Intelジャスティン・ラトナーCTO来日会見

ジャスティン・ラトナー氏

10月15日 開催
場所:東京 帝国ホテル



 IntelのCTO(最高技術責任者)をつとめるジャスティン・ラトナー氏が来日し、報道関係者を対象にしたラウンドテーブルを開催した。

 この中でラトナー氏は、“次の10年に向けて……未来への4つの予想”と題したプレゼンテーションを行ない、Intelが現在研究を続けているシリコンフォトニクス、電圧しきい値近くで動作するIC、ソフトウェアを利用したレンダリング、複数のIAコアで仮想メモリを共有する技術などについての説明を行なったほか、報道関係者からの質疑応答に答えた。

 また、同社が開発コードネーム“Larrabee”(ララビー)で開発を進めているディスクリートGPUについて触れ、日本時間の17日に、Larrabeeの性能データを初めて公開することを明らかにした。

●しきい値電圧近くで動作する回路やシリコンフォトニクス

 同氏はまず、先月サンフランシスコで行なわれたIDFでの基調講演について触れ、「私のIDFの基調講演では、主にTVに関する話題を中心に話した。その後ロサンゼルスで行なわれたTV 3.0というイベントに参加してきたが、そこでも多くのTV業界の関係者から我々のビジョンに賛同を得た」とアピールした。

 続いてプレゼンで最初にラトナー氏が説明したのは、しきい値近くの電圧で動作する回路(Near-threshold ICs)についてだった。しきい値電圧とは、半導体のゲート極に電圧を加えていき、反転層(電流の通り道)ができる時の電圧の値のことだ。この反転層ができることで、電流が流れ、トランジスタがONになるようになっている。

 Intelの考えでは、しきい値電圧近くで動作する回路は、しきい値近くの電圧でも動作が可能なだけでなく、一般的な電圧でも動作させることが可能であり、ギガヘルツを超えるような高い周波数で動作させることができるという。このため、電力効率を向上させながら、実際の動作時には高い処理能力を発揮させることができるようになるという。2月に行なわれたISSCCでも公開した。

 2番目に解説したのは、シリコンフォトニクスだ。シリコンフォトニクスとは、Intelなどが以前より盛んに研究している技術で、半導体上に光素子を構成し、ファイバーで相互に接続することで、チップ間の通信を従来と比較して圧倒的に高速にすることができる。

 その具体例としてLightPeak Technologyなどを紹介した。LightPeakは、光ファイバーを利用した高速な周辺機器接続方法としてIntelがIDFで提案した技術で、ディスプレイや通信機器などのさまざまな通信機器を接続する技術として紹介されている。

 また、将来的にはCPUとメモリ間も光ファイバーで接続することもあり得るとし、現在はCPUとメモリは基板上で近いところに置かなければならないが、シリコンフォトニクスを応用することで、それらを離して置くことなども可能になり、かつメモリレイテンシの削減にも貢献するはずだと説明した。

最初の予想はしきい値電圧近くで動作する回路2月のISSCCで公開された回路
2つ目の予想はシリコンフォトニクスの普遍化シリコンフォトニクスが普遍的になることで、さまざまな技術に応用できる

●Larrabeeの性能データは明日土曜日の朝に公開

 3番目として紹介したのはソフトウェアベースのレンダリングだ。

 ラトナー氏は、「Intelは高度なグラフィックスアルゴリズムの研究に力を入れており、ソフトシャドーやレイトレーシングなどさまざまなやり方を研究している。しかし、従来のGPUではこうした高度なグラフィックスで性能を出すのが難しいという問題があった」とし、そうした問題を解決するために、Intelは開発コードネーム“Larrabee”で知られる単体型GPUを開発したのだと説明した。

 なお、同氏よればIntelが米国のメイヨー病院と共同で開発したメディカル用のアプリケーションを利用したLarrabeeの性能データを、日本時間の17日の朝に公開することを明らかにした。データはCore i7+NVIDIAのGeForce GTX 280とLarrabeeとの比較データになっているそうで、初めてLarrabeeの性能データが公開されることになる。

3つ目の予測はソフトウェアベースのレンダリングより高度なレンダリング技術をソフトウェアで実現Intelが開発中のLarrabee

 そして4番目として取り上げたのが、異なるタイプのIAコア間でメモリを共有するときに発生する問題を解決する、仮想メモリ技術についてだ。NVIDIAのCUDAもそうだが、現在ではCPUとGPUに分散してデータの処理が行なわれることが増えつつある。しかし、データがCPUとGPUの間を行き来する場合、その時間だけCPUなりGPUが処理を待たされることになり、システムとしてのトータルの処理能力が低下するという問題がある。

 現時点では、CPUとGPUはそれぞれ異なるローカルメモリを持っている。GPUがCPUに内蔵された場合には、同じメインメモリを共有できるが、それぞれ異なるメモリ空間にアクセスすることになるので、やはり性能の低下が免れない可能性がある。そこで、仮想メモリ空間を作り、それを両方が共有することでより高速なデータのやりとりが可能になるのではないか、という技術だ。

予測の4つ目は仮想メモリをCPUとGPUが共有するLarrabeeとCPUが協調してレンダリングする様子。なお、今回はLarrabeeの実物がなかったので、ビデオで紹介された

●LNIはLarrabeeだけでなく汎用プロセッサへの展開もあり得る

 このほか、ラトナー氏は記者からの質問に答えた。

 Larrabeeの命令セットアーキテクチャであるLNI(Larrabee New Instructions)は、Larrabeeだけでなく汎用のプロセッサにも展開する可能性はあるのか、という質問に関しては「その方向性は正しいと思う、LNIはポータブルな命令セットであり、さまざまなものに拡張できると考えている」という見解を示した。もっともその時期に関しては慎重に見極める必要があるとも付け加えていた。

 このほか、LightPeakに関してはネットワーク技術なのか、それともPCIのようなバス技術なのか、という質問に関しては、「LightPeakには特にこのプロトコルを乗せようとかそういうことは考えていない」と説明し、LightPeakは単なる通り道であり、その上に乗るプロトコルはどのようなものでも構わないという認識を明らかにした。

 また、IDFで語った将来のTVを実現するにはという質問も出たが、「TVの問題は、まさにビジネスモデルの問題であり、現在そこでビジネスをしている人々に新しい技術の重要性を理解してもらうことが重要だ」と、TVの未来は技術的なハードルよりも、過去のしがらみとどのようにつきあっていくかこそが重要な課題なのだと説明した。

(2009年 10月 16日)

[Reported by 笠原 一輝]