イベントレポート
Intel、Bay Trail EntryやBraswellでIAタブレット4倍増を目指す
(2014/4/4 06:00)
Intelは、中国深セン市内にあるホテルにおいて同社の開発者向けイベントIntel Developer Forum(IDF)を、4月2日~3日(現地時間)の2日間に渡り開催した。初日(4月2日)の基調講演では、同社CEOのブライアン・クルザニッチ氏が同社が今年後半に投入を計画しているSoFIAのデモを計画の発表からわずか4カ月という短い期間で初めて動かして見せることで、今後爆発的なマーケットの拡大が見込まれている低価格なスマートフォン市場への積極的な姿勢を明確にした。
2日目は、同社の製品部門の担当者となる上席副社長兼PCクライアント事業本部 事業本部長のカーク・スコーゲン氏、副社長兼モバイルコミュニケーション事業本部 事業本部長のハーマン・ユール氏、副社長兼ソフトウェア・サービス事業本部 事業本部長のダグラス・フィッシャー氏がそれぞれの担当事業に関しての説明を行なった。
この中でIntelは、昨年(2013年)の9月にAtom Z3700シリーズとして発表されたBay Trailの廉価版となる「Bay Trail Entry」というコードネームの廉価版を含む新SKUを追加したことを明らかにし、即日OEMメーカーへと出荷を開始ししたことを明らかにした。また、Bay Trailの後継として今年(2014年)中に投入することを計画している「Cherry Trail」にも廉価版があることを明らかにし、そのコードネームが「Braswell」であることを明らかにした。
14nm世代の低価格向けAtomプロセッサBraswellを投入へ
カーク・スコーゲン氏は「今やPC市場で絶対的1位の市場が中国だ。グローバルに出荷されているPCのうち5分の1が中国で消費されている。かつその多くがこの深センで製造されている」と述べ、Intelにとって本国の米国以上に中国が重要な市場になっており、かつOEMメーカーの製造拠点の多くが深センに集中していることから、今回のIDF14 Shenzhenが深センで開催されることに大きな意味があるとした。
現在のPCを始めとしたクライアントデバイスを語るときにはフォームファクタ(形状)、コスト削減、優れたユーザー体験という3つの方向性があるとし、それぞれの内容で話を進めていった。フォームファクタという観点では、数年前から進めているUltrabook、そしてその進化形である2-in-1デバイスについての話から始めた。
スコーゲン氏は「Intelは複数のモバイル向けのプロセッサを用意しており、最大の特徴はOSが自由に選択できることだ」と述べ、同社のプラットフォームがWindows、Android、Linux、Chrome OS、Mac OSなど複数のOSをサポートしていることがメリットだとした。また、OEMメーカーと協力して推進している液晶一体型PC(AIO=All In One)についても「このカテゴリはここ数年16%の成長率で成長し続けている」と述べ、ノートPC、デスクトップPCともにフォームファクタが進化し続けていくことが大事だとした。
また、スコーゲン氏はデスクトップPCの需要を牽引している「ゲーミングPC」についても言及し「中国には3億人と言われれるオンラインのゲーマーがいる。このユーザー数は欧州、米国、日本を足したユーザー数よりも遙かに多い。それらのユーザーの多くはインターネットカフェでプレイしており、潜在市場は大きい」と述べ、特に中国を中心に市場が徐々に大きくなっているゲーミングPCの市場にIntelとしても力を入れていくと述べた。
すでに3月に行なわれたGDCで新しいデスクトップPC向けのロードマップを発表したが、スコーゲン氏はその内容を繰り返して紹介した。今年の半ばまでにCPUのパッケージが新しくなりオーバークロックをより容易にしたHaswell Refreshを投入し、同時にPentium20周年特別版、さらには今年の後半に8コア版のCore i7プロセッサ・エクストリームエディション、さらには年末までにBroadwellコアのデスクトッププロセッサを投入するとした。
2つ目のテーマであるコスト削減では、今後のロードマップなどについても触れた。「すでにBay Trailを採用したデザインウインは135にも及んでいる、それはBOM(部材コスト)低く抑えることができるローコスト版を用意したからだ。そこで、我々は顧客の意見に耳を傾けた結果として、ロードマップを書き換え、PC向けの14nmプロセスルールのAtomとして「Braswell」(ブラスウェル)という製品を追加することにした」と明らかにした。
Intelは14nmプロセスルール版のAtomとして、Cherry Trail(チェリートレイル)を今年の末までにリリースすることを明らかにしており、BraswellはそのPC向けバージョンになると考えられる。Bay Trail世代でも、Bay Trail-Tがタブレット向け、Bay Trail-M(ノートPC向け)/Bay Trail-D(デスクトップPC向け)がPC向けとされており、BraswellはCherry Trail世代の-M/D版だと考えることができる。また、第4世代Coreプロセッサ(Haswell)の後継として開発している14nm版のBroadwell(ブロードウェル)についても言及し、今年末に出荷すると述べた。
最後にスコーゲン氏はユーザー体験について触れ、Intelが提案している新しいユーザー体験の中から、特にIntelも幹事企業として参加しているA4WP(Alliance for Wireless Power)という業界標準団体で開発されている電磁誘導型ワイヤレス充電機能のデモを行なった。
