ニュース
“ベストのタイミング”を待つNTTドコモのTizen端末
~クロスプラットフォームへの取り組みを強化するTizen Association
(2013/11/1 06:00)
- 10月31日 開催
インテル株式会社は、主にソフトウェア開発者を対象とした技術イベント「インテル ソフトウェア・イノベーション・フォーラム 2013」を10月31日に開催した。
フォーラムでは、主催者であるインテルの最新技術、Windows 8.1やAndroidといった主流OSの動向に加え、Tizenの現状や今後の展開を紹介するセッションが設けられた。本稿では、「Tizenの2013年進捗、今後の展開」と名付けられたセッションの内容と、終了後に行なわれた報道関係者向け質疑応答の内容を併せて紹介する。
セッション冒頭では、Tizen AssociationのChairmanを務めるNTTドコモ プロダクト部技術企画 担当部長の杉村領一氏がTizenの概要を紹介。ちなみに、Tizen Associationは、Tizenのビジネスモデルや要求仕様などを策定する業界団体だ。OSの開発とは切り分けられており、開発はLinux Foundation内のTizen Projectで進められている。
このTizenだが、端末動向を含めて、いまだに具現化したものが少ないのが現状であるが、杉村氏は「Tizenは関係企業だけでPRしているので皆さんになかなか情報が届かないということもありますが、着々と進んでいます」とコメント。実際、携帯端末への組み込みのほか、カーナビ機器などの車載情報端末などへの取り組みも始まっている。また、後に登壇するサムスン電子のチョイ氏からは、SamsungがデジタルTVへのTizen採用を進めていることも紹介された。
さらに、Tizen Associationのメンバーも増加しており、下記に掲載したスライドに記載されているメンバー以外にも7社が新たに参加しているという。
Tizenのエコシステムについて解説したIntel ソフトウェア&サービス事業部マネージングディレクター兼Tizen Associationセクレタリーのクリストファー・クロトー氏は、「キャリアやメーカー、OEMのサポートがないと科学の実験で終わる。ビジネスにはならない」と指摘し、世界的企業も参加しているTizen Associationの存在価値を強調。一方でオープンソースとして開発されているTizenは、グローバルの開発コミュニティを活用していけるメリットもあるとした。
ソフトウェア開発者向けのエコシステムの構築も進んでいる。誰でも参加できるTizenデベロッパプログラムでは現在50万人以上がコミュニティに参加しており、この中には日本語でのコミュニティもある。また、セミナーも開催されており、日本は世界的に見てもセミナーの開催数が多いという。
開発したアプリを配信するアプリストアもすでに稼働しており、開発者からの配信を受けている。デベロッパ用のTizen IDがあれば、誰でも配信できる。また、アプリコンテストの「Tizenアプリチャレンジ」も開催中で、当初11月1日だったアプリの受け付け締め切りを12月8日までに延長することが発表された。
Tizen独特のUI「ダイナミックボックス」
セッション最後は、サムスン電子 ソフトウェア R&Dセンターエグゼクティブバイスプレジデントで、Tizen TSGの共同議長を務めるジョンドク・チョイ氏が、Tizenのソフトウェアアーキテクチャについて説明した。
TizenはHTML5で書かれるWebアプリとネイティブアプリの2種類のアプリを実行できる。その開発環境は統合されており、1つの開発環境で2つのアプリをサポートしている。
今回のセッションにおいて、ソフトウェアアーキテクチャ面でもっとも強調されたのが「ダイナミックボックス」という機能を持つことだ。この機能について先述の杉村氏は「Tizenにとって大きなイノベーションのキーとなっている」とコメントしている。
ダイナミックボックスとは、ホーム画面上に置かれたタイル上のUIでは簡単な情報を表示し、それをスワイプすることで詳細な情報や別の機能が下側に表示されるというもの。天気予報であればホーム画面では今日の天気のみを表示し、ドロップ表示されたもので週間天気予報を表示する、といった応用例が示されている。
この機能はすでに提供が開始されており、必要に応じて組み込むことができるという。
チョイ氏はTizenのクロスプラットフォームについても言及。基本的にはプロファイルを定義するだけでさまざまな機器への応用が可能だ。さまざまな機器へ組み込み、それらを連携させてシナジー効果を生み出すことを狙っている。
対応機器の拡充には、それぞれの機器に合わせたプロファイルが定義される。例えば、携帯端末向けには高い要件を定義した“Tizen Mobile Full”と、要件を緩めた“Tizen Mobile Lite”が定義される。Tizenの次期メジャーバージョンとなる「3.0」では、現在よりもさらに多くの定義済みプロファイルが提供されるという。Tizen 3.0は2014年第2四半期の提供を予定している。
また、機器間でのアプリ互換性を検証するための互換性仕様および互換性テストも実施。オープンプラットフォームなのでベンダーの自由度は高いが、機器間連携によるシナジー効果を生み出すためにも、最低限の要件を作って相互運用性を担保するという。この認定を受けるためのテストツールは「10月末日リリース予定」とのことで、セッション中には未公開であったが、本稿が掲載されるころには、なんらかのアナウンスがなされているかも知れない。
このほか、Tizenには車載向けのTizen IVIというOSも用意される。オープンプラットフォームをベースにした共通フレームワークを導入することで、機器開発の加速化や新しいサービスの提供に繋げることを狙っている。このTizen IVIのフレームワークは、携帯端末向けフレームワークに自動車業界向けの機能を追加したものとなる。
NTTドコモ端末の進捗は?
Tizenについて、国内のユーザーはNTTドコモの動向は気になるところだろう。当初は2013年後半にも投入する意向を示していたが、この秋冬モデルでは投入されなかった。しかし、NTTドコモの杉村氏は質疑応答の中で、「お客様に最高のサービスを実現するためのイネーブラとしてTizenには期待しており、スタンスも期待値も変わっていない」とし、“そう遠くない将来”に発表するとした。
端末の現状については、「開発そのものは非常に順調で、ダイナミックボックスについてもすでに動いているので、実際にご覧に入れたかった」とする一方で、「グローバルな中で存在感を持って認知してもらいたいということもあり、ベストのタイミングを見計らっている」とする。そのため、端末がNTTドコモにとって、どのセグメントに位置付けられるものとなるのかなどの詳細については、ノーコメントとされた。
ただ、杉村氏は「今回のダイナミックボックスなどについては、他社が追従できる点で情報を公開することにリスクはある。しかし、Tizenの差別化ポイントになると信じているものを、とくに開発者に対して積極的に話すことでシナジーも生まれると思っている。新しい価値を作りたいという思いは理解してほしいし、期待もしてほしい」とTizenを促進する立場としてコメントした。