イベントレポート

Microsoftのクリエイター向け一体型PC「Surface Studio」

~実機を触って見えてきた利点と課題

28型4,500x3,000ドットという超高精細ディスプレイを採用しているSurface Studio

 筆者は11月2日~11月4日の3日間に渡って米国カリフォルニア州サンディエゴで開催されているAdobe MAX 2016に参加している。Adobe MAXはAdobe Systems(以下Adobe)が、同社のCreative Cloudを利用しているクリエイター向けに開催しているプライベートイベントで、例年ここでCreative Cloudの新機能などが公開される(それらの新機能は別記事で紹介している)。

 本記事では、Adobe MAX 2016のダイヤモンドスポンサーを務め、展示会場でも大きな面積を占めていたMicrosoftのブースに展示されていたクリエイター向け液晶一体型PC「Surface Studio」の実機についてレポートする。

28型4,500×3,000ドットという超高精細ディスプレイの圧倒的な解像感と表現力

 Adobe MAXは、初日、そして2日目の午前中に行なわれる基調講演、そして午後に行なわれるAdobe担当者による新機能や技術紹介セッションで構成されている。それと平行して、Community Pavilionと呼ばれている展示会場で、Adobeとパートナー企業のソリューションが紹介されている。

Adobe MAX 2016でのMicrosoft Surfaceブース

 その中で一番目立つ場所にあり、多くのクリエイターが注目していたのが、Microsoftのブースだ。というのも、先週Microsoftが発表した28型ディスプレイを備えるクリエイター向けの一体型PC Surface Studioが早速展示されていたからだ。多くのクリエイターがSurface Studioを試していて、その注目度の高さはダントツだった。

 展示されたいたSurface StudioはCPUにCore i7-6820HQ、GPUにはGeForce GTX 980M(4GBメモリ)、メインメモリは32GB、ストレージは2TBのハイブリッドHDDという構成の最上位のもので、米国では4,199ドル(日本円で約42万円)で販売されている。ハイスペック仕様になっているだけあって、利用中にストレスを感じることはまったくないと言ってよく、液晶の外部にタワー型デスクトップPCが繋がっているのではと確認したくなるほどだった。

Surface Studio。Surface Dialは別売
デバイスマネージャーの表示
Surface Studioの背面ポート。USB 3.0×4、Gigabit Ethernet、Mini DisplayPort、SDカードスロット、マイク/ヘッドフォンジャック

 ディスプレイは28型で4,500×3,000ドットという大型かつ高精細なもので、実際に現物を目にするとその解像感に圧倒されること請け合いだ。注目のカラープロファイルだが、実機で確認したところ、sRGB、DCI-P3(Cinema)、Vivid(P3-D65)の3つの設定が用意されていた。標準設定はsRGBで、Windowsアクションセンターに用意されているソフトウェアボタンを利用して簡単に切り換えるられる。残念なことは、Adobe RGBには対応していないことだろうか。Adobeのクリエイターツールを利用するユーザーであれば、Adobe RGBがあると何かと便利だし、液晶パネルの色域的にはAdobe RGBでもかなりの領域がカバーできると思われるので、そこはやや惜しいと感じた。

ディスプレイの解像度は4,500×3,000ドット
標準では3つのプロファイルがプリセットされている
色空間はsRGB、DCI-P3(Cinema)、Vivid(P3-D65)をサポートし、Windowsアクションセンターからワンタッチで切り換えられる
最大で接地面から20度まで倒すことができる

 また、10点マルチタッチに対応しているのに加え、Surface Penでの操作が可能なほか、キーボード、マウスが添付されている。キーボードとマウスはいずれもBluetooth接続で、特にマウスに関しては日本でも販売されているDesigner Bluetooth MouseのSurfaceカラー版だった。

Surface Penは右側面にマグネットで吸着できる
付属のキーボードとマウス、Bluetooth接続

Sketchableでは色指定、ブラシ調整、キャンパスの拡大縮小などの機能が利用可能

 Surface Studioの特徴は、やはりなんと言ってもSurface Dialと呼ばれるホイール形の新しい周辺機器を利用できることだ。Surface Dialはオプションとして販売されており、Surface Studioだけでなく、Surface Book、Surface Pro 4でも利用することができる。汎用で利用できるのは、Surface Dialもキーボードやマウスと同じようにBluetooth、さらに言えばBluetooth 4.0以降でサポートされているBluetooth LEで本体と接続されるからだ。

Surface Dial、裏面は吸盤になっている

 電源は単4形電池2本で、一般的な使い方(1日4時間程度)であれば12カ月使える。大きさは59×30mm(直径×高さ)で、重量は145g。ホイールは3,600階調で動作する。バイブレータも入っており、操作のフィードバックが得られる。

Sketchableの設定にもSurface Dial用の設定項目が

 ブースでは、UWPアプリのSketchableを利用したデモが行なわれていた。Sketchableで利用する場合、Surface DialにはHSB(Hue Saturation Brightness)、RGB(Red Green Blue)、ブラシ、キャンパスの拡大縮小という4つの機能が割り当てられる。これらの機能はアプリケーション側の実装により実現されており、逆に言えばアプリケーションの作りようによってさまざまな機能の割り当てが可能になるということだ。

Surface Dialが対応しているのはUWPアプリのSketchable

 HSBとRGBはその名前の通り、色の指定だ。この色指定は、Surface Penを利用して書いている時にダイナミックに変えられる。右手のペンで書きながら、左手でホイールを操作しながら色を変えていくなどの操作が可能になっている。もちろん場所を入れ替えればいいだけなので、左手のペンで書きながら、右手でホイールを操作するという使い方も可能。