従来版に比べて15%性能が向上している新リビジョンのBay Trail、廉価版も追加
ついで登壇したのは、Intel副社長兼モバイルコミュニケーション事業本部 事業本部長 ハーマン・ユール氏。ユール氏は、Intelのモバイル向けのSoC、モデムチップなどについての説明を行なった。
ユール氏はIntelが2月に発表したMerrifield(Atom Z3400シリーズ)、さらには昨年(2013年)9月に発表したBay Trail(Atom Z3700シリーズ)などのラインナップが性能面で高い評価を受けていることを強調し、QSV(Quick Sync Video)の機能を搭載していることで、競合他社のSoCに比べてビデオエンコードが圧倒的に速いことなどをアピールした。
また、それらを搭載したスマートフォンとして、Lenovoと複数年、複数デバイスでの契約を行なってことや、まもなくSamsung Electronicsから登場する「Galaxy Note3 Neo」にIntelのLTEが搭載されていること、さらには4月11日から中国でASUSの「ZenFone」が販売開始されることなどを紹介した。
続いて新しいBay TrailのSKUを発表。その中にBay Trail-Entryと呼ばれる新しいローコストパッケージを採用した製品が追加されていると説明した。このBay Trail-Entryは、IntelでType 3パッケージと呼ばれている新しいパッケージを採用した製品で、従来のType 4パッケージでは8層や10層といった高密度基板技術を必要としていたが、新しいType 3パッケージではタブレットなどで一般的に利用されている6層基板が利用できるため、低コストでタブレットが製造可能になる。さらに、ユール氏は「今年後半にリリースする改良版では性能が15%アップする」と明らかにした。
また、ユール氏は前日に行なわれたクルザニッチCEOの講演で初めて公開されたSoFIAについても触れ、SoFIAには、3Gモデムを内蔵したSoCと、セルラー、Wi-Fi、Bluetooth、GPSなど必要な無線を全て網羅したRFチップもセットで提供することも明らかにした。
「Intelは今年IA搭載タブレットの出荷数を4倍にすることを目指している。プレミアムセグメントではWindowsとAndroidが半々だが、低価格向けではAndroidが大半になる。しかし、今後はWindowsをより低価格で実現したいというニーズが増えてくると考えている」とし、この基調講演の前夜にMicrosoftが公開した新しいWindows 8.1のアップデート版で実現される低いハードウェア要件(1GBメモリ、16GBストレージ)への対応をIntelはすでに終えていると強調した。
また中国のODMメーカーが製造した同じハードウェアで、OSを入れ替えるだけでWindowsもAndroidも動作させることができる製品を紹介し、出荷時に必要とするOSを入れて出荷すれば、OEMメーカーが柔軟にOSのニーズに対応できるとアピールした。
Intelタブレットの普及を実現するために、OEM/ODMメーカーを支援するプログラムとしてリファレンスデザイン、開発ツール、差別化のためのアプリケーション、クオリティコントロール用ツール、顧客サポート用のWebポータル、共同キャンペーンなど用意し、OEM/ODMメーカーがグローバルにビジネスを容易に行なっていく環境を整えていくとした。
そして「こうしたキャンペーンにより、我々は今年に出荷されるIntelタブレットのうち3分の1がチャネル経由で販売される製品になると考えている」と述べ、Intelが得意としている中小のODMメーカーのサポートを手厚くして、彼等のビジネスを手助けすることでIntelタブレットの普及を加速していくのだという意向を明らかにした。
IA Androidの機器のソフトウェアを容易に開発できる開発ツールを提供
最後に登場したのはIntel 副社長兼ソフトウェア・サービス事業本部 事業本部長 ダグラス・フィッシャー氏。フィッシャー氏は、深センに多くいる開発者に向けてよりデバイスを簡単に開発するためにIntelが提供するソリューションについての説明を行なった。
フィッシャー氏はIntelの64bit Androidへの取り組みなどを説明した後で、OEM/ODMメーカーがAndroidデバイスをより簡単に出荷するための取り組みである「Device Developer Resource Program for Android」について説明した。この取り組みは、OEM/ODMメーカーに対して、ソフトウェアの設計を簡単にできるツールを提供することで、出荷するまでの時間を短くすることができるというものだ。
Lenovo、HP、Dell、Samsungのような大手OEMメーカーの場合は、多数のソフトウェアエンジニアを抱えており、自社でファームウェアを含めて設計するのは難しくは無い。しかし、中小のOEM/ODMメーカー(実際深センにあるのはそうした企業が多い)では、ソフトウェアエンジニアの数があまり多くなかったり、自社でファームウェアを設計するのは非常に難しい。
このプログラムは、Intelがそうしたソフトウェアの開発について手助けをする仕組みになっており、例えばIA Android用のファームウェアやOSイメージなどを提供する。OEM/ODMメーカーはそれに若干の手を加えることで、製品の出荷にこぎ着けることができるようになる。こうしたモデルは、IntelがPCで得意としてきたモデルだが、それをAndroidにも適用することで、IAタブレットの普及を進めようという戦略だと考えることができる。フィッシャー氏は実際にデバッグツールなどを紹介して、容易にソフトウェア開発が出来る様子などを紹介した。