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アップル、新製品の国内向けハンズオンイベントを実施
~ Thunderbolt2登場も、現時点では対応周辺機器は不足
(2013/10/23 19:44)
アップルは、米国で開催されたスペシャルイベントを受け、10月23日に日本国内向けのイベント上映会と、新製品のハンズオンを行なった。上映内容は同社サイトからも視聴できるもので、これに日本語の同時通訳がついた形になっている。
今回のスペシャルイベントは約1時間半程の内容なので、既報では触れられなかった部分の要点を紹介する。全体の流れは、9月20日に発売されたiPhone 5s/5cとiOS 7の約1カ月を経た状況、OS X Mavericksの正式発表、MacBook ProおよびMac Proの発表、iWorkおよびiLifeなどOS XとiOSのアップデート、iPad AirおよびiPad mini Retinaディスプレイモデルの発表となっている。
まずiPhone 5s/5cおよびiOS 7の状況だが、こちらはニュースリリースとしてもすでに発表されているが、初週で900万台の出荷をワールドワイドで達成している。同社のiPhoneにおける最大規模の出足となった。またiOSデバイスの中でiOS 7が占める割合が64%になっているとして、約3分の2が最新のOSへと移行しているとアピールしている。同時に米国でサービスの始まった音楽聴き放題のサービス「iRadio」のリスナーは2,000万に達し、延べ10億曲が再生されたと発表されている。App Storeにおけるアプリの登録数は100万タイトルにおよび、総ダウンロード数は600億回。Appleから開発者に支払われた総額は130億ドルになった。
ティム・クックCEOは、具体名は避けながらも競合他社の状況をいわゆるネットブック市場の消失やタブレット導入におけるUIの混乱などを揶揄して迷走をしていると指摘。一方で同社は進路を明確に定めて、その方向に進んでいるとアピールした。その進行方向が、今回正式発表されたOS X Mavericksとなる。
Mavericksの発表は、ソフトウェア担当のクレイグ・フェデリギ上級副社長によって行なわれた。Mavericksはテクノロジーと機能とアプリケーションの融合にフォーカスしているとしている。具体的にはMac製品への搭載が進んでいる第4世代CoreプロセッサのHaswellが持つ性能をもとに、バッテリやメモリ、そしてプロセッサの稼働率などをOSレベルで最適化している。
例えば6月にリリースされたMacBook Airの13インチモデルの場合、Mountain LionからMavericksにOSを更新することで、Webブラウジングであれば1時間、iTunesのムービー視聴であれば1.5時間のバッテリ稼働を延長できるとしている。メモリ圧縮技術についてはWWDCでも紹介されていたが、今回はより具体的に4GBのオンボードメモリであれば約6GB分のデータアクセスが可能と紹介した。グラフィックス機能は特にCPU統合型のグラフィックスに注力しており、メインメモリと共有するグラフィックスメモリをGPUの負荷に合わせて、最小29MBから最大1GBまで可変して運用するとのこと。
Mavericksのデモ内容はWWDCでのプレビューが正式版になったということで、既報の内容に目を通してもらうことで割愛する。OS Xのパートの最後では、Mavericksへの更新はSnow Leopard(10.6)、Lion(10.7)、Mountain Lion(10.8)のユーザーを対象に無償で実施すると発表した。既報の通り、これらのOSからなら途中過程を経ることなく、1回でMavericksへの更新が可能だ。
OSが無料ということで話題にはなるが、Appleの場合はOS Xが動作する製品は同社のMac製品だけであり、ソフトウェアの開発コストはハードウェアの売り上げに転嫁することも可能だ。さらに拡げるとiOSデバイスまでトータルにコスト管理を行なうことができる。OEM先へのソフトウェア販売を主力とするMicrosoftとは収益構造が違うので、一概に無料と有料という差別化は難しい。実際、MicrosoftはWindows 8から8.1へのアップデートは無料で行なっており、Rapidリリースという方向性を打ち出している。メジャーアップデートの概念もGoogleを含めた企業間では大きく異なっているので、必ずしも同列に比較できないことは確認しておきたい。
MacBook Pro、Mac Proといったハードウェアは、ワールドワイドマーケティング担当のフィル・シラー上級副社長が行なったが、先行した記事でその多くは紹介済みだ。
