ギガバイトのミリタリーデザインX58マザー「G1. Sniper」を試す

G1. Sniper

発売中
価格:オープンプライス



 日本ギガバイトは、ミリタリーデザインのIntel X58 Expressマザーボードシリーズ「G1-Killer」シリーズを発売した。

 G1-Killerシリーズは、現在にIntelのチップセットラインナップにおいてハイエンドに属するIntel X58 Expressを採用したゲーマー向けの製品だ。AVXなどの新命令対応を含む総合的なアーキテクチャ面としては、LGA1155に対応した“Sandy Bridge”のほうが新しいが、トリプルチャネルのメモリ対応やPCI Expressレーン数、6コアのCore i7-980X Extreme Editionの存在など、ゲームなどで必要とされる絶対性能においては、依然としてLGA1366プラットフォームのほうに優位性がある。

 G1-Killerは、そのX58を採用し、豊富なPCI Expressレーン数を活かすことで、最上位モデルの「G1. Assassin」では4way、それ以外の「G1. Sniper」、「G1. Guerrilla」でも3wayのSLIやCrossFireX構成をサポートし、ゲーム用途で要求される絶対性能を確保したのが最大の特徴だ。

 そのほかにも、サウンド機能としてのX-Fiの搭載(下位モデルはソフトウェア処理)や、通信の遅延やCPU負荷を抑える専用ネットワークプロセッサ(NPUと呼ばれる)「Killer E2100」の搭載など、いずれもゲーム用途においては有効とされる機能を搭載している。

 このうち、最上位のG1. AssassinはXL-ATXという特殊なフォームファクタであり、最下位のG1. GuerrillaはX-Fiのハードウェアを省いたモデルである。そこで今回、もっとも多くのユーザーが注目するであろう中位のG1. Sniperをお借りする機会を得たので、レポートをお届けする。なお、実売価格は4万円前後となっている。

●“ちょいデカ”のATXフォームファクタ

 まずはハードウェア面を見ていきたい。

 パッケージはミリタリーとゲーミングを強く意識したもので、取っ手がついた大掛かりなものになっている。内容物も最上位モデルらしく豊富であり、SATAケーブル、SLIケーブル、3way SLIコネクタ、USB 3.0のブラケット、説明書、ドライバCDなどの基本的なもののみならず、弾丸をモチーフとしたシールや、マトのようなポスターまでが同梱されている。

 本体に目をやると、まずATXフォームファクタで定められているサイズより少し横幅のあることに気がつく。標準のATXフォームファクタでは、横幅は244mm(9.6インチ)と定められているが、本製品では264mmと20mmほど大きい。もっとも、Extended ATXの330mm(13インチ)と比較すると大幅に小さいし、このクラスのマザーボードを使うのであれば、当然長いビデオカードを装着することを想定して大きいケースを選ばれると思われる。ただし、同等のサイズを持つASUSTeKの「Rampage III Extreme」などでは、“大は小を兼ねる”観点から、スペック上ではExtended ATXとされているので、本製品もケースの選別においては多少考慮する必要があるだろう。

 サイズを除く部分では、マシンガンのマガジンをイメージしたサウスブリッジのヒートシンクや、5連のグリーンLEDを装備したノースブリッジのヒートシンク、それとヒートパイプで繋がれた銃口風のVRMヒートシンクなどが目に付く。また、サウンド機能周りのオーディオ用のニチコン製MUSE ESとMWシリーズのコンデンサも特徴的だ。

製品パッケージ付属品など本体はATXよりやや幅がある264mm
5連LEDを搭載した特徴的なノースブリッジのヒートシンク動作中はグリーンのLEDが点灯し続ける
サウスブリッジのヒートシンクもマシンガンのマガジンをイメージしているニチコン製のオーディオ向けコンデンサ

 部品ごとに具体的に見ていくと、まず8フェーズのDriver-MOSFETの装備が目に付く。採用されているのは以前の記事でも紹介した「GA-P67A-UD7」に搭載されているものと同じVISHAY製の「SiC769CD」だ。このチップはルネサス エレクトロニクスのDrMOSとピン互換をもち、最大出力電流は35A。本製品は8フェーズ持っているので、効率などを考えずに単純計算すると合計280Aの出力が可能だ。さすがに24フェーズ/840AのGA-P67A-UD7には届かないが、本製品はオーバークロックよりもゲーム向けという性質を考えれば十分と言えるだろう。