HSBとRGBの設定にSurface Dialを利用しているところ

 ブラシ(ペン先の太さなどを変更可能)の機能でも、右手のペンで書きながら、ホイールでペンの太さをダイナミックに調整できる。もちろん、Surfaceペンも1,024段階の筆圧検知が可能なので、筆圧を利用して太さを変えていくということも可能だ。キャンパスの拡大縮小は、その名の通りで、キーボードや操作パネルに触れなくても、ホイールをぐるぐる回すだけで拡大縮小できる。

ブラシの設定をSurface Dialで行なっているところ
キャンパスのズーム

 ホイールの機能をほかのものに変えるときには、ホイールを画面に置いた状態でクリックする。そうすると、操作メニューが表示されて、ほかの機能に変更できる。

置いてワンクリックするとメニューが表示される

 従来クリエイターは右手でペンを持ってイラストなどを描きながら、左手はキーボードにおいてキーボードショートカットを操作しながら機能を切り替えながら作業していた。しかし、このSurface Dialを使うとその常識が一挙に覆る。右手にペン、左手にSurface Dialを持ち、キーボードショートカットの代用としてSurface Dialを使うことで、より直感的に使え、生産性があがるのは間違いないだろう。

Surface Dialで次々と色を変えながら軽快にイラストを描いていける
このように指でボタンを押したり、回したりしながら操作していく

Creative Cloudのアプリケーションは現時点では標準機能のみを利用可能

 その一方で、Surface StudioとSurface Dialを実際に触ってみると、課題があることも分かってきた。最大の課題は、Sketchableで説明したような色やブラシの調整は、アプリケーション側の実装でありアプリケーションが対応しない限りは使えないという点だ。ただし、対応していないアプリケーションであっても、Windowsが標準でSurface Dial向けに提供している機能は使うことができる。

Surface Dialが対応していないアプリケーションでのメニュー表示

 Surface Dialの設定はWindows 10の設定ツールから行なう。ボリューム、スクロール、ズーム、アンドゥー、輝度調整、カスタムツール(具体的にはキーボードショートカットを割り当てることができる)が設定可能で、これらの機能はどんなアプリケーションでも同じように利用できる。ボリュームを選べば音量調整をホイールを利用して行なうことができるし、ズームを利用すればWebブラウザなどでズームなどをホイールを利用して行なうことができる。

ワイヤレスホイールの設定がWindows設定に追加されている
標準ではボリューム、スクロール、ズーム、アンドゥー、輝度調整、カスタムツールが設定できる

 ただし、色調整やブラシの調整という項目は用意されていないので、現時点でAdobe Creative Cloud(例えばPhotoshop CCやIllustrator CC)などのクリエイターツールで利用できるのはズームやアンドゥのみとなる。とは言え、その2つでも十分に便利で、ズームを活用すればキャンパスのズーム、アンドゥの機能を利用すると、書いたペンの軌跡をどこかのタイミングまで戻したり、その逆に進めたりなどがホイールを利用して可能になる。

Photoshop CCでSurface Dialを利用しているところ、書いたペンの軌跡をアンドゥの機能を利用して消しているところ。消しすぎたら戻ることもできる

 Microsoftの説明員によれば、現在Adobeと協力して対応を進めているということなので、将来のCreative CloudのアップデートでSurface Dialのサポートが追加される可能性は高い。Microsoftは早急にAdobeに働きかけて、Creative Cloudツールでの対応をしてもらうべきだろう。クリエイター達が使いたいのは、新しいツールではなくて、普段使い慣れたCreative Cloudのツールなのだから。

MicrosoftはSurface DialのようなホイールデバイスのWindowsエコシステムへの拡大に取り組むべき

 ただ、特に日本ではまだSurface Studioも、Surface Dialも発売はアナウンスされておらず、今年中には日本では発売されない可能性が高い。実際昨年(2015年)の同じ時期(1カ月早かったが)に発表されたSurface Bookは米国では年内に発売が開始されたが、日本での発表、発売は年明けになった。Surface StudioもSurface Dialもその例にならう可能性は高いのではないだろうか。従って、日本ユーザーにとっては、Adobeが対応する時間があるということになるので、その間に対応が進むように願いたいものだ。

 Surface StudioのWindows設定に、Surface Dialのホイールの設定が用意されていたことは、現在のWindows 10はこうしたホイール型デバイスを標準でサポートしていることを意味している(デバイスがなければ設定は隠されている)。Surface Dialそのものは接続はBluetooth LEで、独自の接続技術は使われていない。つまり、サードパーティが互換品を作るのはさほど難しくないということだ。今後Microsoftがハードウェア仕様を公開していけば、サードパーティが互換品を作ってPCのオプションとして販売したり、PCにバンドルするということも可能になるだろう。

 元々SurfaceシリーズはWindowsのリファレンスデザインとしての役割を担っている。その仕様などは、OEMメーカーに公開され、その後OEMメーカーが別の選択肢を出してくるというのが通例になりつつある。その意味では。Windows PCメーカーが、Surface StudioのようなPCを出してくる可能性はあるし、Surface Dialのようなデバイスを出してくる可能性は十分にあると言えるだろう。それこそが、Surface本来の役割でもあるので、MicrosoftもしっかりとOEMメーカーに説明をするなどして、クリエイターがMacからWindowsへ移ろうというきっかけを作っていくべきだろう。