ピックアップする点と言えば、Mac Proにはモーションセンサーが搭載されていることだ。据え置き型のデスクトップ製品でモーションセンサーとは不思議だが、これはインターフェイス部分のイルミネーション表示と連動している。従来製品とは異なり、Mac Proはその拡張性のほぼすべてを外部インターフェイスに依存しているので、おそらく背面に位置するであろうこれらのポートを、本体を回転させ、横なり正面なりに向けた際に、イルミネーションが点灯する仕組みとなっている。消費電力も従来モデルと比べて大幅に減ってはいるが、前述の通り拡張性を外部に依存した点と、Nehalem世代とIvy Bridge世代ではプロセスルールも大幅に異なるので、これは妥当といったところだろう。
またMac Proでは、アイドル時の騒音レベルを12dB程度に抑えたとしている。加えて、同社のiPhoneをはじめハードウェア製品の製造が中国などの国々へとシフトしている状態で、多くはMade in ChinaだがDesigned by Apple in Californiaという表記に変わり、Mac Proについては製造、組み立て工程も米国内で行なっているとしてAssembled in USAの表記がMac Proに記載されている点を強調した。今回のイベントでは紹介されていないが、一部のiMac製品の製造も米国内へと回帰している。このあたりは、国内の雇用に尽力しているという企業アピールの1つとも言える。ビデオで公開されているMac Proの製造過程は一見の価値があるので、イベント全編を見ることができない場合でも、この映像は目にしたほうがいいかも知れない。
アプリケーション担当のエディー・キュー上級副社長のパートはOS XとiOSを横断してiLifeとiWorkの更新が行なわれることを紹介する内容。Garagebandは、iOSデバイスで16トラック、64bitプロセッサ(現行ではA7)搭載機では32トラックの編集が行なえるほど、機能の強化が図られている。いずれも既報の通り、新規にMac製品、iOSデバイスを購入した場合はいずれも無料となるほか、既存のユーザーもMavericksやiOS7へのアップデートを伴って、最新版ヘと更新することができる。無料という点について言えば、やはりOSと同じ収益構造となるため、より多くのユーザーを獲得することが利益という点で合致する。
最後のiPad製品については、概要をティム・クックCEO、製品紹介をフィル・シラー上級副社長が行なっている。スライドでは、タブレット市場の急激な起ち上げにiPadが大きな役割を示し、これまで1億7,000万台のiPad製品が出荷されていることを明らかにした。タブレット市場におけるシェアは81%で、競合に対して4倍のアドバンテージを未だに持っている。ただし事実上の市場起ち上げを行なった立場でもあり、初期のシェアは9割を超えていた時期もあるので、タブレット市場の成長とともにこれからさまざまな変化は訪れると予期される。
現在のアドバンテージは、iPad(タブレット)に完全対応するアプリケーションが475,000本ほどApp Storeに存在することで、Androidのそれがスマートフォンのスケールを拡大したものであったり、Windowsのモダンアプリが、Windowsデスクトップのスケールを縮小したものであることより優位に立っているという点と言える。こうした専用アプリケーションは、イベントの中でビデオ映像として紹介されている。ハードウェアについては、主要な部分を紹介済みなので、ここでは割愛する。
全体としては1時間半の中にかなりのボリュームが詰め込まれていて、例えばMavericksの新機能などはWWDCのプレビューを見るなど事前の情報を必要とする部分も多い。何より、いずれも当日以降のリリースになるので、順次必要な情報を収集していくことをお薦めする。
ハンズオンはiPadに注目が集中
スペシャルイベントの上映終了後は、隣室にてハンズオンが行なわれた。Mac製品については、Mac Pro、MacBook Proの13および15インチモデルがそれぞれ2台ずつ用意されていた。上映への参加者はざっと150名弱といったところで、Mac製品についてはやや少ないという印象もある。12月出荷予定のMac Proはプロトタイプとなるが、1台はシャープ製の4KパネルディスプレイにHDMI 1.4で接続、もう1台はApple Thunderbolt DisplayにThunderboltで接続されていた。外部ストレージもあるようだが、それらは公開されていない。HDMI 1.4の場合は、4K出力が24fpsで行なえる。Thunderbolt2であれば帯域幅として4Kのフレームレートをさらにあげることは理論上可能ではあるが、対応するディスプレイが存在しないので、これらは対応製品の登場を待つことになる。
