イベントレポート

AMD、WindowsでAndroidアプリが使えるBlueStacksを小売販売へ

会期:2月24日~27日(現地時間)

会場:Fira Gran Via

 AMDは、昨年(2013年)からMWCにブースに構えて、同社のソリューションを展示している。AMDのモバイル向け製品と言えば、現行製品で言えばTemashの開発コードネームで知られるAMD AシリーズAPUがあるが、ブースでは、Temashの後継となる低消費電力版SoCの「Mullins(ムーリン)」を搭載した製品を、CESに引き続いて展示している。

 また、BlueStacksが開発しているWindows上でAndroidアプリケーションを動かすソフトウェアのデモを行なった。APUに最適化された機能を含むBlueStacksを、APU搭載ノートPCの一部にバンドルして出荷するほか、一般の小売店でも販売する計画があることを明らかにした。商用版のBlueStacksは第2四半期に投入される計画だ。

CESに引き続いてMullinsをフィーチャーした展示のAMD

 よく知られているように、AMDは元々x86互換のプロセッサを作る半導体メーカーとして発展してきた歴史がある。特に、2000年代の前半にx64をIntelに先駆けて実装したOpteronをリリースしてからは、サーバー向けの製品がビジネスの中心になっており、モバイル向けに関してはノートPC向けのCPUを製造していたが、売れ筋の14型、15型などの液晶を搭載したやや大きめなノートPC向けが中心で、ポータブルノートPC向けは長い間手がけていなかった。

 しかし市場環境が、より可搬性が高い製品へとシフトしていく中で、AMDも戦略を変え、モバイル向けの製品も注力するようになる。2011年にリリースしたBrazos(ブラゾス)の開発コードネームで知られる製品はその第1世代で、MSIやAcerなどが製造したWindows 7世代のタブレットに採用されるなどしている。

 そして、昨年リリースしたのがTemashで知られる製品で、こちらもエプソンダイレクトやMSIなどのOEMメーカーでWindowsタブレットに採用されている。MWC 2013では、インドの通信事業者であるLavaからTemash搭載機がリリースされたことが明らかにされた。

 AMDが今年(2014年)の前半(おそらく第2四半期)にリリースを予定しているのが、次世代製品となるMullinsだ。MullinsはクアッドコアのPumaコアと呼ばれる新しいAMDの省電力CPUを2コアないしは4コア内蔵しており、GCNで知られる同社の最新GPUコアを内蔵、かつARMからIPライセンスとして提供された「TRUSTZONE」を内蔵している。

 TRUSTZONEは、Cortex-A5を内蔵しているユニークなセキュリティプロセッサで、WindowsからはTPM 2.0として利用できるほか、TRUSTZONE自体がセキュアOSで動作しているので、将来的に機能を向上させたりということなども可能になる(別記事に詳細)。

 今回AMDはMullinsを搭載したタブレットを引き続き公開し、さらにODMメーカーのQuantaが製造したODM向けのMullins搭載Windowsタブレットも公開した。むろん、現在の製品がそのままリリースされるわけではないが、第2四半期と考えられているMullinsのリリースに向けて1つ準備が進んだようだ。

AMDブースに展示されていたQuantaのMullins搭載タブレット。なおどこかで見たことがあるXマーク付きのゲームコントローラが分割され左右についているが、フレームなどはAMDの社員が3Dプリンタで自作したものだという
Temashを搭載したLavaのタブレット

Windows上でAndroidアプリを利用できるBlueStacks

 今回AMDがMWCの会場で発表したのは、同社の投資部門AMD Venturesが投資しているソフトウェア企業であるBlueStacksの、Android仮想化ソフトウェアを、AMDのAPUを搭載しているWindowsタブレットやノートPCなどにバンドルしたり(OEMメーカーによる)、小売販売の計画があることだ。

 BlueStacksは2011年に設立されたばかりのベンチャー企業で、Windows上でAndroidが動く仮想化ソフトウェアを開発している。Androidがスマートフォンを中心に市民権を得たことで、Windowsユーザーの中にもAndroidにしかないアプリケーションをWindowsで使いたいというニーズが高まっている。

 例えば、日本で言えば、Amazonの電子書籍Kindleのリーダーソフトウェアは、iOS版とAndroid版は用意されているが、現在に至るまでWindowsデスクトップ版も、Windowsストア版も用意されていない(米国では英語版が用意されているが、Amazon.co.jpが販売している電子書籍を読むことができない)。従って、そうした時には、別途Androidを搭載したスマートフォンやタブレットを用意する必要がある。

 しかし、せっかく13型や14型といった大画面を持っているWindowsがあるなら、わざわざ小さいデバイスで読みたいというユーザーは少ないだろうし、最近ではWindowsタブレットや2-in-1デバイスのようにスレート型タブレットしても利用できるPCも増えている。そうした製品ではタッチですべてを操作できるので、「Androidアプリが動けば良いのに」と考えるのは自然なことだろう。