 サウンドプロセッサとして、Creative製の「X-Fi Xtreme Fidelity」を搭載。専用のメモリも搭載し、特殊なサウンドエフェクト「EAX Advanced HD 5.0」が利用できる。ゲームにおいては、より多くのサウンド処理をハードウェアで行なうことでCPU負荷を下げる効果があるとされる。このサウンドプロセッサを中心にリアパネルI/Oまで、ニチコン製のオーディオ用コンデンサが並び、音質への配慮も見られる。

 また、ネットワークコントローラとして、Bigfoot Networksの「Killer E2100」を搭載する。このプロセッサは「NPU」と呼ばれ、専用のDDR2メモリを1GB搭載し、ネットワーク関連の一連の処理をE2100側で担うことでCPUへの負荷を軽減する効果がある。また、Windowsのネットワークスタックをバイパスして、NPU側でデータを直接処理することで、Ping応答の高速化や、各々のアプリケーションの利用バンド幅の制御などができるようになっている。

背面にも搭載されるDriver-MOSFET、SiC769CDX-Fi Xtreme Fidelityを搭載。専用メモリも見えるBigfoot NetworksのKiller E2100。専用のDDR2もオンボードで搭載

 このほか目立ったところとしては、USB 3.0のコントローラとしてルネサス エレクトロニクスの「μPD720200A」を搭載した点が挙げられる。従来の「μPD720200」との違いは、周辺機器が未接続の状態の消費電力を最大85%削減して50mWに抑えたことぐらいで、機能的な差はないのだが、やはり新リビジョンの採用は嬉しい。

 また、PCI Express Gen2の2レーン分を使って、10Gbpsの速度で接続されたMarvellの「88SE9182」によるSATA 6Gbpsのサポートなど、ゲームのローディングにおいて考えうるボトルネックの解消にも努めていることがわかる。

 このように、ハードウェア面では“枯れた”X58チップセットを利用しつつ、手堅くすべての面においてゲームの高速化へ配慮した設計の跡がみられ、まさにゲームに特化したLGA1366の最終形態とも言えるだろう。

 唯一、気になる点としては、電源やリセット、CMOSリセットスイッチ、POSTコード表示などを備えていない点で、ここはハイエンドらしくない。ゲーム用途を考えればそれほど多用するものではないが、仮組み時などで非常に便利なので、別基板などの形でもよいので提供して欲しかった。

ルネサス エレクトロニクスのμPD720200AフロントポートとバックパネルにUSB 3.0を2ポートずつ備えるため、HubとなるVL810を搭載
リアパネルのインターフェイスDual BIOSなども継承

●BIOSは従来どおりのCUI画面

 BIOSに関しては、GIGABYTE本来のCUIベースのBIOSをメインに、3TB HDDからのブートが可能な「Hybrid EFI テクノロンジー」を採用。他社では既にGUIをベースとしたUEFI BIOSへの移行が進んでいるが、あえてCUIを採用することで、従来からCUI BIOSに慣れたユーザーでも戸惑うことなく設定が可能になっている。

 設定項目はGIGABYTE製の自作向けマザーとしては標準的であり、各種電圧やクロックなど、一通り不自由なく設定できる。一部あまり使わないメニューは、Ctrl+F1の隠しコマンドで現れるなど、GIGABYTEならではのノウハウも健在だ。

CPUの電圧設定などCPUの倍率設定がFSBの設定などメモリ関連の設定画面
おなじみの時計設定画面ブートの順番などを変えられる「Advanced BIOS Features」ペリフェラルデバイスに関する設定
パワーマネジメントに関する設定温度監視やファンコントロール画面

●ユーティリティは従来通り

 ユーティリティに関しては、従来通りのGIGABYTEの製品らしく豊富であり、オーバークロックを行なう「Easy Tune6」、Windows上からBIOSの更新が可能な「@BIOS」、負荷に応じて電源フェーズ数を動的に切り替えられる「Dynamic Energy Saver 2」、起動の高速化など6つの機能を備えた「Smart6」、外部のWebブラウザからオーバークロックができる「CloudOC」などが付属する。

インストールされるユーティリティ群オーバークロックが可能なEasy Tune6(ET6)ET6では各種電圧をWindows上から設定できる
FSBや倍率などに関する設定コアごとの倍率も設定可能Windows上からBIOSの更新が可能な@BIOS

