばれるCPUコアが採用されているが、これは前世代Silvermontの14nm版というのが位置付けであり、基本的にSilvermontを14nmに合わせて最適化したCPUコアだと考えていい。Bay Trailと同じようにクアッドコア構成となっており、基本的にここの部分での性能強化はあまり大きくない。
プロセスルールの微細化による追加のトランジスタは、GPUに使われた。Bay Trail世代では、GPUにはIntel自社設計のIntel HD Graphicsの“Gen7”というGPUが採用されていた。このGPUは、第3世代Coreプロセッサ(Ivy Bridge)に内蔵されていたのと同じGPUコアで、EUと呼ばれる実行エンジンが4つという構成になっていた。これに対して、Cherry Trailでは世代は1つ上がって“Gen8”となり、第5世代Coreプロセッサ(Broadwell)と同じ世代となった。
大きく強化されたのはそのEUの数で、Cherry TrailではBay Trailに比べて最大4倍の16EUとなった(下位SKUは12EU)。これにより、GPU性能は大きく強化され、Atom Z3795に比較してGFXBench 2.7では2倍に、3DMarkのIce Storm Unlimitedでは50%の性能向上が実現されている。
このほか、ビデオ関連では、新たにHEVC(H.265)のハードウェアデコードに対応しており、4Kの動画などもハードウェアでデコードできる。ただし、エンコードに関しては従来と同じくH.264/VP8までの対応となる。
Cherry Trailには発表時点では3つのSKUがあることが明らかにされており、それがAtom x7-8700、Atom x5-8500、Atom x5-8300となる。
Atom x5-8300 | Atom x5-8500 | Atom x7-8700 | ||
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開発コードネーム | Cherry Trail | |||
製造プロセスルール | 14nm | |||
CPU | アーキテクチャ | Airmont | ||
コア数 | 4 | 4 | 4 | |
最大クロック | 1.84GHz | 2.24GHz | 2.4GHz | |
GPU | アーキテクチャ | Intel HD Graphics Gen8 | ||
最大クロック | 500MHz | 600MHz | ||
EU | 12 | 16 | ||
API | D3D11.1/OpenGL ES 3.1/Open CL1.2/Open GL 4.3/RS Compute | |||
解像度 | 内蔵 | 1,920×1,200ドット(MIPI-DSI/LVDS) | 2,560×1,600ドット(MIPI-DSI/eDP) | |
外付け | 1,920×1,080ドット(HDMI) | 4K2K(HDMI) | ||
ビデオ | エンコード | H.264/VP8 | ||
デコード | HEVC/H.264/VP8 | |||
メモリ | 32/64bit DDR3L-RS 1600 1-2GB | 64bit×2 LPDDR3 1600 2-8GB | ||
モデム | 外付け | |||
その他無線 | 外付け | |||
I/O | 6×I2C、2×HSUART、SDIO、3×I2C、SPI、PCIe2.0x1、I2C(ISH)、I2C(NFC) | 7×I2C、2×HSUART、SDIO、3×I2C、LPC、SPI、PCIe2.0x2、I2C(ISH)、I2C(NFC) | ||
USB | USB 3.0 OTG、HSIC×2、USB 2.0×3 | USB 3.0 OTG、USB 3.0×3、SSIC×2、HSIC×2 | ||
ストレージ | eMMC 4.51 | |||
ISP(リア) | 800万画素 | 1,300万画素 | 1,300万画素 |
Atom x7-8700がプレミアム向けの製品、Atom x5-8500がメインストリーム向け、Atom x5-8300がバリュー向けという扱いになる。
Cherry Trail Entryは存在せず、200ドル以下の市場はSoFIAがカバーする
Bay Trail世代では、200ドルを切るような低価格向けのSKUとして、Bay Trail Entryの開発コードネームで知られる製品が提供されてきた。しかし、Cherry Trail世代では、Bay Trail Entryに相当する“Cherry Trail Entry”は存在しない。200ドル以下の製品は、同時に発表されたSoFIAでカバーする。
SoFIAにはクアッドコア版のSoFIA 3G-R(Atom x3-C3230RK)とSoFIA LTE(Atom x3-C3440)が用意されており、それをもって従来Bay Trail Entryがカバーしていた市場を踏襲していくというのがIntelの戦略となる。
また、今回発表されたCherry Trailの各製品は、セルラーモデムを内蔵しない単体SoCとなるので、セルラー回線を内蔵する製品を製造する場合には、別途単体のセルラーモデムを組み合わせる必要がある。Intelは昨年「XMM7260」という、CAT6のLTE-Advancedに対応したモデムを出荷しており、Cherry Trailの各製品はXMM7260と組み合わせて利用することができる。
さらに、今回のMWCでIntelは「XMM7360」という後継製品を発表した。XMM7360は29のLTE帯域に対応し、5モードのTDD/FDD LTEとTD-SCDMAに対応したモデムとなる。最大の特徴はLTE-Advancedで規定されているカテゴリ10の3xCAに対応していることで、下りが最大450Mbpsという帯域幅を実現できる点だ。IntelによればXMM7360は今年の後半に実際の製品に搭載されて市場に出回る見通しだということだ。
なお、今回発表されたCherry Trailを搭載する製品は、今年の前半(つまり3月~6月)に市場に投入される見通しだとIntelでは説明している。千個ロット時の価格は記事作成時点では未公表。投入を計画しているOEMメーカーとしては、Lenovo、HP、Dell、Acer、ASUS、東芝が公表されている。ここに示されているのは大手PCメーカーで、現在Bay Trailベースで製品を出荷しているメーカーも、新製品投入の時期で徐々にCherry Trailに切り替えるということになるだろう。