イベントレポート
Intel、3D XPointベースのSSDやCurieの実シリコンをデモ
~IoTやウェアラブルに対する本気度を見せたクルザニッチ氏の基調講演詳報
(2015/8/20 00:00)
Intelが自社製品を利用した開発者向けに開催している開発者会議「Intel Developer Forum」は、8月18日~20日の3日間に渡り、米国カリフォルニア州サンフランシスコにあるモスコーンウエストにおいて開催されている。初日の8月18日には、同社CEOのブライアン・クルザニッチ氏の基調講演が行なわれ、Intelが現在開発している製品やソリューションなどが紹介された。
今回の基調講演でクルザニッチ氏はIoTやウェアラブルといった話題に多くの時間を割き、PC依存からの脱却が課題となっているIntelの新しい方向性を印象付けた。
RealSenseを利用したさまざまなデモを公開、GoogleのProject Tango対応のスマートフォンも
IntelにとってのIDFは、以前はマーケティングのイベントかつテクノロジのイベントという2つの側面を持っていた。このため、CEOや各事業部の事業部長などが担当する基調講演も、どちらかと言えばテクノロジよりはマーケティング的なメッセージを打ち出す場として利用されてきた歴史がある。
しかし、それも現在のCEOであるクルザニッチ氏が、直接IDFを担当するようになって以来、もっと開発者に向けたメッセージを強く打ち出すイベントに姿を変えているのだ。今回、そうした色はより強くなり、基調講演の内容も、半導体メーカーというよりは、Makerのイベントの基調講演を聴いているような内容が多かった。
そうしたIDFの基調講演に登壇したクルザニッチ氏は「Intelにとって開発者との関係は何よりも重要だ。開発者の方々にお話を伺うと、さまざまな問題を抱えていることが分かる。IDFがそれに答えるイベントになることを私は望んでいる」と述べ、Intelが近い将来にリリースする製品のプレビューやロードマップなどをIDFで示し、開発者の助けになるようにしたいとした。
クルザニッチ氏は、現在のデジタルワールドでは、3つの鍵となる題目(原語だとAssumptionsで、仮説だが、ニュアンス的には題目だと思うのでそう意訳する)があるとし、それが「Sensification」(認識機能の実装)、「Smart & Connected」(スマート化と常時接続)、「Extention of You」(新しいライフスタイルの提供)であり、そうした題目を現実のものとするための方策について、基調講演で説明すると述べた。
最初の「Sensification」では、同社がここ数年積極的に推進してきたRealSenseやオーディオ機能の拡張について説明があった。1つ目は、MicrosoftのWindows 10の新機能として搭載されている音声認識機能のCortana(日本語版では未搭載)と、IntelのBroadwell世代以降に搭載されているIntel Smart Sound Technology(オーディオDSP機能)を組み合わせたデモだ。
スリープ状態にあるPCに「Hey, Cortana Wake Up」と語りかけるとスリープが解除され、音声での検索が可能になる。さらに、GoogleとIntelが共同開発した、Lollipopでオーディオの遅延を削減するデモも行なわれ、ピアノアプリケーションで音声を鳴らすと、遅延なく再生される様子が公開された(ただし、比較用に用意されたKit-Katでは音が鳴らずデモは失敗だった)。
さらにクルザニッチ氏は同社が熱心に推進している深度センサーを持つ3Dカメラ「RealSense」ついて触れ、RealSenseが3Dカメラを利用したソフトウェア開発環境「Project Tango」でサポートされることになったことを明らかにした。Project Tangoは、Googleが開発を進める、Androidで3Dカメラを利用するためのソフトウェアプラットフォームで(僚誌Car Watchの記事を参照)、現在さまざまな研究が行なわれている。
そのハードウェアプラットフォームとしては、NVIDIAのTegraシリーズのSoC+Googleの3Dカメラが利用されていたのだが、今後はRealSense+IA Androidもその開発環境として利用できることになる。クルザニッチ氏は講演の中で、同社が開発しているRealSenseを搭載したスマートフォン上でTangoが動作するとアピールした。また、RealSenseを利用したロボットを紹介し、ロボット用のオープンソースのソフトウェアを提供しているOpen Source Robotics FoundationのソフトウェアでRealSenseがサポートされると発表した。
