イベントレポート

Intel、SoC FPGA製品ではARMコアが今後も標準で有り続けると明言

Intel CEO ブライアン・クルザニッチ氏

 Intelは昨年の6月にFPGA(Field Programmable Gate Array)の最大手Alteraの買収を発表し、今年の1月に買収プロセスは完了。Alteraはプログラマブルソリューション事業部(Programmable Solutions Group、PSG)としてIntelの1部門として新たなスタートを切っている。

 Intelは8月16日~8月18日(現地時間、日本時間8月17日~8月19日)に、アメリカ合衆国カリフォルニア州サンフランシスコで開催したIntel Developer Forum(IDF)の最終日に、併催イベントとして同社のFPGA製品に関したイベントIntel SoC FPGA Developer Forum(ISDF)を行ない、その基調講演にIntel CEO ブライアン・クルザニッチ氏が登壇した。

サポートはAltera時代の戦略は継続する

 FPGA(Field Programmable Gate Array)は、簡単に言ってしまえば、プログラマブル可能で目的に応じて用途を変えることができる論理装置のこと。例えば、CPUであれば整数演算や浮動小数点演算、GPUであれば行列演算などの演算を行なう演算装置として決まった機能を持っている。しかし、FPGAではそうした決まった機能は持っておらず、ソフトウェアを利用して定義することで、DSP(Digital Signal Processor)として使ったり、トランシーバーとして使ったり、高速I/Oのコントローラに使ったりと、さまざまな用途に活用できる。

 つまり、FPGAは半導体の機能はプログラムで定義できるので、ファウンダリにカスタムチップの製造を依頼するほどのボリュームを注文できないが、自社製品向けのカスタムチップを使った製品を作りたいメーカーや、設計から製造というプロセスに下手すれば数年はかかるセミカスタムチップを待っていられないタイムツーマーケットが重視される市場などで活用されている。

 AlteraはそうしたFPGA市場で、Xilinxと並んでFPGAメーカーの最大手という存在だったが、昨年(2015年)の6月にIntelが買収することを決定したことが発表され、今年(2016年)の1月にそれが完了し、現在はIntel プログラマブルソリューション事業部(Programmable Solutions Group、PSG)というIntelの一部門に再編されている。今回のIDFではそれを受けて、Intel SoC FPGA Developer Forum(ISDF)というFPGAだけにフォーカスした併催イベントがIDF最終日の8月18日(現地時間)に行なわれた。

 クルザニッチ氏は「我々がAlteraを買収してから、顧客やアナリストなどから先行きに不安だという声が寄せられている。その誤解を今日は解きたいと思う」と述べ、さまざまな疑問や質問に答えた。

FPGAのビジネスに積極的に取り組んで行く

 なぜIntelはFPGAのビジネスに熱心に取り組むのか? という疑問に対して「我々はFPGAのビジネスに積極的に取り組んで行く。AlteraとIntelの顧客は多くがオーバーラップしており、これまでよりも早くビジネスを成長させていきたい。また、Intelのさまざまな製品との組み合わせも可能だし、今後もハイエンドからローエンドまでFPGA製品を積極的に出していきたい」と述べ、IntelはFPGAのビジネスに今後も積極的に取り組んで行くと強くアピールした。

ライフサイクルは短縮しない

 2つ目として、IntelはAlteraに比べてEOLが早く、すぐに製品が入手できなくなるのではないか? という疑問について「Alteraを買収する以前の段階でも、Intelの平均的なEOLまでの期間は12年と決して他社と比べて短いわけではない。実際、10nmの導入も見えているこの段階でも65nmの製品を製造している」と述べ、自動車メーカーなど、長期間の製品提供を必要とする顧客にニーズにも応え、15年以上の製品提供期間を実現していくと説明した。

手厚いサポートやサービスは継続する

 3つ目は“Intelの一部門になることでAltera時代よりもサービスやサポートが低下するのではないか?”という疑問。同氏は「旧Altera部門は他の事業部とは別事業部で、Intelの一部になったとは言え独立して運営されている。今まで通りのサービスやサポートを提供していく」と、これまでと変わらないサービスであることを説明した。