 Windows PCでAndroidアプリを使えるようにするアプローチは主要な2つある。1つはデュアルOSと呼ばれる環境で、ちょうどAppleがMacBookシリーズでBootCampと呼ばれるソリューションで実現しているように、2つのOSを切り替えて使う方法だ。この場合、どちらのOSもハードウェアをフル性能で利用することができる点はメリットで、特にPC用の高性能なCPUやGPUで、Androidを動かすと驚くほど快適に利用できる。デメリットとしては、両方のOSを切り替えるには、1度片方のOSを終了して、別のOSを起動するというプロセスが入ることになり、その間待つ必要がある。

 もう1つが仮想化ソフトウェアを利用した方式だ。仮想化ソフトウェアの代表例と言えば、VMWare PlayerやVirtual PCがWindows用ではよく知られているが、そうした仮想化ソフトウェアの技術を利用して、Windowsの上でAndroidを動かしてしまおうというものだ。BlueStacksはこちらのアプローチで、x86版のAndroidにARM向けのバイナリをx86に変換する機能を追加したAndroidが、仮想化ソフトウェア上で動くのがBlueStacksになる。

 こうした仮想化ソフトウェアのアプローチではWindows OSを終了させる必要が無く、Android OSそのものをWindowsの1つのアプリケーションのように起動できるため、待たずにすぐ使えるということはメリットなのだが、仮想化の場合は、仮想化ソフトウェアによるさまざまな変換が必要になるため、CPUやGPUに多大な性能を要求するデメリットがある。

 今回AMDはこのBlueStacksのAndroid仮想化ソフトウェアを同社ブースでデモしていた。起動すると、Androidタブレットやスマートフォンなどで見慣れたUIが表示され、Androidアプリを起動して、Androidゲームを楽しむことができる様子などを公開していた。

AMD A6-5200を搭載したLenovoのFlex 15Dをデモに利用していた。Windowsなのに、Androidが動いているのは奇妙だが、これはこれでありな気がしてくるので不思議なものだ
AMDが近年力を入れているジェスチャーソフトウェアのデモ。第2四半期に投入される予定の最新版では、こうしたメニューが表示され、より使いやすくなる予定。このメニューを、指で操作している。PCはFlex 15Dに内蔵された2Dカメラを利用しており、GPUを利用して演算することで3Dカメラが内蔵している時と同じような利用間を実現している
もちろん、Android OSのデスクトップもジェスチャーで操作できる
このように、お約束のAngryBirdも、タッチで操作できる。APUに内蔵されているGPUの処理能力が強力だからこそ、2Dカメラでもここまでできる
Androidの画面は全画面だけでなく、このようにウインドウにして使うことができる。ウインドウにできないWindowsストアアプリよりももしかしたら便利かも?
現在のベータバージョンではAndroid 4.0.4(ICS)になっており、アプリ一覧表示とかはICSそのもの
通信関連はWindowsの通信設定を利用するのでないが、それ以外のAndroidの設定はできるようになっている。なお、Windowsのロテーション機能に合わせて、Android OSを回転させることも可能
言語設定には日本語も用意されており、日本語表示に変更して使うことも可能

AMDのAPUに最適化することで、より快適に利用できることをアピール

 AMDはこのBlueStacksの仮想化ソフトウェアを、AMDのAPUに最適化したことをCESで発表した。具体的には、仮想化アクセラレーション技術であるAMD-Vに対応させ、BlueStacksソフトウェアのGPUサポートに、AMD APU内蔵GPUへの最適化を追加している。技術的には、OpenGL ESなどのAPIを使って描画しているAndroidソフトウェアは、BlueStacksのソフトウェアによってWindowsのOpenGL APIに変換されGPUへと渡される。従って性能が全然違ってくるのだ。

 また、現在パブリックベータとして行なわれているBlueStacksのApp Playerは独自のUIが標準でかぶせられていて、ユーザーが自分で設定しない限りは標準のAndroid UIは隠されている。しかし、今後製品版として登場するBlueStacksでは、Androidの標準UIも提供され、フルスクリーンでも、ウインドウでもフル機能のAndroidとして利用できるようになる。

 もちろん、Google Playストアからアプリケーションをダウンロードして利用することも、Googleアカウントを登録して利用することも可能で、表示を日本語に切り替えて利用することも可能だ。現在パブリックベータ中のBlueStacksは、Android 4.0.4(ICS)になっているが、AMDによればリリース時ないしはリリース後にJerry Beans(Android 4.1/4.2/4.3)版が提供され、将来的にはKitKat(Android 4.4)へのアップグレードも提供される予定だとのことだった。

 なお、現時点では正式な商用版のリリース時期について、AMDは第2四半期とだけ説明しており、2014年の半ばまでには、正式版を購入してWindowsタブレットにインストールすればAndroidアプリケーションを利用可能になる。なお、現在もBlueStacksではベータテストが行なわれており、興味があるユーザーは同社のWebサイトからApp Playerをダウンロードしてテストしてしてみるといいだろう(ただし、サポートはない)。

 なお、蛇足だが、BlueStacks自体はWindows汎用のアプリケーションになるので、もちろんIntelのCPUやGPU上でも動作する。ただ、どれだけ快適に動くかは、CPUやGPUの性能に依存することになる。AMDとしてその部分を最適化していくことで、AMDのAPUのメリットをアピールしたい狙いがあるものと考えることができるだろう。

(笠原 一輝)