RealSenseでもう1つ発表されたのは、PCゲーミングにおけるRealSenseの活用だ。iRacingのデモでは、RealSenseのカメラを利用して、プレイヤーの首の動きなどを検出し、それに併せて画面も動くというもの。また、Razerが開発したTwitch用にも使えるRealSenseのカメラは、来年(2016年)の第1四半期に投入される予定で、低コストでRealSenseのゲームやTwitch配信に使えるとクルザニッチ氏は説明した。なお、クルザニッチ氏によれば、IntelはTwitchとの関係を深める方針で、Twitchが9月25日~26日にサンフランシスコで開催するTwitchCon 2015のスポンサーになったことを明らかにした。
失われるべきではない命を救うことをIoTで実現するとクルザニッチ氏
「Smart&Connected」では、IoTの新しいソリューションなどが紹介された。最初に紹介されたのはMemomiの、バーチャルミラーのような、着ている服の色を画面上で取り替えたり、2つの色を同時に表示させるデモ。同じ服であればイチイチ着替えないでも、どのように見えるかを画面で確認出来る。クルザニッチ氏によればMemomiは全米でこの仕組みを展開する予定で、単に画面で見えるだけでなく、その様子を写真に撮ってSNSに投稿したり、ほかの人にメールで送ってアドバイスを受けたりという使い方も可能になるという。
また、Nabiのチャイルドシート用のシートクリップは、親のスマートフォンと距離が離れたらアラームがなる仕組みになっており、実際に距離を取ると親のスマートフォンが鳴動する様子がデモされた。日本でも駐車場に幼児を残したまま、買い物などに行って幼児の命が奪われるという痛ましい事故が報道されるが、このテクノロジがあれば防止できるかもしれない。クルザニッチ氏によればこのNabiのシートクリップは今年(2015年)の年末商戦に提供され予定で、「これからもこうした命を救うことができる技術は重要になると考えており、IoTの鍵になる」と述べ、今後もこうした技術を開発していくことを開発者に呼びかけた。
また、米国でN&Wが開発している自動販売機の例を挙げ、自動販売機のガラス部分が透過型のディスプレイになっており映像などを表示できるほか、RealSenseのカメラを利用してジェスチャで操作して物品を買うことができる様子などが公開された。クルザニッチ氏は「420億ドルの市場の可能性があり、ハードウェアやソフトウェアがオープンなIAは低コストでこうした機器を製造できる」と述べた。
なお、こうしたIoTの詳細に関しては、IDF 2日目の8月19日に行なわれるメガセッションで説明されるとのことだが、「IoTで重要なのはこうしたクライアント側だけでなく、エコシステム全体のソリューションを提供できるかだ。Intelは業界でも最高のエコシステムを提供しており、今後もシリコンレベルでのセキュリティをAtmel/Microchipと提携して提供するほか、開発プログラムとなるIoT Developer Programや5Gへの取り組みを拡充していく」と述べ、Intelが今後もIoTに積極的に取り組んでいくという姿勢をアピールした。
Curieは第4四半期に出荷される、10月にはFossilのAndroid Wearのスマートウォッチも
3つ目のテーマとなる「Extention of You」では、ウェアラブルやPCのアンロック機能などのデモの紹介が行なわれた。
一番最初に紹介されたのは、米国の時計ブランドFossil(フォッシル)のスマートウォッチ。Intelは昨年(2014年)のIDFにおいて、Fossilとの提携を発表しており、FossilがIoT機器を開発するのを手助けするという内容だった。それから1年が経ち、その成果が具体的に公開されることになった。
壇上に呼ばれたのはFossil上級副社長兼CSMO(最高セールスマーケティング責任者)のグレッグ・マッケルビー氏。マッケルビー氏は「ファッションブランドはファッションのことはよく分かっているが、テクノロジに関してはそうではない。そこでIntelと協力してデザイナーが時計は時計のままデジタルをどのように統合できるかを検討してきた」と述べ、実際に同社が開発したAndroid Wearベースのスマートウォッチを公開した。クルザニッチ氏によれば、このスマートウォッチは今年(2015年)の10月に提供予定とのことだった。
次にクルザニッチ氏はCESで紹介したCurie(キューリー)の実際のシリコンを紹介した。Curieは非常に小型のモジュールにQuark SoC、DSP、Bluetooth LEなどがセットになったモジュールで、今回公開されたのは、そのモジュールに搭載される半導体だ。CESの時点ではボタンサイズのモジュールとなっていたが、当然そこに使われると見られるシリコンはかなり小さいサイズになっていた。今回はその実際のユーセージモデルとして、BMX(競技用自転車)にCurieを統合し、モーションセンサーにより得られる自転車の動きをリアルタイムに転送し、PC上で自転車の動きを再現したりというデモが行なわれた。