ARMコアは今後も継続する

 最後に、“ARMコアを継続するのか?”という疑問に答えた。というのも、SoC FPGAと呼ばれる、FPGAだけでなくSoCの機能を搭載している製品には、FPGAと一緒にARMアーキテクチャのCPUコアが搭載されている。例えば最新製品の「Stratix 10」の場合、ARM Cortex-A53が搭載されており、顧客にとってはARMコアが使えることが前提であり、Intelに買収されたからこれからはCPUは全部IA(x86)コアに変更すると言われても困ってしまうからだ。この点に関してクルザニッチ氏は「私は現実的に考えており、顧客がARMコアを必要とする限りはARMコアのSoC FPGAを提供し続ける」と述べ、現在ARMコアが乗っている製品群を無理にIAコアに変えることはないと強調した。

Stratix 10のパッケージ
Stratix 10のソケット
Stratix 10のヒートスプレッダを外したところ、これはFPGA版

 その上で、旧Altera時代に発表され、まもなく出荷が開始される最新のFPGAとなるStratix 10について紹介した。Stratix 10はIntelの14nmプロセスルールで製造され、最大10TFLOPSの浮動小数点演算性能を備える高い処理能力が特徴の最新製品となる。同氏は「今後もこうした新しい製品を開発するなど、投資を続けていきたい」と述べ、今後もFPGAビジネスに投資して、積極的に関わっていきたいとした。

FPGAはIoT、ネットワーク、クラウドなどさまざまなアプリケーションに有効

 その後、クルザニッチ氏は、FPGAの具体的なアプリケーションについて触れ、Intelが提供するIoT機器、ネットワーク、クラウドといったそれぞれの分野でアプリケーションがあると紹介した。

シュナイダー・エレクトリックのCTO プリス・バネールジェー氏(左)とクルザニッチ氏が対談
小型の工場のデモ

 IoT機器としては「私はIntelの製造部門の出身で、工場のことはよく分かるが、工場ではロボットなどのオートメーションの仕組みを導入していないところは1つもない。そうしたところでは、FPGAやSoC FPGAが非常に重要になる」と述べ、IoTの分野でさまざまなニーズがあるとした。同氏はシュナイダー・エレクトリックのCTO プリス・バネールジェー氏を壇上に呼び、IoTの世界でのFPGAのニーズについての話をした。また、小型の工場を模したデモを紹介し、自動車の色を塗るロボットをFPGAをベースに簡単に作ることができると説明した。

 2つ目の分野としては、ネットワークインフラ、例えばゲートウェイなどにFPGAを利用すると、ゲートウェイのSoCにかかる負荷をオフロードして、76.8Gbpsのスループットを実現しながら、ダイの面積を22分の1に削減できるなどのメリットがあるとした。また、3つ目の分野としてのクラウドでのメリットでは、VR HMDのグラフィックの処理を、FPGAで行なうデモを紹介した。

SoC FPGAを利用したデモ、FPGAにより116倍高速に処理が可能になっている
VR HMDへのクラウドからの描画にFPGAを利用する

 また、今後のFPGAのロードマップについて「既に述べた通り我々のSoC FPGAの標準はARMコアの製品で、これはこれからも変わらない。それに加えて、XeonにFPGAを加えたSoC FPGAなどの製品を追加で投入していく。これが我々の製品戦略だ」と述べ、SoC FPGAに関してはAltera時代と同じくARM製品が標準であり、今後もそれを続行していくか、それに加えてIAベースの製品も追加していくと強調した。

ARMコアのSoC FPGAは今後も標準で、それに加えてIAベースのSoC FPGAを投入していく
Intel 副社長 兼 プログラマブルソリューション事業本部長 ダン・マクマラ氏(左)とクルザニッチ氏で質疑応答の時間に

 最後に、プログラマブルソリューション事業部の事業本部長に就任したダン・マクマラ氏(Intel 副社長 兼 プログラマブルソリューション事業本部長)をステージに呼び、詰めかけたISDF参加者から質疑応答を行なうという時間を設けた。その冒頭で、マクマラ氏から「これだけのARM製品の開発者を前に話しをしたことがあるかい?」とからかわれると、クルザニッチ氏は苦笑しながらも「もちろん初めてだよ、でもこれが最後じゃないと約束するよ」というと、詰めかけたFPGAの開発者から大きな賞賛の拍手を受けて講演を締めくくった。

クルザニッチ氏の講演のスライド