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~MS Research Asiaが近年の研究成果を一挙公開

北京市街地の北西、同市の秋葉原とも言える電脳街の一角に2つのビルを拠点に持つMicrosoftだが、MSRAはその中にある
10月末 公開

 Microsoftの研究所部門として、コンピューターサイエンスやソフトウェア工学の基礎研究や応用研究を行なうMicrosoft Reseachの研究所の1つ、Microsoft Research Asia(MSRA) が、1998年に中国・北京に研究所を設立してから15年が経過した。同研究所はMicrosoft本社のある米・ワシントン州レドモンドをはじめ、英・ケンブリッジ、米・シリコンバレー、印・バンガロール、米・ボストン、米・ニューヨークなどに世界7カ所に拠点を持つ。MSRAはそのうちの1つで、10月末に15周年を記念し、プレスイベントとしてMicrosoft Research Asia Innovation Day 2013を開催、ここ数年の研究成果を一挙に公開した。

革新が世の中に貢献する

 プレスイベントには、日本を含むアジアのメディアを中心に約30名のプレスが集まった。冒頭に挨拶にたったHsiao-Wuen Hon氏(同研究所Managing Director)は、この研究所がコンピュータテクノロジの革新を通じて世の中に貢献してきたこと、そして、これからも貢献を続けていくことをアピールした。同研究所の研究成果は、Microsoftのたくさんの製品に反映されているほか、人材育成やインターンシップ、奨学金制度などにも力を入れ、そのイニシアティブは大きなインパクトをもっているとした。また、大学との連携による共同研究にも熱心で、中国という国から他の国に対する貢献ができていることを強調した。

 イベントには、Microsoft本社からPeter Lee氏(Corporate Vice President, Head of Microsoft Research)、Jennette Wing(Corporate Vice President)も出席し、この記念すべき15周年の日を祝福した。

 Lee氏は1,200人にのぼるリサーチャーのトップに君臨する人物で、これだけの頭脳があれば大きな賭けができると表明、Microsoftは大きな会社ではあるが、その中で、Microsoft Researchに属するリサーチャーはわずかかもしれないが、ここは大きな価値を提供できる場所であるとした。今、Microsoftがデバイス&サービスの企業として軸足を変えようとしている中で、水平的な部門としてのMSRでは、この転換のタイミングにおいて、今までなかったものが出てくる可能性があるとした。

 また、Wing氏はアジアに研究所を開設したことは、素晴らしい決定だったとし、その自信を胸に頑張ってほしいと祝福した。MSRAのリサーチ分野の広さ、ユニークさはアカデミック界に大きなインパクトを与えるだろうとも。

 さらにLee氏はコンピューティングの将来に対して、MSRAが多様なアプローチをしてきたことを示し、それがMicrosoftをよりスマートな企業にしていくことを強調した。そして、業界動向を変える突破口としての数々の技術開発が、極めて革新的なものであり、それが人々の生活を改善し、産業界にも貢献するとした。

 同研究所は音声処理や音声翻訳の研究により、言語の障害を乗り越えることに対しても熱心だ。そこで発生するさまざまな問題に速やかに対処しているほか、北京においては、都市開発分野でも研究を進めているという。そして、重要な文化遺産の保存に関する研究にも触れる中で、もっともスマートで、もっともフォーカスな企業であり続けるために、学生や社会との交流を続けていくという。

 加えて、ゲストとして登壇した精華大学のZhang Bo博士は、同研究所のシニア・アドバイザーでもある。MSRAはたくさんの大学と協力関係を結んでいるが、そこにある種の感銘を感じるとし、Microsoftが企業の利益のためだけではなく、常に、大学とWin-Winの関係にあることをアピール、若い才能の育成、研究環境のレベルをあげていくことに熱心でな点について強い感銘を受けるとした。そして、それが中国の産業に大きな貢献をしているとも。

冒頭に挨拶に立ったHsiao-Wuen Hon氏(同研究所Managing Director)
Microsoft本社からPeter Lee氏(Corporate Vice President, Head of Microsoft Research)、Jennette Wing(Corporate Vice President)も出席
ゲストとして、MSRAのシニア/アドバイザーでもある精華大学のZhang Bo博士も登壇
15周年を祝してステージ上で乾杯が行なわれた