同様にMacBook Proもそれぞれ本体単独での展示とハンズオンだったので、更新されたインターフェイスであるThunderbolt2のパフォーマンスなどはハンズオンからうかがい知ることはできない。製品自体は同日から出荷されているが、事実上対応製品が市場には存在しないので、当面は上位互換として従来のThunderbolt相当のインターフェイスとして利用することになる。
ちなみに周辺機器メーカーのいくつかは、既存製品のThunderboltからThunderbolt2へのアップデートを予告している。ケーブルは同一のものが利用可能だ。こうした事情から、MacBook Proのハンズオンは、どちらかと言えばMavericksのハンズオンに近く、実際説明を行なう担当者も、新機能であるマップやiBooksなどを中心に紹介を行なっていた。
iPadについては、Mac製品よりは台数が豊富なものの、特に一般メディアを中心にiPad側への注目が高いという点でかなりの混雑となっていた。Airの名称が付いた第5世代のiPadについては、そのスペック通りに薄く、小さく、そして軽い。既存のタブレットの中では、ソニーの「Xperia Tablet Z」がそのサイズ感からは想像が難しい程度に軽量と感じるが、それに匹敵するものだ。金属筐体という見かけを考慮すれば、さらに軽量感は高まるだろう。
iPad miniについては待望ともいえるRetinaディスプレイが搭載された。パネルサイズが小さいが、解像度はiPad AirもiPad miniも同一なので、精細さという点ではiPad miniが上回る。前者は264ppiで、後者は326ppiだ。数値としてはiPhoneのそれに匹敵する300ppi台となる。スペック表を見てもらえばわかる通り、iPad AirとiPad miniの中身はほぼ同一だ。クロック周波数が非公表なので現時点では断定できないが、表示解像度も同一なのであえて差をつける理由はないだろう。実際、ハンズオンではベンチマークなど任意のアプリをインストールすることはできなかったので、デフォルトのアプリが中心となるが、操作感に大きな差はなかった。16GBモデルで100ドルの価格差は、主にパネルサイズとバッテリ容量によるものと推測される。
iPad miniは高性能化でやや重量が増したが、iPad Airが大幅な軽量化、小型化を果たして従来モデルとほぼ同一の稼働時間を維持しているのは、やはりパネルの省電力化、CPUの効率化などが起因となるものと思われる。
iPad Airは本体サイズが変わったので、純正アクセサリについては一新されている。パネル表面をカバーするSmart Coverと背面もカバーするSmart Caseだ。サードパーティーのアクセサリもiPad Air対応を称する製品は、必要なホールやマグネットなどを適切な位置に配置してくるだろう。注意が必要なのはiPad miniだ。FaceTimeの通話や動画撮影の際など周辺ノイズの処理のためにデュアルマイクの構造となっている。従来モデルのiPad miniにはなかったマイクホールが底面上部に開いているので、ケースやカバーの構造によってはここを塞いでしまう可能性がある。そのため、純正アクセサリもパネル表面をカバーするSmart Coverについては従来どおりだが、背面もカバーするSmart Caseについては該当部分にもホールがある新製品となっている。
販売経路については従来と変わらず、取り扱いキャリアであるソフトバンクとauがWi-FiモデルとWi-Fi+Cellularモデルを販売する。モバイルデータ通信機能のないWi-Fiモデルであれば、オンラインのApple Storeなどからも購入が可能だ。発売日はiPad Airが11月1日、iPad miniが11月中と案内されている。予約開始日などは、追ってキャリアから発表があるとして、アップルジャパンとしては案内をしていない。
Wi-Fi+Cellularモデルについては、単独のSKUでワールドワイドのモバイルデータ通信をカバーする。国内製品については、購入したキャリアのみを利用可能で、国外に持ち出した際は、SIMを入れ替えて通信方式、周波数帯、バンドなどが一致するプリペイドプランのSIMなどが利用可能となっている。海外から輸入製品については何らかの情報を提供できる段階にはまだ至らない。ただし同一のSKUであることから、技適表示は電磁的に行なわれている可能性が高いものと推測される。