また、クルザニッチ氏は、既に配布しているCurie向けのSDKとして配布されているIntel IQに、従来から提供しているBody IQ、Social IQに加えて、Time IQ、Identity IQの2つが追加したことを発表したほか、Curieに関しては今年の第4四半期からOEM/ODMメーカーに対して提供開始することを明らかにした。これにより、OEM/ODMメーカーはCurieベースの製品を製造することが可能になり、Curieを利用した製品を製造しようと考えているMakerなどにとっては嬉しいニュースとなった。
また、クルザニッチ氏は一般消費者向けのウェアラブルだけでなく、法人向けのウェアラブルについても言及した。クルザニッチ氏は「デバイスはもっとセキュアにならないといけない。それは法人向けレベルのセキュリティを確保しつつ、一般消費者的な使い方が可能になるようなものでなければならない」と述べ、IntelがIntel Labで開発しているセキュリティブレスレットを紹介した。このセキュリティブレスレットは、ユーザーがPCに近づくとPCのロックが簡単に解除される仕組みで、実際に近寄ってロックを解除していた。クルザニッチ氏によれば、ロックの解除にはBluetoothの仕組みを使っていおり、ブレスレットの中に実装されているCurieによって実現されているとのことだった。
その後、クルザニッチ氏はIntelが毎年行なっている、IoT関連のコンテストについて、今年はさらに大規模に行なう予定であることを公開した。Intelはマーク・ブルーネット氏率いるUnited Artists Media GroupおよびTurner Broadcastingと共同でAmerica's Greatest Makersというコンテストを行ない、Curieモジュールを利用したデバイスで作られたウェアラブル機器を募集するという。最高賞金は100万ドル(日本円で約1億2,500万円)という破格の賞金がかけられており、10月から応募できるという。クルザニッチ氏は「これまで考えもしなかった機器を作って応募して欲しい」と、詰めかけた開発者に対して応募を呼びかけた。
3D XPointを採用したSSDとなるOptaneは2016年に投入、UltrabookなどPC向けも用意される
最後に、クルザニッチ氏は現在Intelが開発中の技術についていくつか紹介した。「Unleashing Display」(開放型ディスプレイ)と呼ばれるディスプレイでは、タッチディスプレイが浮遊して見える仕組みで、見える部分を触るとタッチディスプレイのように利用できるという仕組みだ。
また、IntelとMicronが共同で開発した3D XPoint(スリーディークロスポイントと発音する)Technologyを利用したSSDのデモを初めて行なった。クルザニッチ氏が「ここ25年で最大のブレークスルー」と呼ぶ3D XPointは各方面から注目されており、NANDに比べて1,000倍高速で耐久性があり、DRAMの10倍の密度を実現できる技術だと説明された。
クルザニッチ氏はこの3D XPointの技術を利用したSSDを、Intel Optane Technologyというブランド名で、2016年から出荷開始することを明らかにした。その上で、現実のPCに組み込んだデモを行ない、現在サーバー向けなどに提供されているIntel SSD DC P3700(PCI ExpressベースのSSD)と比較して、IOPS(I/O Per Second、1秒間に実行できるI/Oのこと。数字が大きければ大きいほど性能が高いことを意味する)でより高い性能を実現できるとした。リード/ライトがミックスの時は約5倍で、リードのみの時は約7倍となっており、現在最高性能のSSDの1つと見られるIntel SSD DC P3700と比較して、初期サンプルでこの性能だということなので実際の製品としてはかなり期待できそうだ。
クルザニッチ氏によれば、製品のターゲットしてはサーバーだけでなく、Ultrabookのようなクライアントも視野に入っているとのことなので、実際に製品として登場すれば、HDDからSSDに移行してWindowsの起動が圧倒的に短くなったブレークスルーが再び起きるかもしれないだけに要注目だ。
このように、今回のクルザニッチ氏の講演はその時間のほとんどがIoTやいわゆるMakerと呼ばれる小規模のハードウェア開発者向けの内容になっており、クルザニッチ氏が現在フォーカスしている部分がどこであるのかがよく分かる講演となった。今後PCの成長が望めないと見られている市場環境の中、Intelとしても新しい事業としてIoTなりウェアラブルなりを社運を賭けてやっているのだという姿勢を印象付けることには成功したと言える。あとは、今回IDFに参加したような開発者に披露した技術がどれだけ採用され、Intelの半導体を搭載したIoTなりウェアラブルなりが市場に増えていくのかが次のステップとなるだろう。