 いずれも目新しい点はなく、機能も従来と大差がないため、詳しい説明を省く。しかし、せっかくゲーム向けにG1-Killerのブランドを立ち上げたわけだから、ASUSTeKのR.O.G.シリーズのように、1つに統合されたツールとしてGUIをリフレッシュして、一体感を出して提供して欲しかったように思う。

 X-Fi向けには、Creative製のユーティリティ群が利用可能だ。こちらは単体売りされているX-Fiのサウンドカードのユーティリティとほぼ同等の設定ができ、用途に応じてX-Fiの処理を最適化した「ゲームモード」、「オーディオクリエーションモード」、「エンターテイメントモード」の3種類に切り替えられるようになっている。機能面もX-Fi Xtreme Fidelityに準じ、Dolby Digital LiveやDTS Connectなどの機能が利用可能だ。

X-Fiのゲームモード。擬似サラウンドのCMSS-3Dや高音質化技術「X-Fi Crystalizer」が利用可能ビデオ鑑賞などに向いたエンターテインメントモード
Dolby Digital LiveやDTS Connectなどの機能が利用可能音楽制作などに向いたオーディオクリエーションモード

 前述のように、オーディオ用コンデンサを採用するなど、音質面にもこだわったサウンド機能ということで、Etymotic Research製イヤフォン「ER-4S」をリアパネルI/Oのスピーカー出力に繋げ、実際にその音を聞いてみた。

 あくまでも筆者の主観で、手持ちの単体サウンドカード「Sound Blaster X-Fi Titanium HD」(実売19,000円前後)との比較だが、G1. Sniperのほうが低音が少なく、高音がやや突出しているという印象。分解能はほぼ同じクラスという感じだ。また、無音時はG1. Sniperのほうが少しホワイトノイズが多い。イコライザで低音をやや持ち上げてみたが、大きな改善は見られなかった。

 もっとも、単体のカードと比較して、G1. Sniperのサウンド機能は実装面積もかなり限られているわけだし、なおかつG1. Guerrillaからプラス5,000円でX-Fi Xtreme Fidelityが手に入ると考えれば十分満足が行くだろう。総合的に見ても、音質重視でX-Fi Xtreme Fidelityを搭載したというよりも、機能面やCPU負荷率低減の面から、搭載に至ったと考えたほうが良いだろう。

 NPUのKiller E2100のほうだが、今回テストの時間が限られたこともあり、回避できたCPU負荷や詳細なPINGテスト、アプリケーションの優先順位、ゲームのフレームレートの影響など、多くのテストを実行することはできなかった。もっとも、CPU負荷に関しては、マルチコアCPUの登場により重要度が下がってきているし、PINGに関してもインターネット環境によって大きく左右されるため、厳密にNPUの性能を評価できるわけではない。今後機会があったらテストすることにしたい。

Killer E2100の設定画面ネットワークの利用率などが監視できるネットワークの接続速度などの設定画面
実際のインターネット速度を計測して自動的に最適な値に設定できるようだアプリケーションごとの優先度を設定するためには、「上級」のタブの中で有効にする必要がある

 一方、レイテンシやCPU負荷に関係ないバンド幅については、試しに2台のPC間のバンド幅を測る「JPerf 2.0.2」で計測したところ(もう1台のPCはASUSTeK製Crosshair IV ExtremeのオンボードIntel製Gigabit Ethernetコントローラを利用)、約43.5MB/secの速度となった。これは一般的なGigabit Ethernetコントローラの半分程度の値でしかないが、先述のようにKiller E2100は絶対的なバンド幅よりも、レイテンシ低減やCPU負荷低減に重点を置いて開発されたものであり、このベンチマークで評価すべきではないだろう。

Killer E2100をサーバーにした場合の転送速度クライアントにした場合の転送速度

●本当の「最強」が手に入るマザー

 というわけで、X-Fi Xtreme FidelityやKiller E2100の搭載についてやや厳しい評価になったが、マザーボードとして見れば、本来別途2スロット消費するサウンド機能とネットワーク機能がオンボードになったことで、スロット構成に悩むことなくマルチビデオカード環境を構築できる点において、本製品は「最強」の称号がふさわしい。

 「グラフィックスもサウンドもネットワークも最高のものを搭載したゲーミングマシンが欲しい」という欲張りなユーザーは、さらにワンランク上のG1. Assassinも含めて、検討に値する製品だ。

(2011年 3月 28日)

[Reported by 劉 尭]