Intel、シリコンフォトニクス技術で50Gbps通信に成功

今回用いられたプロトタイプ。左がトランスミッターモジュール、右がレシーバーモジュール

7月27日(現地時間) 発表



 米Intelは27日(現地時間)、シリコンベースの光通信技術(シリコンフォトニクス技術)を用いて、50Gbpsのデータ転送に成功、将来の光コンピューターに向けてまた1歩前進したと発表した。コンポーネントレベルでは、50Gbpsを超えるデータレートも実現されているが、実際にデータを送受信するシリコンフォトニクス・システムとしては最高のデータレートとなる。

 今回発表されたプロトタイプは、トランスミッタ(送信)モジュールとレシーバ(受信)モジュールの大半を1チップに集積している。特にトランスミッタチップは、従来は別チップになっていたレーザー光源(ハイブリッド・レーザー光源)を、モジュレータ(光変調器)やマルチプレクサ(光多重化装置)と同一チップ上へ集積することに成功した。

光源(ハイブリッドレーザー)を1チップに集積したトランスミッターチップ光信号からデジタルデーターを取り出すレシーバーチップ

 光通信は、モジュレータにより変調された複数の光ををマルチプレクサにより多重化し、1本のケーブルで伝送することで広帯域を実現する。今回使われたプロトタイプでは、12.5Gbpsの光通信チャンネルを多重化し1本の光ファイバーで50Gbpsの伝送を可能にした。受信モジュールでは、デマルチプレクサで4つの光チャンネルを復元、4つの12.5Gbpsの信号を取り出す。送信と受信、それぞれの主要な機能を1チップ化することで、将来、安価に高速なデータ伝送を実現する道筋が見えてきた。

 さらにIntelは、個々の光通信チャンネルのデータレートを引き上げるスケールアップ、1つのマルチプレクサで多重化可能なチャンネル数を引き上げるスケールアウト、この両方を併用することで、テラスケールコンピュータに求められるテラビット級のデータ伝送が可能になるとしている。テラビット(1Tbps)のデータ伝送なら、HDのTVドラマの2~3シーズン分、ノートPCのHDDの全データを1秒間で伝送可能となる。また、こうした高速通信の実用化は、コンピュータを構成するコンポーネントを自由にレイアウト可能にする。主記憶を筐体の外部に置く、複数のコンピュータで主記憶を共有するといったことも実現実を帯びてくるだろう。

横長のトランスミッターチップ(Tx flip chip)以外は、ドライバICが目立つ程度のトランスミッターモジュールチャンネルあたりの伝送速度向上(スケールアップ)とチャンネル数の増大(スケールアウト)を組み合わせて、1Tbpsの伝送速度を目指す

 現在、銅線を用いたデータ伝送技術は物理的な限界に近づきつつある。10Gbps以上の伝送速度の実現は、それだけでも技術的に大きな挑戦となる。光ファイバーを用いた光通信には、同一速度なら銅線より長距離の伝送が可能なばかりか、1本のファイバーで複数の信号を伝送可能なスケーラビリティ、細いケーブルと小さなコネクタによるケーブル管理の容易さといった長所を持つ。

 その反面、高価なコンポーネント、ケーブル加工の困難さ、といった問題があり、次は光が必須になると言われるたびに、銅線を用いた通信技術の改良により光技術は登場する機会を奪われてきた。Intelのシリコンフォトニクス技術は、光通信に必要なコンポーネントを半導体チップに集積することで、コンポーネントが高価という光通信の欠点を克服するものである。

 奇しくも、2010年は最初にレーザー光が出力されてから50周年となる。Intelの創業者であるロバート・ノイスと、TIのエンジニアであるジャック・キルビーが集積回路を発明したのがその前年のことだ。50年あまりを経て、両者が融合し、光通信が一般へと普及する元年となるのか、注目される。

(2010年 7月 28日)

[Reported by 元麻布 春男]