MSRAの研究成果

 MSRAの主たる研究分野は、

・ナチュラル・ユーザーインターフェイス
・次世代マルチメディア
・データ集約型コンピューティング
・検索とオンライン広告
・コンピュータサイエンスの基礎研究

の4分野に渡っている。

 ステージではデモンストレーションとして、ここ数年で進行中の3つの研究が発表された。

 1つは、パワーマップによるデータの可視化だ。これは、すでにExcelのデータを地図上にマッピングする技術としてお馴染みのものだ。デモでは、オリンピックのメダル獲得状況を地球儀にマッピングし、選手の出身地や、メダルの獲得数、数と種類、中国国内における出身県別獲得数などが、ビジュアルに表現される様子が披露された。

 また、人間対人間のコミュニケーションとして、双方向リアルタイムトランスレーションも紹介された。ここでは、英語と中国後で交互にしゃべる話者の言葉を解釈し、他国語に翻訳後、その人と似た声で発声することで、コミュニケーションができるデモが紹介された。

 また、Kinectは、この研究所の研究が発端となり、1996年頃から進められていたプロジェクトだが、その製品化が大きな話題になったことは記憶に新しい。今、Kinectがどのような応用分野で使えるかが、さまざまな観点で模索されている。ステージでは、Kinectを使った手話翻訳のデモが行なわれた。手話者として壇上にあがった学生は、障がいをもっている女性だったが、その手話表現が文字や音声として表現されることをデモする中で、この技術のおかげで、多くの人々とコミュニケーションしたいという子どものころからの夢がかなったことを示し、それが数百万人の聴覚障害者の助けになるとした。

数値データを地図上にマッピングするパワーマップのデモ
英語と中国語をリアルタイムに翻訳、音声合成で通訳を行なうシステムで実際に会話してみるデモンストレーション
手話者の女子学生は障がい者でもある
Microsoftは、他者とコミュニケーションしたいという幼い頃からの夢をかなえてくれた

明日からでも製品化できそうな技術の数々

 プレゼンテーションのあと、会場の外には、各研究のブースが設けられ、それぞれ個々の研究が紹介されていた。ここでは主なものを紹介しておこう。

マルチセンサーの融合によるインドアナビゲーション

 スマートフォンなどにすでに内蔵されている地磁気センサーを使い、移動することで変化する磁気を測定、移動距離や方向などを検知し、インドアにおける位置情報システムとして提供する。

デジタル美容院

 顔写真さえあれば、それをもとにさまざまな髪型のイメージを、その場で生成して見せることができる。インタラクティブに3Dグラフィックスでヘアスタイルを確認する。

スマートフォンを使った3Dスキャン

 一般的なスマートフォンのカメラで、顔の周りを一周して撮影すれば、たちどこに顔全体の3Dスキャンが完了する。クラウドと連携することで、短時間で処理結果を得ることができる。

タッチスクリーンのハプティックによるフィードバック

 ピエゾ素子によって、タッチスクリーン表面を振動させ、指に感じる摩擦係数を可変させる技術。スクリーン上のオブジェクトによってツルツル、ザラザラを表現でき、バイブとはまた違ったフィードバックを得ることができる。

デモショーケースの様子。地磁気センサーを応用したインドアナビゲーションシステム
ヘアスタイルを自在に操れるデジタル美容院
スマートフォンで顔の周りを一周して撮影するだけで3Dスキャンできる
ピエゾを使ってスクリーン表面を振動させることで摩擦係数を変化させるタッチスクリーンフィードバックシステム

 デモショールームで披露されていた研究成果は、ここ数年、同研究所のリサーチャーが続けている研究成果の、ほんの一部を紹介するものだ。すぐにでも製品化できそうなものから、まだ実用に時間がかかりそうなものまでバラエティに富んでいた。

 Lee氏は、基礎研究についてはオープンであるべきだという。実際、Microsoft Reseachの研究は、そのほとんどが大学などとの協業によるものだ。今後、研究の重要性は今以上に高まっていくという。現在、Microsoft Researchには約1,200人の研究者がいるが、トップであるLee氏は、各リサーチャーがどのような研究をしていて、どのようなカテゴリに分散しているのかについての比率を把握していないという。なぜなら、トップは、リサーチャーに対して、これを研究しなさいとは一切指示せず、世界を見ろ、何が大事なことなのかを探求しろ、何が新しいのかを見極めろとしか言わない。とにかく自由なのだ。昨日までの研究をやめて、翌日にはまったくカテゴリの異なる別の研究をスタートしても構わない。リサーチャーに課せられているのはとにかく先を見ることだけだ。

 その研究成果が、KinectになりBingになって、Microsoftを支えるサービスやデバイスとして一般の顧客に還元されていく。今後、新しい何かが出てくるときに、今回のデモショーケースではほとんどめだたなかった地味なブースをかまえた研究が、その礎になっているかもしれない。今後の同研究所の動向に注目していよう。

(山田 祥平)