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160億年に1秒の誤差。秒を再定義する世界最高精度の光格子時計を東大らが開発

~高低差1cmの重力の影響も計測可能

開発した2台の低温動作・光格子時計。同じ高さに設置した2台の時計の比較により黒体輻射などの不確かさ要因を評価した

 東京大学大学院工学系研究科の香取秀俊教授、理化学研究所香取量子計測研究室の高本将男研究員らは10日、1秒のずれが生じるのに160億年かかる世界最高精度の光格子時計の開発に成功したと発表した。科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業としての成果。

 光速や、電荷素量、プランク定数などの基礎物理定数が定数であるなら、そこから導かれる原子に固有な振動数も定数となる。この「原子の振り子」の振動数を数えて、時を刻むのが原子時計となる。

 現在、「秒」の定義に用いられているのはセシウム原子時計で、これはセシウム原子が選択的に吸収するマイクロ波の周波数を基準としている。これに基づく世界原子時は、約1×10^-15(3,000万年に1秒のずれ)の不確かさを持つ。

 この不確かさは、原子が運動することにによって生じるドップラー効果の影響によって発生する。そこで、レーザー光を干渉させて生成した多数の微少空間(光格子)に原子を閉じ込めると、原子の運動を凍結できる。この場合も、レーザー光の影響を受けて、原子の振り子の振動数が変化するが、「魔法波長」と呼ばれる特定の波長で光格子を作ると、原子振り子の振動数は変化しなくなる。

 この原理を用いて作成したのが光格子時計だが、これまでは原子を囲む室温の壁から放射される電磁波(黒体輻射)が原子振り子の振動数を変化させるという課題があった。今回、同研究グループは、絶対温度95Kに冷却した恒温槽の中に原子を高精度に分光する時計システムを構築し、黒体輻射の影響を室温に比べ約100分の1に低減することに成功した。

 現在のセシウム原子時計では、この光格子時計の精度を計測できないため、同チームは光格子時計を2台開発。この2台を比較し、2×10^-18の精度で一致することを確かめた。これは1秒ずれるのに160億年かかることを意味し、宇宙の年齢の138億年より長い。

 この精度を利用すると、一般相対性理論の効果も測定できるようになる。同理論に従うと、重力が強いところでは時間がゆっくり進む。一方、重力は距離の2乗に反比例して小さくなるが、今回の光格子時計は時計の高さのわずか1cmの変化に対しても、時間のずれを計測できるようになる。これによって、地下資源探査、地下空洞、マグマ溜まりなどの検出できる可能性を持つ。また、基礎物理定数が本当に定数かということを調べられるなどの知見をもたらすことが期待される。

(若杉 紀彦)